第2章 賃金上昇の持続性と個人消費の回復に向けて
2024年度の賃金は、33年ぶりの賃上げ率となった春季労使交渉や、過去最大の上げ幅となった最低賃金の引上げ等の効果もあって、フルタイム労働者、パートタイム労働者共に、遡及可能な1994年以来最高の賃上げ率となった。2025年も、2024年を上回る春季労使交渉の賃上げ率が実現するなど、賃金上昇のモメンタムは続いている。一方、第1章でもみたように、個人消費は、こうした高い賃上げ率を始め雇用・所得環境の改善の動きが続く中で持ち直しの動きは続いているものの、物価高等を背景に消費者マインドが弱含んでいることもあり、所得よりも緩やかな伸びにとどまっている。また、労働市場は過去30年で大きく変容しているものの、労働需給のミスマッチは根強く存在し、賃金をシグナルに円滑な労働移動が進むという市場のダイナミズムが十分に機能しているとは言えない。
こうした観点から、本章では、持続的な賃金上昇が定着し、個人消費の回復がより力強いものとなるための課題について議論する。第1節では家計の消費に焦点を当て、本報告のために内閣府が実施した調査結果に基づき、賃金・所得の伸びに比して個人消費の回復が力強さを欠いている背景について多面的に検証する。第2節では、賃金に焦点を当て、賃金上昇の広がりを確認するとともに、賃上げの実績に比べ、賃金上昇の実感が広がらない背景を探る。さらに、賃金上昇の持続性を占う意味で、過去、日本の賃金上昇を抑制してきたとされる賃金の硬直性について、現時点においてどの程度解消が進んでいるのかを分析する。最後に、第3節では、労働市場の需給における過去30年の変化を概観するとともに、賃金をシグナルとした市場のダイナミズムが機能するための課題等について分析する。