二、經濟安定へのきざし (二)


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(二)インフレーションの緩漫化

(1)緩漫化の諸指標

 先づ通貨の動きについて見ると、昨年に入つてから約半年間にわたつて横ばいを續けてきた日銀券發行高は、七月以後增勢を強め一二月末には三五五三億圓に逹しているが、毎月の增加率は下表に見る如く一般に前年を下廻つており、年間の膨張率は二二年の一三五%に對し二三年は六二%に止まつている。又月の中の動きについても上旬に減じて下旬にふえるという正常な過程が次第に現れつつある。

第8表

 二二年八月頃を契機として停滯傾向をたどつてきたヤミ物價は、このような通貨事情に加うるに、生産の上昇・遅缺配の解消・公價改訂によるヤミ経済圏の縮少等に影響されて最近においては、二二年平均に對して生産財一・六倍、消費財一・八倍の水準でほとんど釘付け状態となつている。又生産財と消費財を對照とすると、二二年を通じて生産財の騰貴率の方が上廻つていたが、昨年上期においては主食品を中心とする消費財の季節的高騰に對して、生産財物價は金詰り・生産水準の上昇等により、むしろ消費財の騰貴率を下廻つた。

 公定價格水準は六月下旬から一一月にかけて二倍程度に引上げられたので、横ばいを續けるヤミ物價との開きは大幅に縮小され、品目によつてはいわゆる丸公割れの現象も起つている。

 ヤミ物價と同調して二二年八月頃から停滯化してきた消費者物價指數(C・P・I)は、七、八月において公價引上の影響で一時強調を示したが、其後主食の增配等にも恵まれて騰勢は緩漫である。

第9表

(2)緩漫化の原因

 (イ)財政金融面における好轉

 昭和二三年度の一般會計は、歳入歳出共に四、七三一億圓で前年度の二・二倍の規模に當るが、税收は昨年末迄で税收豫算の五〇%を確保し、不十分ながらも前年同期の三三%に比すればかなり增加している。このため四―一二月間の支拂超過は四〇五億圓と前年の四〇九億圓よりむしろ減少しており、財政規模の膨張を考えれば大いに好轉のあとがうかがわれる。

 特別會計においては、四―一二月間の公債及び借入金の純增は一、三九四億圓と前年同期の二・七倍に逹した爲、地方財政の起債增加と相まつて財政資金全體としての支拂超過は前年の二倍に當つている。しかしながら特別會計の支拂超過增大の主要な原因は供米の早期促進による代金の年内支拂の增加にあるのであつて、特別會計の支拂超過の中食糧管理會計によるものが、二二年四―一二月間では九〇〇億圓にも及んでおり、これは當然今後回收されるべきものである。又二三年度においては長期公債は完全に消化されている爲、前述の特別會計の支拂超過もそのまま通貨の增發とはならないのであつてこれらの事情も考え併せると、財政面からする通貨の增發は前年に比しかなり抑えられているといい得よう。

 産業融資の面では四―六月間の增加額は比較的僅少に止まつたが、七月以後公價改訂に伴う增加運轉資金の增大から特に一般金融機關の融資額は急膨張し、四―一二月間の産業融資額は二、九三一億圓と前年同期の二・六倍に逹した。かように財政及び金融面の資金放出がかなり多額に及んでいるのに、通貨の增發率が前述の如く前年を下廻つたことの最も大きな原因は資金供給面における預金の增加にあるといえる。即ち一般預金は毎月概ね着實な增加を見せ、特に八月以後の增加は顯著で、結局四―一二月の一半預金は三、〇六五億圓と前年同期の三倍の多きに逹した。このように預金が好調だつた原因としては、昨年に入つてからのヤミ經濟圏の縮小・インフレーシヨンの緩漫化等が因となり果となつて一般の貯蓄意慾が增大したこと、同時に企業手持現金の預金化がふえたこと等があげられる。資金需給バランスの四半期別推移は次表の如くであり、財政資金と産業資金の割合は四〇對六〇と前年度より財政資金の比重が減じている。

第10表

 (ロ)物資供給時特に配給の增加

 先に述べた如き生産水準の上昇は生産財及び消費財の供給力を增大せしめ、特にインフレに直接影響を與える食糧の配給量は、端堺期における主食の完全配給及び一一月からの一般配給二・七合ペースへの引上・勞働加配の增加等によつてかなりの增大を見ており、この面から強くインフレを抑制したと認められる。

 消費者價格調査(東京)において主食購入量の中で配給部分の占める比率は、遅缺配の最も甚しかつた二二年七月においては五七%にすぎなかつたのが最近はほぼ七〇―八〇%に逹している。

 (ハ)心理的安定感の增大

 心理にかなり安定感を與え、換物運動の減退、貯蓄意慾の上昇・起債市場の活發化・現金取引の比重の減少等を通じてインフレ緩漫化の一因となつており、かような良い意味の循環が現れ始めたことは注目に價する。

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