第二部 各論 ―動乱ブームより調整過程へ 一 物価 2 昭和二六年度中の推移

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 かかる状況の下で昭和二六年度を迎えた物価は、年度中概して下押しの傾向を辿つている。しかしこの間にもある程度の曲折がみられるので、特徴的と思われる次の四つの時期に区切つてその推移を概観しよう。

第二六図 卸売物価指数(昭和25年6月24日=100)

第一三表 週間卸売物価指数 (昭和二五年六月二四日=一〇〇)

(一)年度初めの反落(四―七月末)

 四月中頃をピークとしてわが国の物価もようやく反落に転じ、七月末までに八%下落している。反落のきつかけは二月頃からはじまつた国際市況の軟化にあり、それが輸出入価格の低落と輸出の停滞を通じて国内物価へ波及してきたわけである。しかも国際物価を上回つていただけに、その反動が強くあらわれることになつた。それに好況を見込んだ昭和二六年いらい買付増が数ケ月ズレて輸入貨物到着の増大をもたらし、それが日銀ユーザンスの期限切れに伴う輸入物資取引資金の逼迫とも相まつて、一層国内の市況に圧力を加え、さらに七月初めから朝鮮停戦交渉が開始>されたことが物価の低落に拍車をかけた。

 このように国際市況の後退が物価低落の主因となつているため、価格反落の程度も従来輸出の好況から急騰していた繊維、鉄鋼など貿易と関係深い商品について著しい。殊に繊維の価格は、国内消費面の制約とも重なつて、ピークから七月末までに三一%下落しており、鉄鋼もこの間に一五%下つた。なお市況とほとんど開きのなくなつた綿糸布の公定価格は、七月に廃止されている。

第二七図 各期における卸売物価変動率

(二)年央の反騰(八―一〇月半ば)

 このように下つてきた物価は八月初めから一時反騰をみせ、一〇月中頃までに六割ばかり騰貴した。この原因の一つは、それまでとかくおくれがちであつた食糧および基礎原料の価格騰貴がようやく誘発されてきたことである。つまり動乱後、輸出商品や投資財など概して工業製品の価格が跛行的に高騰したが、それが農業生産資材を通じて食糧価格に波及し、また製造工業部門の需要増大やコストの上昇から基礎原料の価格を次第に吊り上げることになつた。その最も端的なあらわれは、八月における主食、塩、電気料金の公価改訂および一〇月初めの石炭価格引上げなどにみられる。

 また、八月に入つて期限切れユーンザンスをスタンプ手形でつなぎ、輸出キャンセルを滞貨金融で補うなど若干の金融緩和措置が講ぜられており、その結果貿易と関係の深い商品の価格もようやく下渋りとなつた。そしてこれら商品の価格安定はそれまで先安見越しで買控えていた海外の需要を回復させ、輸出契約も八月を底に漸次好転しており、それに八月二三日の朝鮮停戦会談中絶という材料も手伝つて、八月末からまず繊維が反発し、ついで鉄鋼や非金属なども九月ごろから次第に上向いている。

 だがこの間国際物価はほぼ横ばいに推移していたので、それらとの乖離を大きくすることになつた。

(三)年末にかけて再び軟化(一〇月半ば―一二月末)

 かかるわが国物価の独歩高も所詮長続きせず、一〇月中頃から、再び軟化して、年末にかけ三%ほど低落している。輸出契約も年末まで量的にはかなり回復の過程を示したが、動乱直後と違つて高値には追随しなかつた。しかも八月頃に一時つないだ手形の決算期が到来して金融難を招き、その結果輸出圧力がいよいよ増大して、この面からも輸出価格を漸落させることになつた。従つてこの期においてもやはり繊維および鉄鋼製品など、貿易と接触の多い商品を中心に工業製品の価格低落が目立つている。一方この間、基礎原料価格の波及高はなお続いたが、食糧の価格は出回り期の関係もあつて保合の状況にあつた。

 かくて製品価格の再落から、企業の一部に再び倒産の問題が起つて、ある程度の救済的融資が行われることになり、物価も小康をえて越年している。

(四)年明け小康のあと漸落(一月以降)

 年明け幾分上向いた物価も、漸次軟化して四月から急落に転じた。そして六月半ばの水準は昭和二六年末より約四%低くなり、また七月末の底値をも下回るに至つた。

 年初における物価強調の一因は、年末の救済融資によつて金繰りが若干緩和したこと、ならびに昨秋いらいの輸出契約絶頂が尾をひいて船積ないし決算が増加したことなどにあつた。それに先行き世界的な軍拡を背景とする海外需要が相当増加するであろうという期待がもたれていたことは、鉄鋼、銅などの市価を上向かせた。

 しかし海外市況の現実は年明けいらいはやくも軟化しており、またポンド過剰対策として三月から実施された同地域向輸出調整措置も手伝つて、輸出の漸減を招いている。しかも輸出に先行きの回復が見込みが立ちにくくなつたため、動乱後海外需要の増加に伴つて活発化した投資活動も低調となつて、ここに生産過剰ぎみの傾向が、表面化することになり、滞貨の増大から市況を圧迫した。ただ国内消費は賃金の上昇と物価の低落で昨秋いらい好転してきたが、もとよりこれが市況を支えるほどの力にはなりえなかつた。

 かかる環境はまず繊維、紙およびゴムを主軸としてパルプ、化学薬品に反映し、一月中頃からこれらの価格が落勢に入つている。ついで鉄鋼、銅など年初来値上りしていた商品の価格も、三月頃から反落に転じ、そのほか食糧の低落、木材、機械の軟化など、漸次全面的な落調を示した。その結果六月半ばの物価水準は、二六年四月いらいの最低を記録している。

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