第1章 日本経済の動向と課題(第3節)
第3節 財政の現状と課題
本節では、コロナ禍以降、累次にわたり、大型の経済対策・補正予算が策定されてきた中での我が国の財政動向について、国民経済計算(SNA)やこれと整合的な政府財政統計(GFS)に基づき、フロー(収支)とストック(バランスシート)の両面から点検する。これとともに、近年の経済対策・補正予算において、民間投資の呼び水効果を念頭に計上されることが多い企業への投資補助金について、その概要を整理するとともに、中小企業や個人事業主をカバーするクラウド会計データという新たなビッグデータを用いて、補助金の支給状況や受給企業の特徴、受給を経た企業の経営指標の動向について分析する。
1.フローとストックの現状
(過去5年間の補正予算の歳出額の合計は約170兆円に達する)
まず、コロナ禍が始まった2020年度以降の補正予算の状況について振り返る。コロナ禍や物価高への対応として策定された補正予算は、2020年度から2024年度までの5年間で、合計8度に及び、その歳出の合計は累計で約170兆円という巨大な規模に達している。
具体的には、2020年度においては、2020年4月に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえ、医療提供体制の強化を含む感染拡大防止策や、感染症の甚大な影響を受ける事業者に対する資金繰り支援や雇用維持支援、さらには家計への一人一律10万円の特別定額給付金等を盛り込んだ「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(令和2年4月20日閣議決定)1を実施するため、25.7兆円を計上した第一次補正予算が成立した。これに続き、同年6月には、追加的に事業継続支援や雇用維持支援、医療提供体制の強化等を盛り込んだ31.9兆円の第二次補正予算が成立した。2021年1月には、新型コロナウイルスワクチンの接種体制の整備を含む感染拡大防止策、雇用維持支援や中堅・中小企業の経営転換支援、防災・減災、国土強靱化の推進等を盛り込んだ「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」(令和2年12月8日閣議決定)2を実施するため、15.4兆円を計上した第三次補正予算が成立した。続く2021年度においては、2021年12月に、ウィズコロナの下で、需要喚起による社会経済活動再開の支援や、成長と分配の好循環を実現していくための賃上げの推進などを盛り込んだ「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年11月19日閣議決定)3を実施するため、36.0兆円の2021年度補正予算が成立した。このように、2020年度から2021年度にかけては、コロナ禍への緊急対応やコロナ禍後の持続的な成長の実現を目指した政策対応が図られた。
これに対し、2022年度は、まず、2022年5月に、ロシアのウクライナ侵略に端を発する原油価格高騰など物価上昇による国民生活への影響を踏まえ、燃料油における激変緩和策などを盛り込んだ「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」(令和4年4月26日原油価格・物価高騰等に関する関係閣僚会議決定)4を実施するため、2.7兆円の2022年度第一次補正予算が成立した。2022年12月には、原材料価格の上昇や円安が進んだ影響等による物価高の影響を克服する施策を含む「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」(令和4年10月28日閣議決定)5を実施するため、28.9兆円の第二次補正予算が成立した。続く2023年度においては、2023年11月に、物価高により厳しい状況にある生活者・事業者を支援する施策や、成長力の強化に資する国内投資促進策等を盛り込んだ「デフレ完全脱却のための総合経済対策」(令和5年11月2日閣議決定)6を実施していくため、13.2兆円を計上した2023年度補正予算が成立した。2024年度は、2024年12月に、賃金上昇が物価上昇を安定的に上回る経済の実現、賃上げと投資がけん引する成長型経済への移行を確実なものとするための最低賃金の引上げに向けた支援や住民税非課税世帯への3万円給付等を盛り込んだ「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」(令和6年11月22日閣議決定)7を実施するため、13.9兆円を計上した2024年度補正予算が成立している(第1-3-1表)。
(一般政府の収支は、コロナ禍前後で支出が高止まる一方、税収が増加し、赤字幅が縮小)
