第3章 世界貿易の動向と日本経済
我が国経済は、緩やかな景気回復が続いており、高い水準にある企業部門の収益や雇用所得環境の改善などに支えられ、消費や投資など内需は底堅く推移している。他方で、輸出の動向をみると、2018年に入ってから、これまで高い伸びを続けてきた情報関連財の輸出が、スマートフォンやデータセンター向けの需要の一服などもあり、伸びが鈍化するとともに、中国をはじめとした新興国の成長ペースの鈍化もあって、輸出は総じて増加の勢いに足踏みがみられている。加えて、アメリカと中国との間における関税率引上げなどの通商問題の先鋭化によって、先行きの不透明感が増している。本章では、今後の外需の動向やその影響について考察するため、やや長期的にみた世界貿易の動向や、日本と海外とのサプライチェーンを通じた相互依存関係について整理するとともに、米中間の通商問題や英国のEU離脱交渉など最近のリスク要因と、それらが世界経済や日本経済に与える影響について分析する。
本章の構成は、以下のとおりである。
まず、第1節で、世界貿易の動向と日本の財・サービスの輸出入の動向を確認する。具体的には、世界金融危機後から直近までの世界の貿易量の動向とその背景について分析するほか、世界経済の不確実性の高まりによる世界や我が国の輸出への影響について、実証的に検証する。また、財・サービス別にみた日本の輸出入の動向と、それらがどのような要因の影響を受けて変動してきたかを整理する。
次に、第2節で、日本と海外のサプライチェーンの構造を整理する。具体的には、中国を中心とするアジア地域の国際的な生産ネットワークについて、国際産業連関表や付加価値の創出源を区別した貿易データを用いた分析によって、各国・地域の間の貿易構造や経済関係のほか、最終製品に対する需要が追加的に生じた場合に、我が国を含めサプライチェーンに組み込まれている各国・地域において、中間財の生産がどの程度誘発されるかを示す。
さらに、第3節では、最近の通商問題の動向とその影響に関する見方を整理する。具体的には、アメリカと中国との通商問題や英国のEU離脱交渉などについて、それらの動向と考え得る影響について整理する。その際、サプライチェーンのグローバル化が進み、各国・地域の間の経済的な結び付きが強まっていることを考慮し、こうしたサプライチェーンを通じて生産される製品に含まれる各国・地域の付加価値の構成を、付加価値の創出源を区別した貿易データを用いて示す。また、我が国の経済連携協定の取組を整理するとともに、自由で公正な共通ルールに基づく貿易・投資の環境整備を一段と進め、企業活動をより活性化することの重要性を述べる。
最後に、第4節で、全体を総括する。