第二 各論 三 財政・金融
(一)二五年度財政の推移
(1)当初予算の性格と予算補正
二五年度当初予算は、前年度に引続き経済安定政策を踏襲し、その基盤の上にわが国経済を前年度より一層積極的に再建することが基本方針とされていた。
その主要な特色としては、総合予算の均衡を保ちながらなお財政規模の縮小(一般会計で前年度の八九%)を実現したこと、一般会計歳出項目の首位であつた価格調整費を前年度の約五〇%に削減し、統制緩和と併せて正常な経済体制へおしすすめたこと、債務償還には依然として一、二七六億円の巨額が計上されたこと、租税負担の公平並びに国税及び地方税を通ずる税制の合理化及び資本の蓄積を目的とする税制改革を実施し、前年度に比し七一三億円(一四%)の減税を行つたこと、並びに公共事業及び見返資金を中心として建設的支出が二倍近くに上つたこと等が挙げられる。
しかるに朝鮮動乱の発生を契機として生産の上昇・物価の高騰に伴つて信用膨張の傾向が現れるとともに、これが財政收支の面においては、特需及び輸出增加による対民間支払の增大に加えて、九月二五日より輸入資金難を打開するために実施された日銀ユーザンス制度により円收入の時期がずれたために、外国為替会計を通じて多額の円を散布する結果となつたのである。
このような環境の変化の上に一五ヶ月予算構想により、経済自立並びに資本蓄積の促進という観点から補正予算が編成されたのであるが、その骨格は価格調整費を減額(二六〇億円)して、外為会計に一〇〇億円繰入れ、日本輸出銀行・中小企業信用保険会計を新設して財政資金を投下し、さらに物価騰貴による給与引上その他諸経費の增大をまかなつたのである。この際歳入面では税率の軽減等が実施されたが、他面に自然增收が相当生じたので、租税收入の減少はみられなかつた。
外為会計の散超により、二五年度財政資金は現実には多額の対民間散布超過となつたが、後述するように、預金部を含めての均衡財政堅持の方針は予算補正によつても変化しなかつたのである。
補正予算に関連して二六年度予算について一言すれば、総合予算均衡の下に財政規模の縮小及び減税の点でさらに一歩を進めている。歳出面では社会補償費、学術振興費が增加しているが、特に注目されるのは政府資金の産業界への支出である。日本開発銀行は見返資金よりの出資一〇〇億円で出発したが、復金の融資回收分を加えて漸次資本を拡大させて行くことになつている。また新設の農林漁業資金融通会計は六〇億円(内見返資金より四〇億円)の長期資金を農漁業方面に投資することになつており、輸出銀行の資金增大し(二六年度政府出資一〇〇億円)、資金運用部の金融債引受も增加(二六年度中引受額二九五億円)が見込まれている。
(2)財政資金の対民間收支
二五年度の通貨增減要因としての政府資金対民間收支は、年間四六〇億円の散布超過で前年度の六五四億円の引揚超過とは逆の傾向を示している。この数字から主として金融的機能を営む予金部の対民間收支を除く等の調整を行い、ほぼ国家予算に対応する財政資金としての対民間收支を算出すると、七八二億円の散超(前年度は逆に六六二億円の揚超)になる。次図に見るように上半期では六〇三億円の揚超、前年同期の揚超額の六割增になつているが、第三・四半期における財政資金の大量散布がこの傾向を逆転せしめている。第三・四半期の散超は、例年の通り供米前渡金支出により食糧管理特別会計の散超(第三・四半期一、三四八億円)に加えて、輸出為替買取の增加と日銀ユーザンス制度実施による円收入繰延べとに基く外為会計の散超(九九七億円)によつてもたらされたものである。第四・四半期は例年の通り揚超に転じたが、その揚超額は前年同期の僅かに一八%に過ぎない。
この財政資金散超額七八二億円の内容を檢討してみると、一方で実質的な外為会計対民間散超額、すなわち貿易関係による日銀ならびに国庫よりの民間への円流出額が二三三五億円(注)に上つている。他方では均衡財政を極力維持する建前から上記以外の面で支出の抑制が行われた。
