第3章 世界貿易の動向と日本経済(第4節)
第4節 まとめ
本章では、日本経済に大きな影響を与える世界経済の動向について、長期的にみた世界貿易の動向や日本と海外とのサプライチェーンの構造を整理し、米中間の通商問題や英国のEU離脱交渉などによる世界経済や日本経済への影響について分析した。
第1節では、世界貿易の動向と日本の輸出入の動向を確認した。世界貿易量は、2008年の金融危機に伴う変動後から続いていた弱い動き(スロー・トレード)が、2016年後半以降、解消しつつあるとみられたものの、2018年以降、やや足踏みした状態が続いている。本節における実証分析からは、米中間の通商問題などを巡るグローバルな不確実性の高まりが、世界的な投資や耐久財消費の先送りを通じて世界貿易量を下押しする可能性が示唆されており、通商問題に関する不透明感が長期的に持続すれば、世界貿易の縮小や投資などの経路を通じ、日本経済にも影響が及ぶ可能性があることには注意が必要である。
第2節では、前節で分析したマクロの貿易の影響に加え、ミクロの観点から、世界中に構築されたサプライチェーンを通じた影響について分析した。国際産業連関表や付加価値の創出源を区別した貿易データを用いた分析からは、東アジア地域においては、日本、NIEs、ASEANを中間財の主要な供給元・需要先とし、中国を主要な生産拠点とした地域内でのサプライチェーンが構築されており、東アジアで生産された最終需要財をアメリカが輸入するという構図となっていることや、中国から輸出される主要な品目には、部品供給等を通じて日本が創出した付加価値が含まれていることが示されている。また、このように東アジア地域で国際的な生産ネットワークが構築されていることを踏まえると、ネットワークに組み込まれている国・地域の貿易に対して関税引上げなどの外生的なショックが生じた場合には、サプライチェーンを通じて他の国・地域にも影響が及ぶ可能性が高いことが示唆される。
第3節では、最近の通商問題の動向とその影響に関する見方を整理した。米中間の通商問題や英国のEU離脱は、その当事国・地域に最も影響が及ぶことは勿論であるが、当事国以外の国・地域に対してもグローバルなサプライチェーンなどを通じて影響を及ぼす可能性がある。また、通商問題を巡る不透明感が長く継続する場合には、各国・地域の企業活動を慎重化させ、設備投資等にも影響が及ぶ可能性があることには留意する必要がある。現時点では、我が国の貿易面等への影響は限定的とみられるものの、世界経済全体として複雑な多国・地域間の貿易・投資関係が成立していることを踏まえると、世界経済・日本経済への影響を注視していく必要がある。さらには、経済連携協定などの取組によって、自由で公正な共通ルールに基づく貿易・投資の環境整備を一段と進め、企業活動をより活性化することが引き続き重要である。