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第2節 東日本大震災からの復旧・復興の現状と課題

大震災から2年が経過しようとしている。この間、被災地の経済活動は震災前の水準におおむね戻っているが、人々の生活は元に戻ったわけではない。本節では、まず、被災地における企業活動や人々の生活の状況を点検することにより、復旧・復興の現状を確認する。続いて、インフラ等のストック面の回復、被災地内における復旧・復興の格差、雇用の男女格差やミスマッチといった観点から、復旧・復興の課題を論ずる。また、大震災以降、発電所の被災や原子力発電所の順次停止などを受け、複数の電力管内において電力需給がひっ迫する見通しとなったが、電力制約とこれを受けた電力需要家や電力会社の対応、今後の需給見通しなどを概観する。

1 被災地の復旧・復興の現状

まず、被災地における企業活動(生産や投資)、雇用・所得環境、家計の支出動向(消費や住宅投資)を点検し、被災地における復旧・復興の現状を確認する。

(東北地方の生産は、2012年春以降、全国と同様に減少)

大震災は東北地域、関東地域を中心に未曾有の被害をもたらした。特に被災3県(特に被害の大きかった岩手県、宮城県、福島県の3県)の沿岸部においては、津波による被害が甚大であったことから、これら被災地を含む東北地方の生産活動を大きく下押しした。そこで、東北地方の生産活動を改めて確認すると、その回復状況は、以下のようにまとめられる(第1-2-1図別ウィンドウで開きます)。

第一に、東北地方の鉱工業生産は、大震災後に大きく減少したものの、その後徐々に持ち直し、おおむね全国平均と同水準で推移している。ただし、2012年春頃からは、全国とほぼ同じテンポで減少している。

第二に、業種別に見ると、津波による生産設備の毀損の影響から、大震災後大きく減少した後、回復が遅れていた化学、鉄鋼、紙・パルプの生産については、設備の復旧とともに回復に向かい、2012年半ば以降おおむね全国と同水準で推移している。なお、鉄鋼の生産については、夏以降、全国と同様に減少している。

第三に、輸送機械の生産は、大震災の影響から、全国と同様に一時的に大きく減少したが、生産能力の回復に加え、大手自動車メーカーにおける新車種の生産増強やエコカー補助金の効果もあって、大震災前を上回る水準で推移している。しかし、2012年夏頃からは、輸出の減少やエコカー補助金の効果一巡を背景に、全国とほぼ同じテンポで減少している。

このように、東北地方の生産は、総じてみれば震災前の水準に戻り、その後は全国と同様の動きを示している。しかし、被災地の生産回復は、業種によっては道半ばである13別ウィンドウで開きます。例えば水産加工業については、氷工場や冷凍工場等が被害の甚大な浸水地域に集中していたため、工場建て直しの見通しが立っていない。

(被災地の設備投資は持ち直し傾向)

復旧・復興の過程では、民間設備投資の増加が期待されるところである。そこで、被災3県について、設備投資関連の動きを調べてみよう。

第一に、被災3県の構築物投資の動向を確認すると、2012年に入ってからは前年を上回って推移しており、前年比伸び率も非常に高い(第1-2-2図別ウィンドウで開きます(1))。内訳を見ると、工場及び作業場や倉庫の寄与度が大きく、事務所や店舗も増加に寄与している。製造業や卸売業・小売業等の非製造業において、復旧や大震災後に先送りされた投資が実施されていると見られる。

