第2章 家計部門の構造変化(第4節)
第4節 まとめ
本節では、家計における所得・資産・消費動向について、やや長期的な観点からどのような構造変化がみられるのかを確認するとともに、今後の消費活性化や消費税率引上げに向けた考察を行った。
家計における所得・資産・消費動向を確認すると、1990年代後半に経済成長率が低下し、特に2000年以降はデフレの影響、非正社員として働く者の増加、社会保険料の増加、社会保障給付の減少等を背景に、世帯当たりの所得が伸び悩んだことが、消費が力強さを欠く状態につながった可能性がある。ただし、雇用・所得環境が改善していることから、2017年以降の個人消費は持ち直している。また、若年世帯では持ち家率の増加から、住宅ローンを抱える世帯が増え、純資産がマイナス傾向となっており、それが平均消費性向を押し下げる要因の一つとなっている。その他の年齢階級では、資産動向に大きな変化は見られておらず、保有している金融資産の大半は依然として現金・預金が占めていることが確認できる。
世帯属性別の消費をより詳細に分析すると、高齢世帯は消費可能な水準よりも低い消費を行っており、その背景には予備的動機や遺産動機があると考えられる。若年世帯については、現状に対する生活満足度は高いものの、財所有に対する意識の低下や老後への不安等から、消費に対して前向きでない様子も示唆される。一方、共働き世帯の増加は、仕事関連・教育費・時短消費等を中心とした消費支出の増加を通じて、マクロの消費を一定程度下支えしていることが考えられる。今後は、社会保障に対する不安を払拭する等の取組を進めることで、老後に対する不確実性を低下させ、予備的動機による貯蓄を減らし、消費を活性化していくことが求められる。また、働き方改革を進めることで、共働きをしやすい環境を整備することや、労働時間の短縮や有給取得促進により自由時間を確保することで買い物や体験型の消費を行う時間の確保につなげていくことも重要である。
将来の消費に対しては、2019年10月に予定されている消費税率引上げに向けて、駆け込み・反動減の平準化に向けた取組を着実に実行していくことが重要である。日本では欧州と異なり税込価格が一斉に改定されていたことや、消費の前倒しを可能とする流動資産をもった家計が多いことも相まって、駆け込み・反動減が大きくなっていた可能性が考えられる。また、2014年の消費税率引上げ時の反動減をみると、耐久財と並んで非耐久財が大きく減少に寄与しており、食品等の身近なものの価格上昇に家計が敏感であった可能性が考えられる。2019年の消費税率引上げ時には、柔軟な価格設定が行えるようなガイドラインの整備、軽減税率制度の実施、ポイント還元支援等の様々な対策が行われる予定であるが、本稿の分析結果を踏まえると、こうした対策は消費税率引上げ前後における消費の平準化に寄与することが期待される。