第1章 日本経済の現状と課題

[目次]  [戻る]  [次へ]

我が国経済は、2012年11月を底に緩やかな景気回復を続けており、これまでの戦後最長の景気回復期(第14循環:2002年2月-2008年2月までの73か月)と回復期間の長さでは並んだ可能性がある1

日本経済の現状をみると、世界経済の緩やかな回復を背景に、アベノミクスの三本の矢、「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」により、企業の稼ぐ力が高まり、企業収益が過去最高となる中で、雇用・所得環境が改善し、所得の増加が消費や投資の拡大につながるという「経済の好循環」が着実に回りつつある。

労働市場では2018年11月時点で有効求人倍率が1.63倍と1974年1月以来の高さとなり、完全失業率も2.5%と1993年8月以来の水準まで低下しており、企業の人手不足感は四半世紀ぶりの高水準となっている。好調な企業収益や人手不足を背景に、企業の設備投資は増加を続け、賃金も緩やかに増加している。個人消費も、自然災害の影響で一時的な下振れがあったものの、雇用・所得環境の改善を背景に持ち直しを続けている。物価については、人件費の上昇や原材料価格の上昇などを背景に2017年後半から緩やかな上昇がみられたものの、2018年半春以降、上昇テンポが鈍化している。他方で、2018年に入ってからは、これまで高い伸びを続けてきた情報関連財を中心に輸出の伸びが鈍化する中で、米中間の通商問題や英国のEU離脱の行方など海外経済に関する不確実性が高まっており、先行きの不透明感の高まりには注意が必要な状況となっている。

本章では、今回の景気回復局面の特徴を概観し、長期化する景気回復の持続性とリスク要因について検証する。具体的には、第1節では、景気の現状や回復長期化の背景等について分析する。第2節では、雇用・所得動向や物価の状況を詳しくみるとともに、物価の持続的な上昇への展望を確認する。第3節では、景気回復の展望について、消費や投資を中心に今後の見通しを確認するとともに、今後のリスクについて検証する。また今回の景気回復の特徴について、過去の長期の景気回復期と比較することで確認する。


1 景気基準日付(山・谷)の設定について、データの蓄積を行った上で、専門家からなる景気動向指数研究会(座長:吉川洋教授)での議論を踏まえて、内閣府経済社会総合研究所において設定することから、その事後的検証を待つ必要がある。
[目次]  [戻る]  [次へ]