二、經濟安定へのきざし(一)


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(一)生産水準の上昇とその原因

 昭和二三年度の日本經濟は、(一)生産水準の順調な上昇、(二)インフレーションの緩漫化及び、(三)實質賃金の向上、という三つの點において經濟安定へのきざしを見せていることは先に一言した通りであるが、第一の點の指標としてGHQの鉱工業生産指數を、第二の點の指標として日銀券月末發行高及び日銀調東京消費財ヤミ物價指數を、第三の點の指標として勞働省調毎月勤労統計による全国工業平均賃金の税引手取額の指標を總理應統計局の消費者物價指數(C・P・I全都市)で割つて求めた實質賃金指數をそれぞれ選んで、昭和二二年度と二三年度との趨勢をグラフによつて比較すると次の如くである。

(一)生産水準の上昇とその原因

(1)鑛工業生産上昇の總合的觀察

最近の鑛工業生産は次の表に見るごとく順調に上昇を續け、昨年四―一二月間の平均は前年同期に比して平均三割五分の増加となつている。

第1表 鑛工業生産指數

 實績の判明した四月から一二月までの生産を前年の同期間と比較した場合、綿糸・人絹織物・木材・鐵道用客車等少數の例外を除いてはいずれも相當大巾の増加を示している。増加率の高い品目を摘記すれば次の通りである。

第2表

 もとより前年の生産水準そのものが高低のゆがみを甚しいものであるから、上の比率のみによつて論ずることは妥當ではないのかもしれないが、生産上昇割合の高位の品目が輸入原料加工部門(鐵鋼・アルミニウム・ソーダ等)および同關連部門(賃車・船舶・トラツク・人絹糸等)に屬していることによつて、一應二三年度の生産活動の性格がうかがわれるであろう。

 以上によつても明かなように、綿紡關係が輸入原綿不足による操短・および海外の購買力不足によつて停滯も來したために、繊維工業が全體としても回復の遅れを見せている以外は、業種別にみても金屬・化學・機械等それぞれ次表に見る如く大巾の生産増加を示している。

第3表 四―一二月おける業種別生産指數

 即ち繊維工業は増加率が少いのみならず、生産水準自體がひとり異常な低位に止まつているので、昭和五―九年基準生産指數においてウエイトが四五%を占めている事と相まつて、綜合生産指數を前記の如く引下げているのであり、繊維工業を除けば月別生産指數は次の如く昨年一二月には既に昭和五―九年の九割六分に逹しているのである。

第4表 繊維工業を除いた鑛工業生産指數

(2)生産上昇の原因

(イ)燃料動力事情の好轉

 昨年四―一二月間の實績を前年同期と比較すると、石炭生産一二一%、發電々力量一〇五%となつており、鑛工業向配炭・配電においてはそれぞれ前年同期の一三八%・一一〇%と更に大巾の増加を示し、燃料・動力の生産割合以上に鑛工業生産増加率を高め得た事情の一半が明かにされる。

 電力については、一昨年は夏から秋にかけて水電力發電能力が異常に低下したが、昨年は秋から冬にかけて川の水量が非常に豊かであり、冬期渇水期の水力發電量は平年の一三五%に逹し、一方石炭の供給増加に伴う火力發電の増加と併せて電力供給の面は著しく改善されている。それと同時に電力消費の節約が進み、單位生産量當りの電力使用量が次第に低下していることも、電力供給量の増加割合以上に鑛工業生産が上昇している原因である。

第5表

(ロ)原料輸入の増加

 二二年においてはほとんど零であつた鐵鑛石と石炭の輸入が、二三年においてはそれぞれ四一萬トン・九八萬トンに逹したことが國産炭の配當増加と相まつて鐵鋼の生産を著しく引上げた原因である。

 ソーダ工業に對する鹽の關係についても同様である。すなわち鹽の輸入は食糧鹽を含めて二二年の八二萬トンに對し二三年は一一八萬トンに増加しており、化學・繊維その他ソーダを原料とする工業もその影響をうけて活況を呈した。アルミの三倍餘の生産増加もボーキサイトの輸入によるものであることはいうまでもない。この間にあつてひとり原綿の輸入は、四月ないし一〇月の間に七、四〇〇萬ポンド、前年同期に比し九一%であつて、綿紡生産停滯の一因となつている。

(ハ)輸送事情の改善

 昭和二三年度鐵道輸送の目標は一億三千萬トンであるが、四―一二月の輸送實績は九、五九〇萬トンで同期間の軽畫に對し九七・五%の遂行率を示し、前年同期の實績に比して一三%の増加となつている。輸送力の増強は海上輸送において更に著しく、四―一二月の汽船による國内相互間の輸送量は九九七萬トンで、前年同期に比し六一%の増加に當り、軽畫に對する遂行率も一一七%と好成績を示した。とくに石炭輸送における増加は著しく、海送轉移の効果があらわれて來たことを物語ついている。

(ニ)その他の原因

 生産上昇のその他の原因としては、進駐軍向け資材が減少し、國内向け配當に餘裕を生じたことを逸することはできない。たとえば石炭の進駐軍向配當は一昨年四―一二月においては總配當量の四・六%だつたのが、昨年同期には三・〇%に減少し、セメントの如きは六六%から一一%へと大巾に減少している。

 なお後述の食糧事情の好轉および實質資金の上昇に伴う勞働能率特に出勤率・定着率の向上も、生産上昇の一般的原因として挙げねばならない。七月の物價改訂による影響も非鐵金屬その他の生産増加に顯著にあらわれ、かつまた値上がりを待つていたストツクの放出は、原料・資材供給量のプラスとなつて生産に好影響をあたえた。

(3)主要農作物の豊作

 天候に恵まれたこと・肥料農機具等の供給の増加したことによつて、次の表にみるごとく昨年の主要作物は前年に對し約一割の増産に當り、特に、麥・甘しよの増産は著しかつた。二一年・二二年・二三年と三年にわたつて相當の豊作をつずけたことは、終戰後の日本經濟の立直りに極めて大きなプラスであつたといわなければならない。

第6表

 これに伴つて供出の進捗も極めて良好であつて、一二月末における、割當に對する供出の進捗率を前二ヶ年に對比すると次のごとくである。

第7表

 米は本年二月一日遂に一〇〇%を突破し、超過供出も順調に行われている。これは報奨金等を加えると供出價格がヤミ價格の水準にかなり近づいたこと・事前割當が行われ供出に對する心構えができていることのほかに、都市の食糧事情の好転のためヤミ賈り利得が減少し、その反面税負擔や農村購入品の價格騰貴等による金詰りのため農家が供出を急ぎだしたこともその原因とみられる。

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