第一部 總説……独立日本の経済力 四 独立日本の経済構造 2 国民生活の現状
昭和二六年の国民消費水準は前年より四%の向上を示し、比較的着実な回復をみせて昭和九―一一年の八六%の水準に達した。しかし都市の消費水準は前年とほとんど変わらなかつたのに対して、農村のそれは約一割も上昇しており、前記四%の回復は農村の上昇によつたものである。
都市においては朝鮮動乱後の生産の急上昇に応じて、二六年の工業労働生産性は対前年比三〇%の大幅な上昇を示し、名目賃金も、二八%増加した。しかるに消費者物価は年間一八%の騰貴となつたため、実質賃金の上昇は九%にすぎなかつた。しかもこれは三〇人以上の製造工場についての調査からえられた結果であつて、他の産業や三〇人未満の小企業労務者、その他臨時工、日雇等の賃金上昇はさらに低かつた。従つてこれらはすべての対象を包括する都市勤労者の実質世帯収入はほとんど上昇せず、そのため都市の消費水準も前年とほゞ同水準で、対戦前七割に止つた。もつとも本年に入つてからは消費者物価の上昇も一段落し、また秋の賃上げおよび年末手当が大幅であつたために、最近の都市消費水準は明らかな向上を示している。しかし一方二六年下半期いらいの景気後退によつて、最近にいたり一般産業における失業者の増大、臨時工、日雇の雇用減少の傾向がみられる点を見落としてはならない。
他方農村では都市の場合と異り、耕種、養蚕、養蓄、工芸作物の高値などの条件が加わり、その上兼業収入の増加が大きく、農村所得は約三割の大幅な増加を示した。これに対して、租税負担は前年と同じ位で農村家計用品物価の上昇もせいぜい二割にすぎなかつたため、農家の消費水準は一割程度の大巾な上昇を示し、ほぼ戦前と同一の水準に到達した。このような農家水準の上昇に加え、農家の余剰は前年に比してかなりの増加をみせたとはいえ、これを経営階層別に調べてみると、農産物価格の上昇によつて利益を享受したのは大規模農家であつて、零細農家においてはむしろ農家経営は好転せず、むしろ農業外収入に頼る傾向がさらに甚しくなつている。
第一七図 昭和26年の国民一人当生活物資供給量指数(昭和9―11年=100)
上のように本年の国民生活は都市と農村で大いに趣を異にし、またそれぞれに跛行的な現象がみられたのであるが、ともかく国民全体の消費水準は冒頭に述べたごとく、前年より向上して戦前の八六%に達し、戦争直後七〇%を越えたエンゲル係数も二六年には都市五六%、農村五五%まで低下した。しかし消費の内容をみると、主食は戦前水準に回復しているが、いまだ副食は七六%、被服品の中衣料品だけでは六割程度となつていて回復は、なお跛行性を示している。また住居水準は一見回復したかにみえるが、現在なお住宅不足戸数は三百万戸を超えており人口増、老朽消耗、災害喪失などを考えると現状のような増加戸数では不足はなかなか緩和されないであろう。