第二に、被災地の企業の設備過剰感を見ると、県や業種によって状況に違いはあるものの、特に非製造業では設備不足感が高まっており、設備投資が促されやすい環境にある(第1-2-2図別ウィンドウで開きます(2))。主な要因として、被災が深刻だった地域では毀損した店舗が多かった一方で、買戻し需要や復旧・復興事業に従事する人の流入から小売店を中心に販売が底堅いこと、復興事業が実施に移される中で建設業を中心に事務所などの設備に対する不足感が高まっていること等が考えられる。一方、製造業では県ごとの被害の大きさによって状況が異なっている。岩手県では沿岸部を中心に毀損した工場が多いことなどから、震災後に設備不足感が一気に高まった。しかし、2012年半ばから工場の復旧が進展したことや外需の減速などを背景に設備不足感は徐々に和らいでいる。また、福島県では内陸部の工場被害が少なかったため、大震災後は設備過剰感に大きな変化は見られなかったが、2012年半ばから、生産の減速を背景として設備過剰感が高まっている。

第三に、設備投資計画から先行きを展望すると、設備投資意欲は東北全体としては強い14別ウィンドウで開きます第1-2-2図別ウィンドウで開きます(3))。ただし、県によってばらつきもみられ、福島県は弱いのに対して岩手県は強い。これは、全国的な景気減速感の広がりを背景に設備投資に慎重になっている面があるなかで、岩手県では製造業の被害が大きかったため、復旧工事が今後も実施される見込みであることが影響しているものと考えられる。ただし、12月調査では、岩手県でも海外経済減速を受けて、製造業を中心に設備投資計画は下方修正されている。

以上、各種統計データを総じてみれば、 被災地の設備投資は復興需要を中心に2012年から持ち直し傾向で推移しているといえよう。

(全国に先駆けて改善に一服感が見られる雇用情勢)

被災地の生産活動は、大震災前の水準まで一旦は回復し、その後は全国と同様に減産の動きが見られるが、非製造業も合わせた景気全体の動きを見るには雇用面の指標が参考になる。ここでは、労働需給、賃金の動向を確認しつつ、被災地の雇用情勢を点検する。

第一に、被災3県の有効求人倍率は、大震災後、生産の回復、復興需要の発現に伴い大きく上昇した(第1-2-3図別ウィンドウで開きます(1)、付図1-10別ウィンドウで開きます)。2011年末にはリーマンショック前の水準を上回り、2012年5月には1倍を超えて改善してきた。しかしながら、全国よりも早く改善傾向に陰りが見え始めており、6月以降、有効求人数が減少していること等から、有効求人倍率は下落に転じた。先行指標である新規求人数も、4月以降、全国に先駆けて減少に転じている。これは、外需の弱さやエコカー補助金の効果一巡を背景として製造業の新規求人数が減少しているのに加えて、非製造業においても卸売業・小売業等において新規求人数が減少しているためである。また、建設業においては、新規求人の増勢に一服感が見られており、復興需要の発現の勢いが足踏みしている可能性を示唆している。このように新規求人数が減少していることから、有効求人倍率の低下傾向は今後も続くと見られる。

第二に、正社員の有効求人倍率はおおむね堅調に上昇している。しかしながら、正社員新規求人数は、6月以降、減少に転じていることから、今後、正社員有効求人倍率の上昇にも一服感が出てくることが懸念される(第1-2-3図別ウィンドウで開きます(2))。

第三に、各県の一人当たり賃金の動向を定期給与で見ると、岩手県、福島県は、大震災前の水準を下回っており、弱い動きとなっている(第1-2-3図別ウィンドウで開きます(3))。特に岩手県では、大震災後、趨勢的に賃金が減少傾向にある。これは、消費の弱さを背景として、卸売業・小売業において一般労働者の定期給与が減少傾向にあることや、パート労働者比率15別ウィンドウで開きますが上昇していることによるものである。宮城県では、大震災前の水準を上回って推移しているが、宮城県労働局から公表されている「安定所別求人平均賃金」の動向を確認すると、一般労働者のうち、沿岸部の建設の職業や専門・技術的な職業において求人平均賃金が上昇している。他方、パート労働者のうち、事務の職業においては、求人平均賃金が低下傾向にある。

