第一部 總説……独立日本の経済力 四 独立日本の経済構造 1 国民所得とその支出

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 経済構造の考察はまず国民所得から出発しよう。

 わが国国民所得の推計は、統計の不備もあつていまだ完璧とはいいがたく、その数値を用いて経済分析を行うには種々困難が存する。しかしおよそ一国の経済活動の概観を把えるには国民所得とその支出内容を見るにしくはない。従つてここでは敢えて国民所得の分配、支出を通じて、昭和二六年における日本経済の動きを検討してみることとする。まず当本部国民所得調査室の推計による二六歴年の国民所得は次の通りである。

第三表 昭和二五年、二六歴年の分配国民所得比較(単位一〇億円)

 二六年の分配国民所得は二五年の三兆二千億円から四兆六千億円となり、約四割の増加となつた。その構成をみると勤労所得は四四%と前年と大差ないが、個人業主取得は四六%から四二%へと低下している。他方法人所得は二五年の六%から二六年の一二%へと大きく増加し、実績でいえば三倍に増加している。しかも法人税、配当を差し引いた純利潤の法人畄保額はさらに増加率が大きく約四倍となつた。戦前の国民所得の構成をみるとこの法人所得は六%であつて、二六年の一二%という比率は異常に大きいことがうかがわれる。

 この国民所得に資本減耗引当(補填投資等に相当する)間接税、および補助金を加除したものが、国民総生産として国の経済活動の諸面に支出されることとなる。すなわち国民総生産五兆一千億円は、個人消費支出へ三兆円、民間総資本形成(住宅、固定施設、在庫品増加等への投資)へ一兆二千億円、政府(中央、地方を含めて)の財貨およびサービスの購入八千億円、海外純投資(輸出、貿易外収入より輸入、貿易外支支出を差引いた国際収支差額より海外よりの純贈与を除いた純受取額)へ六〇〇億円支出された。

第四表 昭和二六歴年国民所得とその支出(単位一〇億円)

 その支出構成を前年と比較してみると、個人消費支出は六〇%から五九%におち、民間資本形成は一五%から二三%へと増加した。戦前はこの比率が一五%程度であつて、それでも諸外国に比し、かなり大きいといわれていたものである。ただしこの民間資本形成中大きな部分を占めている在庫品増のうちには物価騰貴によるみかけ上の増加が含まれていて投資率が過大評価になつており、期中の物量増加を平均市価で評価するという方法でこの在庫品増加の評価調整を行つた場合には、投資率は一八%に低下する。

 次に二五年から二六年への物価上昇による名目上の増加分を除いた実質的な増加額をみるために、各項目ごとに物価修正を行うと二五年価格表示で二六年の国民総生産は三兆八千億円となり、二五年から実質増加額は二千六百億円で前年に対し七%の増加である。輸入、輸出、個人消費、投資ともに増加したが、政府支出は逆に減少し実質的には財政規模が縮少したことを示している。(附表参照)

 このような国民総生産および輸入の増加と政府支出の節約とを合わせた総供給増加額四五七〇億円がどのように分けられたかをみると、個人消費の増加にその四四―五%ずつの二千億円が費され、また輸出増加にその一割があてられたことになる。

第五表 昭和二五年より二六年への国民総生産の実質増加額配分

 実質的な増加額のうちこのような大きな割合を投資増加に割いている例は諸外国にもなく、二六年の国民総支出の中では投資増加が最も特徴的であつたといえよう。後にも述べるとおり、この投資のかなりの部分が輸出増を期待する軽工業の設備拡張に充てられたのであるから、海外市況の変化によつて輸出が伸びなくなり、その生産物を国内へ向けようとしても増加割合の少なかつた国内の消費購買力ではそれを吸収しきれなかつたのも当然である。ここに内外市場の発展の不均衡性がみられる。

 以上国民所得を生産、分配、消費、投資と述べてきたが、これらを一括して循環図に示せば第一五図のようになる。

第一五図 二六歴年国民所得の循環(単位10億円)

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