第二部 各論 ―動乱ブームより調整過程へ 二 貿易 3 貿易の水準と構造

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(一)貿易水準の現状昭和

 昭和二六年の輸入量は前年より四四%著増したとは云え、まだ戦前(昭和九―一一年)にくらべると四七%の低位にあり、さらに輸出量は戦前の三〇%という低水準を前年から持越し、特需商品を含めても三五%にすぎない。しかしこの内容においては、各商品の伸び方がかなりまちまちである。

 まず輸入についてみると、食糧のうち穀類は戦前の七四%まで回復し、しかも単価の高い米から安い麦、雑穀に品種を転換したことによつて、重量としては戦前の二五六万屯とほぼ同水準に達している。また原材料でも「肥料・鉱物」(主に燐鉱石・塩など)「原皮類」はすでに戦前の二、三割上回つており、「生ゴム」も戦前水準を回復し、「金属鉱、金属くず」も七割に達した。このうち鉄鉱石は戦前水準に回復したが、くず鉄は僅か六%にすぎない。このように食糧および重化学工業原材料の輸入は相対的に高い回復水準を示しているが、ただ繊維原料は綿花・羊毛ともにいまだ戦前の五割程度である。さらに工業製品、機械類になるとその低下が一層甚だしい。

第四〇図 品目別、類別輸入数量水準

 一方輸出については、輸入と対蹠的に食糧、原材料が戦前の一、二割に著減し、製品の回復率が相対的に高い、ことに「卑金属」(鉄鋼、非鉄金属)はすでに戦争水準の二割上回つており、なかんずく鉄鋼は三倍に近く、また機械類も戦前の五割近くになつている。しかし何んといつても輸出の半分近くを占める繊維製品が、戦前の三割に減少したことは、輸出全体の水準回復に大きく影響した。もつとも化纖織物は戦前の七割近くまで回復しているが、最大の比重をもつ綿糸布が綿花の輸入の減少とも呼応して五割にみたず、殊に綿布は二六年で一〇億平方ヤードと戦前の三八%にすぎない。またかつて対米輸出の花形であつた生糸に至つては、米国の人造繊維工業発達に伴つて戦前の僅か一四%(九百万封度)の低位に落ち込んでいる。

第四一図 品目別、類別輸出数量水準

第四二図 商品構成の推移

 ここに貿易の面でも戦前にくらべある程度の重化学工業化がうかがわれ、また二六年は前年にくらべてこの性格が一層はつきりしてきたが、しかし繊維が貿易の大宗を占めている点は戦前戦後を通じて変りがなく重化学工業品の伸長も、いまだ繊維貿易水準の低下をカバーするまでには至つていない。

(二)貿易構成の変化

 上のような貿易全体の水準低下は、敗戦による国土、資源の喪失および戦後の人口増加と相まつて、加工貿易方式を一段と高めている。まず昭和二六年における輸入の商品構成をみると、原材料および燃料の輸入が総額の六八%を占め、単価の騰り方が相対的に大きかつたことも手伝つて、戦前(昭和九―一一年)の五六%をさらに上回つている。食糧の割合もやはり戦前の二一%から二四%に膨んだが、製品輸入の縮小は著しい。また二五年にくらべても、原材料の比重が増えているが、輸入規模の拡大に応じて食糧の比率は逓減し、一方設備近代化の要請などにこたえて機械を中心に製品輸入の割合が幾分増加した。輸出の商品構成に目を転ずると、輸入とは対蹠的に製品の比重が二六年において総額の八五%を占めている。そして戦前この比率が六八%であつたのに比較してもさらに増加したわけであるが、これは金属製品および機械の割合がふえたことに基くもので、輸出の大宗―総額の四三%―である繊維製品の比率は変つていない。また二五年に対しても、製品輸出の構成比は金属製品を中心に高まつている。

第四三図 地域別貿易構成の推移

 このように重工業化をすすめながら加工貿易が進展しているが、その地域的な結びつきには戦前とかなり目立つた違いがある。元来わが国の貿易は、アジア州、殊に支那大陸、朝鮮、台湾などの近隣地域に依存するところが大きかつたが、国際的な政治環境からその関係が稀薄になつている。

 輸入についてみると、戦前輸入総額の三七%を占めていた近隣地域の比重が二六年で僅か四%に縮小しており、その一部を東南アジアに転換しているものの、アジア州全体の割合は五三%から二九%に半減した。そして援助を受けていたこととも相まつて、米国を中心に北米大陸への依存度が強まる結果になつた。輸出についても、近隣地域の比率が戦前の四四%から二六年の一〇%に著減しているが、東南アジア向が同地域の工業発展に伴う製品需要の増加を反映して拡大したので、アジア州全体としては輸入程縮まつてはいない。また米国向の割合が戦前とほとんど変つていない点も輸入と違う点である。なお二五年に比較すると、動乱の影響で近隣地域の関係が輸出入とも少くなり、米国からの輸入の割合も特需を別とすれば援助費の削減などに伴つて縮小したが、反面通商協定の拡大に応じてその他諸国との交流が多くなつている。

(三)通貨地域別の依存関係

 かかる昭和二六年の構成を通貨地域別にみると、輸入では北米大陸に対する依存の継続と近隣諸国の地位低下から、ドル地域の比重が前年よりさらに増加して総額の六割近くとなり、逆に輸出ではドル地域向が減少して、東南アジアからをはじめポンド地域の割合が増大し、これとオープン・アカウント地域とを併せると全体の七六%に達した。

第二五表 通貨地域別貿易構成

 つまり食糧および原材料を中心とする輸入は、ポンド地域への転換策もいまだ効果なく、相変わらずドル地域に対する依存度が高い反面、製品の輸出はドル地域向の促進策にもかかわらず、かえつてポンド地域向への圧力が加わつている。これは一つには、貿易の商品構成に根ざすものである。二六年における商品類別の貿易収支尻をみると、次表の通りである。

第二六表 昭和二六年の商品別地域別輸出入尻

 この表から次の諸事情がうかがえわれる。

  1. 各商品ともすべてドル地域に対しては入超であり、殊に繊維と食糧でドル地域入超額の大半を占めている。
  2. 一方ポンドおよびオープン・アカウント地域に対する出超は、繊維と金属、機械によつて占められている。
  3. このうち金属、機械はドル地域に対する入超が割合少いが、繊維はドル輸入、ポンド輸出の典型的な品目である。さらにその内容をみると、毛製品は原料をポンド地域から輸入して国内で消費し、逆に化繊は大体国内産の原料からつくられてポンド地域へ輸出するので、結局綿製品がドルで原料を買つてポンドで製品を輸出する代表的な製品であるといえる。このようなドル入超は戦前は生糸の対米輸出で均衡がとれていたわけである。

 以上のごとく、昭和二六年の貿易水準はいまだ戦前の五割にもみたない低位にあり、国際収支、殊にドル収支については表面上の黒字にかゝわらず、臨時収入で支えられた不安定な内容をもつている。しかも本年に入つてからの輸出は、海外市況の後退に伴つて繊維を中心に漸減しており、また輸出価格の低落から交易条件も悪化してきたので貿易の前途はかなり多難であるといわなければならない。

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