総じて見ると、被災3県の雇用情勢は、復興需要に伴い改善傾向にあったが、全国に先駆けて改善に一服感が見られる。個別に見ると、岩手県における有効求人倍率の低下が顕著である。賃金の動向を見ると、宮城県では震災前の水準を超えているものの、岩手県、福島県では震災前の水準に達しておらず、依然として厳しい状況にある。

(被災地の個人消費は高水準ながら頭打ち)

次に、大型小売業販売額(百貨店・スーパー)と自動車販売台数を取り上げて、被災地の個人消費の動向を調べると、以下の特徴が見られる。

第一に、被災3県の大型小売業販売額は、大震災時に大きく落ち込んだものの、数か月で全国を上回る水準まで回復した。その後は、2012年春頃にかけてさらに水準を高めたが、夏場からはおおむね横ばい圏内で推移している(第1-2-4図別ウィンドウで開きます(1))。

第二に、これを商品別に見ると、家具・家電・家庭用品や身の回り品、飲食料品のいずれについても、震災前を上回る状況が続いており、被災した家財の買い戻しや、復興のために被災地を訪れた人々による生活品の購入が寄与していると考えられる(前掲第1-2-4図別ウィンドウで開きます(1))。ただし、やや仔細に見ると、家具・家電・家庭用品、飲食料品では、2012年半ば以降、前月比ベースでの伸びが止まっている。

第三に、被災3県の自動車販売は、大震災後、全国を上回る水準で推移しており、震災によって毀損した自動車を買い戻す動きが目立った。ただし、2012年半ば以降、新車販売はエコカー補助金の政策効果が一巡したことから減少している(第1-2-4図別ウィンドウで開きます(2))。

このように、被災地の個人消費は、依然として全国を上回って推移しているが、最近は前月比ベースでは頭打ちないし減少傾向にあり、短期的な復旧需要やペントアップディマンドによる押上げはピークを過ぎた可能性がある。

(被災地の住宅投資は高水準で推移)

被災地の住宅投資の動きについて、先行指標である着工戸数の推移から占ってみよう。

第一に、被災3県の住宅着工は、復興需要を背景に高水準で推移しており、2011年半ば以降は、全国の住宅着工の押し上げ要因となっている。すなわち、住宅着工戸数の2010年同月比の動きを見ると、全国に対する被災3県の寄与は、2011年7月まではマイナスであったが、その後はプラスに転じている(付図1-11別ウィンドウで開きます)。また、前月比ベースの動きは、原系列であるので判然とはしないが、2012年に入っても伸びが続いていると見られる。

第二に、岩手県、宮城県の沿岸地域の住宅着工は、最近の増勢が特に顕著である。すなわち、これらの地域の住宅着工は、2011年秋頃から前々年を上回る水準となっているが、2012年に入ると、岩手県沿岸では2010年の水準の3倍程度、宮城県沿岸でも2倍程度となっている(第1-2-5図別ウィンドウで開きます(1)(2))。

第三に、福島県の避難対象地域を含む市区町村(図では「避難市町村」)でも、2012年半ば以降、着工が伸びてきており、岩手県、宮城県よりは遅れているものの、復興需要が発現し始めている様子がうかがえる。すなわち、この地域の住宅着工は、震災後、2011年5~6月にはほぼゼロとなり、その後も低迷を続けてきたが、2012年6月には2010年の3倍を上回る戸数の着工が行われた(第1-2-5図別ウィンドウで開きます(3))。

以上から、被災地の住宅着工は、沿岸地域を中心に堅調に推移しており、引き続き、全国の住宅投資に対し、プラスに寄与していくと見られる。

このように、被災地では、投資関連には引き続き牽引力があるが、最近では、全国と同様に生産が減少しているほか、復旧・復興需要の牽引力にも陰りが見られており、消費は頭打ちとなり、全国に先がけて雇用情勢の改善にも一服感が見られている。

