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第3節 人口減少・高齢化と我が国産業の課題

前節では、製造業や事業所向けサービス産業が効率的なグローバル・バリュー・チェーンの構築を通じて付加価値を創出し、外で「稼ぐ力」を高めていくための課題について考察した。一方、個人向けサービス産業52は急速に進行する人口減少や高齢化に対応したニーズに応え、生産性を高めていくことが求められている。「課題先進国」である日本で開発したビジネスモデルは今後高齢化が進む諸外国でも有用であり、外で「稼ぐ力」にもなる。本節では、個人向けサービス産業に焦点を当て、人口減少と高齢化が個人向けサービス産業やマクロ経済に与える影響を点検した上で、個人向けサービス産業の拡大と経済成長、財政健全化の両立に向けた課題について考察する。

1 人口減少・高齢化と個人向けサービス産業

人口減少や高齢化といった人口動態の変化が個人向けサービス産業に与える影響を概観した上で、経済や財政に与える影響について考察する。

人口減少や高齢化の個人向けサービス産業への影響は業種によって異なる

所得水準の向上や国民ニーズの多様化等を背景に、サービス産業が経済活動に占める割合は高まる傾向にある。最近10年間をみると、高齢化等を背景に個人向けサービス産業のシェアが高まっており、こうした現象は先進国を中心に共通してみられる(第3-3-1図(1))。

日本の個人向けサービス産業に人口減少や高齢化はどのような影響を与えているのだろうか。個人向けサービスはサービスの中でも「生産と消費の同時性」という特徴を強く持つことから、人口減少による需要密度の低下が生産の低下につながっている可能性がある。そこで、都道府県の人口の変化率と個人向けサービス(狭義)、小売の実質付加価値の伸びを比べると、両者の間に緩やかな正の相関が観察できる53第3-3-1図(2))。人口減少は需要密度の低下を通じて個人向けサービス産業の生産を下押しする可能性があることを示唆している。

一方、高齢化の影響は個人向けサービス産業の業種によって異なる。二人以上世帯54の世帯当たり年間平均消費額を世帯主が59歳以下の世帯と60歳以上の世帯で比較すると、60歳以上の世帯は医療・介護、旅行、設備修繕・維持、生活関連サービス等が大きい一方、外食等その他の消費額は小さい(第3-3-1図(3))。このため、現在の消費構造を前提とすれば、60歳以上人口の増加にしたがって、医療・介護等の需要は高まる一方、外食等の需要は下押しされることになる。

これらをあわせると、高齢化が進む都市部を中心に医療・介護への需要は着実に高まるとみられる。小売業や飲食サービス業等は人口減少が需要の下押し圧力として働く可能性があるものの、高齢化による旅行関連サービスへの需要の高まりが下支えとなることも期待される。個人向けサービス産業にとっては人口減少と高齢化による需要の変動に対応していくことが重要となる。

個人向けサービス産業の拡大への適切な対応が重要

個人向けサービス産業は、医療・介護の需要の高まりや観光需要の取り込みを通じて経済活動に占める割合が今後も高まる可能性がある。仮に個人向けサービス業のシェアが高まった場合、経済や財政にどのような影響があるだろうか。

一般にサービス産業、とりわけ個人向けサービス産業は生産性上昇率が相対的に低いと考えられている。個人向けサービス産業のシェアが上昇することでマクロの生産性上昇率が押し下げられる「ボーモル効果」55が生じる可能性がある。仮に「ボーモル効果」が顕在化すれば、生産性上昇率の抑制を通じて、経済成長率を下押しすることとなる。一方、人口減少・高齢化に適応し、消費者が望むサービスを効率的に供給していくことができれば、生産性上昇率を高め、経済成長に貢献していくことも期待できる。さらに、「課題先進国」として日本で開発したビジネスモデルは、今後高齢化が進む諸外国でも有用であり、外で「稼ぐ力」にもなる。

