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第3節 各種政策の効果と新たな経済対策

リーマンショックや大震災の後に、マクロ経済に影響を及ぼし得る様々な政策が採られてきた。その中には、既に終了し、あるいは終了を迎えつつあるものも少なくない。そうしたものを含め、以下では、景気への影響という観点から、これらの政策の効果や政策終了の影響を検討する。その一方で、2012年夏場以降、景気に弱い動きが出てきたことを踏まえ、同年11月30日には新たな経済対策が取りまとめられている。その内容についても紹介する。

1 エコカー補助金の効果とその反動

環境対策や国内市場の活性化を目的として導入されたエコカー補助金が2012年9月に終了した。エコカー補助金は、これまで個人消費を下支えしてきたため、制度終了に伴う新車販売の低迷が個人消費を中心とする我が国経済へ与える影響について、しばらく注視が必要である。ここでは、エコカー補助金の概要と、その新車販売への影響について論ずる。さらに、新車に対する潜在需要を推計し、販売実績と比較することによって、エコカー補助金の影響を検討する。

(エコカー補助金の概要と新車販売台数の推移)

エコカー補助金は、一定の環境性能を満たす新車を購入し、一年間使用する者に補助金を交付する制度である。2009年4月に初めて導入され2010年9月に終了したが、平成23年度第4次補正予算によって2011年12月に復活した。今回のエコカー補助金制度を前回の制度と比べると、いくつか異なる点がある。第一に、予算規模が縮小され、前回よりも補助金を受けられる台数(累計)が少なくなった(第1-3-1表別ウィンドウで開きます)。第二に、今回はスクラップ・インセンティブ制度が導入されず、消費者が中古車を廃車にする誘因が働かなかった23別ウィンドウで開きます。第三に、軽自動車に対する補助金額が5万円から7万円へ増額され、普通乗用車や小型乗用車を購入するより軽自動車を購入する方が相対的に有利な制度になった24別ウィンドウで開きます

エコカー補助金導入後の新車販売動向を前回との比較を交えて概観する。前回のエコカー補助金の時は、制度が導入されてから徐々に販売台数が増加し、その後しばらく横ばいで推移してから、終了直前に大きな駆け込み需要が発生した。一方、今回は、制度が復活した直後から販売台数が大きく増加したものの、その後は伸び悩み、制度終了直前に期待された駆け込み需要も盛り上がりに欠けた(第1-3-2図別ウィンドウで開きます)。このように、両者は効果の発現パターンにおいて、対照的な動きを示していた。

今回大きな駆け込み需要が発生しなかった背景としては、①エコカー補助金が復活した直後から早期の補助金終了が予想されており、消費者が早めに自動車購入を行ったこと、②一部の人気車種において、生産が注文に追いつかないという事例(供給制約)が発生したことが指摘できる25別ウィンドウで開きます

なお、中古車は前回の補助金導入後に販売が低迷したが、今回は堅調に増加した。この背景としては、2度目のエコカー補助金ということで、消費者が単純に補助金の出る新車へ飛びつくのではなく、新車と中古車の購入価格や性能の差などを総合的に判断して、慎重に自動車購入を行った可能性が指摘できる。また、前回はスクラップ・インセンティブ制度が導入されたが、今回は適用されなかったため、前回ほど中古車の供給が減少しなかったことも影響していると見られる。

(車種により政策効果に差)

エコカー補助金の効果は車種ごとに異なっているが、その特徴は以下のように整理できる。第一に、普通乗用車の販売は、前回のエコカー補助金導入時には最も恩恵を受けたが、今回は補助金の効果が顕著には見られなかった(第1-3-3図別ウィンドウで開きます(1)、(2))。第二に、小型乗用車と軽乗用車は、補助金効果によって販売台数を伸ばしたが、補助金終了直前の駆け込み需要は発生しなかった。第三に、小型乗用車と軽乗用車には、新型車を投入した効果も見られた。

新型車投入効果を見るため、補助金が復活した2O11年12月時点の車名別ランキング上位3位の自動車と、補助金復活と同時期に投入された新型車A(小型)、新型車B(軽)の販売推移を確認する26別ウィンドウで開きます第1-3-3図別ウィンドウで開きます(3))。新型車はともに、補助金復活以降、上位3位に肩を並べるほど急速に販売台数を伸ばしたことが確認できる。これら新型車を除いた小型乗用車、軽乗用車の推移を見ると、軽乗用車は新型車B以外の車種も比較的好調な販売を維持する一方で、新型車A以外の小型乗用車の販売は増勢が弱い(第1-3-3図別ウィンドウで開きます(4))。

