第2節 グローバル市場と我が国産業の課題
前節でみたように、経常収支の赤字は、それが直ちに問題になるというわけではないが、日本経済の構造変化を浮き彫りにしている。今後、比較優位の変化に対応して外で「稼ぐ力」を強化していく必要がある。このため、企業は、世界経済の成長を国内に取り込もうとしており、国内外の生産工程を見直すことで、付加価値生産性の向上に向けた取組を進めている。本節では、企業が生産工程の最適化を図るために、複数国にまたがって財やサービスの供給・調達を行うグローバル・バリュー・チェーン(Global Value Chain、以下「GVC」という。)を形成していることに着目し、まずGVCと我が国経済の関係について論ずる。また、企業の生産活動におけるサービスの役割の高まり、製造業とサービス業26の柔軟な連携を踏まえた製造拠点の在り方について論じることで、グローバル市場における我が国産業の課題について検討する。
1 グローバル・バリュー・チェーン(GVC)の構築と我が国経済
GVCの形成は、生産要素の最適配分等を通じて企業の生産性を向上させ、貿易から利益を得る機会の増加につながることが期待される。我が国産業は、どのような形でGVCへ参加し、また、GVCへの参加は、国内経済にどのような影響を及ぼしているのだろうか。GVCとの関わりから、我が国産業を捉え直してみよう。
●GVCへの参加を通じて企業の付加価値生産性が上昇
はじめに、GVCを通じたグローバル市場への参加方法について整理しよう。
GVCの定義には、必ずしも定説がある訳ではないが、Timmers等(2014)等を踏まえると、GVCとは、複数国にまたがって配置された生産工程の間で、財やサービスが完成されるまでに生み出される付加価値の連鎖を表すといえる。GVCへの参加には、二つの方法が考えられる。一つは、他国の財やサービスの生産工程に自国の生産する中間財・サービスや資本財等の供給を行うことで、バリュー・チェーンの上流から下流に向けて参加する「前方への参加」である。例えば、自国の生産する半導体製造装置等の資本財の輸出競争力が高まり、前方への参加度が高まると、自国からの資本財輸出の増加を通じて、グローバル市場の需要を取り込みやすくなる(第3-2-1図)。
もう一つの方法は、自国の生産する財やサービスの生産工程に他国から中間財・サービスや原材料等の供給を受けることで、バリュー・チェーンの下流から上流に向けて参加する「後方への参加」である。後方への参加度が高まると、例えば、他国で生産された安価で質の高い電子部品等を輸入中間財として活用する一方、自国の産業は比較優位を有する工程へ特化することで、国内拠点の生産性向上につながる。
このように、比較優位の変化に対応して財やサービスの供給・調達を行い、GVCへの参加度を高めることは、世界経済の活力を取り込みやすくするとともに、国内拠点の生産性向上を促し、企業が付加価値を生み出す力を高めると考えられる。
●中間財・サービスの供給・調達による日本のGVC参加度は前方・後方共に上昇
企業は、中間財・サービスや資本財を海外の企業に提供し、海外の企業から調達することによってGVCへ参加し、付加価値を生み出す力を高めている。ここでは、そのうち中間財・サービスの供給・調達によるGVCへの参加度を確認しよう。OECDでは、Hummels等(2001)等に基づき、国際産業連関表を用いて、「グローバル・バリュー・チェーン・インデックス(Global Value Chain Index)」を作成、公表している。OECDの定義では、「前方への参加度(Forward Participation Index)」は、他国の輸出財・サービスの生産に中間投入として使用されている自国の輸出財・サービスの金額が、自国の輸出総額に占める割合を表す。また、「後方への参加度(Backward Participation Index)」は、自国の輸出財・サービスの生産に中間投入として使用されている他国からの輸入財・サービスの金額が、自国の輸出総額に占める割合を表す27。
前方、後方を合わせた全体の参加度は、2009年にはリーマンショックの影響で低下しているものの、1995年以降、上昇傾向にある(第3-2-2図(1))。前方、後方の内訳をみると、相対的に前方への参加度が高いものの、2000年代後半にかけて、後方への参加度も高まっている。また、業種別にみると、製造業では、輸送機器、電気機器等の加工業種、化学、鉄鋼・金属製品等の一部素材業種において、前方、後方の参加度が共に高い(第3-2-2図(2))。他方、非製造業では、総じて参加度が低い傾向にあるが、特に後方の参加度が低い。
製造業企業は、自社が比較優位を有する生産工程に特化する一方、不採算部門については国外への外部化を進めることで、国際的に最適な生産体制の構築に取り組んでおり、海外現地法人向けの中間財輸出や、人件費が相対的に安い国からの中間財輸入を増やしている。