医療・介護は、社会保険方式を基本としつつ、公費も投入されている。こうした中、国の一般会計は特例公債発行を通じて将来世代に負担を先送りしており、医療・介護費用の増大は近年の歳出拡大の要因の一つとなっている。医療・介護の需要が高まる中で、財政健全化への取組は一層重要となる56。また、民間サービスを発展させることにより、公費負担を軽減できれば、それは財政健全化に一定程度資するものと考えられる。

マクロの生産性上昇率が低下し、経済全体の所得が伸び悩む中で、医療・介護を中心に個人向けサービスの消費が増加する傾向が続けば、家計部門の貯蓄への下押し圧力が強まる。同時に、医療・介護への需要増加は、現行制度の下では財政赤字の拡大につながる。第1節で確認したとおり、これらはいずれもマクロの貯蓄投資バランスの投資超過方向への動きを通じて、経常収支を黒字縮小・赤字拡大させる方向に働く。経常収支の赤字はそれ自体が直ちに問題となるわけではないが、個人向けサービス産業の拡大に適切に対応することができれば、結果として経常収支の黒字化にもつながると考えられる。

2 個人向けサービス産業の拡大と経済成長の両立

個人向けサービス産業の経済活動に占める役割が拡大する場合、その生産性上昇率が低ければ、経済全体の生産性も上昇せず、経済成長を抑制する可能性がある。個人向けサービス産業の拡大と生産性上昇の両立に向けた課題について考察する。

個人向けサービス産業の労働生産性の伸びとその要因は業種によって異なる

最初に、個人向けサービス産業の主な業種の労働生産性の上昇率とその要因を確認しよう。景気変動の影響をならすため、2001年から2010年までの年平均上昇率を比較すると、次の点が指摘できる(第3-3-2図)。

第一に、個人向けサービス産業の労働生産性の伸びは製造業(3.7%)を下回っている。ただし、小売は全産業平均を上回っており、個人向けサービス産業の全ての業種の労働生産性上昇率が低いわけではない。

第二に、労働生産性への資本装備率の寄与をみると、小売、対個人サービス、公共サービスはいずれも全産業平均を下回る一方、対事業所サービスを上回っている。個人向けサービス産業の労働生産性の上昇に資本投入は一定程度寄与していることがうかがえる。

第三に、労働生産性への全要素生産性の寄与をみると、小売が全産業平均を上回っているほか、対個人サービスも全産業平均と同程度となっている。資本装備率が低い個人向けサービス産業であっても、全要素生産性の向上によっては全産業平均を上回る労働生産性の伸びを実現することが期待される。

ただし、サービス産業の生産性の計測には、統計整備の遅れや価格の推計の困難さ等から様々な課題がある。特に、サービス価格の上昇には質の向上が含まれている可能性がある。質の向上分を実質付加価値に計上した場合、サービス価格の上昇率はより緩やかになり、サービス産業の労働生産性上昇率は高まることとなる(コラム3-4)。

3-4 サービス業の生産性の計測に伴う課題について57

マクロ経済や産業の生産性(実質付加価値58÷生産要素投入量)の計測には様々な課題があるが、サービス産業ではとりわけ課題が大きい。具体的には、名目付加価値の算出に必要となる名目産出額等の統計整備が製造業に比べて遅れていることに加え、デフレーター(価格)の正確な推計が困難である。

デフレーターは、同一サービスの価格を計測し、名目付加価値の変動から物価変動の影響を取り除くための指標である。サービス価格が上昇する場合、サービスの質の向上分(実質付加価値の増加)を含むことが多いが、サービスの質が多様であることもあってその調整は難しい。サービスの質の向上分を調整しない場合、同一サービスの価格が上昇したことになり、実質付加価値の伸びは過少推計されることになる。サービスの質が異なる国や業種間での質の調整も同様に困難であることから、サービス産業の生産性を比較する際は幅を持って解釈する必要がある。

質を調整したサービスの実質付加価値の計測については、様々な研究が進められている。(コラム3-4図(1))。例えば、英国の医療サービスの生産量は2000年以降、年平均5.2%増加したが、医療サービスの質を調整した実質付加価値は同5.7%増加したと推計されている(コラム3-4図(2))。

