第二 各論 八 労働


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(一)人口及び雇用

(1)人口

 我が国の人口は、昭和二五年一〇月の国勢調査によれば、総数八三、一九九千人で、戦後五ヵ年の間に一一、二〇〇千人、一五・五%の增加を示した。この增加のうち、海外からの引揚による社会增加が四割強、出生と死亡の差による自然增加が六割弱を占めている。かかる急激な自然增加は、終戦後の復員・引揚等による一時的な出生率の增大と、一般公衆衛生諸施策の普及による死亡率の顕著な低下とによつてもたらされたものである。

第六六表 戦後人口の推移

 出生率は昭和二二年の三四・三(人口一、〇〇〇人に対する出生率)から二五年の二八・三へと低下し、昭和九―一八年の中央値三〇・一二接近している。他方、死亡率は戦後年々低下して二五年は一〇・九となつたが、これは昭和九年―一八年一〇ヶ年間の中央値一六・九をかなり下廻つている。かくて自然增加率は、二三年の二一・八をピークに爾後下降傾向を示し、二五年には一七・四まで低下したものの、なお戦前の一四前後に比べれば、かなりの高さを示している。

 かかる総人口の增加傾向に伴い、就業を要すると見られる労仂力人口も、戦後は年々七〇万ないし一〇〇万の幅で增加しつつある。

(2)雇用の動き

 二四年夏を頂点として農業全般にわたつて行われた人員整理以後、二五年上半期まで引続き停滯のまま推移して来た雇用量は、動乱発生後、産業活動の活溌化に伴い漸次增加傾向をたどつている。

 すなわち毎月勤労統計調査(從業員三〇人以上を常時使用する事業所の、主として常用雇用者を対象としている)による雇用指数でみれば、製造工業の雇用は二四年を通じて低下し、同年一二月には九六・二(昭和二二年平均=一〇〇)となり、二五年に入つてからも上半期においては、新規卒業者の就職期である四月を除いて微落を続け、六月の九五・一まで低下した。動乱後七月にはなお低下を続けたが八月に入つて僅かながら增勢に転じ、爾後微增を持続している。しかしながら人員整理前の二四年上期がかなり高水準であつたため、二五年度平均では二四年度平均に比し三・六%の低下となつている。またこれを業種別にみると、動乱前には機械器具を始め金属・製材目製品等がかなり減少し、一方化学・窯業及び土石・食料品が僅かづつながら增加していたが、動乱後において特需及び輸出の增大等の好影響を受けた企業を多く含む金属が八月から、同じく機械が一二月からそれぞれ增勢に転じ、紡織は上半期に引続き上昇しており、二六年に入つてからはほとんどすべての業種が上昇傾向をたどつている。

第六七表 全国主要産業雇用指数

 動乱後における雇用增加の実勢は、次の如き事情から、この指数以上の上昇を示しているとみられる。すなわちこの雇用指数には、臨時工雇用の大部分及び從業員三〇人未満規模の小企業の雇用と、僅かではあるが連合軍関係の雇用とが含まれていない。前年来の人員整理の後でもあり、さらに仕事量增大の永続性に対する見透し難などにもより、企業特に大企業は動乱後の仕事量の急增に対して、まず現在の從業員による時間外労仂の增加や下請けへの発注增加等でまかなわんとし、それによつてもなおまかないきれなくなつて初めて新規雇入れを開始し、しかも本工員とせず臨時工の形態で雇用した。これは一方では下請け企業の仕事量を膨張せしめ、人員增加の容易なこの部面での大幅な雇用增を結果すると共に、他方では大企業における臨時雇の顕著な增大をもたらした。

 中小企業の労仂力需要は動乱後好況を示している金属・機械・紡績等を主として高まり、しかもこの面では大企業に比し入職・解職ともに比較的容易であるため、仕事量に応じて雇用量の変動が端的に現れた。この間の事情は特需その他動乱後の需要增の影響を蒙つた東京・神奈川両都県における製造工業從業員三〇人以下の企業を対象とした当本部調査課調の雇用指数によつてもうかがい知ることができる。