2 被災地の復旧・復興の課題

被災地の経済活動はおおむね大震災前の水準まで回復しているが、復旧・復興の実感が伴っていないとの指摘もある。そこで、ここでは、「インフラ整備等のストック面での改善が見られているのか」、「被災地内で復旧・復興の進捗に差は見られないのか」、「雇用環境の男女差や雇用のミスマッチが見られないのか」といった観点から、復旧・復興の課題について論ずる。

(生活関連や沿岸部の施設の復旧に遅れ)

まず、「インフラ整備等のストック面での改善が見られているのか」といった観点から、災害復旧事業の進捗状況を確認する。

第一に、国が管理する公共土木施設の復旧状況として、国直轄工事の完了率を概観すると、河川堤防では99%、道路では97%となっており、おおむね復旧が完了している16別ウィンドウで開きます

第二に、県が実施する公共土木施設の災害復旧事業17別ウィンドウで開きますの進捗を見ると、国と比べて遅れが見られ、住民により身近な施設の復旧には時間を要している(第1-2-6図別ウィンドウで開きます(1))。施設別の特徴として、道路は、岩手県及び福島県が7割を超える完了率となっている一方、被災箇所数が岩手県の3倍以上、福島県の2倍以上になっている宮城県では、3割台の完了率にとどまっている。また、公園は、災害廃棄物の仮置き場として活用されているケースもあることなどから、宮城県と福島県では1箇所も完了していないなど、道路に比べて低い完了率となっている。さらに、沿岸部に存在する海岸、港湾、漁港といった施設については、福島県の港湾以外は完了率がいまだに1桁台にとどまっている。沿岸部の施設は、被害が大きかったことから、その復旧には時間を要している。

第三に、公立学校施設の災害復旧事業の進捗を見ると、県ごとの学校施設の復旧率には差があるものの、岩手県、宮城県ともに市町村立学校の復旧率が県立学校の復旧率を下回っている(第1-2-6図別ウィンドウで開きます(2))。さらに、岩手県について、内陸部と沿岸部に分けて状況を比較すると、県立学校、市町村立学校ともに、沿岸部の復旧率が内陸部を下回る結果となっており、ここでも沿岸部に存在する施設について、復旧の困難さを感じさせる結果となっている(第1-2-6図別ウィンドウで開きます(3))。

このように、生活関連の施設や沿岸部の施設の復旧に遅れが見られており、ストック面の復旧は道半ばである。

(鉄道は利便性が低下する一方、経済的負担が増加)

また、ストックの復旧・復興状況については、完了率や復旧率だけでは判断できない場合もある。例えば、復興庁によると、被災した路線の距離ベースで見た鉄道網の復旧率は、約89%とされている。一方、岩手県が2012年9月に公表した意識調査では、鉄道網の復旧について「遅れていると感じる」と回答している人が50%を超えており、復旧率と住民の実感との間に乖離が見られる。こうした乖離の背景にある要因を探るため、運休区間が残る鉄道路線の復旧状況を見てみよう。

第一に、路線別に復旧状況を見ると、個々の路線ごとの復旧状況のばらつきが大きい(第1-2-7図別ウィンドウで開きます)。すなわち、三陸鉄道南リアス線のように全線運休となっている路線や、JR気仙沼線のように四分の三以上が運休中で再開の目途がたっていない路線が依然として存在している。

第二に、運休区間が残る路線では、利便性が十分に回復していない。このことを確認するために、運休区間が残る8路線中、最も復旧が進んでいる三陸鉄道北リアス線についてみてみよう(第1-2-8表別ウィンドウで開きます18別ウィンドウで開きます。この路線では、2012年4月から田野畑~陸中野田間の運行が再開したことにより、営業キロベースで約85%が復旧済みとなり、運休区間がある路線の中では最も高い復旧率となっている。しかしながら、中間部に運休区間があるため、利便性の面では全線に影響が生じている。例えば、上り線の始発である久慈駅から終点である宮古駅までの直通本数は、減少したままである。また、久慈駅から運休区間の開始駅である田野畑駅までの区間についても、運休区間が含まれないにもかかわらず、直通本数が7割以下にとどまっており、終電時間も1時間半以上前倒しとなっている。

