第1章 日本経済の現状と課題(第4節)

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第4節 まとめ

本章では、戦後最長の景気回復期に並んだ可能性がある今回の景気回復の持続性とリスク要因について検証するとともに、過去の長期の景気回復期と比較することで、その特徴を確認した。

今回の景気回復を牽引している推進力としては、世界経済の緩やかな回復、企業収益の回復及び設備投資の増加、さらには雇用・所得環境の改善と消費の持ち直しの3点があげられる。

世界経済については緩やかな回復が続く中で、世界の貿易量も増加しているが、2018年に入ってからはやや増勢が鈍化している。我が国の輸出についても、情報関連財の輸出の伸びが鈍化しているが、これは、2017年からスマートフォンやデータセンター向け需要を背景に大幅な増加が続いていたものが2018年に入って一服したものであり、水準としては引き続き高い状況にある。ただし、中国経済の持ち直しの動きに足踏みがみられていることや米中間の通商問題の動向を巡り先行きの不透明感が出てきている点には注意する必要がある。

企業収益は製造業、非製造業ともに改善を続け、過去最高の水準となっている。好調な企業収益を背景に、技術革新への取組、人手不足感の高まりに対応した省力化投資の取組もあり、設備投資も増加している。またインバウンド需要の高まりなどを踏まえ、建設投資も増加している。

雇用・所得環境の改善については、生産年齢人口が減少する中、女性や高齢者の労働参加により雇用者数が大きく増加するとともに、好調な企業収益を背景に緩やかな賃上げが続いている。特に2018年に入り雇用者数が大きく増加しており、この背景として女性や高齢者の就業率が引き続き上昇していることに加え、非正社員の賃金の大きな伸びを背景に若者の就業率が大きく上昇したこともがあげられる。

こうした中、物価の動向をみると2017年後半から緩やかに上昇していたが、2018年春以降は上昇テンポが鈍化している。この背景として、消費者マインドが食料品やガソリンなど必需品の価格上昇もあって2018年に入ってから弱含む中で、企業がさらなる価格引上げに慎重になった可能性が考えられる。持続的な物価上昇のためには、力強い賃上げが重要であり、好調な企業収益が賃上げに結びつくかどうかが注目される。

今回の景気回復の特徴をみると、過去最長の回復期間である第14循環に比べ、デフレではない状況を実現する中、名目GDPの伸びが高くなっていることに加え、生産年齢人口が減少する中、就業者数の増加幅が第14循環を大きく上回り、バブル景気と同程度の増加幅になっている点があげられる。これは女性や高齢者の活躍が一層推進されたことが大きな要因である。また、全国47都道府県で有効求人倍率が1を超えるなど、全国に雇用環境の改善が及んでいる。さらに交易条件の改善等もあり、企業収益が過去最大となっている。今後は、企業収益が設備投資や賃金にさらに向かっていくことが期待される。他方で、有効求人倍率がバブル期を上回る水準にあるなど人手不足感が高まる中で、労働生産性が伸び悩んでおり、限られた労働を効率的に活用するためにも労働生産性上昇が重要な課題である。

今後のリスク要因としては、主に海外経済の動向があげられる。米中間の通商問題の動向、中国経済の動向、アメリカの金融引き締めが過度になった場合の金融資本市場への影響、英国のEU離脱の動向には特に注視が必要である。特に、米中間の通商問題の動向については、現状では直接的な影響は限定的とみられるが、追加関税措置が長期化あるいは拡大するような場合には、サプライチェーンを通じた影響や不確実性の高まりによる企業活動の慎重化などが懸念されることから、その動向を注視する必要がある。

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