第2節 雇用情勢の展望と課題

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我が国の雇用情勢は、リーマンショック後に一時失業率が5.6%と非常に高い水準に上昇し、その後も依然として厳しい状況にある。もっとも、2009年の年央以降、有効求人倍率をはじめとして多くの関連指標が持ち直しの動きを見せている。本節では、雇用の先行きを占うため、最近の雇用情勢のマクロ的な特徴を整理するとともに、ミスマッチによる失業、若年失業の問題点について明らかにする。

1 今回の雇用情勢の特徴

ここでは、最近の雇用情勢の特徴について、前回の景気の谷の半年~1年半後、すなわち2002年半ば~2003年半ば頃との比較を中心に考える。当時も、景気が持ち直すなかで、企業のリストラを背景に雇用は削減され、5%を超える高い失業率が一向に改善されない状態が続いた。この間、景気は踊り場的状況を迎えたが、再び上向きの動きに復した後も、若年雇用の厳しさや賃金の低迷といった課題を残すこととなった。今回も当時と同じ経路をたどるのか、それとも違った展開がありうるのか、という問題意識で考えてみよう。

(失業率などの数字は2003年前後とほぼ同じ)

最初に、失業率、有効求人倍率、雇用者数の推移を振り返り、2003年前後との類似点、相違点を抽出する。

リーマンショック後、3%台であった失業率は急速に上昇し、景気が谷をつけた後の2009年7月に5.6%という統計開始以来の高水準を記録した(第1-2-1図(1))。その後は一進一退の動きとなり、2010年に入っても5%台で推移している。5%台の失業率は、過去においてはITバブル崩壊後の景気後退に伴って生じている。当時、景気が谷をつけた後も失業率は高止まり、2003年中は横ばい圏内で推移した。その点では、現在の状況は2003年前後と非常に似ているといえよう。一方、やや長い目で見ると、当時は(日本の)バブル崩壊後、90年代からすう勢的に失業率が上昇してきた最終段階と位置付けられるのに対し、今回は2000年代半ば以降の失業率低下局面のあと、リーマンショックを受けた短期間で急激な失業率の上昇であった点で異なっている。

有効求人倍率が低迷していることも、今回と前回の雇用悪化局面の共通点である。失業率と同様、相違点としては、前回は長期にわたる有効求人倍率の低下トレンドの中での動きであったのに対し、今回は2007年頃に1倍に達した後に急激な低下が見られたことである。低下が急激であったこともあって、その後の持ち直しも当時と比べるとややテンポが速い。なお、2002~2003年を含め、2000年代に2回、景気の踊り場的状況を経験したが、有効求人倍率はその間も上昇基調を続けたことは注目に値する。雇用形態による差があるとしても、企業の採用活動はある程度先を見据えて行われるものであり、景気の停滞が一時的であると認識される限り、求人は直ちに減少しないのではないかと考えられる。

雇用者数は失業率の動きにほぼ対応し、今回は2009年前半に減少した後、一進一退の状況が続いた。ただし、2009年7-9月期には持ち直しの動きが見られるようになっている(第1-2-1図(2))。前回も、2002年前半にかけて減少した後、しばらくは横ばい圏内の動きとなった。相違点はやはり雇用情勢が悪化する前のトレンドである。すなわち、当時は90年代半ば以降、雇用者数の伸びが頭打ちとなっていた状況の中での動きであったが、今回は2000年代半ば以降、雇用者が増加した後での減少である。結果として、2009~2010年の雇用者数は、2000年代半ば以前の水準を上回ったままである。

まとめると、今回と2003年前後とは、失業率などの数字では類似しているが、当時の厳しい雇用情勢がバブル崩壊後の雇用悪化トレンドの中で生じたのに対し、今回は一度改善した後での急激な悪化という点で相違が見られる。

(雇用過剰感も2003年末頃の水準まで低下)

雇用の先行きを占うには、雇用調整圧力の状況を点検する必要がある。そこで、企業の雇用過剰感(日銀の雇用判断DI)と労働分配率(「法人企業統計季報ベース」)の動きと水準について、2003年前後と比べつつ評価してみよう(第1-2-2図)。

