平成11年度

年次経済報告

経済再生への挑戦

平成11年7月

経済企画庁


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第1章 政策効果に下支えされる日本経済

第8節 景気を下支えする財政政策

バブル崩壊後の景気低迷や大規模な景気対策を背景に,日本の財政赤字は深刻化し,98年には国鉄長期債務及び国有林野累積債務の一般会計承継に係る特殊要因を除いてみても,またプライマリー・バランス(国債の利払いを除いた財政収支)でみでも先進7か国中最悪の状況となっている。ストック面でみると粗債務残高の対GDP比はイタリアに次いで大きく,増加を続けている。純債務残高の対GDP比は最も少ないが,国の金融資産は将来取り崩される社会保障基金の積立金や,特殊法人等への出資金・貸付金など,実際には処分困難な金融資産が大部分を占めている(1)。

こうした厳しい財政状況の下,98年度は国も地方も公共投資を積み増し,景気の下支えに努めてきた。政策効果の本格的な発現により,99年に入って公共投資は堅調に推移している。

(景気を下支えする公共投資)

98年4月の「総合経済対策」の決定を受けて,公共事業等の上半期への前倒し施行の促進が行われるとともに,98年度第一次補正予算が6月に成立した。

更に11月に決定された「緊急経済対策」を受け,98年度第三次補正予算が,99年度当初予算と一体のものとして編成され(いわゆる15か月予算),12月に成立した。我が国財政は,99年度末の国及び地方の長期債務残高が600兆円程度,対名目GDP比で約120%にも達すると見込まれるなど,極めて厳しい状況にあるが,このような景気回復に向けた取組みを通じて,公共事業の切れ目ない施行が図られていることにより,公的固定資本形成は98年7-9月期以降前期比プラスとなり,実質GDPも99年1-3月期には6四半期ぶりに前期比プラスに転じるなど,公共投資は景気を下支えする役割を果たしている。

また,公共工事着工の動向をみると,当初予算の抑制等により98年度当初以降前年を下回る動きが続いていた。しかし,上半期への前倒し施行が過去最高のペースで進んだこと等から,その効果が顕在化した9~10月にかけては前年を大きく上回る水準となった。その後やや落ち込んだものの,補正予算などの効果が本格化したことにより,99年1~3月にかけて再び前年を上回る動きとなっている(2)。

公共投資がどの地域において景気を下支えする役割をより強く果たしているかをみるため,バブル崩壊後の景気後退期に当たる91年度から93年度の間において,各都道府県の一人当たり県民所得水準と公共投資の県民所得成長率への寄与度の関係をみた。これによると,所得の低い県ほど景気下支え効果が大きく,所得の低い地域の景気の落ち込みを緩和するような形で景気対策が取られていることが分かる(第1-8-1図)。

(地方財政の現状)

地方財政の現状についてみると,97年度の決算規模(普通会計)は歳入・歳出のいずれも,51年度以降初めて前年度を下回った。

また,公債費負担比率の動向をみてみると(第1-8-2図),公債費負担比率は92年度以降6年連続して上昇しているが,97年度は15.2%となって,これまで(第一次オイルショック後の74年度以降)で最も高かった85年度(14.3%)を上回る水準となるなど(3),財政の硬直化が進んでいる。

なお,地方財政計画による99年度の歳入歳出規模は,地方税が8.3%の減と見込まれており,地方交付税制度が創設されて以来最大の減少率となるなど,歳入面ではかなり厳しい状況がみられるなかにあって,行政経費の抑制を基本としつつ,当面の景気回復に配慮し,前年度比1.6%増となっている。

(最近の地方単独事業の状況)

公的固定資本形成における国と地方の割合をみるとほぼ1対3(97年度,名目ベース)であり,地方分は相当大きなウエイトを占めているが,更にその過半は単独事業となっている。最近の地方単独事業の状況を決算額ベースでみると,特に87年度から92年度にかけては,対前年度比10%を上回るペースで増加していたが,その後は伸びが鈍化してきており,96~97年度では前年度を下回っている(第1-8-3図)。地方の財政状況の悪化に伴って,地方公共団体が独自の財源で任意に実施する単独事業の伸び率が鈍化する傾向があることがうかがわれる。

98年度は「総合経済対策」において,地方公共団体には,国の補正予算に計上された公共事業等の主要な実施主体になるとともに,地方単独事業を自ら追加するという役割が求められた。地方単独事業の追加要請分1.5兆円については,6月議会及び9月議会までで要請分を上回る予算追加計上の対応がなされている(4)。

地方財政を取り巻く状況は依然として厳しいが,景気が低迷するなかで,地方も公共投資の積み増しに努力している(5)。地方の公共投資については,社会資本整備の側面に加えて地方での景気対策の観点からみた効果も無視できないことから,その果たすべき役割は引き続き大きいものがあると考えられる。今後も,社会資本整備を進め地域経済活力の維持に努めるとともに,地方財政危機の克服方策に関する十分な検討を行っていく必要があろう。

(地方自治体の資金調達の円滑化)

公共投資を行う上で,地方債は地方自治休にとって有力な資金調達手段である(6)。金利などに関する地方債の発行条件は国債に準じて決定されており,発行自治体ごとに格差は存在しない。また,地方債は,地方税及び地方交付税を担保とした債務であり,地方財政計画等を通じた地方財政制度により,その元利償還金に対し財源保障がなされているなど,様々な制度が設けられており,これまでデフォルト(債務不履行)を起こした例はない。市場公募地方債の流通実勢には各発行団体間において若干の格差が存在するが,これは発行実績や発行量などの流動性の違い等によるものである。しかしながら,地方財政が悪化するなか,近年,地方自治体の財政状況への市場の関心が高まってきている。

こうしたなかで,自治体の資金調達の円滑化を図るためには,市場の信頼を高めるよう,地方財政の構造改革を進めるとともに,財政状況に関するディスクロージャー(情報開示)を十分に行っていく必要がある。地方の財務内容の実態をより的確に捉えるために,貸借対照表の作成等の企業会計的要素の導入について,これらの導入による利益と費用,及び技術的な問題点等につき幅広い角度から調査研究を行っていくべきであろう。

(期待される公共投資)

国の99年度当初予算においては,極めて厳しい財政状況の下,公共事業関係費について,98年度当初予算に比べ約5%の伸び(「公共事業等予備費」も含めて考えれば10%超の伸び)を確保しており,支出ベースでも99年度は98年度に比べ10%を超える大幅な増を見込んでいる。

また,99年度当初予算の早期成立を踏まえ,政府は99年度上半期末における国の公共事業等の契約済額が,全体として過去最高の前倒しを図った98年度上半期末実績(約13.6兆円)と比較して10%を上回る伸びとなることを目指して,その積極的な施行を図ること等を閣議決定した。加えて,地方公共団体に対しても,99年度上半期における公共事業等の積極的な施行を図るよう要請している。

99年度については,一次及び三次補正を含めた98年度の公共事業の相当部分が99年度に繰り越されたとみられる。99年度においては,上記のように上半期における積極的な施行が図られることになっており,契約については上半期に相当程度進むとみられるが,公共工事には工期の長いものも相当含まれており(第1-8-4図),下半期には上半期発注分も含め事業の実施が進捗するものと考えられることから,公共投資は堅調な推移となることが期待される。


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