以上より、今回の補助金復活後に普通乗用車と比べて軽乗用車と小型乗用車の販売が好調だった要因は、前者については補助金が増額された効果と新型車投入効果の両面、後者については、主に新型車投入効果によるものと推察される。

(エコカー補助金終了に伴う個人消費の押下げ効果)

エコカー補助金終了後の個人消費の反動減については、どのように考えるべきだろうか。前回の補助金終了時は、終了直前の駆け込み需要が大きかったこともあり、2010年7-9月期の新車販売台数(含む軽)は前期比4.1%増加したが、10-12月期は同29.2%減と大きく落ち込んだ。名目個人消費に占める自動車の割合を約3%と仮定すると、前回の新車販売の反動減は2010年10-12月期の名目個人消費を1%程度押し下げたことになる27別ウィンドウで開きます

今回の補助金は9月21日に終了したが、2012年7-9月期の新車販売台数(含む軽)は、駆け込み需要の不振により前期比10.5%減となったため、名目個人消費を約0.3%押し下げたと考えられる。前回は、2010年9月に補助金が終了した後、10月は大幅な反動減が生じた。その後もエコカー補助金終了の影響は残ったと考えられるが、前月比では11月以降プラスに転じた。今回も、11月の新車販売台数は前月比プラスとなっている。そこで、仮に、12月の新車販売台数が11月(季節調整値)と同水準で推移すると、2012年10-12月期の新車販売台数は前期比10.5%減となり、名目個人消費を約0.3%押し下げると推察される。また、11月の前月比伸び率と同水準で増加すると、2012年10-12月期の新車販売台数は前期比7.2%減となり、名目個人消費を約0.2%押し下げることとなる。もっとも、新車販売台数が12月以降も増加を続けるとは限らない。新車販売の動向が、個人消費を中心とする我が国経済に与える影響については、しばらく注視が必要である。

(潜在需要との対比から見たエコカー補助金の影響)

我が国の新車に対する潜在需要には、以下の諸点が影響を与える。第一に、総世帯数は、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2015年をピークに減少に転じる。第二に、自動車保有台数は、自動車需要が飽和状態にあることや世帯数の伸びが鈍化していること等から、頭打ち傾向にある(第1-3-4図別ウィンドウで開きます(1)、(2))。第三に、自動車の平均使用年数は、耐久性能の向上等によって、2000年に入ってから飛躍的に上昇しており、買い換えサイクルが長期化している(第1-3-4図別ウィンドウで開きます(3))。したがって、新たなニーズの発掘等が行われない場合、我が国の新車の潜在需要は、長期的に低下傾向を辿る可能性が高い。

最後に、新車に対する潜在需要を推計し、販売実績と比較することによって、エコカー補助金の影響を考えてみると、以下の諸点が明らかになる。前回のエコカー補助金は、新車販売台数が潜在需要から落ち込んだときに導入され、その後の新車販売の回復に寄与したが、駆け込み需要が潜在需要をかなり上回ったことにより、その反動減も大きなものとなった。一方、今回は新車販売台数が潜在需要からさほど乖離していない時期に導入され、その後の新車販売台数は潜在需要を上回って推移したため、駆け込み需要は発生しなかった(1-3-5図別ウィンドウで開きます)。なお、エコカー補助金は、前回も今回も新車販売台数を増加させる効果があったが、制度導入時や終了時に販売台数が大きく変動するリスクがあることが再認識された。

2 中小企業金融円滑化法の効果と出口戦略

中小企業金融円滑化法(以下、「金融円滑化法」という)が、2013年3月末に最終期限を迎える予定である。この法律は、リーマンショック以降の我が国経済の悪化を受けた臨時措置として施行されたものであるが、この法律の特徴とその効果、さらには期限終了に伴う影響について考えてみよう。

(金融円滑化法の導入経緯とその特徴)

金融円滑化法は、我が国経済がリーマンショック後の急速な悪化から立ち直りつつある中で、中小企業の資金繰りを支援するための方策として、2009年12月に施行された。一般に、中小企業は大企業に比べて財務基盤が弱く、景気が悪化すると資金調達が困難になるため、過去の不況期においても、様々な資金繰り対策が実施されてきた。代表的なものとして、金融システム不安が高まっていた1998年10月に創設された特別保証制度、リーマンショック直後の2008年10月に創設された緊急保証制度が挙げられる。

金融円滑化法は、金融機関に対し、中小企業からの申し出に応じて貸付条件を変更する努力義務を課すことにより、中小企業の資金繰りを支援する法律である。そのため、信用保証制度を強化することによって、中小企業が必要とする事業資金の供給を行う特別保証制度や緊急保証制度とは、仕組みが大きく異なっている(第1-3-6表別ウィンドウで開きます)。また、この法律は努力規定であるものの、金融機関は実施状況を行政庁に報告しなければならないため、実効性が担保されている。