次に、以上のような大規模な補正予算編成を経た財政の状況を確認するため、国の一般会計ベースではなく、国民経済計算(SNA)に基づき、中央政府(一般会計のほか、特別会計の多くや一部の独立行政法人等を含む。)、地方政府(普通会計のほか、一部の公営事業会計、地方独立行政法人の一部等を含む。)、社会保障基金(国の特別会計うち年金特別会計や労働保険特別会計、地方公共団体における医療・介護保険事業等を含む。)からなる一般政府部門の収支について長期的な動向を示す(第1-3-2図8)。まず、一般政府全体の支出における長期的な拡大傾向を形作っているのは、社会保障基金における社会給付であり、我が国において人口高齢化が進行する中で、医療費や介護費、年金給付がほぼ一貫して増加傾向にあることを示している。社会保障基金の収入面では、年金・医療・介護等の社会保険料(社会負担)と中央政府や地方政府からの国庫・公庫負担の繰入(交付金)から成り、双方とも増加傾向にある中で、社会保障基金としての収支は長期的にはおおむね均衡している状況にあるが、厚生年金の積立金の運用実績(その他収入)に応じて年々の振れはあり、近年は小幅な黒字傾向となっている。なお、社会負担については、基本的には社会保険被保険者の賃金報酬に連動するものであるが、2004年の年金法改正により厚生年金保険料率の上限を18.3%に固定することとし、2004年10月から2017年10月にかけて厚生年金保険料率を段階的に引上げたこと等により、賃金・俸給に対する比率は22%程度から30%程度に上昇した。その後は、同比率は30%前後で安定的に推移している(付図1-8)9。
こうした社会保障基金を除く中央政府と地方政府についてみると、中央政府は、恒常的に財政収支の赤字が続く中で、2000年代後半の世界金融危機による税収減や2020年のコロナ禍といったショック後の経済対策の実施による支出増加を通じて、一時的に赤字幅が拡大した後、経済の回復に伴う税収増加等により赤字幅の縮小がみられるという状況にある。一方、地方政府については、地方税収や国からの地方交付税交付金や公共事業(補助事業)の国庫負担金等の交付金といった収入と支出がおおむね相殺する形で、収支はほぼ均衡した状態が続いている。
(日本の政府支出のうち、臨時的な政策経費はコロナ禍前水準よりも高止まり)
以上の財政収支の長期的な動向を踏まえた上で、近年のコロナ禍以降の財政状況について、主要先進国との比較を行いながら振り返りたい。まず、一般政府の支出額の名目GDP比について、主要先進国の状況をみたものが第1-3-3図である。コロナ禍前後の状況として、2019年から2023年への変化を比較すると、他の主要国では+1.6%ポイント~+5.6%ポイント上昇している中で、日本は+3.4%ポイントの上昇となっている。一方、コロナ禍への対応等の各種の臨時的な政策経費が含まれると考えられる「その他の経常支出」の動向をみると、日本の2019年から2023年の伸びは+1.9%ポイント程度と他の主要国の伸び(0~+0.9%ポイント程度の範囲)を上回っていることが分かる。これは、我が国の場合、2023年5月に新型コロナウイルス感染症の5類感染症への移行が行われるなど、他国よりもコロナ禍からの脱却が遅れたことにより関係支出が継続されたことに加え、2022年2月のロシアのウクライナ侵略による資源・食糧輸入価格の高騰を起点に始まり、為替レートの円安が進んだこともあいまって生じてきた物価上昇に対し、国民生活への影響を緩和する観点から、エネルギー価格への補助金や各種給付金が実施され、かつこれらが継続ないし断続的に実施されていることが影響している。
(家計や企業への移転的支出は、エネルギー価格高騰対策を中心に高止まり)
こうした点をより詳細に確認するために、日本におけるコロナ禍前からの政府の移転的支出と、家計・企業部門の移転的受取の推移と変化をみてみたい(第1-3-4図)。まず、一般政府の移転的支出について、2019年度を起点とした各年度の変化をみると、医療・介護給付費や年金給付費については、高齢化の進展の中で着実に増加している一方、臨時的な支出による変動を反映している「その他の経常移転」は、一人10万円の特別定額給付金や事業継続支援のため実施された持続化給付金10等の影響で2020年度に大きく増加した後、2021年度以降縮小している。しかし、「その他の経常移転」は、2023年度時点においても、2019年度対比で5兆円弱上回った状態にある。これは、2023年度においても、物価高対策のために計上された物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金などの給付措置が影響している。このほか、「社会扶助給付」も2019年度対比で2兆円程度増加した状況が続いているが、同じく2023年度から2024年度にかけて実施された住民税非課税世帯への世帯当たり10万円給付などの物価高対策が影響している。「資本移転」についても、規模は限定的ながら、2019年度対比では高止まっており、後述する企業向けの各種投資補助金の支出が影響しているとみられる。また、ここ数年になって規模の拡大が顕著であるのが「補助金」であり、主な背景として、2022年以降はガソリン等の燃料油補助事業、2023年以降は電気・ガス代軽減支援事業が影響している。