(注)日銀国庫局の「政府資金移動概況」の上に現れた外為会計の対民間散超は年度中二、九〇四億円であるが、これから政府貿易による国庫内振替の円收入超過五二〇億円並びに日銀より外為会計に対するオープン勘定決済分の円返済額一二二億円を差引き、さらに特需立替払を主とする終戦処理收入への繰入額七三億円を加算すれば、米国援助分を除外した貿易関係の実質的な対民間散布額は二三三五億円となる。
この結果年度内に見返資金の余裕金は八三〇億円を增加し、また一般会計から外為会計に一〇〇億円が繰入れられた上に日銀当座予金(外為及貿易会計分を除く)は二一八億円增加している。前年度には多額に上つた対日銀債務償還(外為及び貿易会計分を除く)は二五年度には僅かに一七億円にすぎなかつた。この外予金部に対しては二七三億円の債務償還が行われたが、これは見返資金の国鉄電通両会計への投資を肩代りしたので上記見返資金余裕金に含まれている。
もつとも対民間及び対予金部を含めた国家債務は見返資金による五〇〇億円の償還予定が二五年度には行われなかつたため、償還額は前年度より若干減少したとはいえ、年度末現在高四、五四七億円で年間八三五億円の減少になつている。
(3)歳入面の分析
財政收入のち中枢をなすものは租税收入であるが、調整状況は印字收入を含めて年度末である三月末現在四、一四二億円、その予算に対する進捗率は九三・〇%(前年同期九五・六%)であつたが、五月末現在では進捗率一〇二・五%となり、前年同期の成績を上廻つている。税收入の大宗である所得税は五月末徴收済額二、二〇〇億円で、その進捗は九三・五%(前年同期九三・〇%)である。このうち申告所得税は申告率(申告人員対申告所得税総納税人員)が前年度の八九%から二五年度九七%に上昇したにもかかわらず、五月末徴税率は七九・〇%で前年度(八〇・六%)同様著しく低位にあり、源泉所得税(五月末一〇七・八%)並びに後述の法人税に比して依然としてこの種所得税が不振であることは注目されねばならない。
申告所得税徴收の低調に反して法人税の好調(五月末進捗率一四六・三%)は対照的である。法人税は二四年度予算では税收中の九・七%であつたが、二五年度予算では一二・九%となり、さらに五月末徴税実績では税收の一八・四%を占めている。二五年度よりの超過所得に対する法人税の廃止にもかかわらずこのように法人税の比重が增大したのは、一般的には日本経済の正常化を表現しており、さらにその上に朝鮮動乱以来の景気上昇を反映したものと云えよう。
二五年度中の現実の国民負担(国税、専売益金及び地方税の合計)は七、一八八億円で国民所得の二一・九%(前年度二六・五%)になつており、この比率は漸次軽減されて行く傾向にある(詳しくは生活水準第九〇表参照)。
(4)歳出面の分析
一般会計の歳出面では、重要事項のうちで終戦処理費・価格調整費等の戦後特殊な経費の漸減傾向に対し、公共事業費・教育文化及び社会保障費等は漸次增加しており、財政構造の正常化は顕著である。しかしながら歳出の個々〇項目についてみればなお種々の問題を内包している。例えば公共事業費についてみれば、予算額で二四年度六二五億円、二五年度一、〇三一億円、二六年度一、一〇六億円(一般会計重要項目中第一位)と漸增しているが、その内で災害復旧費の占める比率は次第に增大して二五年度では災害復旧分支出は公共事業中の約五〇%を占めるに至つている。しかも災害復旧の過年度分は漸次增加する傾向にあり、二六年度初頭における災害復旧過年度分は一、八〇〇億円に上つている。
終戦処理費は前年度より若干減少したが、朝鮮動乱勃発後一般会計中の債務償還費より新設の警察予備隊へ二〇〇億円、海上保安庁へ四六億円流用された。価格調整費は二四年度以降急速に減少し、二五年度当初における対象物資は輸入食糧・鉄鋼・肥料及びソーダの四種に整理され、二六年度に残るものとしては輸入食糧及び輸入燐鉱石のみとなつた。