(金融円滑化法の利用状況とその効果)

金融円滑化法に基づく中小企業向け貸付条件の変更実績を見ると、2012年9月末時点で申込件数が累計約370 万件、実行件数が同約344万件となっている。審査中及び取下げを除いた実行率は、97%を上回る高い水準で推移している(第1-3-7図別ウィンドウで開きます(1))。また、東京商工会議所が2012年8月に実施した調査によると、金融円滑化法による貸出条件の変更について、「すでに申請している」及び「申請を検討している」と回答した企業の割合は約10%である。以上より、金融円滑化法は非常に多くの中小企業に利用されていることがわかる(第1-3-7図別ウィンドウで開きます(2))28別ウィンドウで開きます

金融円滑化法による中小企業の経営改善効果を、東京商工会議所の調査から確認すると、「非常に効果があった」及び「やや効果があった」と回答した金融機関の割合は53.3%であり、半数以上の金融機関がその効果を認めている。業態別に見ると、都市銀行(68%)や政府系等(67.5%)では割合が高いが、経営規模の小さな信用金庫(48.2%)や信用組合(50%)では割合が低い。後者は、厳しい経営状況に置かれている中小零細企業を数多く抱えており、こうした企業は金融円滑化法によっても状況が改善しないケースも多いと考えられる。

(金融環境は一貫して改善し、倒産件数も減少傾向)

金融円滑化法施行後の中小企業を取り巻く金融環境と倒産状況について概観する。資金繰りDIと貸出態度DIを見ると、いずれも一貫して改善傾向にある(第1-3-8図別ウィンドウで開きます29別ウィンドウで開きます。こうした中、企業規模別の倒産件数を見ると、中小企業の倒産件数は減少傾向にあり、零細企業の倒産件数も悪化に歯止めがかかっている。その結果、倒産件数の合計は歴史的な低水準にある(第1-3-9図別ウィンドウで開きます)。

また、信用保証協会による新規保証承諾件数と代位弁済件数の関係を見ると、1998年に特別保証制度が導入された際には、まず新規保証承諾件数が増加している(第1-3-10図別ウィンドウで開きます)。それに応じて、代位弁済件数は一時的に減少するものの、その後、大幅に増加している。一方、2008年に緊急保障制度が導入された際の動向を見ると、新規保証承諾件数が増加し、代位弁済件数が一時的に減少する点は同様である。しかし、その後は、金融円滑化法が施行された時期と機を一にして代位弁済件数が減少に転じており、金融円滑化法が代位弁済件数の減少に寄与していることを示唆している。

こうした状況を総合的に判断すると、金融円滑化法は、リーマンショック後の急速な景気悪化からの回復過程において、中小企業の資金繰りの改善や企業倒産の抑制等に一定の効果を有したと考えられる。

(中小企業金融円滑化法の出口に向けて)

金融円滑化法の期限終了に伴って次のような影響が懸念される。まず、中小企業の資金繰りが行き詰まり、倒産件数が増加するリスクがある。金融円滑化法に基づいて貸付条件の変更を行った企業の倒産件数が増えており、期限終了に伴って倒産件数がさらに増加する可能性がある(第1-3-11図別ウィンドウで開きます(1))。また、企業倒産件数は横ばいとなっているが、緊急保証制度を適用した企業の代位弁済額は高水準で推移していることから、同制度を利用するような体力の弱い中小企業の経営は依然として厳しい状況にあると見られる(第1-3-11図別ウィンドウで開きます(2))。

一方、金融機関については、不良債権の増加や収益悪化等が懸念される。金融機関の財務状況が大きく悪化する場合には、バランスシート調整圧力が強まり、貸出抑制や債権回収を通じて実体経済に悪影響を及ぼす可能性がある。東京商工会議所の調査によると、中小企業金融安定化法が終了した場合に、「大きな影響がある」及び「やや影響がある」と回答した金融機関の割合は60.4%と高い。

ただし、金融円滑化法が最終期限を迎えた後も、セーフティーネット保証制度等の金融円滑化対策は継続される。また、政府は、2012年4月、中小企業金融安定化法の出口戦略として、「中小企業金融円滑化法の最終延長を踏まえた中小企業の経営支援のための政策パッケージ」を打ち出した。こうした対策を着実に実施に移し、健全な中小企業の資金繰りを支援することを通じて、金融円滑化法の終了に伴う我が国経済への影響が大きなものとならないようにしていくことが重要である。

