第3章 グローバル化が進む中での日本経済の課題 第4節

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第4節 本章のまとめ

本章では、グローバル化と日本経済の対応を整理した上で、今後の課題を考察した。

第1節では、グローバル化の進展に伴う日本の貿易・投資構造の変遷を確認した。日本の経常収支は黒字で推移してきたが、その内訳は大きく変化しており、貿易黒字が大幅に減少する一方、海外からの投資収益など所得収支の黒字が着実に増加している。こうした中、日本は機械など生産工程が多様で生産できる国が限られる製品において、競争力を有してきたが、サービスについても、国際的な技術取引や輸出財の付加価値向上に貢献がみられている。さらに、アジアを中心にしたグローバル・サプライチェーンの構築と拡大に伴って、日本企業の海外展開が進み、海外企業の買収を含む対外直接投資が増加したことを受けて、財とサービスの両面で海外との企業内取引が拡大している。

第2節では、世界貿易の動向とともに、最近の海外経済の動向による日本経済への影響について分析した。世界貿易量は、関税の低下をはじめとする貿易の自由化や、グローバル・バリュー・チェーンの進展とともに、急速に拡大した。こうした中、日本の生産は、情報関連財を中心に、中国の最終需要に依存している様子がうかがえる。このため、2018年後半からの中国経済の緩やかな減速や情報関連財への需要の一服によって、日本の中国への輸出も減少するなど、大きな影響がみられている。また、世界経済全体として複雑な多国・地域間の貿易・投資関係が成立している中で、今後、米中通商協議の動向がどうなるかや、英国のEU離脱の先行きも不透明であることには、引き続き十分注意が必要である。また、経済連携協定の取組によって、企業活動をより活性化することが引き続き重要である。

第3節では、グローバル化の恩恵として、貿易を行うことが日本経済にどのような利益をもたらしているのかについて、企業レベルのデータを用いて実証的に検証した。基本的な事実として、輸出や対外直接投資などを行う国際化企業は少数だが、非国際化企業と比べて、生産性や雇用者数、賃金の水準が平均的に高い。また、実証分析の結果からは、輸出を開始することや、海外企業との共同研究・人材交流等を行うことで、生産性が向上する可能性が示唆される。さらに、国内の雇用については、他国の需要によって一定程度支えられており、輸出により雇用が増加する可能性がある。このように全体的には恩恵があるとみられる一方で、貿易によって生じる産業内での技能労働への需要シフトが賃金格差につながる可能性も示されている。グローバル化した経済で競争力を保つためには、人的資本投資や海外との人的交流等が重要であるが、格差拡大への対処として、教育訓練や雇用の流動性の確保、セーフティネットの整備も重要である。

白書の注目点<5>:グローバル化が進む日本経済

世界に展開する日本企業の経済活動

◇過去30年間で、日本企業によるグローバルな展開が進みました。1980年代の貿易黒字を背景にした貿易摩擦もあり、海外での現地生産が拡大したほか、部品生産や組立などの工程をアジア各地域の拠点に分散して行うサプライチェーンの構築が進み、さらに、近年では海外企業の買収も活発になっています。

◇こうした日本企業の海外展開もあり、日本の経常収支黒字は、規模では1980年代とGDP比では大きくは変わらないものの、その内訳は、財・サービスの貿易収支の黒字が縮小した一方、海外からの投資収益や配当などの所得収支の黒字が大幅に増加し、経常収支の大半を占めています(図1)。

◇さらに、日本企業の海外展開が進む中で、海外企業の買収を含む対外直接投資が、市場規模の大きい北米(アメリカ及びカナダ)向けや、成長の期待されるアジア向けなどを中心に、増加を続けています(図2)。また、日本企業の海外現地法人の売上高をみても、製造業、非製造業とも、増加傾向にあり、財やサービスの貿易面に加え、海外拠点や買収先企業からの投資収益等を通じても、世界で稼ぐ力を高めていることが分かります(図3)。

グローバル化は生産性を高め、質の高い雇用を創出

◇グローバル化の進展は、企業の生産性を高め、質の高い雇用を生み出す効果があります。企業レベルのデータを用いて実証的に検証すると、輸出や海外での直接投資を行う企業は、国際取引をしていない企業と比べ、生産性、雇用者数、賃金の水準が高くなっています(図4)。

◇また、海外企業との共同研究・人材交流等を行っている企業が、それに加えて海外展開を積極化したり新たに行うことによって、企業の生産性がさらに向上する可能性も、実証分析によって示されています(図5)。

◇他方で、グローバル化によって技能労働への需要が高まり、賃金格差につながる可能性もありますので、グローバル化への対応を図りつつ、教育訓練の強化や雇用の流動性の確保、セーフティネットの整備などにより、格差が拡大しないよう注意する必要があります。

白書の注目点<6>:通商問題の日本経済への影響

米中間の通商問題などにより、グローバルな不確実性が高まっている

◇2018年以降、世界経済を巡る不透明感の高まりから、グローバルな不確実性が高まっています(図1)。アメリカと中国の間では、追加関税・対抗措置がとられていますが(図2)、こうした通商問題は、両当事国の輸出入や生産の動向に影響を与えるだけでなく、サプライチェーンを通じて部品を提供している当事国以外の国・地域にも影響を与える可能性があります。

サプライチェーンを通じた日本経済や日系現地企業への影響に注意

◇アジア地域においては、中国が部品等を輸入・加工して完成品を生産するサプライチェーンが構築されており、さらに中国で生産された最終財の多くがアメリカに輸出されています。

◇中国から輸出される工業製品について付加価値の構成をみると、従来輸入していた中間財を中国国内で生産する度合いが高まってきたこともあって、付加価値の8割は中国国内で創出されていますが、残りの2割は日本やその他アジア諸国等により創出されたものとなっています(図3)。

◇こうした中、日本の製造業の生産額は、情報関連財を中心に、中国の最終需要に大きく依存しており、米中間の通商問題や中国経済の動向による影響を受けやすくなっています(図4)。

◇さらに、米中間の通商問題は日系現地企業にも影響を与えていますが、中国の日系現地企業では中国国内向け販売比率が高く、輸出先も日本向けが過半となっています(図5)。他のアジアでは、中国と密接な関係のある地域における日系現地企業でもマイナスの影響が指摘されています(図6)。

不確実性の高まりによる企業活動への影響にも注意が必要

◇このように、世界経済全体として複雑な多国・地域間の貿易・投資関係が成立している中で、今後、米中間の通商問題が長期化し、先行きの不確実性が高まる場合には、投資などの企業活動が慎重化する可能性もあり、引き続き注意が必要です。

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