 すなわち東京都では二五年六月に比し、從業員三〇人以上の規模(毎月勤労統計調査の対象企業)では、その雇用量は一二月現在二・五、二六年三月現在三・五%の增加にとどまるのに対し、三〇人以下ではそれぞれ七・一%、一四%と大幅な增加を示している。これを業種別にみると、特に金属・機械・紡織の增加が目立つ一方、化学は三〇人以上停滯してるのに応じて、三〇人以下もその增加率は比較的低い。しかしながら、一般に各業種とも三〇人以下の企業における雇用增加率は三〇人以上におけるそれを上廻つている。

 また神奈川県では、二五年六月を基準にした場合、三〇人以上の規模における雇用量が一二月現在三・三%、二六年三月現在四・〇%の增加であるのに対し、三〇人以下の規模ではそれぞれ五・〇%、九・九%の增加となつている。業種別にはやはり金属・機械における增加が顕著で、他業種もほぼ東京と同様な推移を示している。

第六八表 東京都主要製造工業規模別雇用指数

第六九表 神奈川県主要製造工業規模別雇用指数

 これら從業員数三〇人以下と、三〇人以上の二指数を人員数で加重平均して一本の指数にしてみると、概数ではあるが、二六年一―三月現在、小企業の多い東京では昨年四―六月に比し七%增、神奈川では五%增を示している。

 つぎに臨時雇については、当本部調査課の主要企業約一六〇社を対象とする臨時雇実態調査によつてみる場合、顕著な增加傾向がみとめられる。すなわち、製造工業全体では二五年六月に対し本年三月現在、常用が三%の增加にとどまるのに比し、臨時は約三〇%の增加で、業種別には各業種とも常用雇用の增加を上廻つた上昇を示しているが、自動車・産業機械・電気機器などを中心とする機械器具の增加が特に目立ち、金属・化学がこれに次ぎ、その他もすべて增加傾向が明瞭である。從つて、労務者中臨時労務者の占める割合は当然增加し、製造工業全体では二五年六月の七・三%に対し、本年三月には九・四%となつている。

第七〇表 臨時工の業種別推移

 かくの如く增加する臨時雇には、造船・鉄鋼・車両製造等に從来からある社外工、組組織等の外に、先行き見通し難或いは合理化以来の嚴重な定員制等のために、動乱後の仕事量急增に対する労仂力の補充を臨時雇の形態で行つたものが相当に含まれており、これらは名目臨時工であつても、仕事の内容はほとんど本工と異らないものも多く、雇用期間も漸次切換延長されて常用化しているものも存在する。

 さらに動乱後の雇用增加に寄与しているものとして連合関係労務の就業增加がある。これらの労務需要は動乱直後の急增以来次第に落つき、その後二五年末から二六年初における一時的な增加を経て最近では再び減少しているが、就業者数としては動乱前に比して相当の增大を示している。その性格上それらは時間的には不規則な、地域的には偏在した就業が多いが、労仂市場の好転に或る程度の影響をもたらしたことは事実である。ちなみに、この種需要のピーク時たる八月において、職業安定所の窓口を通ずる連合国関係常用の就職数は、常用総就職数の約二割を占めている。

 以上のような雇用状態を反映して、失業情勢も二五年上半期の深刻な様相から動乱を境として漸次好転していつた。すなわち企業設備は前年で大体産業界を一巡し、二五年に入つてからは減少を示していたが、動乱後は全く微々たるものとなり、また失業保険給付実人員も、八月をピークとして下降に転じ、四―六月平均の四一万人から本年一―三月には二八万人に減少している。同様に日雇労務者のアブレ数も八月以来一路減少を続け、四―六月の二六四万件(延数)が本年一―三月には一四九万件になつている。職業安定所の求人求職状況も、動乱後を機にして常用日雇とも好転した。日雇については先に述べたが、常用についても求人は逐月增加して昨年一二月には六月に比し六四%增を示し、二六年に入つても引続き增勢にあり、一方求職も八月以来漸次減少傾向をたどり、ピーク時八月に比し一二月には一三%減となつている。就職者もまた增加し、労仂市場好転の跡は顕著なものがある。

