二、經濟回復の現段階 (一)


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 日本経済の現在の水準と構造について具体的な檢討に入る前に、まずこのような水準と構造を成り立たせている経済基盤が大きく変貌している点に留意せねばならない。

(一)戰後における經濟基盤の變貌

 第二次世界大戰の過程において、我が国の国土と国富は大きな変革を蒙つた。旧版図の四割を占め且つ食糧や重要工業原料の供給地としてまた内地製品の安定的な市場として、重要な役割を担つていた朝鮮、台湾、樺太及び南洋等諸外地の喪失は、東北、華北等旧勢力圏の分離とともに、日本経済に大きな影響を与えずにはおかなかつた。また今次大戰による我が国の戰爭被告は、内地の平和的資産だけでも昭和二四年平均価格で約四兆二千億円、即ち国富の二五%に及んでいる。

 次に内外市場の変動も無視することは出來ない。即ち軍需の消滅によつて、重工業特に鉄鋼、機械、造船等の産業部門は重要な国内市場を失い、また中国を中心とする東亞の政治及び経済不安其他のために、戰前のわが国貿易額中に大きな比重を示していた近接諸国との貿易は、現在輸出入両面にわたつて、著しく縮小をみせていることは後述する如くである。

 このような経済基盤の一般的縮小の中に、人口のみは著しく膨張を示している。本年一月一日現在の本邦人口は約八、三七〇万人で、終戰時に比し一、〇六六万人と約一五%の增加に当つている。しかもその半数は海外よりの引揚者であるから、労働人口の增加割合は一層大きかつたとみとめられる。

 更に経済の民主化も戰後経済基盤変貌の一環として数えることが出來よう。即ち財閥解体、独占禁止、集中排除、農地改革、労働基準法の制定、労働組合の育成等一連の民主化方策によつて従來の封建的経済諸関係はほぼ一掃されたのであるが、資本、労働その他の経済條件がこれに伴つて大きな変革を遂げたのである。

 このような敗戰に伴う直接的な諸要因に加えて、インフレ―ションによる価値基準の混乱と戰時から戰後にかけて継続された国家体制は、経済構造の変動に拍車をかけるとともにまた日本経済の水準や構造における実態を不明瞭にしてきたのである。

 しかるに今や経済安定計画の進展に伴つて久しきに亘つたインフレーションも終熄し、国家による統制も大部分解除されるに及んで、戰後経済のもつありのままの水準と構造が次第に明かになりつつある。

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