いうまでもなく、最近の動きは、リーマンショックを受けた雇用過剰感、労働分配率の大幅な上昇、その後の低下という形で要約される。ただし、雇用過剰感と労働分配率の動きにはそれぞれ特徴がある。第一に、雇用過剰感は「過剰」「適正」「不足」の3つの選択肢への回答を基にしているため、リーマンショックのような衝撃に対しても反応が緩やかである。これに対し、労働分配率は企業収益の落ち込みに敏感に反応し、極端な動きを示している。第二に、雇用過剰感の緩和は労働分配率の低下にやや遅れている。これは、自社の売上や収益の実績がある程度判明した後に、それらの状況を踏まえて、企業の担当者が過剰感の判断を変更しているためと推察される。

こうした動きの結果、2010年9月時点において、労働分配率はリーマンショック前の水準まで戻っている。雇用過剰感はリーマンショック直後の水準である。これらは、2003年末頃の労働分配率、雇用過剰感の水準とほぼ同じでもある。この事実はまた、失業率が当時とほぼ同水準であることと符合する。しかし、今回は生産の落ち込みが大幅で、2010年半ばのGDPギャップは2003年末頃と比べてマイナス幅が大きい。にもかかわらず、なぜ雇用過剰感は当時と変わらない水準でとどまっているのだろうか。

(2003年当時と比べ企業の財務体質は格段に改善)

失業率の場合と同様に、今回はリーマンショック前の労働分配率、雇用過剰感がすでに低い水準にあった。雇用はむしろ不足感が残る状況といえた。これに対し、2003年当時を振り返ると、その前の景気の山を含む2000年においても過剰感等は高水準であり、そもそも出発点で過剰雇用を抱えていた。この点がまず今回と前回の違いとして指摘できる。

加えて、今回は最悪期からの企業収益の急速な回復という点が特徴である。そのため、労働分配率がもとの水準に戻ったのも速かった。これを可能にした要因として、製造業の売上高、営業利益は大きく落ち込んだ後の回復がまだ不十分であるが、非製造業では売上高、営業利益ともにリーマンショック前の水準をすでに超えていることが挙げられる。なお、今回は設備投資の削減がかつてないほど大幅であり、結果として減価償却費の水準が低下している15

労働分配率に代表されるフロー面のほか、ストック面においても2003年当時と比べ企業の財務体質は格段に強化されていると見られる。そうであれば、雇用をさらに削減してまで財務面の改善を図る誘因は相対的に弱まっていると考えられる。そこで、財務体質の改善がどの程度進んでいるかを確認してみよう(第1-2-3図)。まず、自己資本比率は、90年代半ばから2009年度まで長期にわたって改善を続けてきた。リーマンショック直後には幾分低下が見られたものの、その後は再び上昇基調となっている。当然ながら、2003年前後と比べると、2010年の水準は格段に高い。その背景には、利益剰余金の蓄積がある。すなわち、利益剰余金はリーマンショック後に若干低下する局面もあったが、2000年代を通じて見ると、すう勢的に増加し、これが自己資本の充実に寄与しているといえよう。これに対し、バブル崩壊後も高水準で推移していた有利子負債比率は低水準となっている。

(雇用見通しと需要見通しの関係が明確化)

雇用の先行きについての直接的な情報として、内閣府「企業行動に関するアンケート調査」における企業による雇用の見通しがある。年初に1回の調査のため最新の状況は分からないが、今回と2003年前後との比較という観点では十分と思われるので、その結果を用いてさらに議論を進めよう。「平成22年度年次経済財政報告」でも示したように、2003年1月と2010年1月では、雇用過剰感はほぼ同じであるが、企業による3年間の雇用見通しは後者の方が明らかに楽観的である。そこで、ここでは、3年間の雇用見通しと業界の需要見通しの関係を調べてみる。具体的には、対象企業を3年間の雇用見通しの大小で区分し(5%刻み)、それぞれの区分の企業が回答した平均的な業界需要を算出する(第1-2-4図)。

まず、1年後の需要見通しとの関係を見ると、2003年、2010年ともそれほど明確ではないが、雇用の拡大率が高い(削減率が低い)企業ほど需要成長率を高く見込んでいる傾向がある。3年後の需要見通しを用いた場合は、特に2010年のデータでは雇用見通しと需要見通しの間に明確な相関が観察される。すなわち、雇用の拡大率が高い企業ほど需要成長率を高く見込んでいる。2003年のデータでは、雇用は不変と回答した企業で業界需要を最も高く見込むなど、両者の間には合理的な関係は見い出せない。