3 復旧・復興のための政府支出の効果

復旧・復興のための政府支出について、予算の措置状況、執行状況及びそれを踏まえた今後の支出見通し、公共投資の波及効果の検証を行う。

(2013年には復興予算の景気下支え効果は弱まっていく見込み)

まず、2011年度1次~3次補正予算及び2012年度当初予算で措置された東日本大震災復旧復興関連予算(以下、復興予算という)について見ると、2012年度当初予算時点で約18兆6,000億円が措置されている(第1-3-12表別ウィンドウで開きます)。2011年7月に策定された「東日本大震災からの復興の基本方針」では当初5年間を復興集中期間とし、その間の事業規模を19兆円程度としているので、2012年度当初予算時点で既に98%弱が措置されていることになる。このうち、予算書に付与されている経済性質別分類を用いてGDPを構成する公的需要分の金額を推計すると、政府投資分が約5.9兆円、政府消費分が約2.3兆円となり、総額は約8.2兆円となる30別ウィンドウで開きます

次に、復興予算の執行状況を見ると、2011年度補正予算のうち、約4.8兆円が繰り越され、約1.1兆円が不用となったため、2011年度補正予算の支出額は約9兆円、執行率は60.5%にとどまった。2012年度は、当初予算3.7兆円と前年度からの繰り越し分をあわせた予算現額は約8.4兆円となり、2011年度の支出額を下回ることとなった(第1-3-13図別ウィンドウで開きます(1))。2012年度の予算現額は当年度中にその大部分が執行されると考えられることから、2012年度の繰越額は、2011年度のそれと比べて大幅に少なくなり、2012年度当初までに講じられた復興関連予算による下支え効果は、2013年度には弱まっていくと見込まれる。

ただし、ここでは、国から地方公共団体等の事業主体に資金が支出された時点を執行としてとらえているため、事業主体の支出までにはタイムラグが生じる。したがって、GDPに対する効果は2013年度にずれ込むと見込まれる。なお、内閣府年央試算(2012年8月公表)では、公的需要の寄与について、2012年度は+0.4%、2013年度は-0.3%と試算されている(第1-3-13図別ウィンドウで開きます(2))。

また、2011年度予算の繰越額について、その繰越理由を見ると、75%以上が「計画に関する諸条件」となっている。被災自治体においては、今後も防災集団移転促進事業や土地区画整理事業に係る計画策定が多数予定されており、こうした事業に係る計画の策定・変更などの状況次第では、事業の実施時期が遅れる可能性もあると考えられる(第1-3-13図別ウィンドウで開きます(3))。

(製造業において全国的に波及効果)

復興予算のうちの公共投資予算(約5兆円)が、どの地域のどの産業の生産に波及するかを検証する。公共投資が東北の建設業新規需要となると仮定し、平成17年版地域間産業連関表を用いて試算したところ、以下の諸点が明らかになった(第1-3-14図別ウィンドウで開きます)。

第一に、公共投資の形での復興需要は、東北にとどまらず他地域の生産活動を押し上げる。製造業、非製造業別に見ると、製造業では、三大都市圏を中心に、全国的な波及効果が確認できる。一方、非製造業では、関東に波及効果が確認できるのみで、全国的な波及効果は見られない。

第二に、製造業では、全体としては金属製品、鉄鋼、窯業・土石製品、製材・木製品・家具への波及が大きい。このうち、金属製品は主に三大都市圏への波及が確認できる。鉄鋼は、三大都市圏のみならず中国、九州にも波及が確認できる。また、窯業・土石製品、製材・木製品・家具といった業種は、全国的な波及影響はあまり見られず、ほぼ東北内で賄われることが確認できる。

第三に、非製造業では、全体としては建設業、商業、運輸業への波及が大きい。建設業は地場産業と考えられ、東北内に効果がとどまる。ただし、商業は関東への波及が確認できる。

4 雇用調整助成金等の効果

雇用調整助成金及び中小企業緊急雇用安定助成金(以下、「雇用調整助成金等」という)は、景気変動等の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用する労働者を一時的に休業等させた場合、その手当等の一部を助成する制度である。これまで、リーマンショック後の急激な製造業の生産下落等に対応するために、支給要件緩和による機能拡充が行われ、雇用維持に一定の役割を果たしてきたと考えられる。その後も、大震災後の雇用情勢の悪化に対応するために、支給要件の緩和がなされたが、こうした経済的なショックが生じた際、雇用調整助成金等がどの程度雇用を維持し、失業率を抑制したかについて検証を行う。

(失業率の抑制に寄与した雇用調整助成金等の施策)