次に、受取側である家計や企業側から、コロナ禍前後の移転的受取の推移を確認する。SNAにおいては、家計や企業の経常移転や資本移転の受取について、政府からの移転分を特定することができないものの、2019年度からの変化分としては、政府移転分の動向を近似的に表しているものと仮定して議論する。家計については、上述と同様に、高齢化の進展の中で、医療・介護費等が逓増しているほか、2020年度の特別定額給付金の受取により、「その他の経常移転」が大きく増加した後、2023年度にかけてはコロナ禍前の水準に近づいている。一方、近年は、住民税非課税世帯に対する給付の受給等により「社会扶助給付」が増加している。企業部門については、コロナ禍初期は、「その他の経常移転」がコロナ禍前水準から大きく増加した後、徐々に縮小している。これは、事業継続支援策である持続化給付金や飲食店等への時短協力金11、雇用維持支援策である雇用調整助成金12等の受取の「その他の経常移転」の増減を反映している。ただし、「その他の経常移転」は、2023年度時点でもコロナ禍前に比べて上回った状態にあり、これは、前述のとおり、物価高に対応した経済対策で講じられた各種の補助金の一部が計上されているためと考えられる。また、ここ数年は「その他の経常移転」に代わり、「補助金」の受取が拡大しているが、これは上述のとおり、燃料油補助事業や電気・ガス代軽減支援事業の実施による13。投資補助金を含む資本移転も金額規模は限定的であるものの、コロナ禍前より増加した状態が続いている。このように、コロナ禍対応としての臨時的な政府の移転的支出は2023年度にかけては平時化した一方、2022年度以降は、エネルギー等の価格高騰に対する対策としての臨時的な移転支出が拡大し、結果として、コロナ禍前を上回る臨時的な支出が継続していることが分かる。
(日本の一般政府収入GDP比は米国に次いで低いが、税収を中心にコロナ禍後は上昇)
次に、一般政府の収入(税収と社会保障負担収入)の名目GDP比について、主要先進国の動向と比較する(第1-3-5図)。まず、総額をみると、日本は、2000年代半ば頃までは米国と同様、先進国の中では低位であったが、それ以降、少子高齢化が急速に進行する中、長期的な給付と負担のバランスを取るため、2017年にかけて厚生年金保険料の段階的な引上げを実施したこともあって、名目GDP比が上昇し、欧州各国よりは低位である一方、英国と同程度で推移していることが分かる14。税収と社会保障負担収入を分けてみると、社会保障負担収入は、上述と同様、2000年代半ばからの上昇が顕著であり、直近では欧州各国と同程度となっている。一方、税収については、日本は、主要先進国中で最も低位であったが、近年は上昇し、欧州各国や英国より低位の状況は変わらない一方、米国並みの水準となっている。税の内訳として、個人所得税、法人所得税、間接税15別にGDP比をみると、日本は、法人所得税収のGDP比が諸外国対比で高い一方で、個人所得税収は低く、間接税収は、連邦単位で付加価値型税等を導入していない米国を上回る一方、欧州各国や英国よりは低位で推移している。
その上で、近年のコロナ禍前後の動きとして、2019年から2023年の税収GDP比の変化をみると、日本は2%ポイント程度上昇しており、英国に次いで主要先進国中で上昇幅が大きい。内訳をみると、法人所得税収と間接税収のGDP比の上昇幅が相対的に大きいことが分かる。法人所得税収は、各国共にGDP比が上昇しているが、日本の特徴としては、コロナ禍からの回復過程で、為替レートの円安進行もあいまって、企業収益が堅調に増加していることが影響していると考えられる。間接税収については、GDP比が1%ポイント前後低下したドイツやフランス16を除く各国ではGDP比がほぼ横ばいであるのに対し、日本は、2019年10月の消費税率の引上げもあって上昇している。個人所得税収のGDP比の上昇幅は、国によってばらつきがあるが、日本の上昇幅は諸外国対比では平均程度となっている。
ここで改めて、我が国の税収の名目GDP比の変動について、税目別の寄与を含めて確認する(第1-3-6図)。例えば、2000年代後半の世界金融危機後は、法人所得税収を中心に、税収GDP比が大きく低下した後、経済の回復に伴い上昇するなど、法人所得税収の変動が最も大きい。個人所得税収も、法人所得税収ほどではないものの、経済状況に応じた変動が相応にみられる。このように、これらの税収が含まれる国民経済計算上の所得・富等に課される経常税については、自動安定化機能が内包されていることが確認できる。これに対して、消費税については、消費税率の引上げが行われた1997年度以降の数年、2014年度以降の数年、2019年度以降の数年において、税収GDP比が大きく高まっているが、それ以外の期間については、相対的に安定的に推移している。ドイツやフランス、英国といった欧州各国では付加価値型税収のGDP比はコロナ禍の前後(2019年と2023年)の比較において大きな変動がないことからも、消費税は安定財源としての性格を有していることが確認される。
このように、一般政府の収入面では、2019年10月の消費税率引上げによる増収効果のほか、コロナ禍からの経済の回復や為替レートの円安進行の中で企業収益が堅調に推移する下で法人所得税収が大きく増加し、中央政府を中心とした財政収支赤字がコロナ禍前の水準に回帰しつつあることに寄与している。一方、支出面では、政府の臨時的な移転支出は、累次の補正予算によるコロナ禍への対応を通じて大きく拡大した後、平時化しつつあるが、エネルギー補助金など物価高への対応が講じられる中で、依然としてコロナ禍前の水準を上回っている。