また、非製造業企業は、製造業に比べて、他国から輸入する原材料や部品等を中間財として使用する機会が少ないことから、製造業よりも総じて後方参加度が低い。他方、卸小売等や運輸・情報通信といった一部の業種では、前方への参加度が高い。これは、製造業の海外生産比率の上昇に伴う卸売業や運輸業の海外販売強化、商社の資源分野における投資拡大戦略等を受けたものである。
我が国では、製造業や一部非製造業において、中間財・サービスの供給・調達によるGVCの前方への参加度を高めており、世界経済が活性化することにより生じた需要は、これら業種の輸出増加を通じて国内に取り込まれることになる。また、製造業を中心に進んでいる後方への参加度の高まりは、比較優位に応じた生産工程の国際的な最適化を通じて、国内生産拠点の生産性向上につながり、輸出競争力の強化にも寄与すると考えられる。
●資本財供給を通じて外で「稼ぐ力」を更に高めていくことも期待
部品や原材料といった中間財・サービスの供給・調達によるGVCへの参加以外にも、生産設備や業務用機械等の資本財を供給・調達することで、GVCへ参加する方法も考えられる。
そこで、財の種類別(生産財(中間財・素材)、資本財)に我が国の輸出額の伸びをみると、いずれの財も2000年以降はプラスとなっているが、リーマンショック後の2009~2012年は、資本財輸出の伸びが大きい(第3-2-3図)。また、品目別に輸出数量の伸びを確認すると、2000~2008年に比べて2009~2013年は、主要輸出品目のうち、金属加工機械等の一般機械に分類される品目の伸びが目立っている(第3-2-4図(1))。我が国企業は、精度の高い金属加工機械等を生産する高度な生産技術を有しており、相対的に輸出競争力が維持されていることによると考えられる。
他方、輸入額の伸びをみると、2000~2008年から2009~2012年にかけて、生産財・資本財は共に高い伸びを示している(第3-2-3図)。また、品目別に輸入数量の伸びをみると、2000~2008年、2009~2013年のいずれの期間も、電気機器と化学、金属及び同製品に分類される品目の伸びが大きい(第3-2-4図(2))。最近では、国際競争が激化し、新興国においても半導体等電子部品等の中間財、鉄鋼や化学製品等の素材の生産・供給が可能となっていることから、より汎用性の高いものを中心に輸入が増えていると考えられる。
このように、我が国企業は、比較優位の変化に対応して、生産財の輸入を増やす一方、資本財の輸出を強化している。資本財の輸出に伴ってメンテナンスのための部品やサービス等の輸出の増加も期待できる。今後、日本からの資本財供給の増加を通じてGVCへの参加度を高め、外で「稼ぐ力」を高める一方、他国からの生産財調達の増加を通じて、国内生産工程の高付加価値化につなげていくことが期待される。
●海外現地生産の拡大を通じてGVCへの参加が進展
日本企業の海外現地生産の拡大は、現地での販売による現地需要の取り込みだけでなく、GVCの前方への参加度を高め、海外現地法人向けの資本財や中間財・サービスの輸出増を通じて、外で「稼ぐ力」を高めると考えられる。そこで、企業の海外進出とGVCの関係についてみてみよう。
日本企業の海外現地法人の活動につき、現地法人売上高に占める現地販売比率、現地法人仕入額に占める現地仕入比率の関係を業種別にみることで、日本国内の生産活動との連携可能性を探ってみよう28。まず、建設業や小売業では、現地販売比率、現地仕入比率は共に高く、ほぼ現地で独立的に事業を展開していることが分かる(第3-2-5図)。他方、加工業種を中心とした製造業(はん用・生産用・業務用機械、電気機械、輸送機械等)、一部の非製造業(卸売、運輸)では、相対的に現地販売比率、現地仕入比率は低く、現地経済と日本を含む世界経済との連携を活用していることが分かる。
このように、製造業の加工業種や卸売・運輸等の非製造業は、海外現地法人も含めて国をまたいだ分業体制を構築しており、ネットワーク型のビジネスを行っていると考えられる。こうした業種における海外現地生産比率の上昇は、GVCの前方への参加度を高め、日本からの資本財や中間財・サービスの輸出を増やす効果も期待できよう。
●GVCへの前方参加は製造業を通じて非製造業の国内付加価値も誘発
GVCの前方への参加度が高まることで、製造業や一部非製造業の輸出が増加しやすくなるが、国内にはどのような波及効果をもたらすであろうか。業種別にみた国内における生産波及力、付加価値波及力をみてみよう。
まず、業種別の生産波及力(ある産業において追加的に1単位の生産が行われた時、その生産に必要な中間投入を通じて、他の産業に直接間接に生ずる生産額の倍率)29の大きさをみると、非製造業に比べて、製造業の方が大きい(第3-2-6図(1)、付図3-5)。製造業は、生産工程のすそ野が広く、増産の影響がサービス業を含めた他部門の生産にも幅広く波及していくことを表している30。