本来、雇用見通しは業界需要の見通しとほぼ同じ傾向を持つはずである。特に、両者とも3年間という同じ期間を設定した場合、その関係が強まるのが自然と考えられる。2010年のデータはまさにそうした結果を示している。2003年のデータでは相関が見られないとすれば、業界の需要見通し以外の要因が雇用の見通しに強く影響を及ぼしていたと考えられる。「企業行動に関するアンケート調査」ではそれが何かを探るための手掛かりはないが、前述の検討を踏まえると、過剰債務問題を含めた企業の財務状況の悪さ、その企業間のばらつきが影響している可能性がある。

2 雇用のミスマッチ

これまでの分析で、今回の雇用情勢の厳しさは、表面的には2003年前後と類似する点が多いものの、その直前の雇用情勢や背景となる企業の財務体質などが違っていることが分かった。次に、失業の中身を分析することで、雇用のミスマッチという観点から今回の特徴を抽出してみよう。

(今回の局面では主に需要不足による失業率が悪化)

「失業率が高止まりしているのはミスマッチのため」との指摘があるが、それは正しいのだろうか。まずは、失業率を景気循環に伴う「需要不足失業」と、それ以外の「構造的失業」に分けてみよう。具体的には、失業率(厳密には雇用失業率)と欠員率の関係を見た上で、それらが一致する場合の失業率を構造的失業率とする(第1-2-5図)。

失業率と欠員率の関係(UV曲線)を描くと、景気の山(2007年10月)以降、欠員率の低下と失業率の上昇が同時に生じ、曲線上を左上の方向に移動したことが分かる。したがって、この期間は、需要不足が失業率悪化の主な要因であったことになる。この関係を基に失業率を需要不足失業と構造的失業に分けると、構造的失業率はリーマンショック後にわずかな上昇が見られるが、その後は緩やかに低下し、結果として3%程度の水準で推移している。これに対し、需要不足失業率は当初は1%程度であったが、景気の谷を過ぎると急速に上昇し、2%程度の水準で横ばいとなっている。

それでは、ITバブル崩壊後の景気の谷(2002年1-3月期)付近ではどうだったか。同じような分解をすると、構造的失業率は谷の少し前から緩やかながら上昇しており、2003年1-3月期には3%台半ばに達している。逆に、需要不足率失業は谷の少し前にピークをつけ、その後は緩やかに低下している。

以上から、2009年半ば以降構造的失業率はむしろ低下していること、2003年の初めと比べると当時の方が高水準であったことが分かる。構造的失業の多くがミスマッチに起因するとすれば、労働市場を全体として見れば、少なくともミスマッチが強まっているとはいいがたい。

(今回の局面では職種別、正社員・パート別のミスマッチが上昇)

以上の結論はあくまでも労働市場全体の話である。政策的な観点からは、一般的なミスマッチの大きさよりも、具体的にどのようなミスマッチが生じているかを把握することが重要である。そうした問題意識から、以下では、年齢、地域、職種、雇用形態に関するミスマッチ指標を計測する(第1-2-6図(1))。

年齢別ミスマッチは、今回はほとんど変化していない。年齢別ミスマッチは、一般に、他の年齢と比べて高齢者の求人が少ないことの影響が強い。例えば、2002年の景気の谷より以前に年齢別ミスマッチが低下しているが、これは2001年に雇用対策法が改正され、労働者の採用に当たり年齢に関わりなく均等な機会を与えるように努めなければならないとされたことなどが寄与していると考えられる。

地域別ミスマッチは、今回は縮小している。前回の景気の谷付近では地域別ミスマッチはほとんど変化を示さなかったが、なぜ今回は改善したのだろうか。図には示していないが、地域別ミスマッチは2000年代半ばから拡大傾向にあった。これは、輸出主導の景気回復の下で、東海地方など一部地域で経済が特に好調であったためである。その後の景気後退、特にリーマンショックによって、それまで好調であった東海地方などの景気が急速に悪化したため、結果として地域別ミスマッチが縮小したことになる。

職種別ミスマッチは、前回、今回とも谷より前に大きく拡大し、谷を過ぎると緩やかに縮小している。こうした現象が生ずるのは、一般に、景気に敏感な生産工程従事者などの労働需要が景気後退に伴って大きく減少する一方、社会福祉専門職や接客・給仕の職業といったサービス業の従事者に対する需要はそれほど減少しないことによる(第1-2-6図(2))。生産工程などの職業と有効求人倍率が高い社会福祉専門などの職業では、求められるスキルが著しく異なり、求職者としては別の職種へと就職希望を変えるのも難しいため、生産工程などで需要が落ち込むとミスマッチ指標が上昇すると考えられる。なお、今回の景気後退では製造業への影響が特に大きかったため、ミスマッチ指標の上昇幅も大きかった。