第三に、運賃の増加も生じている。例えば、三陸鉄道北リアス線の運休区間では、連絡バスが運行されているものの、所要時間の増加、終電時間の前倒しといった利便性の低下に加え、運賃が2割程度も上昇している。

このように、ネットワークを形成している鉄道施設の復旧状況を評価する場合には、距離ベースで見た復旧率だけでなく、路線ごとの復旧状況のばらつきや利便性、経済性の変化にも目を向ける必要がある。

(復旧・復興の進捗及びそれに伴う影響は、市町村・地域間で乖離が存在)

次に、「被災地内で復旧・復興の進捗に差は見られないのか」といった観点から復旧・復興の課題を論ずる。ここでは、被災地内における災害廃棄物の処理状況、住宅着工の回復状況のばらつきを確認するとともに、それを背景として生じている人口社会減の動向について確認する。

第一に、災害廃棄物処理の状況を見ると、被災3県全体の仮置き場への搬入率は、2012年10月末時点で8割を超えており、最終処分率についても約3割となっている(第1-2-9図別ウィンドウで開きます(1))。しかしながら、市町村別に搬入率と最終処分率の関係を見ると、岩手県と宮城県では搬入率がおおむね70%以上の範囲にまとまっているものの、最終処分率については県平均値からのばらつきが目立つ。また、岩手県について沿岸北部と沿岸南部とに分けてみると、被害が大きかった沿岸南部では搬入率が50%台の市町村があり、最終処分率についても最も高い市町村で50%台となっているなど、沿岸北部に比べて進捗が遅れている。一方、福島県は他の2県と異なり、搬入率についてもばらつきが大きくなっており、50%にも達していない市町村も見られる。また、最終処分率のばらつきは搬入率に比べて小さいが、最も高い市町村でも40%台にとどまっており、全体して最終処分の進捗が遅れている。このように市町村間で災害廃棄物処理の進捗に差が生じる背景には、地形の制約による仮置き場設置の遅れや、既存処分場の処理容量の違いなどがあると考えられる。

第二に、市町村別に住宅被害の大きさと住宅の復興状況の関係を見ると、被害がある程度大きい市町村では復興が極端に遅れる傾向がある(第1-2-9図別ウィンドウで開きます(3))。岩手県と宮城県の状況を見ると、岩手県の南部、宮城県の北部を中心に住宅被害が大きく、住宅の全壊・半壊棟数が世帯数の8割を超える市町村もある。住宅被害の大きかったこれらの市町村では、復興できた住宅の割合は1割にも満たない。津波による浸水被害の大きかった地域では、高台移転に係る住民合意に時間を要することなどがこうした住宅復興の遅れの背景にあると考えられる。また、福島県の状況を見ると、被害の小さい市町村では住宅復興が進んでいるが、特に原発警戒区域内の市町村においては、立ち入りが制限されている区域があることもあって、住宅の復興がほとんど進んでいない。

第三に、被害状況の違いなどを反映して、地域によって人口減少率に大きな違いが見られる。大震災後の人口減少率を地域別に比較して見ると、岩手県では、同じ沿岸部でも被害の大きかった南部の人口は、北部に比べて大幅に減少している(付図1-12別ウィンドウで開きます)。また、宮城県では、沿岸部から流出した人口が、県外のほか、県内では仙台市に向かっている様子がうかがえる。福島県では、東京電力福島第一原子力発電所に近い区域ほど人口減少率が大きい。

このように、同じ被災地内でも復旧・復興の進捗や人口などへの影響に違いが見られており、県単位や被災地域全体では把握しきれない実情にも目を向ける必要がある。

(女性の雇用情勢は男性よりも厳しい)

