第二部 各論 ―動乱ブームより調整過程へ 二 貿易 2 国際収支の検討
昭和二六年の国際収支は、あらゆる経常取引を総合して三四〇百万ドルの、受取超過になつている。この内訳をみると、純粋の貿易取引(輸出入とも運賃、保険料を含まないFOB勘定)では約二億九千万ドルの支払超過であつたが、特需商品の二億三千万ドルをはじめ連合軍駐畄に伴う商品、サービスの提供が六億二千万ドルにのぼり、また米国の対日援助費として一億六千万ドルばかり受取つているので、そのほか運賃保険料などの諸支払超過分約一億五千万ドルを差引いても、結局三億四千万ドルの受取超過になつたわけである。このように二六年の国際収支は、貿易収支の赤字を特需および駐畄軍の支出などによる臨時的な貿易外収入でカバーさせた>極めて不安定なものであつたといえよう。さらにこの内容を国際通貨基金制定の方式に準じて概観してみよう。すなわち第五表は、わが国に居住する者と海外に居住する者との間における、あらゆる経済的取引を記録したものである。ただし「居住」の基準は、その者の経済的中心が国内にあるか、国外にあるかによつている。
まず商品取引を総合すると、輸出(FOB)は特需商品二二八百万ドルを含めて一五八二百万ドルであり、一方輸出(FOE)は援助輸入を含めて一六四一百万ドルで、差引五九百万ドルの支払超過となる。
次にサービス取引は総計四八五百万ドルの受取超過であつた。そのうちもつとも大きなものは政府関係の受取六六八百万ドルで、主な内容終戦処理費によるサービスの提供、連合国およびその所属人員の本邦内消費、特需サービスなど、概して軍隊駐畄または朝鮮動乱に伴うものである。これに対して運輸および保険関係では、貨物の外国船輸送による支払が多いために二三四百万ドルの支払超過となつている。
なお贈与など滞貨を伴わない一方的移転としては、米国の対日援助費一六〇百万ドルを受取つても、他方で終戦処理費二七三百万ドルを支出しているため、却つて九七百万ドルの支払超過となつた。かくて誤差および脱漏を調整した経常取引における総合収支バランスは、前述の通り三四〇百万ドルの受取超過を残している。
これを通貨地域別にみると、ドル地域が一一四百万ドル、ポンド地域が一一四百万ドル、オープン・アカウト地域が、八〇百万ドルのともに受取超過であつた。そのうちポンドおよびオープン・アカウト地域は、ほとんど全部が貿易取引における輸出超過にもとずいている。しかしドル地域については全く様相を異にし、純粋の貿易取引では六億二千万ドルをこえる輸入超過になつていたものが、特需商品およびサービスや連合国軍の消費で約六億二千万ドル、米国の援助費で一億六千万ドルほど埋め合わされた結果、そのほか運賃支払いなどを除いても一億一千万ドルの受取超過となつた。ここに臨時的収入で支えられたドル収支の不安定性がうかがわれる。
このような国際収支の受取超過に伴つて、外貨の保有高は二六年中に三五七百万ドル(ドル貨一二一百万ドル、ポンド五六百万ポンド、オープン、アカウント貸越残七九百万ドル)増加している。もつとも年間の推移をみると、上期には輸入の著増によつて各通貨とも減少したが、下期には貿易外収入が増大し、またポンドおよびオープン・アカウント地域に対する輸出超過が目立つてきたので、保有高も急増して一二月末には総額九一三百万ドルとなつた。さらにこの増勢は本年にも持越され、昭和二六年度(会計年度)中の保有高の増加は合計五七〇百万ドル(ドル貨二四二百万ドル、ポンド貨八四百万ポンド、オープンアカウント貸越残九三百万ドルに達し、前述のポンド輸出および貿易外ドル収入の増加ならびに最近の輸入の縮小などを一層強く反映している。なお五月末の保有高は一、一七八百万ドル(ドル貨七〇一百万ドル、ポンド貨一二一百万ポンド、オープン、アカウント一三九百万ドル)に達した。