三、表面的好轉の裏面にひそむ實態(三)


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(三)國土の荒廢、國富の喰つぶし

(1)災害の累增

 戰爭とそれにつづくインフレの期間を通じて、國土の保全または維持のための努力は殆ど放棄されていたが、その影響は災害の累增の傾向にもつとも鋭くあらわれている。例えば河川災害について見ると次の如くである。

第23表

 河川のはん濫による農地・住宅・家財等に對する被害は上の河川工作物の直接被害をはるかに上廻つているから、年々失われる國富は莫大なものであることは言う迄もないが、又農業增産に對する障害・交通のまひ等生産活動に對する障害も無視出來ない。

 昭和二三年度の河川・耕地・山林・港灣等の總被害額は八六三億圓にのぼつているが、更に過年度災害の要復舊額が二〇二億圓程度二三年度にくり越されている。これに對して二三年度中に補てんされるものは、國費で一八四億圓、その他を合計して全事業費で約二六六億圓で、差引七九九億圓分は未補てんのまま國土に對する喰込みとして殘り、災害に對する抵抗力を益々減少させるので、僅かの降雨によつて出水を招き、農地荒廢・山林破壞等・災害を擴大再生産することになるのである。かくのごとく災害復舊の負擔が大きいためにその財政に對する壓力は大きく、公共事業のわく内でも災害復舊費の占める割合が最近では三五%を前後し、一般の治山・治水等災害豫防的工事費は極度に壓縮せられ、これを十分に施行することができず、このことが又災害累增の一因となつており、一面においては貿易伸張のための港灣整備等新しい事態に對應する爲に必要な建設をも制約することになつている。

(2)山林の消耗

 山林についても生長量以上の過伐が繼續している結果、昭和五年以降伐採面積と造林面積とのひらきは增加の一路をたどつている。(農林統計による)

第24表

 特に伐採運搬に便利な里山はほとんど伐採しつくされんとし、林相は惡化して災害の有力な原因となつている。森林資源を保全しつゝ木材生産を維持する爲には、造林に努力するとともに未利用の奧地林の開發に期待しなければならないが、これは經濟的に成立たないので木材生産は依然里山の過伐に賴る傾向がある。

(3)住宅經濟の喰つぶし

 住宅については、戰前において都市人口の七〇―八〇%を容れていた借家は、生計費の一七―二〇%を占める住居費の支出によつて維持されてきた。戰時中、地代家賃統制令によつて家賃は押えられていたので現在住居費は生計費の四%を占めるに過ぎない。一方建築費は諸物價中でも高騰の甚だしいものであるから新築住宅の家賃は消費者價格調査による平均家賃の約二五倍になり、借家は完全に採算が取れないのでその新規供給はほとんど行われない。住宅經濟は過去の借家の喰つぶしの上に成立つているといえるのであり、住宅難は勤勞者の勞働生産性の向上をはばむ要因ともなつている。

(4)輸送、通信における補修の不足

 鐵道における資本の喰込みは、次の鋼材の使用實績にはつきりとあらわれている。(單位トン)

第25表

 上にみるがごとく、國鐵が一應正常な運營をしていたとみられる日華事變前に比して、鋼材使用量は大巾に減少し、しかもその乏しい資材の配分は當面緊急の輸送力增強の要請にもとずく車りようの新制修繕に比較的厚く、施設關係の補修がもつとも切下げられている。最近の鋼材割當はかなり增加しているけれども、未だに累積した補修不足を回復する段階には至つていない。

 通信は戰災が甚だしかつた上に保守の不足が著しくその機能を低下せしめている。保守不良の一例をあげれば電柱の取替は必要量の十分の一に過ぎず、電話交換の自動機械はその壽命を超えているものが三〇%に逹している。そのために大都市の市内電話においては、加入者が電話をかけた場合、話し中・設備不良及び故障等のため六三%まで不通であり事務能率を甚だしく低下させている。

 以上にみるように鐵道通信の如く經濟活動の基礎になる部面が未だ戰爭被害の回復が出來ぬばかりでなく、なお資本の喰込みを續けていることは、一般の産業活動の能率を著しく低下させ、國際的にみた生産コストを引き上げる原因になつている。

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