(時価評価でみた一般政府の正味資産は、実物資産や金融資産の評価額の増加により改善)
次に、一般政府部門の期末貸借対照表(バランスシート)について、「国民経済計算」等を基に、実物資産(非金融資産)や金融資産・負債を統合した形で、コロナ禍前後の状況や変化を比較する。「国民経済計算」等に基づく第1-3-7図によりバランスシートを確認するに当たっては、以下の点に留意すべきである17。第一に、資産や負債は簿価ではなく時価で評価されている点である。例えば、社会資本ストックのような固定資産については、再取得価格で評価されるため、物価上昇局面では資産額が拡大することになる。また、国債等の債務証券(金融資産、負債)の場合は、発行残高の額面ではなく、金利の変化に応じたその時点の債券価格で評価された市場価値となる。第二に、第1-3-7図においては、一般政府部門間の資産・負債保有ポジションの相殺処理(consolidation)がなされているという点である18。例えば、社会保障基金が国債を保有している場合には、中央政府の負債と社会保障基金の資産に同額が存在するが、一般政府部門としては、これらをネットアウトして記録している。
その上で、一般政府部門のバランスシートを確認すると、コロナ禍前の2019年末時点から直近時点の2023年末にかけて、資産・負債共に大きく拡大し、資産側では、実物資産が2019年末の783兆円から2023年末の875兆円と92兆円、金融資産は572兆円から733兆円と161兆円拡大し、負債側も1,258兆円から1,349兆円と90兆円の拡大となっている19。結果として、総資産と負債の差額を示す正味資産は2019年末の97兆円から2023年末の259兆円と162兆円拡大している。このように、累次の補正予算における国債発行の増額の一方で、正味資産は増加しているが、これは主には、上記の時価評価が影響している。具体的には、実物資産の増分の92兆円の大宗である79兆円はこの間の固定資産に係るデフレーター(建設工事費等)の上昇や地価の上昇によるキャピタルゲインに相当する20。また、金融資産においても、政府部門が保有する株式や対外証券の値上がり益(為替レートの円安が進んだ影響を含む。)が大きい。
(一般政府の金融資産残高は、主に、対外証券投資のキャピタルゲインにより改善)
次に、一般政府の金融資産・負債における変化とその要因について、より詳細に、内訳部門の動向を含めて確認する。第1-3-8図は、前掲第1-3-7図と同様、一般政府内の相殺処理後かつ時価評価に基づく金融資産・負債額であり、年度末値をみたものである21。まず、一般政府部門全体をみると、2019年度末から2023年度末にかけて、負債のGDP比は、2020年度末にかけて一旦拡大した後、2023年度末には、2019年度末と同程度の規模に近づく一方、金融資産のGDP比が大幅に上昇しており、結果、金融資産負債差額のGDP比は、▲125%から▲93%へと、マイナス幅が31%ポイント縮小している。これは、負債面では、長期金利の上昇の下での国債や地方債等の時価評価額の減少、資産面では「その他の金融資産」、具体的には、以下で述べる対外証券投資におけるキャピタルゲインの増加等によるものである。
次に、内訳部門のうち中央政府をみると、おおむね一般政府全体と同様の動きであるが、2019年度末から2023年度末にかけて、負債は、国債発行の増加もあり6%ポイント上昇している一方で、金融資産は、主に「その他金融資産」(対外証券投資等)の拡大により15%ポイント上昇し、金融資産負債差額のGDP比が▲153%から▲144%とマイナス幅が9%ポイント縮小している。対外証券投資の増加は、外貨準備高の増加による。次に、地方政府は、金融資産のGDP比は2019年度末から2023年度末でほぼ横ばいである一方、負債のGDP比が借入れや地方債を中心に低下したため、金融資産負債差額のGDP比が▲14%から▲10%に4%ポイント改善している。社会保障基金については、負債が限定的22な中で、金融資産が「その他の金融資産」や「株式・投資信託」を中心に増加し、金融資産負債差額のGDP比は、43%から61%に18%ポイント改善している。これは、社会保障基金に含まれる公的年金の保有する国内外の株式・債券の時価評価額の増加による。
このように、主に、外貨準備高や公的年金の運用資産の増加が、一般政府部門の金融資産負債バランスを改善させているが、中央政府と社会保障基金のそれぞれの「その他の金融資産」の変化を、フローの投資額の増加による部分と為替レートの円安が進んだ影響を含む値上がり益による部分(キャピタルゲイン)に分けてみると、2019年度末から2023年度末にかけての増加分のほとんどはキャピタルゲインによるものであり(第1-3-8図(5)、(6))、この間の国内外の株価の上昇や為替レートの円安進行による資産の円建て評価額の増大が影響していることが分かる。なお、中央政府と社会保障基金の金融資産の2019年度末から2023年度末にかけての増加のうち、キャピタルゲインによる部分(2020年度~2023年度のキャピタルゲインの累計)はそれぞれ25%程度、42%程度である一方、利子や配当のインカムゲイン(2020年度~2023年度の累計)は2019年度末の金融資産額対比で、中央政府は5%程度(年率の収益率として1%強の換算)、社会保障基金は8%程度(同2%程度の換算)となっている。このように、一般政府部門の金融資産負債残高の改善は、為替レートの急激な円安進行等に伴う値上がり益によるものであることに留意する必要がある。また、適切な資産負債管理の観点から、インカムゲインとして収益性をより高める運用も重要と考えられる。