雇用形態(常用雇用者(以下、「フルタイム」という。)・パートタイム等(以下、「パートタイム」という。)別のミスマッチは、今回、景気の谷までは拡大し、その後は横ばいで推移している。ミスマッチの水準は前回の方が高いが、前回は景気の谷以前からほとんど変化が見られない。したがって、雇用形態別ミスマッチが拡大したままもとに戻らない点は今回の特徴といえる。以下では、この問題を掘り下げてみたい。

(大規模事業所によるパート以外の新規求人のシェアは低下傾向)

フルタイム・パートタイム別のミスマッチが拡大しているのであれば、労働者の意識としても現状に対する不満が見られるはずである。そこで、本来はフルタイムでの就労を希望しているが、雇用情勢の厳しさのためやむなくパートタイムで就業している者(以下、「不本意なパートタイム労働者」という)の割合16を見てみよう(第1-2-7図(1))。今回の景気の谷前後では、不本意なパートタイム労働者の割合が急上昇していることが分かる。これに対し、前回は景気の谷前後で幾分上昇が見られたが、今回と比べるとわずかな変化にすぎない。今回はリーマンショック前には不本意なパートタイム労働者の割合の水準が前回の局面と同じ程度の水準であったものが、景気後退を経て2002年前後の水準を大きく上回る水準に高まったといえる。

正社員志向に加え、最近では、大企業志向が強まっているとも指摘されている。果たして、「大企業の正社員」という選択肢は狭き門となっているのだろうか。この点を調べるため、新規求人にパートが占める割合を大規模事業所(従業員500人以上)と小規模事業所(同99人以下)で比べてみよう(第1-2-7図(2))。その結果によれば、2000年以降では、2006年、2007年を除き、大規模事業所の方が新規求人に占めるパート比率が高い。また、リーマンショック後は規模を問わず、パート比率が上昇傾向にあることが分かる。

逆に、新規求人に占める事業所規模別の割合を、パートタイム労働者とそれ以外に分けるとどうなるのだろうか(第1-2-7図(3))。予想されるように、パート、パート以外のいずれの求人も小規模事業所の割合が圧倒的に高いが、2000年代を通じて、大規模事業所の割合が次第に上昇してきたのも事実である。ただし、2009年においては大規模事業所によるパート以外の求人はシェアを低下させ、2010年も10月までの水準を見ると2008年に比べて低い状況である。リーマンショックの影響は、「大企業・正社員」への道を幾分狭めたといえよう。

コラム1-2 雇用形態別の失業者数の推移

リーマンショック直後の景気の急速な悪化局面において、派遣労働者の解雇、雇止めの増加が大きな社会問題ともなったことは記憶に新しい。その後、雇用情勢に厳しいながらも持ち直しの動きが見られるが、派遣労働者を含めた非正規雇用者の失業はどう推移したのだろうか。

失業者数の前年比増減率について、前職における雇用形態別に寄与度分解してみよう(コラム1-2図)。それによれば、2008年後半から派遣労働者の失業が増え始め、2009年初めに増加寄与度がピークを示している。パート・アルバイトの失業の増加はテンポが遅く、2009年後半になって寄与度が拡大した後、2010年に入ると沈静化に向かった。また、正社員は2009年半ば頃に失業が急増し、非正規雇用者と比べると調整に時間がかかっている。

前回の景気の谷直後の2002年には、そもそも派遣労働者の数が多くなかったこともあるが、失業の増加はパート・アルバイト、正社員によるものが大部分であった。その意味で、派遣労働者の失業急増は今回の特徴であるが、その分、失業が前年比で減少に転じたのも早かったといえよう。

3 若年者の雇用環境

雇用情勢を見る上で、特に注目すべきは若年層の失業である。若年失業は労働者のスキル形成にとって最も重要な時期を無駄にすることで、将来の生産性上昇を妨げることから社会的な損失が大きい。2010年においては、一時、15~24歳の若年失業率が既往最高水準に達するなど、就職氷河期の再来も懸念されている。ここでは、年齢別の失業率の推移を見るとともに、若年の雇用について、学歴別の特徴、さらには大学卒業者におけるミスマッチの要因について検討する。

