第一 總説 一、国際環境の変化と日本経済


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 昭和二五年度は戦後の日本経済にとつて最も大きな変化を経験した年である。年度の初めにおいては、前年度来実行されて来た経済安定計画のもとにおいて、インフレーションは終そくし、経済安定と正常化は著しく促進されたが、他面滞貨の增大と購買力の不足が一般的となり、生産上昇も緩漫で、昭和二四年四―六月から二五年四―六月に至る一年間の鉱工業生産の上昇は一六%にとどまり、特に投資需要に関係の深い機械工業部門では同じ期間に二〇%の生産減退をみた。かくて輸出の增大と国内投資の積極化によつて経済活動を活溌化することが、日本経済の当面の課題となつていた。この間売手競爭の激化・物価の下落・補給金の減廃等の影響も受けて、企業合理化の要請は強められ、過剩雇用の整理が実行されて、失業ないし半失業の增大もみられた。しかし他面において物価の低落は消費者の家計に有利な影響を与え、都市生活者の実質消費水準も二五年四―六月には前年同期に比べて一七%の上昇をみた。

 世界経済の動向についてみても、第二次大戦後に引続いた物資不足とインフレーションは各国においてほぼ終そくを告げ、各種の経済統制は逐次撤廃ないし緩和され、工業生産も大多数の国において戦前水準を突破し、経済の正常化は著しく前進しつつあつた。

 しかるに昨年六月における朝鮮動乱の発生を契機とする各国の軍備拡充計画の進行は、上に述べたような経済の正常化を足踏みせしめるに至つた。まずアメリカはぼう大な軍需生産計画に着手し、その計画の円滑な進行とインフレーションの防止をはかるために、昨年九月八日国防生産法を成立せしめ、以来政府は経済の各部面に対する統制を徐々に強化しつつ、目標の逹成に努力しており、ヨーロッパにおいてもイギリス・フランスその他の諸国は、それぞれ大規模な軍備拡充計画に着手している。これに伴い世界的に戦略物資を中心とする物的不足や、物価の高騰が生じてきている。

 ただ朝鮮動乱が局地化され、大規模な戦爭への発展が防止されてきたことと、アメリカはじめ民主自由諸国の生産力が著しく拡大されていることとによつて、ぼう大な軍備拡充計画の進行にもかかわらず、物資の不足はそれ程全面化しておらず、そのため世界経済は一面準戦時的様相を示しつつ、他面平時経済の要素をも多分に残しているのである。

 わが国は動乱の現状に近接し、その余波を直接的に蒙る立場におかれている反面、世界経済の変動をいわば外から受ける事情にあり、その国内経済に及ぼす影響はかなり複雑な様相をみせている。

 以下、まず昭和二五年度初頭以降最近に至るまでのわが国経済の基本的動向を概観し、次いで主要な問題の所在を明かにしよう。

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