二五年度の財政資金対民間收支を一変せしめたものは前述のように外為会計の対民間散超である。この対民間散超は国庫勘定では二、九〇四億円になつており、国庫内振替により調整すれば、前述の如く二、三三五億円になる。二五年度上半期には輸出の增加に対し輸入が相応して伸びなかつたため、外為会計の円資金繰りは極度に困難となつた。この事情は第二・四半期末において外為の国庫余裕金繰替使用額が二二〇億円、一次借入金が八〇億円、外為資金証券発行残が二〇〇億円に上つたという点にあらわれている。この外為会計の円不足を打開し、さらに基本的には輸入を增加させるために日銀ユーザンス制度が必要になつたのである。このユーザンス制度に起因する外国為替売買により日銀より外為会計に流入した金額は二、九二四億円に逹し、さらに二月には一〇〇億円が一般会計より繰入れられている。この資金流入額は輸出為替買取による同会計の円支払を賄い更に外為・貿易両会計の二四・二五両年度の借入金を清算した上に、二五年度末外為会計の日銀当座予金三一七億円となつて国庫内に保有されている。政府資金の産業界に対する放出は、当初安定政策の立場から極力抑制する方針がとられ、その後政府資金放出の必要性が強められて、逐次この方針の緩和が図られたのであるが、外為会計の散超が增大したため民間への流出が再び抑制されることになつたのは前述の如くである。
見返資金会計に対する援助資金会計からの繰入は年度中一、三〇八億円に上つたが他方見返資金からの支出はこの間七七九億円にすぎず、予金部の肩代り二五〇億円の資金流入を含めて、その余裕金は前年度末の一五三億円から二五年度末九八三億円に增加した。年度中の私企業投資は二五年度中三三八億円に逹したが、その大半は海運・電力部門に集中されている。
予金部では昨年一二月初めて金融債の引受が行われて、長期性産業資金の供給ルートとして役立つことになり、三月末における金融債引受及び買入高は一七九億円に逹した。また二五年度中三七〇億円の新規地方債を引受けたがこれは公共事業費を補充する役割を果たしている。また二月には二四年度における国鉄(一五〇億円)電通(一二〇億円)に対する見返資金融資を肩替りしている。他方資金面では、郵便貯金の增加は前年度に及ばなかつたが、公団関係の資金流入が大きく、市中金融機関に対する預け金の全額引揚もあつて、結局余裕金は前年度末の二八〇億円より二五年度末には六六七億円へと增加した。なお予金部は二六年度より資金運用部に改組された。
二五年度中に住宅金融公庫、日本輸出銀行等の新しい政府資金供給機関が成立したが、これらを含めて政府資金の投融資量を前年度と比較すれば次表の通りで、前年度より七九%の增加になつている。二六年度にはこれらに日本開発銀行・農林漁業資金融通特別会計等が新たに加わることになり、かくて安定政策によつて一度分離された財政と金融とが、今後再び交錯してくる傾向がみられる。
(二)金融動向と金融政策
(1)金融政策の推移
二四年度においては、財政による民間からの資金引揚が行われた反面、市中銀行を通ずる資金供給は多額に上つたので、二五年度当初においてオーバーローンの傾向はすでに著しく推し進められていた。從つて二五年度第一四半期においては、市中銀行が予算增勢の鈍化にもかかわらず資金需要に応じたため、日銀信用の放出がなお継続されたが、金融政策として金融引緊めの方向に向わざるを得なくなり、工業手形の日銀再割引の取止め、担保貸付の原則の強化等の措置により滯貨金融を阻止し、企業合理化を促進する方針がとられた。また長期資金の供給形態としては、融資斡旋及び国際買上オペレーションの如き日銀信用に依存するものは極力縮小し、見返資金による優先株引受を支柱とする金融債の発行、市中銀行に対する国債償還並びに日本証券金融会社設立及び貸株取引実施による証券市場強化策等に期待をかけ、健全金融の立場を堅持する方策がとられたのである。動乱の勃発はこの事態を一変し、わが国産業も特需と輸出の增大によつてにわかに活況を呈してきた。かくて企業は生産並びに原材料ストツクの拡大を図つたのであるが、この間賃金、物価も漸騰したので增加量運転資金の需要は一層增加し、市中銀行の貸出は伸長していた。