(恒常的に高い若年者の失業率)

若年失業の状況を評価するためには、まず、他の年齢層の失業との比較も含めた形でこれまでの推移を振り返る必要がある。年齢別の失業率の変化からは、以下のような特徴を指摘することができる(第1-2-8図)。

若年失業率、特に15~24歳の失業率は他の年齢層と比べて恒常的に高く、かつ、景気による変動が大きい。2000年代においては25~34歳がこれに次ぐが、90年代には25~34歳と55~64歳の失業率はほぼ同じ水準で動いていた。現在では、35歳以上64歳未満の中高年層の失業率には大きな差はない。一方、65歳以上の失業率は一貫して低水準であり、かつ、景気の影響を受けにくいことが分かる。

また、15~24歳の失業率は、他の年齢層の失業率の動きに遅行する傾向がある。今回の局面においても、全体の失業率は2009年7月がピークであったが、15~24歳の失業率は2010年6月に既往最高水準に達した。2003年においても低下に転ずる時期が他の年齢層に比べて遅れている。これに対し、次に若い25~34歳層になると、低下に転ずる時期は比較的早く、今回も2009年後半には低下基調となっている。

(大学・大学院卒で失業率が大幅に悪化)

若年失業の実態を明らかにするため、以下では、学卒者の失業動向について分析していきたい。手始めに、学卒未就職による失業者の人数(原数値)の推移を見てみよう(第1-2-9図(1))。通常のパターンとしては、4月に新規卒業者が加わって学卒未就職者が大幅に増加し、その後の就職成功や就職活動の断念などの理由から、学卒未就職者数は毎月減少を続けていく。2010年度もこの傾向は続いているが、前年度末の2010年1-3月期に学卒未就職者の人数が多かったことに加え、2010年3月卒業者のうち未就職者が多かったために、2010年4月時点で約18万人と高い水準となった。その後、徐々に未就職者は減少してきているが、10月時点でも依然10万人程度が存在している。少子化の影響もあり、学卒者自体の数も減少してきていることを考慮すると、状況は一層厳しいことが分かる。

このように学卒未就職者は増加しているが、終了した教育別にはどのような違いが観察されるだろうか(第1-2-9図(2))。就職内定率については、大卒、高卒ともに、2008年には97%という高い水準であったが、リーマンショックを受けて急速に悪化している。ただし、2010年にかけての悪化幅は大卒の方が顕著であり、2002年の水準まで低下している。これに対し、高卒は過去と比べると水準はそれほど低下していないことが分かる。なお図には示していないが、2011年の10月1日時点の内定率では、高卒が前年差で3.0%ポイント改善して40.6%となったのに対して、大卒では前年差4.9%ポイント低下の57.6%と調査開始以来最低水準となっている。

一方、失業率では高卒以下の方が大卒・大学院卒より恒常的に高い。特に、2000年代半ばに大卒・大学院卒の失業率は大幅に改善している。しかし、リーマンショック後の失業率の上昇は、むしろ大卒・大学院卒でより顕著となっている。企業の正社員採用が慎重化したため、正社員での雇用割合の高い大卒・大学院卒の学生の就職状況の悪化がより大きかったのではないかと考えられる。

(大卒においてミスマッチが拡大)

最近における学卒者のうち、特に大卒の内定率や失業率の悪化が目立つ点について、ミスマッチが原因となっているかどうかを調べてみよう。大卒、高卒別に求人倍率と就職率17をプロットすると、右上がりの傾向線を引くことができる(第1-2-10図(1))。2010年3月卒業の大卒者の位置は傾向線よりも右下にあることから、求人倍率がそれほど低くない割には就職率が低く、ミスマッチが拡大していることが分かる。一方、高卒においては、2010年3月卒は傾向線よりも左上にきており、ミスマッチが緩和されていることが示唆される。また、大卒と高卒の傾向線を比べると、大卒の方で傾きが緩やかとなっており、大卒では求人倍率の上昇が就職率の改善に結びつきにくいといえる。

