第二 各論 四 鉱工業生産


[目次]  [戻る]  [次へ]

(一)鉱工業生産の推移

(1)生産水準の上昇

 昭和二五年度の鉱工業生産は、朝鮮動乱を契機として著しく活溌化し、その水準も大巾な上昇を示すに至つた。すなわち昭和七―一一年をベースとする総司令部作成の生産指数によれば、第三七表にみる如く鉱工業生産は第一一四半期から第四・四半期まで九一・三、九六・四、一一一・九及び一一八・八と急速に上昇しており、動乱の影響は第三・四半期以降において顕著に現れて来ている。たとえば第三・四半期(昨年一〇―一二月)の生産水準は前年同期に比し三八%增、第四・四半期(本年一―三月)は前年同期に比し四六%增に当つている。

 かくて二五年度の鉱工業生産は、活動指数において一一九・七、生産指数において一〇四・六と、いずれも七―一一年の基準年次を上廻り、前年度に比べ二四・六%及び三〇・七%の上昇を示したが、一方部門別に第四・四半期の指数を前年同期のそれと対比してみれば、公益事業(電力及びガス)と鉱業はそれぞれ一四%及び一六%の增加にとどまつたのに対して、製造工業では五一%と著しく增加している。(これに先立つ一年間における製造工業の生産增加率は次表に見る如く二一%であつた。

第三七表 鉱工業生産指数の推移

 かかる生産增加は、基本的には前年度以来の有効需要の不足傾向が、動乱以降における特需の発生・輸出の增加並びにその後にもたらされた国内投資活動の活溌化等に伴つて急速に增勢の方向に転じたことによるものであるが、さらに原材料の需給状態が一応の均衡を保ち得たこと、電力・石炭事情が二月において多少惡化したとはいえ、年度間を通じて比較的順調であつたこと等も、有力な要因としてあげられる。

(2)業種別分析

 つぎに、昭和二五年度中における製造工業の生産增加の動機を表すために、本年四月の生産水準の前年同月に対する産加率を業種別に概観してみれば、まず機械工業は、二四年度以来の深刻な停滯状態から、大量の特需受注で立ち直つた鉄道車両及び自動車、生産活動の活溌化から需要の增大した産業機械等の增産により、一〇月以降急速に上昇し、この間において一〇七%と最大の增加率を記録した。品目別では、鉄道車両が二二七%、産業機械が一一五%、自動車が三〇%の增加である。なお自動車の增加率がかなり少なくなつているのは、本年四月の生産がストの関係で低下したことによるものであり、本年三月の生産を前年同月のそれと比較してみれば七七%の增加となつている。

 製材業は、動乱後大量の特需を受け、建築関係の活溌化と相まつて生産は激增し、機械についで六九%の增加率を示した。

第一一図 業種別工業生産指数の推移

 繊維工業は、年度当初以来の輸出の增加、輸入原材料の順調な入荷、設備払張の進捗などによつて、逐月增加の一途を辿り、五五%の增加となつた。品目別では、毛糸・毛織物・毛糸が一一七%・八八%及び六三%の增加で、その他綿糸・人絹スフ織物・綿織物などもおおむね四〇―五〇%增産された。

 ついで生産增加の著しかつたものは化学工業で五五%の增加を示し、品目別ではスフ人絹の七二%、その影響をうけた苛性ソーダの一〇三%の增加が目立つた。

 金属工業はこの間三七%の增加であつたが、品目別では銑鉄・鋼塊は三五%及び四〇%增、錫・アルミニウムは八〇%及び六八%增で、それぞれ国際情勢を反映してかなり著しい上昇を示している。

 その他印刷・窯業の各工業はそれぞれ二七%及び一五%の增加であり、食品工業は二%の上昇にとどまつた。

 かくして二五年度における製造工業の生産動向を通観すれば、繊維工業が前年度に比べかなりの生産增加を示したものの、これを含む消費財工業部門の生産が、戦前に比べて比較的低い水準にとどまつているのに対して、機械・化学・金属等の重化学工業部門の生産がすでにかなり高い水準に逹し、多少の相違はあるものとしても、昭和一二―一四年当時の産業構成に類似して来たことが注目される。