このような状況から金融政策においても次の如き推移をみた。まず七月には特需に対して日銀金融上の優遇が行われ、特需向手形のスタンプ押捺高は八月以降平均四〇億円に逹した。ついで原材料の調逹については、海外市場の値上りや、国際的需給の見透しから買急ぎの必要を生じ、輸入金融の円滑を図るため、九月下旬日銀ユーザンス(日銀外国為替買付)制度が実施された。またこのような景気上昇期に当つて、社債発行(大企業はその発行可能力を資金再評価によつて拡大した)が大量に上つたため、これに対処して日銀国債買上も七月から復活されることになつた。かくて前述の外為会計を中心とする財政資金の大量放出により年末の日銀券発行高は四二二〇億円(前年末三五五三億円)に增加した。
かかる通貨状況に当面し、日銀のとつた政策は市中銀行に対する高率適用の強化(二五年一一月及び二六年三月の二回)と思惑資金の抑制であつた。第四四半期になると漸次ユーザンスの期限到来に応じて輸入手形の決済資金の需要があらわれ、これは今後金融政策上の重要な問題となつた。
以上の金融政策の推移と並んで見逃すことのできないのは、前述の一二月から開始された予金部資金による金融債引受と二月に設立された日本輸出銀行である。これらは二六年度当初における日本開発銀行の設立及び日銀国債買上の漸減方針と相まつて財政記入政策の新たな段階を示すものである。
(2)産業資金の供給
二五年度の総産業資金供給実績は七六六九億円で、前年度の五八七二億円に比して約三〇%の增加となつている。これは、生産活動の拡大と物価の上昇があつたためである。下半期における日銀外国為替買付・株式払込・見返資金の增加が目立つている。
つぎに二四、二五両年の民間産業設備の更新・改良に向けられた純投資額を推計すれば次表の如くである。
二五年度の設備投資額は一、六五〇億円で、前年度より約三割(物価騰貴を考慮すれば一八%)の增加であつた。これは主として動乱勃発以来の企業利潤の增加と、日銀の国債買入及び予金部の金融債引受による長期資金供給対策が奏効した結果である。これは戦前(九―一一年平均)の設備投資推定額八九六百万円(当本部調査課調)に比較するためにその間の物価騰貴を調整すれば、九―一一年平均を一〇〇として、二四年度七〇、二五年度八二となる。
つぎに主として日銀推計によつて、二五年度における業種別投資額(ただし社内留保によるものを除く)をみるに、製造工業では繊維工業二〇四億円(うち見返資金八億円)を筆頭に、化学工業一五六億円(うち見返資金六億円)金属工業九〇億円(うち見返資金九億円)の順で、外に鉱工業八六億円(うち見返資金二四億円)電気ガス水道業一七四億円(うち見返資金一〇〇億円)運輸通信業三三一億円(うち見返資金一二九億円)等が主なものである。農林水産業は僅かに一四億円(うち見返資金四億円)にすぎず、これに農林中金の設備資金貸出を加えても一九億円である。
以上の産業資金が源泉別に如何に供給されたかを見よう。
(イ)貸出 金融機関の貸出は四、〇七六億円で総生産業資金供給のなかで約五三%を占め、しかもこの貸出の中で銀行の貸出は七五%に及び、企業の資金調逹面における銀行への依存度は依然として高い。動乱前は予金の不調のため、日銀信用の增加にかかわらず市中貸出は伸びなかつたが、第二、第三・四半期になつて特需・輸出の增進及び物価上昇に伴う增加運転資金の需要から貸出も增加した。九月下旬の日銀ユーザンス制度の実施は輸入資金の市中銀行負担を軽減した。
第四・四半期においては一月に年末融資が大幅に回收されたため、貸出残高の增加としては前二、四半期に比して衰えを見せたが、ユーザンス期限の到来に応じ輸入物資取引資金の需要が增大し、日銀の優遇する原棉等五品目の引取手形スタンプ押捺高だけでも一月の六一億円から三月には一八二億円に增加した。貸出を使途別に見ると、全国銀行貸出中、設備資金貸出は一二月の予金部資金の金融債引受以降、興銀・勧銀等を中心に增加し、なかでも新設拡張資金(主として紡績增錘及び造船資金)の貸出が目立つた。