(二)労働條件の推移

(1)労仂時間

 動乱前までは雇用人員の減少に対し生産水準が横這いないしは上昇傾向にあつたのに伴つて、その間、労仂時間も僅かながら增加がみられた。動乱後においては前述のように、仕事量の急增した企業ではまず現從業員の時間延長で対処した結果、かかる部門での労働時間の增加は顕著なものがあり、全般的な統計である毎月勤労統計調査においても漸次この傾向が現れつつある。すなわち全製造工業の総労仂時間は、二五年四―六月平均に対し二六年二月には四・七%增加しているが、このうち所定外すなわち残業時間だけについて見れば三一%の增加で、一日平均では総労仂時間八・二時間、残業時間〇・七五時間となつており、業種別では金属・機械の残業が目立つてふえている。所定内労仂時間も、賃金ベース引上げの際などに〇・五時間ないし一時間延長されている事例が最近ではかなりみられる。

第七一表 全国主要製造工業労仂時間の推移

 一方、労仂災害状況を労災保険の補償費支払の対象となつた実人員によつてみると、被保険者数にはほとんど変化がないにもかかわらず、二四年に比し二五年は二〇%增を示し、その内死亡は二七%、永久一部労仂不能は五七%とそれぞれ增加している。戦後支払件数は傷害を主として年々增加傾向にあるが、二五年において下半期が上半期に比し五〇%も增加していることは(二四年は上、下期ほぼ同じ)下半期に支払が促進することなどを考慮しなければならないとはいえ、動乱後の急激な仕事量增加や納期の嚴守等に伴う労仂時間の延長、不熟練者の增加(臨時労務者)等の事情が加わつての結果といえよう。

(2)賃金の推移

 安定計画実施後動乱発生までは、企業経営も著しく物価も漸落傾向にあつたので、賃金ベースはほとんど停滯し、むしろ賃金遅欠配も多く存在していたが、動乱後は仕事量の急增した部門を中心として超過労仂給や生産にリンクした諸手当の膨張等により增大し、賃金水準は逐月上層してきた。もちろんこの間において、物価の騰勢に伴いベースアップの要求も漸次現れ、特に二六年に入つてからは目立つてきている。かかる賃金引上げに際して能率給の採用・職務給の導入等、給与体系の転換もみられた。

 賃金水準の上昇を毎月勤労統計調査によつてみるに、二五年四―五月の停滯の後、六月は中間賞与期で急騰し、七月以降もおおむね六月の水準を超えて上昇を続けている。製造工業における一一月の水準は六月に比し一一・三%增、二六年四月の水準は同じく一八・二%の增に当つてをり、年度間の平均でも二五年度は二四年度に対し二四%の增加となつている。

 つぎに業種別にその推移をみれば、動乱後活況を呈した部門、たとえば金属・機械器具・紡織等と、そうでない部門、たとえば工業・化学・食品等との間では、賃金の上昇にかなりの開きが生じている。また水準では金融業・金属・商業・及び化学等が高く、紡織・製材木製品等が低くなつている。

 これら業種別のひらきは二五年末の越年資金の支払についてもあらわれており、動乱後景気上昇の跛行的な一端を示すものとして注目される。

第七二表 主要産業平均現金給与の推移並びに業種別格差

 一方規模別賃金の動きについてみれば、次図の如く、安定計画以来賃金安定期には規模間の開きは比較的せばまつていたが、動乱を境として再び拡大されつつある。すなわち、二五年四月―六月から二六年一―三月の間における上昇率は、從業員一、〇〇〇人以上の規模では三〇%であるのに比し、三〇人から四九人までの規模の企業では九%に過ぎない。これは特需その他の好影響がやはり大企業に強く作用したことを示すものである。