(額面ベースの一般政府総債務GDP比は高水準で推移)
ここまでは、資産・負債について時価ベースの評価額の動向をみてきたが、負債、とりわけ債務証券については、国債等の債務は満期到来時には額面金額で償還を行う必要があることを踏まえ、額面ベースでの一般政府債務の動向も確認したい。2000年代後半の世界金融危機に対する、統計面での教訓として、国際機関を中心に、経済・金融・財政の諸データについて、国際比較が可能で、より頻度(周期性)と速報性(適時性)が高いデータ整備が必要という議論がなされ、その結果として、2012年にはIMF理事会において「特別データ公表基準プラス(SDDSプラス)」の創設が合意された。SDDSプラスは、財政面に関しては、一般政府の総債務(General Government Gross Debt)と一般政府の収支(General Government Operations)が対象となり、前者については各四半期末のデータを4か月以内に、後者については各四半期のデータを12か月以内に公表することが求められている23。このうち、一般政府総債務については、債務証券や借入等から成り、一般政府部門内の相殺処理を行うとともに、債務証券については時価評価ではなく額面で表示することが求められている24。ここで、SDDSプラスに基づく一般政府総債務の名目GDP比について、コロナ禍前の2019年12月末以降の動向を、米国、英国、ドイツ、フランスと比較する(第1-3-9図)。GDP比の水準としては、2024年12月末時点で、日本は219%と突出して高く、他の主要国と同様に、上昇している。こうした一般政府総債務について、同じくSDDSプラスのデータから海外債権者保有比率をみると、英国で低下がみられる一方、その他はおおむね横ばいであり、日本は11%程度と他国と比べて低位にある。
以上のように、コロナ禍前後の一般政府の貸借対照表をみると、資産は円安進行を含む値上がり益により増加し、正味資産や金融資産・負債残高のポジションも改善している一方で、額面ベースに基づく債務残高の名目GDP比については高止まりが続いている25。なお、政府の財政状況を評価する際には、貸借対照表上に記載されている資産のうち、道路やダムなどの非金融資産は、流動性や市場性に乏しく、売却が困難であり、金融資産についても、年金積立金などは見合いの負債が存在する点に留意が必要である。
引き続き、債務残高対GDP比を、まずはコロナ禍前の水準に向けて安定的に引き下げることを目指し、経済再生と財政健全化を両立させる歩みを更に前進させることが重要である。また、2025年に入って以降、需給緩和から超長期国債の利回りが急速に高まる局面がみられていること(コラム1-5参照)も踏まえ、国債需給の悪化等による長期金利の急上昇を招くことのないよう、国内での国債保有を一層促進するための努力を引き続き行うことが重要である。
コラム1-5 我が国の長期金利、超長期金利の動向について
本論で触れたとおり、2025年に入って以降、グローバルに長期金利の上昇圧力がかかる中、我が国においては、特に4月以降、30年債など超長期国債の金利が急速に上昇する局面があった(コラム1-5図(1))。本コラムでは、2025年以降の金利動向の背景や国債市場における政府・日本銀行の取組について整理する。
我が国の国債のイールドカーブをみると、2025年1月24日に日本銀行が政策金利(無担保コールレート(オーバーナイト物))の誘導目標を0.25%程度から0.5%程度に引き上げて以降、緩やかな上昇基調で推移してきた(コラム1-5図(2))。また、2024年8月以降、日本銀行が国債買入れの減額を実施中であることは、イールドカーブ全体の上昇要因となっていた。2025年3月に入ると、伝統的に財政規律を重んじるドイツが国防費増額に向けて債務抑制策の緩和やインフラ投資のための基金創設の方針を示したこと等を受けて、国債増発への警戒感から欧州金利が急騰し、グローバルな債券売りが発生した。この動きは国内金利に波及し、長期金利(新発10年国債利回り)は、2009年6月以来15年9カ月ぶりに1.5%を超えた。くわえて、2025年春季労使交渉における堅調な賃上げの見込みが、市場における日本銀行の追加利上げ観測につながり、2年債以降のイールドカーブを一段と押し上げた。