他方、付加価値波及力(国内全体で1単位の最終需要が発生した時、その生産に必要な中間投入を通じて、各産業に直接間接に誘発される付加価値額の割合)について、消費、投資及び輸出といった最終需要がそれぞれ1単位増加した場合に、製造業及び非製造業に生じる付加価値の割合をみると、製造業では輸出、非製造業では消費の増加による誘発効果が大きい(第3-2-6図(2)、付図3-6)。これは、製造業と非製造業の貿易可能性の違いを表していると考えられる。また、輸出による誘発効果を製造業と非製造業で比較すると、同程度となっている。通常の国境を越えた輸出金額の規模は、サービスに比べて財の方が大きく31、全体の輸出が増加すると製造業の輸出の方が増加しやすい。他方、製造業が輸出される財を生産する際に生み出される国内付加価値には、非製造業が生み出した付加価値も含まれるため、付加価値の割合でみると大きな違いはないと考えられる。
このように、前方への参加度の高まりとともに、輸出需要が高まると、製造業・非製造業の生産は共に増加するが、その大きさは製造業の方が大きい。ただし、製造業が輸出する財を生産する際に生み出される国内付加価値には、非製造業が生み出した分も含まれており、前方への参加拡大によって非製造業の付加価値も増加することとなる。
●輸入中間財の活用を通じて国内拠点の生産性向上につなげていくことが重要
GVCの前方への参加度が高まると、製造業の生産増を端緒として、非製造業も含めた国内付加価値が誘発されることをみた。他方、我が国は外国製の中間財や原材料の輸入を増やし、GVCの後方への参加度も高めているが、こうしたGVCの後方への参加は国内の企業活動やマクロ経済にどのような影響をもたらすであろうか。
輸出の増加に伴う国内への付加価値波及力について、国内残存分32、輸入流出分33に分けてみると、2005年から2012年にかけて、いずれの業種でも付加価値の輸入流出分の割合が高まっており、国内残存率は低下している(第3-2-7図)。これは、国際競争が激化する中、競争にさらされやすい輸出財の生産に当たっては、より多くの輸入中間財を使用し、競争力の向上を図っていることを表している。
そこで、製造業企業について、海外現地企業へのアウトソーシングがTFP(全要素生産性)へ与える影響をみると、アウトソーシング実施企業は、非実施企業に比べて、大企業、中小企業、共に生産性が高いことが示されている(内閣府「平成25年度年次経済財政報告」第2章を参照)。アウトソーシング実施企業は、生産性の低い部門を海外にアウトソーシングし、生産性の高い工程に特化することで、全体としての生産性を高めていると考えられる。
このように、GVCの後方への参加度の高まりは、国内の中間財等の生産を輸入で代替する面はあるものの、国内外の生産拠点の機能見直し、生産要素の効率的な配分等を通じて、参加企業の生産性向上につながっていると考えられる。
比較優位に応じてGVCへの参加度を高めることで、企業が国内外の生産工程を最適化して、付加価値を生み出す力を高め、世界経済の成長を一層取り込みやすくしていくことが重要である。特に、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定交渉等を通じて、モノだけでなく、サービスや知的財産等の幅広い分野で新たな共通ルールを確立し、成長著しいアジア太平洋地域の活力を取り込んでいくことが期待される。
2 企業の生産工程において高まりをみせるサービスの役割
我が国産業は、国際的な価値連鎖であるGVCへの参加度を高めることを通じて、国内外の生産要素の最適配分を実現し、生産性の向上を図っていることをみた。他方、企業が付加価値の高い製品を供給し続けるためには、物流、ICT関連サービス、専門・技術サービス等のサービス部門が良好に機能し、輸送、生産工程の効率化や製品の高付加価値化を実現していくことが期待される。そこで次に、企業の生産工程におけるサービスの役割について論じよう。
●ICT関連を中心にサービス部門は企業の生産活動の基盤を提供
国内の生産工程においてどういったサービスの中間投入が増えているのだろうか。財・サービスの国内生産工程における、サービス部門からの中間投入が付加価値に占める割合の推移をみてみよう34。
他の産業の生産工程にサービスを提供している事業所向けサービス部門についてみると、1998年以降、専門・技術サービス等の割合が増加している(第3-2-8図(1))。また、専門・技術サービス等からの中間投入のうち、特にソフトウェア関連サービスからの投入割合が上昇している(第3-2-8図(2))。企業は、生産性の向上、高付加価値化を図るための方法として、ソフトウェア等のICT関連サービスを中心に、生産活動の一部の外部委託(アウトソーシング)35を進め、中核的な事業活動への特化を図っていると考えられる。
