第一部 總説……独立日本の経済力 四 独立日本の経済構造 5 価格構造と国際競爭力

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 次に現在の価格構造を検討して、価格からみたわが商品の国際競争力がどんな状況にあるかを述べておこう。

 朝鮮動乱後高騰したわが国物価の水準も昭和二六年度に入つて、徐々に低下したが、この過程において目立つた現象は、価格の構造的な調整であつた。まず第一に、動乱後輸出価格の高騰に対する輸入価格のおくれから有利になつていた交易条件が、その後主として輸出価格の反落からほゞ動乱前の状態に戻つている。そして第二に、かかる交易条件の変動と呼応して動乱後における原料安製品高の状態がほとんど解消している。つまり国民経済全体としても、企業自体としても、動乱後の価格変動によつて受けた恩恵は消え失せたわけである。ただ食糧およびこれを中心とした消費財価格のおくれは持越されており、これは賃金の相対的な安定をもたらすことにもなつて、企業の人件費率を縮小させている。

 また商品別にみても、動乱後に生じた価格の跛行的騰貴は二六年度においてある程度調整されたが、決して解消したとはいえない。殊に著しい特徴としては、繊維がすでに動乱前の水準と大差ないところまで戻つたのに対して、鉄鋼は二・六倍、非金属は二・一倍、機械は一・九倍の高位にある。これは動乱後の推移のうちに、戦前に対する価格倍率のデコボコがならされるという過程が織り込まれたことに基いている。すなわち、動乱直前の価格を戦前(昭和九―一一年)に比較すると繊維がもつとも高率の三二六倍であるのに対して、金属は最低率の一六二倍にすぎなかつたが、昭和二七年五月では繊維四〇九倍、金属三六六倍と開きが縮まつており、そのほかの商品についても同じような傾向が読みとられる。概して重化学工業品の価格は、二二年いらい補給金の支給によつて低位におさえられてきたが、動乱後海外グレイマーケツト相場に引きずられた市価の高騰から補給金でカバーする必要性が稀薄になつたため、すでに漸減していた補給金も二五年度末に輸入食料品を除いて全廃された。ここに対戦前価格倍率の商品別較差が始まつた有力な要因があり、この事はまた、戦前の価格構造――それは繊維をはじめ軽工業を中心とした当時の貿易構成と連携したものである――を再現させたことにもなつている。

 ところでかかる価格構造の現状は、対外的にみていかなる性格をあらわすものであろうか。最近におけるわが国の価格を国際的に比較すると第二三図の通りで、繊維は幾分割安であるが、金属、機械、化学品など重化学工業品は概して二割から三割も高い。その基本的な原因の一つは、原料取得条件の相違にある。繊維原料については、わが国の価格が高いという事情はほとんど認められていないが、重化学工業は鉄鉱石、粘結炭、塩など重量のかかるものを遠隔地から輸入するため、海上運賃の負担から対外的に著しく割高な原料を使つている。また設備や技術などの点においても、繊維産業にくらべて重化学工業の対外的おくれが目立つており、従つて労働生産性の低いことも否めない。そのほか、外国にくらべて金利水準が高いことや、市場が狭隘なため量産が困難なこと、なども一般にコスト高の要因となつており、殊に大規模な設備を必要とする重化学工業についてはその不利が顕著である。従来その弱点は、あるいは補給金でカバーされ、あるいは海外グレイマーケット相場の高騰でおおいかくされていたが、すでにこれらの支えがなくなつた今日、ようやく金属、機械などの割高が露呈されるに至つた。従つて重化学工業の国際競争力を培養するためには、原料所得条件の改善とともに、設備の近代化や技術の向上が要請されている。

第二二図 卸売物価指数

第二三図 価格の国際比較(日本価格=100,昭和、27年4月現在)

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