同年4月に入り、米国第二次トランプ政権による相互関税が発表されて直後は、投資家のリスク回避姿勢が高まり、日本銀行の追加利上げ観測の後退もあって、長期金利は大きく低下した。これに伴い、30年債等の超長期国債の金利(以下「超長期金利」という。)も大きく低下したが、その後、リスク回避姿勢がやや緩和する下で長期金利が上昇したのに対し、超長期金利はより大幅に上昇することとなった。その後、2025年7月時点でも、超長期金利は高止まりしている状況にある(コラム1-5図(3))。特に2025年3月以降、財政に対する市場の注目、米国による関税政策によって同国でインフレ圧力が高まることへの警戒、それに応じた市場の中央銀行の金融引締め観測は、グローバルに金利上昇の圧力となったが、我が国においては、特に30年債などの超長期金利の上昇が著しく、イールドカーブがスティープ化した点が特徴的であった。これには、我が国特有の要因があったと考えられる。
第一に、日本銀行が国債買入れ減額を進める中、主要な投資家である生命保険会社等の需要も減少するという構造的な需給緩和要因により、投資家から高いプレミアムを求められることとなったことである。生命保険会社においては、2026年3月末適用予定の「経済価値ベースのソルベンシー規制」に対応するため、特に2020年頃以降、金利変動による運用リスクに対処するデュレーション・マッチングを目的とした超長期国債の旺盛かつ安定的な買いがみられていたが、こうした対応が2024年度でほぼ終了し、超長期国債の需給が緩んだ状況にあったとみられる。第二に、こうした需要の状況の下で、一部の国内・海外投資家においては、超長期国債を買い建て、スワップで固定金利を払うポジション(アセット・スワップ)や、超長期国債を買い建てる一方で、より残存年限の短い債券を売り建てたポジション(フラットナー)をとっていたとされ、こうした投資家が、米国の相互関税発表をきっかけにこれらを巻き戻したことが、超長期金利が急上昇した一因とも言われている。こうした超長期ゾーンにおいては、他の年限と比べて市場参加者が少なく取引量も少ないため、一定の売りが発生すると価格が急落(金利は上昇)しやすい特徴がある。また、債券価格の急落は、リスク管理の観点からリスク量を落とす(債券を売却する)ことにつながり、それがまた債券価格を下げるという循環的な側面もある。
こうした状況の中、政府(財務省)は、2025年6月23日、2025年度の国債発行計画の変更を発表し、総発行額を維持しつつ、20年債、30年債、40年債の超長期国債の発行額を減額するとともに、2年債、短期国債の増額及び個人向け販売分の上振れ実績を反映することとした。国債の安定的な消化という観点からは、需給構造を常に注視しながら、市場と積極的に対話をすることが今後も重要と言える。なお、この間、日本銀行は、6月16・17日に行われた金融政策決定会合において、国債市場の安定に配慮した形で市場機能の改善を進めていけるよう、2026年4月からの国債買入れの減額ペースを四半期ごとに4,000億円から2,000億円へとペースを緩めることを決定している。
2.コロナ禍以降の中小企業等への投資補助金の実績と効果
(各種支援策はデータに基づく事後的な効果の検証が重要)
上述したように、コロナ禍対策や物価高対策を目的として補正予算を措置することにより、家計や企業への支援策を講じたことは、これらの政策が実施されなかった場合と比べ、経済活動の下支えに寄与したものと考えられる。例えば、燃料油や電気・ガス代軽減支援策は、家計や企業が直面するエネルギー価格を直接的に抑制するものであるという意味で、政策効果は可視化されやすい26。これに対して、各種の給付金や補助金の効果については、これを受給した家計や企業における消費や投資の意思決定によって効果が変わるため、推計を含む事後的な検証によって効果が推量されることとなる。
例えば、2020年度のコロナ禍への対応の一環として実施された一人10万円の特別定額給付金については、消費の喚起を目的として講じたものではないが27、内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2023)が、ビッグデータである家計簿アプリデータを用いて検証した結果によれば、平均的には給付額の22%程度が消費支出に回り、相対的に低所得の世帯においては3割程度が消費支出に回ったとされている。これは、分析手法は異なるものの、過去の家計向け給付金について検証された結果とおおむね整合的である(第1-3-10表)。また、コロナ禍において実施された持続化給付金や時短協力金、雇用調整助成金といった中小・小規模事業者を特に念頭においた事業継続支援策や雇用維持支援策については、内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2024)において、法人銀行口座データというビッグデータを用いることにより、①支援策を受給した企業は平均的に売上高の水準が低く、人件費の水準が高いなど、事業継続や雇用維持という観点から、的確な対象に支給されていたこと、②支援策を受給した企業は、売上高が減少する中で、人件費や従業員数が有意に減少せず、支援策が雇用を下支えした可能性があることを検証している28。
(コロナ禍以降、中小企業等に対する投資補助金が積極的に実行されてきた)
