第一部 總説……独立日本の経済力 五 結び
終戦いらい年々数億ドルの米国援助によつてようやくその循環を支えてきたわが国経済は、朝鮮動乱勃発以後、国際情勢の変貌による輸出の伸長といわゆる特需の発生に基き、その経済活動を飛躍的に増大せしめ、国際収支の均衡も一応達成したかにみえる。しかしながらわが国経済力の現状を分析すれば、本篇に示したとおり表面上の経済自立の背後にはいまだ多くの問題を残している。しかも独立後の日本経済は、民主自由国家に対する国際経済協力を推進するとともに、国際社会への復帰に伴つて賠償、ガリオア債務、および外債の処理あるいは自衛力漸増等、新たな債務を負担しなければならない。
かくのごとき事情に想いをめぐらせば、わが国は臨時収入によつて国際収支の均衡を維持しうるここ暫くの間に、これを有効に活用して経済の質的、内容的充実を図り、もつて新たな要請に応え、経済の自立と安定とを実現するために全力を挙げて努力することが必要である。
試みに以上の見地からわが国民の努力を傾注すべき方途を探つてみるならば、まず国際市場拡大の要件として、日本商品、特に重化学工業品のコスト切下げ、国際競争力を強化するための産業の近代化を挙げることができるであろう。次いで東南アジア地域の資源の開発と工業化をも促進することによつて、わが国のドル輸入の転換、原料取得条件の改善、輸出市場の確保などの要請を実現するために同地域との経済交流の緊密化を、はからねばならない。さらに自給度を高め、雇用機会を増大し、また市場の安定性を補うために国内資源の開発と国内市場の育成も肝要である。このいずれの目的を達成するためにも、相当多額の資本蓄積を不可欠とするので、貯蓄力の乏しいわが国の現状に鑑みれば、今後一層投資の効率化、重点化に努めなければならない。
想えば貿易依存度の大きいわが国経済の前途には単に国内的困難だけでなく、国際的規模において解決を要する障害が横たわつている。しかし自己のなしうる最善を尽して障害を克服していこうとする国民の熾烈な意欲こそは、経済自立を可能にする唯一の原動力であり、将来における豊かな生活を約束する手形となるであろう。