第二部 各論 ―動乱ブームより調整過程へ 六 財政・金融 1 昭和二六年度財政の基調

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(一)予算の特徴

 昭和二六年当初予算は前年度に引続き財政規模の縮少をおし進めたものであつたが、講和条約調印に基く新たな財政支出の必要から、二七年度予算と関連させて補正が行われ、その結果一般会計の財政規模は戦後最大の七九三七億円に達した。

 しかしその所要経緯は主として租税の自然増収により賄われ、財政収支の総合的均衡は貫かれている。二四年度においてはインフレ抑圧のために多額の債務償還が行われ、超均衡的色彩が強かつたが、二五年度からその傾向は弱まり、二六年度においてはこの意味における債務償還費は形状されていない。たゞ本年度は総合収支の均衡をはかるために外国為替資金特別会計(八〇〇億円)、食糧管理特別会計(一〇〇億円)等に対するインベントリー・フアイナンスが行われている。

 一般会計の才入のうち租税収入は、国民負担の調整合理化の線に則して所得税を中心に、当初および補正予算においてそれぞれ減税が行われたにもかかわらず、朝鮮動乱以後の法人収益の好調、一般的な国民所得の増加を反映して大巾な自然増収が可能であつた。

 才出の面においては、第六六図にみるごとく講和条約締結に伴う防衛力増強経費も二六年度はいまださして多額に上らず、また終戦処理関係費、価格調整費等の戦後財政に大きな比重をもつた特殊的経費が減少している。他方社会保障関係費や出資および投資の増加が目立つているが、特に後者の増加は著しい。これは前述のごとく外国為替資金会計・食糧管理会計等へのインベントリー・フアイナンスが巨額に上つたことおよび産業部門への国家資金の動員として開発銀行その他の政府資金供給機関に対する出資が増加したことによる。

第六六図 一般会計歳出主要経費の比較

 また一般会計、特別会計、政府企業を合せての財政投資は、後述するごとく前年度に比し著増しているが、これは本年度予算の重要な特色の一つである。

 このような二六年度予算に対して二七年度予算は講和締結に伴う初の独立予算でもあり防衛力漸増、生活水準維持、資本蓄積促進を目標として編成されたものであるが、とくに財政規模が二六年度当初予算を境として拡大の方向にあること、才出のうち、防衛力増強を中心とする平和回復に伴う経費が、二六年度に比し著しく比重を増したことが注目される。かかる意味で二六年度補正予算から、二七年度予算にかけて、財政の基調は転換する方向にあるものといえよう。

(二)租税

1 租税の構成

 専売益金を含めた租税収入の一般会計才入中に占める比率は二五年度の八〇%に対し、昭和二六年度においては八五%(戦前九―一一年度は五四%)と幾分大きくなつている。

 第六七図にみるごとく租税構成は戦前とは逆に直接税が中心である。

第六七図 租税攻勢

 直接税のうち所得税は税収総額の三五%を占め前年度(三九%)に比べれば若干低下しているが、戦前の一一%に比較すれば非常に高率である。二五年度の本格的な税制改革以降、漸次所得税中心の減税が行はれたので、個人国民所得に対する所得税額の比率は二四年度以降次第に低下し二六年度は五・八%(二四年度一○・六%、二五年度六・六%)となつているが、戦前の○・五%に比べればいまだ相当高いものである。従つて課税の範囲も戦前に比して拡大し、相当の低額所得者まで課税対象に含まれている。このことは納税人員が昭和一○年の九四万人に対し二六年度は一、二六八万人(前年度一、四二四万人)となつており、そのうち年間二○万円以下の所得階級が人員にして七一%(前年度八七%)金額にして四七%(前年度六八%)を占めていることからも知られる。なお戦前においては免税点は一二○○円(物価指数で換算すれば約三○万円)であつた。

 法人税は近年次第に比重を増してきているが、本年度は特に動乱以降の景気上昇を反映して、税収中に占める比率は二二%(前年度一五%)と著しく増加し重要な財源となつている。

第六八図 国税徴収状況

2 徴税状況

 二六年度における徴税状況は概して良好で、二七年五月末租税および印字収入は六○三六億円に達し、予算額に対する進捗率は一○八%で前年同期(一○三%)を上回つている。その内容をみると申告所得税は源泉所得税に比し著しく低位にあり、前年度同様依然不振であるのは注目される。法人税は前年度に引続き好調な進捗を示しており、八月末既に当初予算額を突破し、補正予算では税率の引上などによつて予算額が倍増したにもかかわらず、五月末には一二三%の進捗率を示している。