また大卒、高卒におけるミスマッチに関して、97年3月卒業者から毎年の新卒未充足率、未就職率の変化で確認してみよう(第1-2-10図(2))。この図では、左上が企業からの労働需要不足、右下が学生側の労働供給不足であり、右上にいくほどミスマッチが拡大していると解釈できる。大卒については、2000年代半ばの景気回復により企業の採用意欲が高まり、需要に比べて供給が弱い状態が続いていた。しかし、リーマンショック後は未就職率が上昇する一方、新卒未充足率も依然として高いままであることから、ミスマッチが拡大していることが分かる。高卒についても、2000年代半ば以降は需要が供給を上回る水準で推移してきたが、2008年以降は需要が急激に落ち込み、未就職率も上昇した。ただし、大卒と異なり、新卒未充足率が大幅に低下しているために、高卒ではミスマッチが縮小していることが分かる18

このように、若年者であっても大卒と高卒では直面している状況が大きく異なる場合があり、雇用対策の実施に際しても対象者にあわせたきめ細かい対応が求められる。

(大学生の大企業志向は和らぐ一方で企業は学生を厳選)

ここまでは、大卒の内定率及び失業率が大幅に悪化したことや、大卒のミスマッチが拡大していることを確認した。ここでは、大卒の求人調査を活用して、大卒におけるミスマッチの状況19を、業種別要因と規模別要因に分けて確認してみよう。

業種別ミスマッチ指標については、90年代半ばから上昇していたが、2000年以降はおおむね横ばい圏内の動きとなっている(第1-2-11図(1))。やや仔細に見ると、最近では2007年をピークに緩やかながら縮小傾向にあったが、2011年3月卒業予定者については若干上昇した。これに対し、規模別ミスマッチ指標は、90年代末から2000年代初めにかけて大幅に改善している。背景には、大卒の若者が大企業志向を弱めたことに加え、大企業による求人のシェアが高まったことが考えられる。その後2000年代半ばにかけて、規模別のミスマッチは拡大を続け、2009年からは拡大テンポが速まっている。中小企業では後継者の確保などの観点から大卒の労働者を採用したいという需要がある一方、リーマンショックによる景気の大幅悪化を受けて学生の大企業志向が強まったことが、こうした指標の動きに反映されていると見られる。しかし、2011年3月卒業予定者については、厳しい就職状況の中、学生の大企業志向が和らいだ結果、規模別ミスマッチが大幅に改善している。ただし、企業規模別の求人倍率を見ると、中小企業(ここでは従業員1000人未満)では2倍を超える一方、大企業(同1000人以上)では1倍を下回っており、依然としてミスマッチが存在している。

それでは、規模別ミスマッチの実態はどうなっているのだろうか。大卒の求人・求職における企業規模別シェアの推移を確認してみよう(第1-2-11図(2))。90年代後半から2000年にかけて、大企業からの求人のシェアが増加を続けたが、2000年代に入ってその動きは止まり、近年ではおおむね2割程度の割合で推移している。一方、大卒側の求職シェアを見ると、90年代末には一時的に中小企業への求職が大企業への求職を上回ったが、その後、2010年3月卒業者までは大企業への求職が増加傾向で推移し、2010年の時点では、大企業への求職シェアが65%程度と、中小企業への求職を大きく上回る状況となった。ただし、2011年3月卒業予定者においては、大企業への求職シェアが55%程度と前年度に比べて大幅に落ちており、このことからも学生による企業規模へのこだわりは、2010年度においては弱くなっているといえる。

一方で、企業は採用に当たって学生を一層厳選するようになっている。2011年3月卒業予定の学生採用に関する企業の選考状況を見ると、10月時点で採用活動を終了したと回答した企業の割合は前年より8%減少し、72%となっている20。その背景として、企業は大卒の正社員の採用に当たり、安易に妥協せずに、企業側が求める能力を持っている学生のみを厳選していることが推察される。企業の新卒採用方針においても、「徹底して質を重視する」と回答する企業の割合が2008年3月卒業の学生採用以降大幅に上昇しており、2011年3月卒業予定者においては2002年3月卒業者以降、最も高い水準となっている(第1-2-11図(3))。この企業側の求める能力と学生の能力の差というものがミスマッチの要因、ひいては内定率が改善しない要因となっている可能性がある。

これまで確認したように若年層の失業率の水準は極めて厳しい水準ではあるが、その要因として学生の大企業志向等による企業別のミスマッチのみならず、企業が求める能力と学生の能力とのかい離も考えられる。雇用対策の実施に当たっては、これらの様々なミスマッチ要因を踏まえ、きめ細かい対応が求められているといえよう。

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