現時点ではほぼ顕在化していない「ボーモル効果」

個人向けサービス産業の労働生産性上昇率は業種によって大きく異なり、全産業の平均を上回る業種もみられた。「ボーモル効果」が顕在化しているかどうかは、各業種の労働生産性上昇率に加えて、経済活動に占める各業種の割合の変化が重要となる。マクロの労働生産性上昇率は、<1>各業種の労働生産性上昇率(前掲第3-3-2図)、<2>各業種の名目生産額のシェアの変化(「ボーモル効果」)、<3>各業種の労働投入量のシェアの変化(「デニソン効果」と呼ぶ)の3つに要因分解できる59。「ボーモル効果」は労働生産性の上昇率が相対的に高い業種のシェアが上昇することでマクロの労働生産性が押し上げられる効果である。また、「デニソン効果」は労働生産性の水準(上昇率ではない点に注意)が相対的に低い業種から高い業種へ労働が移動することでマクロの労働生産性が押し上げられる効果である。要因分解からは次の点が確認できる。

第一に、1991年から2000年、2001年から2010年のいずれの期間をみても、マクロの労働生産性上昇率には各業種の労働生産性上昇率が最も大きな影響を与えている(第3-3-3図(1))。

第二に、「ボーモル効果」は、両期間ともにマイナスに寄与しているが、その大きさは小さい。名目生産額の業種別シェアをみると、製造業のシェアが低下しているものの、労働生産性上昇率が相対的に高い対事業所サービスのシェアが拡大し、製造業のシェア低下による影響を一部相殺している(第3-3-3図(2))。

第三に、「デニソン効果」は、両期間ともプラスに寄与している。労働投入量の業種別シェアをみると、製造業のシェアが低下する一方、労働生産性の水準が相対的に高い対事業所サービスのシェアが上昇している(第3-3-3図(3)、(4))。製造業の労働生産性の水準が相対的にそれほど高くないため、製造業のシェア低下の影響は「ボーモル効果」ほど大きくない。

このように、「ボーモル効果」は1991年以降、ほぼ顕在化していないといえる。また、2001年から2010年の期間は前の10年間と比べて、小幅ではあるが「ボーモル効果」による労働生産性上昇率の押下げ寄与は縮小している。

需要の影響を受けやすい個人向けサービス産業の労働生産性

サービス産業の生産性を向上させるためには、<1>市場の新陳代謝機能の向上、<2>IT投資、無形資産投資の拡大、<3>海外展開の促進、<4>企業統治の改善等の供給面での取組の重要性が指摘されてきた60。特に、サービス産業では、ITの活用により、空間的制約の克服、収穫逓減法則の回避61、新商品に係る試作費用の縮減等のイノベーションが期待される。同時に、個人向けサービス産業の生産性を評価する際には、需要の影響にも留意が必要である。個人向けサービス産業は「生産と消費の同時性」の特徴を強く持つ。すなわち、生産の場に需要がなければ付加価値を生み出すことができない。個人向けサービス(狭義)では空間的な需要密度や時間的な需要変動が生産性に大きな影響を与えることが指摘されている62。実際に、需要の代理変数として実質産出を用い、その変化率と労働生産性の変化率を比べると、小売、飲食店、社会保険・社会福祉、その他の対個人サービスのいずれの業種においても、実質産出と労働生産性には正の相関関係があることがみてとれる(第3-3-4図)。製造業でも実質産出が減少すると労働生産性が低下する傾向はみられるが、個人向けサービス業と比べると実質産出の労働生産性への影響はやや小さい。

こうしたことから、個人向けサービス産業の労働生産性の伸びを高めていくためには、供給面での取組を進めるとともに、今後拡大する国内需要や、海外展開と外国人訪日促進を通じて海外需要を取り込むといった需要面での対応も重要となる。高齢化に伴い、医療・介護、旅行の需要は今後も増加が見込まれる。「課題先進国」である日本で開発したビジネスモデルは今後高齢化が進む諸外国でも有用であり、外で「稼ぐ力」になることも期待できる。また、医療・介護は住み慣れた地域での暮らしを希望する高齢者による需要であることから、地域経済にとって安定した需要にもなる。こうした観点から、以下では医療・介護、旅行に焦点を当てて個人向けサービス産業の今後のあり方について検討しよう。