 なお鉱工業生産指数は二六年度に入つても四月一三四・五、五月一四〇(暫定数字)と急速な上昇を続け、特に機械・金属・化学等の諸部門における生産增加が目立つているが、本年四月の部門別指数を昭和一二―一四年平均当時のそれと対比してみれば次表のごとくであり、前述の如き傾向は一層顕著となつている。

第三八表 昭和二六年四月の鉱工業生産指数の昭和一二年―一四年平均に対する比較

 翻つて二五年における建築の着工状況によつて、国内投資活動の活溌化のあとをうかがえば、工事金額は総計一、三〇〇億円(ただし建築届出額)で、着工坪数では前年に比べて二八%增加し一、一一七万坪に逹している。これを住宅・非住宅別に見れば、第三九表にみる如く後者の增加率は上者のそれを上廻つている。また住宅における市部・郡部の構成比は二四年度の五四対四六に対し、二五年度では六三対三七に変化しており、動乱後の建築活動が市部においてより活溌であつたことを物語つている。また二五年度における金額面の構成比率をみれば、居住用四七%・公共用二三%・商業用一五%・鉱工業用一一%・農林水産業及び公益事業用がそれぞれ二%となつている。

第一二図 戰前戰後における鉱工業製品の推移

第三九表 建築物着工状況の推移

 ところで鉱工業生産水準は、戦後五年半を経てようやく基準年次(七―一一年=一〇〇)のそれを上廻り、最近ではさらに顕著な上昇を見せているが、このような生産增加が主として不安定な国際市況の変化に基くものであるだけに、需要の安定性という問題を今後に残している。

 しかも他方、これを物的な生産條件の面から見ても、今後の見透しは必ずしも楽観し得ない事情にある。以下鉱工業生産の物的諸條件の現状を概観してみよう。

(二)物的生産條件の現状

(1)燃料動力

 二五年度の石炭供給実績は、国内炭・輸入炭併せて四、〇三三万屯と計画の九八%に逹したが、一方需要は動乱以降、生産活動の活溌化に伴つて急速に伸び、しかも需要期に入つてからは月々出炭量を上廻る状況を呈したため、三月末の全国貯炭はついに一四六万屯と限界貯炭を下廻るに至つた。しかも本年度に入つてからも貯炭は四月末一三五万屯、五月末一二五万屯と低下しているので、今後一般生産水準が上昇するにつれて石炭の需給はかなり苦しくなるものと予想される。從つて二六年度においては、輸入炭より一層增加と相まつて、少なくとも四、五〇〇万屯の出炭確保が要望されている。

第四〇表 石炭需給の推移

 一方電力は、二五年度に入つて引続き豊水に恵まれたため、発電端で四〇三億キロワツト時、需要端で二七九億キロワツト時と、前年度のそれぞれ一〇%及び一二%の增加を示したが、ここで注目されるのは、下半期以降の電力需要增大に伴う火力発電量の增加で、年間五九億キロワツト時と、前年度に比し八七%の增加であつた。特に二月の渇水期には火力発電所のフル操業によつて前年同月の四倍の発電を行い、戦後の発電量記録を大巾に改訂している。かくの如く発電状況は一般に順調で、産業活動の活発化に寄与するところが大きかつたが、このような発電の好調をもつてしても電力不足は解決されず、一―二月頃の渇水期にはサイクルの低下・緊急遮断の実施等が避けられなかつた。かくて今後增加する電力需要を満すためには、電力開発により発電設備の新增設が不可欠の問題となつているが、二五年度の電源開発については、当初において前年度よりの維持工事を含めた六五四千キロワツトに対して総額一五〇億円の見返資金融資がほぼ確定していたところ、電気事業再編成の未解決に影響されて融資が遅延し、一二月末になつてようやく一〇〇億円が貸付られたにすぎなかつた。このため二五年度中においては新規工事は全く着工されず、前年度から継続工事四七〇千キロワツトが続行されたにとどまつている。

