第一部 總説……独立日本の経済力 四 独立日本の経済構造 4 産業構造の現段階

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 わが国の産業構成が、戦時から戦後にかけて重化学工業化してきたことはうたがいのないところである。すなわち、産業構成の推移を業種別就業者数業の全就業者のうち金属、機械およ>の割合によつてみると第二〇図の通りで、金属・機械および化学の三業種が占める比率は戦前(昭和九―一一年)の三八%から二六年の四五%に拡大し、逆に紡績業の比重はこの四四%から二四%に著減している。また戦前を基準とした鉱工業生産指数をみても、第二一図のごとく、繊維工業にくらべて金属、機械および化学工業の伸長が著しい。

第二〇図 就業者数よりみた産業構成の変化

第二一図 戦後における生産構成の変化

 このような重化学工業の規模は確かに拡大してきた。しかしもともと欧米諸国におくれて発達したわが国の重化学工業は、戦前から軍需的需要に結びついて国家の保護のもとに育成されてきたので、国際競争に堪えうる産業にまで発展していない。そのことは、後述するように、わが国の重化学工業品の価格が対外的に割高な点からも明らかで、またその結果貿易構成の上ではまだ繊維が最大の比重を占めている。

 ところで今後日本経済が発展する上に、貿易の回復が重要な一環であることはいうまでもないが、その場合後にも指摘するようなアジヤ諸国の軽工業化という事情から、繊維を中心にして輸出を伸ばしうる余地は少いので、結局貿易構成の重点を重化学工業品へ移行せざるをえないであろう。しかも重化学工業は第七、八表に示す通り、附加価値(製品価格から原材料、燃料動力費および減価償却費を差引いた部分の製品価格に対する比率)や外貨獲得率(輸出価格から輸入原料賞を差引いた部分の輸出価格に対する比率)が軽工業にくらべて一般に高いという利点をもつており、これは資源が乏しいわが国にとつて貴重な特質である。反面、重化学工業が軽工業にくらべて幾つかの不利な点をもつことも忘れてはならない。まず重化学工業は第九表のごとく概してエネルギー消費量が大きいので、電源開発による電力供給量の増加がその発展に併行しなければならず、また軽工業にくらべて巨額の投下資本を要し、資本回転率の低いことも見逃しえない。

 しかしながら重化学工業の最大の弱点は前にも述べた通りコストの割高なことである。この点を克服して貿易面の要請にこたえるためには、重化学工業の設備近代化によつて品質向上とコスト切下げを行うことが不可欠の要件である。

第七表 主要工業附加価値率の比較

第八表 主要商品の外貨獲得率(%)

第九表 主要商品千円当りのエネルギー消費量(電力換算)

 だがこの場合設備近代化による雇用量の減少と年々増加する要職業人口との間におこる間隙をいかに埋め、また近代化に伴う増産と市場の限界との関係をいかにして解決するかということが問題となる。このような困難を打開するためには、国内資源の開発が必要であつて、それは国内の雇用機会をふやすばかりではなく、国内市場の拡大によつて輸出市場の変動を補いつつ、量産によるコスト切下げを助け、ひいては国際競争力の培養にも寄与する結果をもたらすものである。

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