これに対し、近年の経済対策・補正予算において盛り込まれることが多い企業に対する投資補助金については、十分な政策効果の検証がなされているとは言えない。こうした投資補助金は、それぞれの政策目的に照らし、あらかじめ示された要件を満たす投資等の支出に対し、その金額の一定割合を補助するというものが多い29。このため、これらの投資補助金は、民間企業の投資に対する呼び水として機能することが期待されているものである。コロナ禍への対応として実施された投資補助金について、代表的なものとしては、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上のため、ITツール導入を支援する「IT導入補助金」、販路開拓や生産性向上に取り組む小規模事業者を支援する「持続化補助金」、新市場進出や事業・業種転換、事業再編、国内回帰等の事業再構築に中小企業等を支援する「事業再構築補助金」などがあり、このほか、中小企業・小規模事業者等が革新的新製品・新サービス開発等に必要な設備投資等を支援する「ものづくり補助金」も実施された。予算規模としては、2020年度から2024年度までの5年間で約2.4兆円以上が計上された「事業再構築補助金」をはじめ、他の三つの補助金と合わせて、同5年間で累計約3.8兆円(国庫債務負担行為を含めると約4兆円)の予算が計上されている。小規模事業者向けの「持続化補助金」は補助金額が50万円となっているほか、中堅企業も対象とした「事業再構築補助金」では補助金額が最大で5,000万円を超えるなど、支援金額の規模は様々であるが、補助の対象となる主な支援対象としては、機械機器やシステム構築、ソフトウェア購入など、有形や無形の固定資産(土地・建物は除く)に対する投資であることは各補助金でおおむね共通している(第1-3-11表)。
(クラウド会計データによると、投資補助金は2022年度にかけて支給が拡大)
こうした企業向けの投資補助金について、投資の呼び水効果がみられたのかの検証は容易ではないが、新たなビッグデータである「クラウド会計データ」を用いて、可能な限り分析を試みたい。クラウド会計データとは、具体的には、中小企業・小規模事業者等に対して、金融機関口座やクレジットカード等の取引データと連携し、仕分けや記帳を効率的に行うクラウドサービスを提供する民間企業が有する各企業等の会計データである30。クラウド会計サービスは比較的近年に利用が拡大しているが、今回使用したクラウド会計データは、前述したものづくり補助金、事業再構築補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金につき、2021事業年度に受け取った企業と2019~2023事業年度に受取記録がない企業に限定して集計している。この対象企業数の時系列的な変化について、資本金階級別や業種別の動向を含めてみると(第1-3-12図)、2019年中に急速に対象企業が増加し、2020年以降はおおむね安定的に推移しているほか、資本金階級別には、1,000万円未満の中小・零細企業が全体の7割を占めていることなどが分かる31。
このクラウド会計データにおいては、売上高や営業利益、有形固定資産額といった会計データに加えて、ものづくり補助金、事業再構築補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金を企業が受給したかどうかの情報が得られる。これらの補助金を受給した企業32の件数及びその金額の推移を年度別33、月別に示したものが第1-3-13図である。
まず、受給件数については、全体として、2021年度後半から2022年度前半にかけて大きく増加し、補助金種類別にみると、小規模事業者持続化補助金やIT導入補助金が多くを占めている。一方、受給金額合計については、制度上の補助金支給額が大きい事業再構築補助金が大宗を占める形で、2022年度末頃がピークとなっており、次いでものづくり補助金、IT導入補助金の受給額が多くなっている。
次に、コロナ禍において補助金の受給が増加した、2021事業年度34における各月について、補助金を受け取った事業者の業種構成35をみると、受給件数として最も大きいのはその他のサービス業であり、次いで製造業、情報通信業、小売業の順となっている。その他のサービス業が多いのは、前掲第1-3-12図のように、同産業に属する企業が、ここで使用したクラウド会計データの対象事業者に占める割合が4分の1強を占めることに起因すると考えられるが、製造業や情報通信業が比較的多い点については、それぞれ、ものづくり補助金、IT導入補助金の制度上、親和性が比較的高い業種であることが背景にあると考えられる(第1-3-14図(1)、(2))。また、資本金階級別にみると、300万円未満の零細企業の受給件数が最も多く、資本金階級が高くなるほど件数は減少している。受取金額でみると、300~500万円未満が最も多く、次いで1,000~2,000万円未満が多くなっている(第1-3-14図(3)、(4))。
(補助金受給企業は、相対的に受給前の利益率が低く、受給以降の固定資産の伸びが高い)