(2)原材料

 動乱以降、原材料の需給は世界的に逼迫したが、これを反映して我が国の原材料輸入も必ずしも円滑に進捗しなかつたため、生産の上昇による消費量の增大にもかかわらず、原材料の工場在庫量も次第に見る如く昨年末までは一般に減少の傾向がうかがわれた。しかしながら本年一月以来の輸入增加によつて全般的には一応事なきをえたが、最近の入荷状況からみて、一部原材料の輸入見透しについては、なお必ずしも楽観し得ない状況にある。

第四一表 主要原材料の月間消費量に対する工場在庫比率の推移

 たとえば第四・四半期の主要原材料の入荷状況をみれば、鉄鉱石は当初四九万屯の入荷を予定し、多少の余裕を見込んでいたが、その実績は六八%にすぎず、また同じ製鉄用原料のマンガン鉱・強粘結炭の入荷実績も見込量に対し四六%及び六九%程度にとどまつた。その他見込量に対して輸入が下廻つたものをあげればニツケル・コバルト・錫・マグネサイト等があり、これらのうちには今後においてもなお明確な見透しが立てられないものもある。なおまた最近においては輸入不振に基く外貨の不足から原料輸入に制約を生ずる傾向も生じている。もともと我が国は原材料の海外依存度が高いだけにかかる傾向は今後の鉱工業生産の発逹途上の障害となるおそれがある。二五年度における主要原材料の海外依存度を示せば次表の如くである。

第四二表 昭和二五年度における重要原材料の海外依存度

(3)設備

 わが国の工業生産設備は、最近における生産の上昇によつて能力の限界に近づき、紡績・人絹その他の部門ではかなり急速な設備拡張も行われる段階に至つているが、金属・機械等の部門については未だ幾分の生産上昇の余力を残している。もつともこれら金属・機械等の諸部門における設備については、それを再稼働する場合に大修理を必要とするもの、老朽化して正常な経済事情のもとでは採算上稼働が困難なもの等がかなり含まれ、設備の新設を図る方がかえつて有利とみられる場合が多い。

 朝鮮動乱発生以前においてはこれら老朽設備の近代化は遅々としていたのであるが、その後における急速な生産上昇と企業経営の好転によつて二五年度下期以降は活溌となり、最近における機械工業生産回復の重要な原因となつている。また外国から機械輸入も增加しており、技術輸入についても二五年初頭いらい本年三月までに認可されたものは機械・化学工業等の諸部門を中心として五六件(約二一万弗)に逹している。

 もつとも二五年の機械輸入が戦前昭和九―一一年平均に比べて数量的に四%に過ぎないということからもかがわれるように、設備の近代化は未だ緒についたばかりであり、その成果は今後にまつところが多い。

 なお物的生産條件としては、以上のほかに輸送力の問題があげられるが、これについては「輸送」の章で述べる。

(三)物資需給の動向

 二五年度の第一・四半期(四―六月)においては、一般に需要は生産を下廻る傾向を示していたが、朝鮮動乱を契機として情勢は逆転した。その主要な原因が特需の発生と輸出の增大にあることはいうまでもないが、また一部の原材料においては昨年下期中における輸入の不振がかなり影響したことも否めない。

 まず需要面の強調から国内需給が逼迫したものとしては、特需の発生による自動車・麻袋・ドラム罐、輸出の伸長によるアルミ・銅・亜鉛鉄板等があげられ、また綿製品も動乱勃発直後においては思惑の增大から価格が暴騰した。この中自動車等については其後本格的な增産が行われるに及んで問題は解消し、綿製品についても暴利取締や内需綿製品の確保に関する措置によつて八月下旬以降価格の反落を見るに至つた。しかし薄鋼板類は自動車・ドラム罐等に対する特需の增大と生産能力の限界との挟撃をうけて、内需は若干圧迫を受け、また非鉄金属類も輸出の急增に比して原鉱石の輸入がはかばかしくなかつたため、銅地金及び再生塊、錫・亜鉛・ニツケル等の地金、特殊鋼の一部等については、輸出制限措置が、またニツケルについては国内不急用途に対する使用制限措置がとられた。