住宅の修繕や生活支援サービスで高まる高齢者の需要

今後とも医療・介護への需要は高まると見込まれるが、特にどのようなサービスで需要が高まるのだろうか。高齢者を取り巻く環境を概観すると、次のことが確認できる。

第一に、高齢者が今後増やしたい支出をみると、健康維持や医療・介護のための支出が最も高く、次いで旅行、子・孫のための支出、住宅の新築・増改築・修繕となっている(第3-3-5図(1))。家計調査でみた高齢者消費の特徴とおおむね一致するが、前回の調査と比べて住宅関連支出の割合が大きく高まっていることが確認できる。その背景には、住み慣れた自宅で過ごしたいという需要の高まりに応じて在宅介護サービスが増加していることがあると考えられる(第3-3-5図(2))。

第二に、今後、高齢者の中でも特に単身世帯の大幅な増加が見込まれている(第3-3-5図(3))。二人世帯が介護サービスを利用する場合には、入浴介助等の身体介護が中心となっているのに対し、単身世帯の場合には、家の中の修理等、掃除、買い物等の生活支援サービスへのニーズが高いことが分かる(第3-3-5図(4))。

こうした高齢者のニーズの多様化等を踏まえて、政府は、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、医療・介護・住まい・生活支援・予防が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築に向けた取組63を進めている。また、「日本再興戦略」等64に基づき、公的保険だけでなく、効果的な予防サービスや生活支援サービス等を提供する新たな健康寿命産業の育成に向けた取組も進めている。

拡大する高齢者の需要を取り込むための取組は既に様々な民間企業で進められている(第3-3-5図(5))。「国民皆保険制度発足以来の大事業」65となる地域包括ケアシステムの構築にとっても個人向けサービス産業の生産性の向上にとっても、医療・介護周辺産業への民間企業等の多様な主体の参入を一層促進していくことが重要であると考えられる。

高齢者と外国人の旅行需要の増加で期待される個人向けサービス産業の活性化

医療・介護関連支出の次に高齢者が支出したいと考えているのが旅行である。高齢化に伴い、旅行支出に占める高齢世帯の支出の割合は着実に高まっている(第3-3-6図(1))。また、2012年秋以降の円安方向への動きやアジア地域へのビザ発給緩和・免除措置等を背景に、訪日外国人旅行者数はこのところ増加テンポが高まっている(前掲第3-1-5図66。2020年オリンピック・パラリンピック東京大会が予定されていることから、今後とも訪日外国人旅行者数は増加することが期待される67。また、これまでのところ訪日外国人の訪問先は関東、近畿に偏っており、コンテンツ、伝統文化や地域文化等を通じたトータルな日本ブランドの確立等による訪日外国人旅行者数の増加余地は大きいと考えられる(第3-3-6図(2))。

観光業は幅広い産業に経済効果をもたらすが、特に飲食、宿泊等の個人向けサービス(狭義)の付加価値を誘発する効果が大きい(第3-3-6図(3))。個人向けサービス産業にとっては高齢化と訪日外国人旅行者数の増加により拡大する観光需要を着実に取り込んでいくことが重要となる68。その際、規模の経済効果の観点から一都市での対応には限界があるとの指摘もあり、観光目的にあわせて周辺市町村の観光資源を組み合わせるなど周辺市町村や民間事業者を含めた広域連携が重要であると考えられる。

3 個人向けサービス産業の拡大と財政健全化の両立

個人向けサービス産業のうち、医療・介護は財源の多くを公的財源に依存していることから、現行制度のまま需要が増加すれば歳出に増加圧力がかかる。個人向けサービス産業の拡大と財政健全化の両立に向けた課題について考察する。