 国税における法人税の好調に相応し、地方税における法人事業税、法人税割、市町村民税も相当の増収がみこまれ地方税収入見込額は当初見込額の二割増に当たる二五一○億円に上るものと推定される。

(三)財政投資

 財政による建設投資および産業部面への資金供給は三三一七億円におよび、前年度に比し九四五億円(約四割)の増加を示し、特に後者の形態をとるものは倍増している。

 一般会計の公共事業費(食糧増産経費を含む)は前年度より若干増加し一一四八億円であつた。このうち災害復旧費はなお三二%を占め、しかも過年度分が漸次増加する傾向にあることは見逃せない。二六年度末における未復旧災害額は二千数百億円に達している。なお地方公共団体の負担分をも併せた総事業費は一七五二億円(前年度一四四四億円)である。

 国有鉄道および電気通信事業特別会計の建設投資も、それぞれ前年度に比し増加しているが、主として前者は貨車新造、後者は電話新設などの経費で、資金は主に資金運用部よりの借入および料金改定により賄つたものである。

 見返資金特別会計は米国の対日援助が六月をもつて打ち切られたため、援助物資処理特別会計よりの繰入れが四五五億円に止つたのに対して、支出が一二二五億円に上つたため、余裕金は年度間に、六八三億円に減少した。支出のうち主なものは開発銀行、輸出銀行等への出資を中心とする公企業支出、電力、海運に集中的に支出された私企業投資および国債買入などである。

第六九図 昭和二六年度財政投融資

 資金運用部は、長期資金供給機関としての役割をますます増大した。すなわち国鉄、電通事業などの建設投資のための国債買入または貸付金、主として設備資金を供給する金融機関の金融債引受、地方負担公共事業費の大きな財源となる地方債の引受などへ活発な運用が行われた。従つて郵便貯金の増加を中心とする一、〇〇三億円の資金受入があつたにもかかわらず、年度末余裕金は前年度より一二〇億円減少した。

 二六年度には新に農林漁業資金融通特別会計、日本開発銀行が設置され、また輸出銀行、住宅金融公庫等もさらに運用資金を増加してこれらの国家資金供給機関の業務も本格化してきたが、特に開発銀行は復金を吸収し、見返資金とともに、産業設備資金の供給源として重要な地位を占めるに至つた。その融資状況は鉄鋼、石炭および自家発電などが圧倒的な比重を占めている。

 以上にみるごとく二六年度においては国家資金の産業界への供給は著しく増強され、わが国経済にとり必要不可欠で、しかも資本蓄積力の不足している部面へ積極的に投入されていることは注目されねばならない。

(四)政府資金の対民間収支

 昭和二六年度の政府資金対民間収支を前年度と比較すれば第七〇図のごとくである。

第七〇図 政府資金対民間収支超過額

 上半期は税収の好調な進捗と、日銀ユーザンスの期限到来額の増大に伴つて外為会計が引揚超過に転じたことを主因として前年同期を大巾に上回る揚超となつた。しかし第三、四半期には供米進捗により食糧管理会計が季節的な撒布超過を示したほか、外為会計も輸入決済がようやく減少した半面、輸出、特需がかなり伸長したため撒超となり、加うるに年末でもあり諸支払が一段に進捗した結果前年とほぼ同額に上る撒超をみた。また第四、四半期は徴税期であるほか、昨年末の日銀ユーザンス制度改正の影響をうけて外為会計の撒超が少額であつたことにより再び揚超となり、結局年度間に通じ三七一億円の揚超で前年度の三八〇億円の撒超と対蹠的な結果を示した。

 このように対民間政府資金の収支尻が前年度と違つた結果を示したのは、次表にみるごとく主として租税収入が昨年度を上回る好調を示たことと、前年度下半期輸入物資のユーザンス期限が本年度に入つて集中的に到来し、加うるに日銀ユーザンス制度の改正に伴つて、前年度二七八二億円に達した外為会計の撒超額が著しく減少し三八八億円に止まつたことによる。たゞしこの制度改正による影響を除いて考えれば実勢としては前年とほぼ同程度になるものと思われる。

第三二表 政府資金対民間収支主要会計別内訳

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