最後に、「雇用環境の男女差や雇用のミスマッチが見られないか」といった観点から雇用環境の課題を論ずる。まず、被災地の沿岸部では、主要産業の1つであり、パート労働者を含む女性の雇用が多かった水産加工業が津波により多大な被害を受けており、女性の雇用情勢が特に厳しいとの指摘がある。このため、雇用保険の被保険者、受給者実人員を用いて被災3県の雇用情勢について推計し、被災3県の失業率、就業者数、失業者数の動向を男女別に確認19別ウィンドウで開きますする。推計結果については、幅をもって見る必要があるが、次のようなことが指摘できる。

まず、大震災直前の2月の水準を100として比較すると、被災地全体では、就業者数は大震災直前の水準まで達し、完全失業者数が減少したことから、失業率は低下しており、雇用情勢はおおむね大震災前の水準あるいはそれを上回る水準にまで改善している(第1-2-10図別ウィンドウで開きます(1))。

また、被災地では大震災後に就業者数が減少し、完全失業者数が増加したが、男女別に動向を確認すると、女性の増減幅が大きく、男性に比べて女性への影響が大きかったことが分かる(第1-2-10図別ウィンドウで開きます(3)、(4))。特に、15~34歳の女性では、「勤め先の都合」を要因とした非自発的な失業者が震災前と比較して増加しており、厳しい雇用環境にある(第1-2-10図別ウィンドウで開きます(5)、付図1-13別ウィンドウで開きます)。他方、最近の動向を見ると、完全失業者数、失業率は男性よりも女性の改善が遅れており、引き続き女性の雇用情勢は男性よりも厳しい(第1-2-10図別ウィンドウで開きます(2)、(3)、(4))。

(大震災後、ミスマッチが拡大し、高まる構造失業率)

前述したとおり、被災3県の有効求人倍率は、改善に一服感が見られるものの、リーマンショック前を超える高水準に達している。このように労働需給は引き締まっているが、必ずしも雇用に結びついておらず、完全失業率や就業者数といった指標は改善が遅れている。その要因の一つとしては、雇用のミスマッチが考えられる。そこで、雇用のミスマッチの動向について分析する。

失業率と欠員率の関係(UV曲線)を見ると、大震災直後には欠員率、雇用失業率が同時に上昇していることから、雇用のミスマッチによる構造的・摩擦的失業が増加したものと考えられる。その後は、復興需要の発現に伴い企業の欠員率が更に上昇し、雇用失業率は低下していることから、需要不足による失業が減少していることがうかがえる(1-2-11図別ウィンドウで開きます(1))。また、詳細な情報が公表されている宮城県の構造失業率を推計してみると、大震災以降、構造失業率が上昇していることが分かる(第1-2-11図別ウィンドウで開きます(2))。

津波の被害が大きい沿岸部と内陸部に分けて、雇用形態別(一般とパート)にミスマッチの現状を評価すると、特に大震災直後、沿岸部では、一般労働者において、建設・土木の職業の有効求人数が有効求職者数を超えている(第1-2-11図別ウィンドウで開きます(3))。また、パート労働者では、製造の職業の有効求人数が有効求職者数を下回っている(第1-2-11図別ウィンドウで開きます(4))。これをより詳細に見ると、沿岸部の労働需給の大勢を占める食料品製造の職業においてこうした傾向が顕著である20別ウィンドウで開きます付図1-14別ウィンドウで開きます)。被災地の沿岸部では、主要産業の1つであり、パート労働者の雇用が多かった水産加工業が津波により多大な被害を受けており、現在も再開している事業所は限られている。水産加工業に再びパート労働者として就くことを望む人が多いことから、ミスマッチが生じていると考えられる。また、事務の職業においては、一般労働者、パート労働者でも有効求人数が有効求職者数を下回っている。その度合いは沿岸部でも内陸部でも拡大しており、特に内陸部で顕著である。