 一方昨年下期の輸入不振によつて原材料の工場在庫が漸減し需給の前途が危ぶまれたが、本年一月以降輸入が增加し、現在では在庫の喰い潰しもほぼ補充されたものとみられる。しかしながらニツケル・コバルト・クングステン・水銀等の希少金属鉱石は国内生産がきわめて僅かである上に輸入も不調であるし、鉄鉱石・強粘結炭・石綿・レーヨンパルプ等の輸入もなお十分とはいえない。

 二五年度の物資需給を概観すれば、主として需要の大巾な增大によつてかなりの変動を生じ、現在なお部分的には各種の問題を残しているとはいえ、一般的には生産水準の上昇と本年初頭以降の輸入增加に助られて大過なきを得たということが出来るであろう。

 以下需給の変動を主要物資における工場出荷面の分析を通じてうかがつてみよう。

 経済安定本部産業局資料によつて出荷の内容を特需・輸出・内需に分けてみれば、まず普通自動車シヤシーの特需は、二五年度において七、六二四台と全出荷量の三五%を占めている(ただし以上はトヨタ・日産・いすず・東日本の四社分)。このため一時は特需が内需の分にかなり大きく喰い込む状況を呈したことは前述した如くである。鉄道車両(蒸気機関車・電気機関車・客電車・貨車)についても特需は年度間で二、九〇六両(ただし換算両数)と全出荷量の四二%を占めている。

第一三図 普通自動車シヤシーの出荷構成

 なお普通鋼々材の年度間の特需は一六二千屯で全出荷量の五%にすぎないがこのほか特需用の鉄鋼二次製品、車両等の原材料として使用されたいわゆる間接特需は約一二八千屯を数えている。

 つぎに輸出についてみれば、まず綿織物の輸出は二五年四月以降好調をたどつて年度間に一、一〇八百万平方ヤードと全出荷量の六六%、生糸も同じく九一千俵と全出荷料の四四%、また人絹糸も四百万封度と全出荷量の三七%を占めており、いずれも前年度に比べ相当量增加している。

 アルミ地金についても輸出は動乱後顕著に增大し、年度間で一四、九〇〇屯と全出荷量の四三%に当る。また電気銅の輸出も三五千屯と全出荷量の三三%を占め、普通鋼々材・セメント・鉄道車両の輸出もそれぞれ全出荷量の一四%(亜鉛鉄板を含む)一四%及び一一%を占めている。

第一四図 普通鋼々材の出荷構成

第一五図 綿織物の出荷構成

 かくの如く特需と輸出の状況に対して内需も生産の增大に支えられて、前年度に比べ一様に增加を示している。しかも普通鋼々材やセメントの内需が二、七八九千屯及び四、四二六千屯と二四年度に対してそれぞれ七〇%及び五七%の增加を示していることは、国内投資活動の活溌化を如実に物語つているものといえよう。

 以上の如き物資需給の動きに対応して、二四年度以降の物資統制廃止の方針は、二五年度においても依然として持続された。物資統制の二五年度における廃止または停止の経過を一表にまとめれば第四三表の如くであつて、二四年度末における指定生産資材は六一品目であつたが、四月一日には原料炭の一部・四月二八日には工業塩の一部及びコールタール等の一〇品目が、六月一五日にはベンゾール・トルオールが、七月一日には石炭・一般圧延鋼材などの一六品目が、一〇月二〇日には工業用油脂・硬化油・クラフト紙等の六品目が、また三月二九日には硫酸がそれぞれ指定生産資材から除かれた。またその間、硫化鉄鉱・硫黄などの四品目の統制も停止された。

 かくて二六年五月末においては僅かに綿糸・棉花・原油及び石油精製用原料油・ニツケル・原料塩・燐鉱石等、海外に対する依存度がきわめて高く、しかもその入手についてやや不安があるとみられる一七品目(統制停止の八品目を含む)が残つたに過ぎない。また二四年度末において二四品目を数えた指定配給物資も、二六年五月には主要食糧・石油製品・砂糖などの六品目となり、さらに公団も二五年度中においてついに姿を沒した。

第四三表 統制品目及び公団数の推移

[目次]  [戻る]  [次へ]