続いて、2021事業年度において各種補助金を受給したグループと受給していないグループに分け、それぞれについて、売上高や有形固定資産等の動きにどのような違いがあるかを確認する(第1-3-15図)36。まず、補助金あり・なしそれぞれのグループについて、一社当たり平均の売上高営業利益率を比較すると、全体として補助金ありのグループは補助金なしのグループに比べて、利益率が低い、又はマイナス幅がより大きい傾向があることが分かる。特に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が厳しかった2020年においては、利益率のマイナス幅が補助金ありのグループの方が大きく、コロナ禍の影響が相対的に大きかったことが示唆される。次に、有形固定資産について、同様に一社当たり平均の前年比伸び率をみると、売上高営業利益率とは逆に、補助金ありのグループの方が補助金なしのグループに比べて、全体として伸びは高く推移している。補助金ありグループの事業者が補助金を受給した2021年1月~2022年10月の期間でもこうした傾向が成り立っており、コロナ禍で売上高営業利益率が落ち込んだ事業者が、補助金の申請を行い、補助金受給によって設備投資が促された可能性が示唆される。さらに、企業規模による違いをみるために、資本金別に、補助金あり・なしグループ別に経営指標を確認すると、補助金ありグループの方が総じて売上高営業利益率が低いことが分かる。有形固定資産の伸び率については、資本金500~3,000万円では補助金なしグループの方が高いが、500万円未満や3,000万円~1億円企業では補助金ありグループの方が高くなっており、ばらつきがみられる。
次に、今回のクラウド会計データにおける対象企業データのばらつきによる影響をできるかぎり除去した形で状況を確認する観点から、パーセンタイル値や中央値の推移を確認してみたい(第1-3-16図)。売上高の前年比について、上下10%の値を除いたパーセンタイル値10-90%点でみると、補助金ありグループの方が、補助金なしグループに比べて、分布がより広い傾向にあり、パーセンタイル値25-75%点でみても同様に、前者が後者よりも分布がやや広くなっている。こうした傾向は固定資産37の伸び率についても同様である。
補助金あり・なしの各々のグループの売上高と固定資産の増加率の中央値を抽出すると、まず売上高の前年比については、補助金ありのグループは補助金なしのグループと比べて、2020年における落ち込みが大きく、その分2021年の回復が大きくなっている。その後も補助金ありのグループは補助金なしのグループよりも伸び率は総じて高く推移している傾向がある。固定資産の伸び率については、補助金なしのグループは、期間中は、前年比マイナス3~4%程度で横ばい傾向で推移しているのに対して、補助金ありのグループは2020年から2021年にかけてマイナス圏内で推移した後、2021年中頃から2022年前半にかけて前年比プラスとなっていることが確認される。固定資産のうち有形固定資産については、補助金なしグループは固定資産の場合と同様に前年比マイナスが一貫して続いている一方、補助金ありのグループもマイナス圏で推移している点は変わりがないが、2021年前半から2022年中頃まではマイナス幅が小さいことが分かる。
以上から確定的な傾向を見いだすことは難しいが、補助金ありグループは経営指標のばらつきが大きく、一部の対象企業の影響により、前掲第1-3-15図でみたように、固定資産増加率が、補助金なしグループよりも高く推移している可能性がある。ただし、中央値でみると、補助金ありグループの事業者は、補助金受給前の2020年は売上高の減少が大きく、補助金受給期間が含まれる2021年~2022年の期間において、固定資産の伸び率が相対的に高い(あるいはマイナス幅が小さい)ことから、補助金について、一定の投資誘発効果はあった可能性が推察できる。
(コロナ禍以降の中小企業等への投資補助金には一定の呼び水効果をもたらした可能性)
以上から、概して言えば、補助金ありグループの事業者は、①売上高や営業利益が補助金なしグループ企業に比べて低い、②固定資産の伸び率は、補助金受給期間において、補助金なしグループと比べて増加している、という状況がみてとれる。この点をより詳細にみるために、試みとして、企業を業種別に分け平均値をとり、月次の疑似パネルとした上で、回帰分析により投資補助金の効果を検証する38。具体的には、固定資産の前年同月差を被説明変数とし、営業利益の前年同月差、業種ダミー、年月ダミーに加え、投資補助金を受給した場合を1とする補助金受給ダミーを設定した。結果は第1-3-17図のとおりであるが、これをみると、補助金受給ダミーはプラスで有意となり、投資補助金は一定の投資誘発効果があった可能性を示唆している。ただし、ここでの分析は、業種別に企業を分けて行った疑似パネル分析の結果であることから、結果については一定の幅を持って解釈する必要がある。投資補助金については、コロナ禍中に限らず、過去の経済対策でも一定程度盛り込まれてきた施策であり、今後、限られた財源の下で、より効果の高い支援を実施していく観点からは、より詳細なパネルデータによる分析等を通じて、投資補助金の呼び水効果を検証していくことが重要であると言える。