医療費に占める日本の民間医療保険の役割は限定的

今後とも拡大する医療需要を取り込んでいくことは個人向けサービス業の成長にとって不可欠である。一方、現行制度の下でこうした需要に対応すれば、医療に関する歳出増加圧力は一層高まることとなる。個人向けサービス産業の拡大と財政健全化を両立するためには、医療に関する歳出の重点化・効率化69を進めるとともに、これまで公的保険が主に担ってきた健康等のリスクへの対応を官民で分担していくことが求められる。

公的医療保険については、日本も含めて主要国の多くで国民皆保険制度がとられているが、各国の公的保険が保障するサービスの範囲等の違いから、公的保険と民間保険の役割分担は国によって違いがみられる。医療費の財源構成をOECDの主要国と比較すると、日本の医療費の負担に占める公的支出の割合はオランダに次いで高く82.1%となっている(第3-3-7図(1))。一方、日本の民間保険等の割合は3.2%とスウェーデン、ギリシャに次いで低い水準にある。家計の自己負担の割合(家計負担構成割合)も比較的低い水準にあるが、民間保険等の割合が低いこともあって、中位程度となっている70。日本では医療費に占める公的保険の役割がOECD諸国の中でも高く、民間保険の役割はかなり限定的なものにとどまっている。

また、日本の医療支出の推移をみると公的支出が2003年以降、一貫して増加している。これに対して、家計負担は、自己負担割合71の低い高齢者向けの医療費の増加を背景に、2006年以降、横ばい圏内で推移している(第3-3-7図(2))。高齢者の現役並み所得者の自己負担割合の3割への引上げが行われる中で民間保険等は2006年に急増し、その後も増加基調にあるものの、公的支出と比べると増加テンポは緩やかになっている。こうしたことから、医療費の増加が続く中で、公的財源に依存する割合はむしろ高まっている。

治療や入院に備えて新たに経済的準備を考える者の割合は70%近くまで上昇

こうした医療費の現状と医療保険のあり方について国民はどのように受け止めているのだろうか。社会保障・税一体改革に関する政府の取組等もあって、公的医療保険が充実していると評価する国民の割合は近年上昇傾向にある(第3-3-7図(3))。医療費の自己負担分を一定限度以下に抑える高額療養費制度への認知度が近年高まってきたことも背景にあると考えられる。

このように公的医療保険が充実しているとの意識が高まる一方で、治療や入院に備えて新たに経済的準備を考えている者の割合は70%近くにまで高まっている。この背景には老後への根強い不安があると考えられる。日常生活で悩みや不安を感じる要因をみると、40歳~69歳までの世代では老後の生活設計を挙げる者が多いほか、50歳以上では自分や家族の健康に対する不安を挙げる者の割合も高まる(第3-3-7図(4))。厳しい財政状況の下で、暮らしの安心を高めていくためには、リスクが現実化した際に医療・介護・住まい・生活支援等に関するサービスが身近で供給される体制を構築するとともに、老後の様々なリスクに対応するための保険サービスを官民で充実させていくことが求められる72

居宅介護サービスが増加する中で私的保険加入者も増加

高齢化を背景に介護への需要も高まっているが、医療保険と比べるとやや異なる特徴がみられる。公的介護保険による介護費用総額の推移をみると、住み慣れた自宅で過ごしたいという需要の高まりを背景に、居宅介護サービスが増加している(第3-3-8図(1))。

こうした中、公的介護保険制度の給付内容が充実していると回答する者は2001年から2013年にかけて横ばい圏内で推移しており、自身が介護状態となったときのために新たに経済的準備を考えている者の割合は2004年以降上昇基調にある(第3-3-8図(2))。また、私的介護保険・介護特約加入率も水準は10%未満と低いものの、上昇基調にある(第3-3-8図(3))73。介護サービスに対するニーズが多様化する中で、国民が公的保険に加えて私的保険を活用しつつ対応を検討していることがうかがえる。

金融審議会では、保険会社が保険金を提携事業者に支払い、保険加入者は現金を支払わずに提携事業者から財・サービスの提供を受けられる新しい保険商品の販売は適法との報告がまとめられた74。こうした方向に沿って、民間保険が国民のニーズに一層応える保険サービスを提供していくことが期待される。

