一、はしがき
去る一二月一八日、米國務陸軍兩省は日本經濟の安定計盡に關するマツカーサー元帥宛の指令を發表し、翌一九日總司令部渉外局はこの指令にもとづくマツカーサー元帥から吉田首相にあてた書簡を公表した。上の指令の目的は日本政府として、通貨・物價・賃金などの安定を出來得る限りすみやかに逹成すると共に、輸出向の生産を最大限におこなうための施策をとらしめることを目標とするものであるが、特にマツカーサー元帥の書簡では政治的獨立を前提として、他人の贈物に依存しない經濟的独立の逹成が不可缺であるとして、日本國民の覺せいと奮起を強く要望している。
世界經濟の情勢も終戰いらい三年あまりをへて、基本的な對立を含みつつも復興への力強い前進を續けている。ヨーロツパ諸國の例を見ても大多数の國がすでに戰前の生活水準を突破し、これまでの、食糧と石炭と輸送に追われていた窮迫事態を脱して、經濟循環を健全な貨幣信用組織の上に維持發展せしめようとする段階に逹している。
このような世界經濟の動向の中にあつて、最近の日本經濟は、生産の比較的順調な上昇、インフレーションの緩漫化、勤勞者の實質賃金の漸進的向上等によつて、經濟安定へのきざしを見せ始めてはいるが、經濟の實態をさらに注意深く觀察すればその基盤に極めて不健全な要素を多分に含んでいることが見出される。その最大なものとしては年に四億ドル以上にも逹する貿易の赤字であり、經濟安定へのきざしも實はこのような巨額な外國からの援助によつて支えられているのである。一方において企業の實體資本の喰つぶしや、災害の增加によつて示される國土荒廃の進行は未だ停止するに至つていない。このような不健全さを克服する爲には生産と輸出を急速に增大することが必要であり、しかもその前提としてインフレーションを終そくさせねばならぬ。終戰いらい今日迄の日本經濟の内部的諸矛盾は、國内におけるインフレーションの進行と自由な國際的經濟交流の遮斷とによつて覆いかくされていたのであるが、今や我々は本質的な問題の所在を明らかにし、その解決のために果敢な努力を開始すべき時期に至つているのである。
以下最近の經濟指標にもとずきつつ、經濟の現状と問題の所在を明かにしてみよう。