3 電力制約への対応

2011年3月の大震災以降、発電所の被災や原子力発電所の順次停止などを受け、複数の電力管内において電力需給がひっ迫する見通しとなった。2011年度においては、需要家によるピーク時間帯の電力需要の抑制や電力会社による供給力の確保の両面から、電力需給の確保に向けた取組が実施されたため、電力需給バランスはある程度保たれ、社会的混乱や大規模な経済的損失を被るといった事態は免れた。その後、2012年度において、需要家や電力会社は、こうした電力制約に対してどのように対応してきたのであろうか。ここでは、2012年夏のエリア別節電目標と需要家による節電への対応、電力会社による電力料金値上げの内容、今後の需給見通しについて確認する。

(夏前のエリア別需給見通しと節電目標)

2011年夏の気温は平年より低く、また、原子力発電所が16基稼働している状況であったが、2012年夏は、2011年に比べて猛暑となるリスクも高く、また、原子力発電所が全基停止することも想定されたため、需給状況がさらに厳しくなる可能性が高かった。これを受け、2012年4月19日に、夏の節電目標の検討の基盤となる電力需給見通しを検証することを目的として、エネルギー・環境会議及び電力需給に関する検討会合の下に需給検証委員会が設けられた。また、同年5月14日には、この委員会による需給の検討を受け、エリア別の供給力、想定需要、需給ギャップ、予備率が提示された(第1-2-12表別ウィンドウで開きます(1))。

そこでは、①時々刻々の需要変動に対応するために必要といわれている予備率(3%)を控除した予備率は、全国で-2.9%の不足となる、②特に、原子力発電比率の高いエリアである北海道、関西、四国、九州電力管内においては、予備率がマイナスとなる、③2011年夏、深刻な電力不足により電力使用制限令が布かれた東北、東京電力管内においては、被災した発電所の復旧に加え、更なる供給力の積上げにより、2012年夏の予備率はプラスとなる、との見通しが示された。

こうした需給見通しを受け、2012年5月18日の電力需給に関する検討会合及びエネルギー・環境会議においては、沖縄電力を除く一般電気事業者管内について、節電要請が決定された(第1-2-12表別ウィンドウで開きます(2))。その後、大飯原子力発電所3号機、4号機の再稼働(3号機:7月9日、4号機:7月25日)を受け、西日本の電力会社管内においては、節電目標が緩和された。

(2012年夏の電力需要の検証)

節電目標の対象となっていた2012年度の最大電力について、震災前の2010年度実績と、震災直後の2011年度実績を比較し、その減少度合いを確認する。ここでは、気温条件を同一にするため、最大電力との関係性が高いと考えられる最高気温と最大電力との関係を見た(第1-2-13図別ウィンドウで開きます)。

これによると、東北電力、東京電力、関西電力ともに、2011年度、2012年度の最大電力量は、2010年度の実績を下回っている。特に、気温が高くなるほど、最大電力量の減少幅は大きくなっており、大震災後は盛夏を中心とした節電意識の高まりが見られたことが示されている。

また、最も需給見通しが厳しかった関西電力管内について見ると、2010年度実績に比べ、2011年度、2012年度と年々下方に平行移動している。2011年度の節電目標が10%、2012年度の夏前当初の節電目標が15%であったことを踏まえると、需要家による節電が行われた結果であると評価できる。

さらに、数値目標付きの節電要請が無かった東北、東京電力管内を確認すると、2011年度は前述の通り、強制的な電力使用制限令(2010年度比15%削減)が敷かれていたため、2012年度よりも2011年度の方が2010年度からの減少率が大きいことが確認される。とはいえ、2012年夏においても、2010年度からは大幅な減少が確認されるため、一定量の節電が実施されたと推測される。

(電力料金値上げの内容)

大半の電気事業者では、原子力発電所の停止に伴う化石燃料の焚き増しによる燃料費の増大から、大幅な営業赤字に陥っている。特に原子力発電事故処理対応によりすでに積立金が払底している東京電力は、主に大規模工場、商業施設向け電力である自由化部門において2012年4月1日から平均で16.39%の値上げ21別ウィンドウで開きます、主に一般家庭向け電力である規制部門においては、同年9月1日から平均で8.46%の値上げを実施した。この電気料金の値上げ改定の中身を確認すると、改定前の電力料金(自由化部門、規制部門合計)が18.19円/kWhであったのに対し、改定後は20.34円/kWhと、約2円/kWhの値上げとなっている。