 また臨時工の賃金は、業種或はその種類によつて異るとはいえ、労仂時間には大差がないのに、一般本工員に比しかなり低位にあり、基本給部分はおおむね本工員なみであるが、諸手当その他は半額以下、交通費・住宅費など会社負担金等はほとんどなく、退職金もあまりないのを普通としている。厚生施設の利用については、常用臨時工に対して若干差別をつけているもの、或はほとんど臨時工には利用させないもの等区々である。

第二〇図 企業規模別製造工業平均現金給与総額の推移

 以上のような名目賃金の增加に伴う実質賃金の動きをみると、動乱前は前年度半ば以降における消費財実効物価の下降傾向に助けられて僅かながら上昇傾向にあつたが、動乱以後においても消費財実効物価格が値上り傾向にあるのにかかわらず、賃金の上昇率がこれを若干上廻つているため、実質賃金としては慨して緩かな上昇カーブをたどり、本年四月には動乱前の四―六月に対して三%の增加となつている。なお二五年度一ヶ年平均では二四年度平均に対し三一%の增加となつているが、これは主として昨年上期における顕著な上昇に基くものである。

 以上は製造工業平均の動きであるが、これを業種別規模別にみれば、若干の不均衡がみられる。すなわち、規模別にいた場合二五年四―六月に比し、二六年一―三月の実質賃金は、一、〇〇〇人以上の規模では一一%の上昇となつているのに対し、三〇―四九人規模では五%の低下となつている。業種別にも機械の八・四%の上昇に対し、製材木製品では四・二%の低下となつている。

第七三表 実質賃金指数の推移

 動乱後操業度の上昇や労仂時間の延長を主因として労仂生産性(雇用者一人当り月生産量)の向上が顕著にみとめられるが、これと名目賃金との関係について若干触れよう。

 いうまでもなく、労仂生産性が顕著な向上を示している産業における賃金上昇率は、労仂生産性の上昇度の低い産業におけるそれよりも高く、かつ一部の例外を除き、労仂生産性の上昇率は賃金上昇率を上廻つている。鉱業の如く労仂生産性の向上の比較的鈍い部門では、名目賃金の上昇は労仂生産性の上昇をわづかに上廻りつつほぼ平行しているが、製造工業では賃金の上昇率のほうがかなり下廻つている。もつともここにいう労仂生産性の算出に使われている雇用指数には、動乱後特に增加の著しい臨時工や小企業の雇用增が含まれていないことを考慮しなければならない。

第七四表 賃金と労仂生産性の動き

 製造工業中紡織・金属は、労仂生産性・賃金ともに上昇が顕著であり、おおむね賃金の上昇率が労仂生産性の上昇をわづかに下廻つている。機械器具・製材木製品等は労仂生産性の上昇が高いが、賃金の上昇はそれに及ばない。安定計画下においてこれら部門の蒙つた打撃の深さが賃金の上昇をはばんでいるものと思われる。化学においても賃金の上昇が労仂生産性の向上をかなり下廻つている。食料品は労仂生産性がむしろ減退ぎみで、賃金上昇率がこれを上廻つている唯一のものである。

 かくの如くおおむね労仂生産性の上昇より賃金の上昇が下廻つているため、製品や価格の上昇と相まつて、製造工業の労務費比率指数(注)も二五年六月を一〇〇として、九月八七、一一月七五、二六年一月七一と顕著な下降を示し、企業採算好転の一因となつている。

(注)労務費比率指数= 雇用指数(毎勤)×賃金指数(毎勤)/生産指数(E.S.S)×生産財実効物価指数(日銀)

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