雇用調整助成金等がなかったと仮定した場合の失業率を推計し、実際の失業率と比較することによって、雇用調整助成金等が失業率をどの程度引き下げるかを検証したところ、以下の諸点が明らかになった。

第一に、リーマンショック後の2009 年後半には、30~70万人程度の失業者を減少させ、失業率を0.5~1.0%程度抑制していたと試算される(第1-3-15図別ウィンドウで開きます(1))。

第二に、被災3県においては、大震災直後の2011年第4-6月期に最大1.2%ポイント程度の失業率抑制効果があったものと考えられ、リーマンショック時と同程度の雇用下支え効果が見られる(第1-3-15図別ウィンドウで開きます(2))。

第三に、最近では、対象者、支給額ともに減少しており、押下げ効果は縮小している。

また、雇用調整助成金等によって仮に雇用が維持されたとしても、それが一時的なものであり、その後に事業所の廃止や対象従業員の解雇が生じているとすれば、雇用調整助成金等は、結果として労働生産性の高い分野への労働移動を妨げ、企業構造の調整を遅らせたことになる。この点を評価するため、厚生労働省の2011年度調査の結果を見ると、「利用後1年経過後の事業所廃止率(支給額ベース)」は0.7%、「助成対象から半年経過後の労働者の雇用維持率」は93.8%となっている。厚生労働省「雇用保険事業年報・月報」を見ると、平成23年度の廃業率は3.9%、雇用維持率 31別ウィンドウで開きますは87.9%であることから、雇用調整助成金等の支給を受けた事業所において、事業所廃止や対象従業員の解雇が顕著に生じているわけではない。

これらのことから、雇用調整助成金等は、経済的ショックが生じた際、失業リスクが一挙に顕在化することを防ぎ、雇用維持に一定の役割を果たしてきたものと考えられる。

今後は、リーマンショック後の雇用情勢の改善やデフレ脱却等経済状況検討会議における検討、厚生労働省内の提言型政策仕分けの指摘を受け、拡充した要件を順次平常化している。現在では、ピーク時に比べれば、対象者、支給額ともに大幅に減少していることから、大きな混乱なく平常化が進むことが期待される。

5 新たな経済対策

2012年11月30日、「日本再生加速プログラム」が閣議決定された。本プログラムでは、先行きの景気悪化懸念に対応し、デフレからの早期脱却と経済活性化に向けた取組を加速させることを目的として、同年10月26日に決定された予備費等の使用(第一弾の財政措置)に引き続き、第二弾、第三弾の財政措置により実施する施策及び財政措置を伴わない規制・制度改革等の施策がひとつのパッケージとして決定されている。ここでは、それらの内容及び経済効果について確認する。

(第一弾の財政措置を合わせて実質GDP比0.4%程度押し上げ)

第二弾の財政措置では、経済危機対応・地域活性化予備費及び復興予備費を使用して施策が実行されるが、その規模は国費ベースで8,803億円となっている(第1-3-16表別ウィンドウで開きます)。

その第一の柱は、「日本再生戦略」における重点3分野(グリーン、ライフ、農林漁業)をはじめとする施策の実現前倒しであり、①グリーン(世界を主導するグリーン・エネルギー社会の創造)、②ライフ(ライフ・イノベーション創出及び医療・福祉の基盤強化)、③農林漁業(6次産業化の推進、意欲ある若者等の雇用の促進等)、④中小企業の活力発揮、国土・地域の活力向上、科学技術イノベーション等、⑤雇用対策、社会・生活基盤の構築、の5項目に5,354億円を措置している。

第二の柱は、東日本大震災からの早期の復旧・復興及び大規模災害に備えた防災・減災対策であり、①被災地の生活支援の強化、産業・雇用の立て直し、②学校の安全対策、③ゲリラ豪雨等への対応や地域の総合的防災力向上など、の3項目に3,448億円を措置している。

今回決定された第二弾と、先の第一弾とを合わせた財政措置の規模を見てみると、国費ベースで1.3兆円程度、事業費ベースで2.0兆円程度(中小企業金融などの融資規模を含めた事業規模は5兆円程度)となり、その経済効果は実質GDP比0.4%程度押し上げ、12万人程度の雇用を創出すると見込まれる。

また、こうした財政措置を加え、「日本再生加速プログラム」では、第三の柱として、民間の自由な創意工夫によって経済の活力を再生するという基本姿勢の下に、大胆かつ速やかに聖域なく規制・制度改革を推進するとともに、民間の融資・出資の促進策等を講じることとしている。これらの取組も、上記の効果に加えて、デフレ脱却と経済活性化に資する効果を発現すると期待される。

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