第二部 各論 ―動乱ブームより調整過程へ 一 物価 3 物価の構造的な変動

[目次]  [戻る]  [次へ]

 次に物価の変動をいくつかの面からながめて、その特徴を画いてみよう。

(1)商品別の跛行性

 動乱直前を基準とした昭和二六年初めの物価水準を商品類別にみると、大体三つのグループに、わけることができる。(一)まず騰貴の先端を切つた商品は、繊維、鉄鋼、非鉄金属、ゴム、皮革など主に貿易と関係の深い商品であり、海外需要の増大に伴う輸出入価格の騰貴をその要因としている。(二)これに追随して騰貴して商品には、建築材料、紙、パルプなどがあげられる。これらは、貿易商品との間に直接的な原料製品との間に直接的な背原料製品の関係をもつているか、あるいは海外需要の増大をテコとした投資活動の活発化に基づいている。(三)比較的安定していたものは、食糧、燃料、化学品など主に国内市場を対象とし、また国内産原料によつて生産される商品であつた。

第一四表 商品類別卸売物価指数

 二六年度中の推移をみると、前記のごとく全般としては下押しの傾向をたどつたが、そのうち特に目立つて反落したものは、繊維、ゴム、皮革、紙、パルプなど主に貿易と関係の深い商品で、しかも概して消費財であつたといえる。これについでは、鉄鋼非鉄金属などやはり動乱後跛行的に高騰していた商品の反落が顕著である。ただこれら戦略的重要資材は消費財に比して需要の底が堅く、また補給金が廃止されたことによる影響もあつたので、動乱後騰貴率がもつとも高かつた割合にはあまり下つていない。一方、機械、建築材料、化学品、食糧および燃料は、年度保合ないし騰貴している。これらは、貿易の接触もさほど大きくはなく、あるいは需給関係の変動が比較的少なかつた商品であるが、またもともとあまり騰つていなかつたか、ないしは原料の値上りに対しておくれていたという事情も考慮される。

第二八図 商品類別卸売物価指数

(二)輸出品価格の動揺

 結局、跛行的に高騰していた輸出商品は、またその後の反落も著しかつたわけである。動乱後、海外市況の好転を背景として輸出価格の急騰に追随して、輸出商品の国内価格も高騰することになつた。これに対して輸入価格は、穀類をはじめ概して低い騰貴率を示している。もつとも若干の例外はあつて、生ゴム、羊毛などは各国の買付競合から一時海外市場が暴騰し、また鉄鉱石、粘結炭、塩など重量品は海上運賃の値上りによつて輸入価格が著騰したが、総体的にみると輸出価格よりかなり鈍い動きを示した。従つて交易条件が有利になつて貿易収支好転の一因となつたが、また国内価格としても輸出問品にくらべて輸入商品の騰貴がおくれている。

第一五表 輸出入価格と国内価格

 ところで昭和二六年度に入ると、海外市況の軟化を反映して輸出価格が反落し、これに応じて輸出商品の国内価格も低落した。一方輸入価格でも生ゴム、羊毛および重量品などは海外相場ないし本年に入つてからの海上運賃の反落に伴つて下落したが、全体としては輸出価格ほどの着落はみられない。その結果二六年度末頃には、交易条件もほぼ動乱前の状態に戻り、輸出入品の国内価格における跛行性もかなり収れんしている。

第二九図 卸売物価の構造的な変動

(三)原料安製品高の解消

 かかる輸出入品の価格動向は、食糧、原料および製品の価格関係に目立つた動揺をもたらした。

 動乱後、工業製品の価格は、輸出価格――輸出品の八割以上は工業製品である――の急騰を主因とし、また投資活動が活発化したことも手伝つて著しく高騰したが、これに対して基礎原料および食糧の価格は比較的安定している。これは一つには、輸入価格――輸入品の約九割は基礎原料および食糧である――の騰貴が緩慢であつたことを反映するものである。また食糧については、需給関係が比較的落着いたこと、消費購買力が停滞していたこと、ならびに米価が公定価格によつて規制されていたことも一因になつている。そして食糧価格の相対的な安定は、生計費をあまり騰げなかつた有力な要因となつており、ひいては賃金を余り急激に上昇させないですますことができた。このような一連の価格動向は、労働生産性の向上とも相まつて企策の収益を増加させることになつたわけである。

第一六表 食糧、原料および製品の卸売物価

 しかしここでも、年度を通じて顕著な収れんの過程がみられる。すなわち、動乱後跛行的に高騰した工業製品の価格は漸次基礎原料にも波及して、おくればせながらその騰貴を誘発し、石炭、電気料金を中心に年度中概してヂリ高の傾向を示している。一方工業製品の価格は、輸出の停滞、特に輸出価格の反落を受け、さらに投資活動も低調となつたため、ようやく落勢に転じて年度中下押しの推移を辿つた。かくて動乱後の原料安製品高も年度終り頃にはほとんど解消している。ただ食糧価格が相当的に安定しているという状態は年度中ほぼ持越された。

(四)消費財の相対的安定

 食糧価格の動きは、さきにもふれたごとく消費財全体の価格騰貴を緩慢なものにした最大の要因である。けだし消費財の約六割は食糧が占めている。またサービス関係料金の上昇がおくれていたために、生計費(消費者物価指数)は一層鈍い上昇率を示していた。それにくらべて生産財の価格は動乱後顕著に高騰している。これは、投資活動の活発化、世界的な国防需要の増大を反映したものとみられ、またこの間に銑鉄などの補給が廃止されたことの影響も見逃せない。

第一七表 生産財および消費財の物価

 このように動乱後における生産財、消費財の乖離は、年度中持ち越されながらともに下押しされている。殊に消費財の価格は、貿易との関係が深いために動乱後値上りの著しかつた繊維、ゴム、皮革などが急反落したので、生産財よりむしろ低落の程度が大きかつた。もつとも生計費としては、料金関係が漸次引上げられ、また卸売物価にくらべて小売価格の反落が鈍いため、年度中かえつて上向きぎみであつた。

 しかしともかく、生産財に対して消費財価格の騰貴が緩慢であつたことは動乱後の一貫した趨勢であり、この間における物価動向の一つの特徴をあらわしている。

[目次]  [戻る]  [次へ]