今回の改定について、前回改定(2008年9月1日)からの値上げ分の原価別内訳を見ると、第一に、燃料費による増が+2.1円/kWhとなっており、最も大きな寄与を示している(第1-2-14図別ウィンドウで開きます(1)(2))。今回の電力料金改定は、原発停止に伴う火力代替による部分が大きいことが確認できる。

第二に、人件費、減価償却費、事業報酬で約0.5円/kWhを削減していることが分かる。電力料金の値上げ幅を極力抑えるため、一定程度、電力会社側の合理化努力が行われていることが示されている。

第三に、燃料費原価の改定の要因を単価要因と物量要因に分けると、単価要因が+1.0円/kWh、物量要因が+1.2円/kWhとなっている(第1-2-14図別ウィンドウで開きます(3))。

燃料費上昇による収益悪化に伴い、東京電力以外においても、関西電力や九州電力22別ウィンドウで開きますが電気料金の値上げ検討を表明しており、近い将来に全国的な電気料金の値上げが実施されることが懸念される。

(2012年冬の需給見通し)

2012年10月12日に開催された需給検証委員会において、各電力会社管内の冬の需給見通しが公表された。その結果、北海道電力管内を除くエリアは年間のピーク需要が夏季に発生するため、各社とも予備率+3%以上を確保できる見通しとなった。冬季にピーク需要が発生する北海道電力管内においても、需要家による一定量の節電の定着に加え、火力発電所の増出力、緊急設置電源の追加措置、定期検査や補修の繰り延べ等の供給力の増加もあり、予備率+3%を確保できる見通しである(第1-2-15図別ウィンドウで開きます(1))。

しかしながら、北海道電力管内において、火力発電所の計画外停止が発生した場合には、他社からの電力融通に制約があり、かつ他社からの電力融通を行う北本連系設備(60万kW)の停止リスクも存在する。リスクが顕在化した場合には、北海道電力管内では予断を許さない状況となるため、同年11月2日に開催された電力需給に関する検討会合及びエネルギー・環境会議において、北海道電力管内に2010年度比-7%の節電要請を行うことが決定された。なお、北海道電力管内の冬季需要の特徴として、融雪・暖房機器が一日中稼働し、夜間需要についても高水準となるため、夏季とは違い、一日中の需給対応が迫られることに注意が必要である(第1-2-15図別ウィンドウで開きます(2))。

コラム1-4 大震災後の節電の特徴

電力制約を回避するには、平日昼間のピーク電力をカット(ピークカット)し、夜間や平日へ移行(ピークシフト)する節電が有効である。

平均的な一日の時間別推移(6~8月平均)を見ると、昼間、夜間共に2012年度は2010年度、2011年度実績を下回っている。ピークシフトは必ずしも確認できないが、需要者の節電意識が広がったものとみられる(コラム1-4図別ウィンドウで開きます(1))。

また、曜日別のシフトについて見ると、2011年度は土日の減少率が若干小さくなっているため、平日から土日へのシフトが行われたと推察できる。ただし、2012年度においては、土日の減少率も高く、シフトは顕著に表れていない(コラム1-4図別ウィンドウで開きます(2))。これは、2011年の夏は自動車産業等による土日操業(木金休業)があったが、2012年の夏には行われなかったことによると考えられる。また、節電要請期間には含まれていない土日も高い減少率となっていることから、節電意識の高まりにより曜日を問わず節電が行われたものと考えられる。

以上のことから、2012年の夏は、時間、曜日においてのシフトはあまり行われなかったものの、時間、曜日に関係なく節電が実施されたように見受けられる。

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