(ロ)日銀外国為替貸付 從来は船荷到着直後に輸入業者は円決済が行われ、その資金の一部は市中銀行の貸出に依存していたが、九月二五日から日銀ユーザンス制実施によつて信用状開設から船荷証券到着後原則として九〇日まで日銀が自動的に信用を与えることとなつた。二六年三月末の外国為替貸付残高総額二、八〇一億円のうち船荷証券到着後の貸付残高は一、四七二億円に上つた。從つて若干のくいちがいはあるが、ユーザンス制以後は從来の市中貸出に代つて、日銀がこの外国為替貸付高だけ輸入資金を供給したとみなすことができる。
(ハ)社債 二五年度の社債純手取金は四二三億円で前年度に対し約六〇%增加した。二五年七月末の資産再評価により社債発行余力の生じた大会社は增資不振の折から一斉に社債発行への動きを見せたが、四月以降縮小に向つた日銀の国債買上オペレーションが七月から再び拡大されるとともに、一二月以降は予金部資金の発動により、金融債との競合も解消して銀行の社債消化力に余裕を生じ、さらに地方資金による消化も增大したため、このような成績を收め得たのである。
(ニ)株式 株式発行による資本調逹は株式相場の不振を反映して、前年度の七三九億円に対し四七%の三四八億円にとどまつた。しかし前年度には企業再建設備法に基づく払込高一三四億円(二五年度は二二億円)があつたことが考慮されねばならない。株価指数(二一年八月=一〇〇)は二四年五月の七〇〇をピークとして二五年六月には二五一に続落し、動乱勃発を機に、若干立直つたが、二六年三月漸く三八四となつたにすぎなかつた。これは昨年秋口以降永い不振の間に一般投資層が株式市場から離れ、動乱後は物価騰貴を見込て物資面に資金が向けられたことによるものである。
(ホ)政府資金投資 見返資金は私企業直接投資で二八六億円投資されたが、外に興銀・勧銀・北拓・農林中金・商工中金の優先株式引き受けに五二億円支出され金融債発行余力を拡大させた。輸出銀行は三月までに一〇億円の融資を行つたが、うち沖縄向発電所資金に七・八億円貸出され、アルゼンチン・パナマ・パキスタン等への輸出資金の貸出は最近におけるプラント輸出不振の実状を反映して比較的僅少にとどまつた。復金は船舶公団の政府出資による返済と保証融資の肩代りを差引いて年度中一二一億円の回收となり、前年度とほとんど変わらなかつた。
(3)予金の趨勢
さきに見た如く外為会計を中心とする財政資金の散布超過と産業資金の放出を反映して、一般予金の增加は二四年度の三、九九八億円に対し一三%增の四、五一七億円であつた。
しかし予金の增加とともに金融機関手許小切手手形も增加したので、これを差引いた実質的予金の增加は、二四年度の三、四三一億円に対し、二五年度は三、八五八億円となり、産業資金供給量の增加率を考慮すれば未だ充分な伸びはいい得ない。
動乱後の現象としては、無尽及び信用組合予金が增加し、郵便貯金の增勢は停滯的となつている。なお銀行の定期性予金は無記名方式の取止めにもかかわらず、前年度とほとんど同じ歩調をとり、二六年三月末予金総額の二九・二%を占めている。これらの定期性予金のうち法人予金の比率は二四年度末の三二・五%から二五年度末には四三・六%に增大している。
(4)追加信用と日銀券
金融機関の産業資金供給が、貸出・社債及び株式保有增加を通じて約四、五三〇億円に上つたのに対し、一般予金は郵便貯金・簡易保険・郵便年金予金を除けば三、五〇〇億円にすぎず、この差額の一部は金融機関の增資及び純益・金融債の個人消化・公金予金の增加・政府出資・国債償還等によつて補われ、また一部は一八〇億円に上る予金部の金融債引受によつて賄われたのであつたが、逆に復金及び予金部の市中予託金の引揚も行われたので、四五五億円に上る日銀信用を必要とした。
日銀信用が前年度の八六六億円に対し四五五億円にとどまつたのは、前記産業資金の総供給の項に述べたように、日銀ユーザンス制度が実施されたためである。
以上を通じて政府資金全体で約四六〇億円の散布超過をみる一方、日銀信用が四五五億円放出されたため、日銀券は年度間八五〇億円增加し、年度末発行高は、三、九六三億円となつたのである。