地方経済の自立にとって重要な役割を果たす個人向けサービス産業

個人向けサービス業の生産性上昇に向けた対応は地方経済の自立にとっても重要となる。1990年代後半以降、公共投資の削減傾向が続く一方、高齢化が進む中で、社会保障給付が地方経済の所得の源泉として重要性を高めている。過去20年間の地方経済の公共投資依存度(公的固定資本形成が名目県内総生産に占める割合)は平均3%ポイント低下する一方、社会保障依存度(年金給付、医療給付、介護給付の合計が名目県内総生産に占める割合)は平均10%ポイント上昇している(第3-3-9図(1))。

地方経済の自立を高めるためには、民間部門の成長を図り、公需等依存度(公的固定資本形成、政府最終消費支出、年金受取額の合計が名目県内総生産に占める割合)を引き下げていく必要がある。全市町村と主要134都市の公需等依存度と主要産業の産業別の生産額の関係をみると、製造業と卸小売業では、生産額が大きいほど公需等依存度が低く経済の自立性との関係が強い75第3-3-9図(2))。また、公需等依存度と主な産業の就業者密度(市町村面積当たりの就業者数)の関係をみると、卸小売業や宿泊・飲食サービス業では、就業者密度が高いほど公需依存度が低く経済の自立性との関係が強い(第3-3-9図(3))。卸小売業や宿泊・飲食サービス業の集積効果を高めていくことも地方経済の自立性の向上に寄与すると考えられる。

健康長寿な高齢者の就業促進は地方経済の自立と財政健全化にも寄与

日本の健康寿命は、男女ともにOECD諸国の中で最も高い(男性73歳、女性78歳(2007年))76。健康寿命の高まり等に伴って、高齢者の就業希望者比率は、過去5年間で多くの都道府県で上昇している(第3-3-10図(1))。また、産業別の高齢者の就業者数と各産業に占める高齢者の割合をみると、農業・林業では就業者数が100万人と最も多く、その割合も5割近い水準にある(第3-3-10図(2))。これに対し、地方経済の自立との関係が強い製造業や卸小売業の就業者に占める高齢者の割合は低い水準にとどまっている。今後、労働需要が高まると見込まれる医療・福祉の就業者に占める高齢者の割合は個人向けサービス産業の中で最も低い。高齢者自身も含めた様々な主体による多様な生活支援サービス提供への参画を促進するとともに、ロボット技術を活用した生活支援のための機器開発の促進等を通じて医療・福祉産業における高齢者の就業機会が拡大することが期待される。

高齢者の就業促進は、健康の増進等を通じて医療費の抑制につながる可能性もある。65歳以上の就業率と10年後の後期高齢者医療費の水準を比べると、就業率が高かった都道府県で後期高齢者医療費の水準が低くなる傾向がある(第3-3-10図(3))。健康寿命を高めるための取組を進めるとともに、健康な高齢者の就業率を高めていくことは地方経済の自立と財政健全化の双方に寄与することが期待される。


(52)「個人向けサービス産業」は第3章第2節で定義した「サービス産業」のうち主に個人向けにサービスを提供する小売、宿泊、飲食サービス、生活関連サービス、娯楽、医療・福祉等の産業と定義する。国民経済計算の経済活動別分類等で用いられる「対個人サービス」(宿泊、飲食サービス等の個人向けサービス(狭義))とは異なることに留意が必要である。
(53)都道府県の人口変化率と製造業の実質付加価値の伸びの間にはこうした関係はみられない。
(54)詳細な品目別消費額が分かる二人以上世帯を用いた。
(55)しばしば教育や医療、公的サービスといった労働集約的な産業において、他産業に比し、生産性上昇の遅れや相対的コストの上昇が観察され、そうした業種のシェアが高まることによりマクロの生産性上昇の抑制にもつながるといわれることがあり、「ボーモルのコスト病」と呼ばれる。
(56)医療・介護費の動向と歳出改革については第1章第3節参照。
(57)内閣府(2014)「サービス産業の生産性」(経済財政諮問会議・選択する未来委員会・第3回成長・発展ワーキング・グループ配付資料)、乾ほか(2010)、インテージ(2011)、藤澤(2013)を参照。
(58)実質付加価値=名目付加価値÷デフレーター、名目付加価値=名目産出額-名目中間投入額。
(59)詳細については付注3-3参照。
(60)内閣府(2014)「サービス産業の生産性」(経済財政諮問会議・選択する未来委員会・第3回成長・発展ワーキング・グループ配付資料)。例えば、内閣府(2013)は非製造業の労働生産性の伸びが低い要因の一つとして、ソフトウェアを中心にIT投資の水準が低いことを指摘している。
(61)例えば、旅館業や理容業等では、顧客管理システムやメール配信サービスの導入により、規模の拡大とともに顧客管理や広告宣伝に要する追加的な費用が削減される等の利点が挙げられる。
(62)森川(2008a、2008b)。
(63)複数の医療法人や社会福祉法人等を統括し、一体的な経営を可能とする「非営利ホールディングカンパニー型法人制度(仮称)」の創設は、個人向けサービス産業の規模の経済性、範囲の経済性の発揮にも寄与することが期待される。
(64)「日本再興戦略」(2013年6月14日閣議決定)、『「日本再興戦略」改訂2014』(2014年6月24日閣議決定)。
(65)社会保障制度改革国民会議(2013)「社会保障制度改革国民会議報告書~確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋~」。
(66)2013年の訪日外国人旅行者数は1,036万人(前年比24%増)となり、2003年のビジット・ジャパン事業開始以来の政府目標であった年間1,000万人を初めて達成した。
(67)「日本再興戦略」(2013年6月14日閣議決定)では、2030年には訪日外国人旅行者3,000万人を超えることを目指すとしている。さらに、『「日本再興戦略」改訂2014』(2014年6月24日閣議決定)では、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会等の開催決定を受けて、2020年に向けて訪日外国人旅行者数2,000万人の高みを目指すこととしている。また、みずほ総合研究所(2014)は、同大会の開催決定を受けて2020年の訪日外国人旅行者数は2,000万人超に倍増すると試算している。
(68)観光庁では高齢者や障害者を含む誰もが旅行を楽しむことができる「ユニバーサルツーリズム」の普及・促進を進めている。
(69)医療に関する歳出の重点化・効率化については第1章第3節参照。
(70)医療費の自己負担のあり方については、第1章第3節を参照。
(71)2008年4月以降の医療費の自己負担割合は、原則として70歳未満が3割、70~74歳が2割、75歳以上が1割。70~74歳の者の自己負担割合は、予算措置により暫定的に1割に引き下げられてきたが、2014年4月から新たに70歳になる者から本来の2割負担となった。
(72)民間医療保険市場では逆選択や保険者によるリスク選択などの市場の失敗を通じて無保険者が発生する危険性がある。こうした市場の失敗に対応するため、先進国のほとんどで国民皆保険制度がとられている。国民皆保険制度の下で公的保険が保障の根幹を担う下で、民間保険の役割が高まることが期待される。
(73)介護保障に対する私的準備状況においては、「準備している」という回答は全体の4割程度で推移し、同様に生命保険(介護特約等を含む)の加入率は、23%前後で横ばいとなっており、実際の準備状況は、意識調査の上昇基調とは乖離している点に留意が必要。
(74)金融審議会・保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ報告書「新しい保険商品・サービス及び募集ルールのあり方について」(2013年6月)。
(75)農林水産業、鉱業、製造業、建設業、電気・ガス・水道、卸小売、金融・保険、不動産、運輸・通信、サービス、公務の産業別総生産額と公需等依存度を比較し、影響度の高さ(傾きの大きさ)、確からしさ(t値の大きさ)、安定度(決定係数)の全てで上位に位置する産業。
(76)健康長寿と高齢者の就業促進については第2章第3節も参照。
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