これをアメリカ、ドイツと比較すると、いずれの国も専門・技術サービス等の割合は最も大きいが、その内訳を比較すると、アメリカやドイツに比べて、日本はコンサルティング・会計・法務といった専門職サービスからの投入割合が小さくなっている(第3-2-9図(1),(2))。アメリカやドイツでは、マーケティング・人材育成・組織改革等の競争力の向上に資する無形資産投資が多く36、これら分野の専門・技術サービス業が、日本よりも発達していること等が影響していると考えられる。
こうした専門・技術サービス業は、企業の開廃業に係る諸費用を軽減させ、企業の成長と衰退というダイナミズムを生み出すことにもつながると考えられる。実際に、アメリカの開業率・廃業率は、日本に比べてかなり高く37、ICTの発展とともに、こうしたサービスの利用がしやすくなり、企業の新陳代謝を促進している側面もあると考えられる。
このように、我が国企業は、ICT関連サービスを中心に、サービスの中間投入を増やすことで、製品・サービスの高付加価値化、競争力の向上等を図っている。他方、我が国産業の更なる競争力強化、企業の新陳代謝促進に向け、コンサルティング、人材関連サービス等の専門職サービスを活用し、組織改革等への資源割当てを拡大していくことも期待される。
●事業所内部でも製造業のサービス化が進展
業務の外部化を通じて、ICT関連を中心に、サービス業は企業の生産活動の基盤を提供していることをみた。他方、他企業へ外部化せずとも、製造業の事業所内部でサービス機能を高めていることも考えられる。
我が国の製造業企業の従事者について、技術者・デザイナー・研究者等のサービス関連従事者が占める割合の推移をみると、1995年から2010年にかけて増えている(第3-2-10図)。製造業企業は、内生部門においても、サービスの中間投入割合を増やしている。
これをアメリカと比較すると、アメリカは日本よりもサービス関連従事者の割合が大きい(第3-2-10図)。アメリカの製造業は、国外への製造業務の外部化等を通じて、直接的な生産業務を減少させる一方、生産の前工程(設計や研究開発等)や後工程(維持・修繕等)の間接部門業務を拡大させることで、国内拠点の高付加価値化に積極的に取り組んでいるといわれている。例えば、ある電気機器メーカーでは、製品開発・設計以外の業務は、製造工程の部品調達や組立だけでなく、ソフトウェア開発も含めて外部化し、国内の自社工場の縮減と在庫の削減を図っている。これにより、設計段階では研究開発費の集中的な投入が可能となり、製品の開発期間の短縮につながるとともに、生産段階では生産ロットの大規模化・生産コスト低減につながる等、バリュー・チェーン全体の生産性を大きく改善したといわれている38。このように、アメリカの製造業企業では、自社のサービス機能を高めることで、収益性の回復を図っている企業がある。
このように、最近では、海外から製造業務を調達する一方、自社は商品・サービスの企画・開発等に注力する「製造しない製造業」が高い収益率を実現するようになっている。このため、製造業の中間投入としてだけではなく、製造業自身のサービス化を通じて、GVCの中でのサービスの役割が高まっている。
サービス業へのアウトソーシングは、企業がより柔軟な生産体制をとり、生産性上昇に結びつけるための方法であり、これにより、専門に特化した様々な事業所向けサービスが生まれる。こうした外部化の結果として生まれるサービス業は、企業の生産工程においてその役割を高めている。また、製造業企業は、自社の事業所内部でもサービス化を進めており、企業の生産工程においてサービスの役割が高まっている。このように、製造業とサービス業の連携は深化しており、両者が共に成長することで、生産性向上が図られ、国内市場の成長に寄与するだけでなく、グローバル市場の活力を取り込むことにも資すると考えられる。
3-3 金融サービス業の発展と経済成長
事業所向け、個人向けにかかわらず、横断的にサービスを提供する業種として、金融サービス業が挙げられる。金融部門の発展と経済成長の間には、密接な関連があるといわれているが、どちらが原因でどちらが結果かという因果関係の方向性については、見解が分かれている。
例えば、経済発展の結果として、金融サービスが発達するに過ぎないといった見方もあるが、金融サービスの発達が金融仲介機能の改善を促し、生産性の高い事業の選別を促進することで、経済の発展に寄与するといった見方も多い。しかし、リーマンショック以降は、金融セクターの発展を手放しで評価することはできないといった指摘がみられる39。
金融サービス部門の発展が経済成長に与える影響をみるため、OECD諸国を対象として、一人当たりGDP成長率と金融サービス業の付加価値がGDPに占める割合の関係をみると、全体として負の相関がみられる(コラム3-3図(1))。この背景として、他部門に比べて相対的に賃金水準の高い金融サービス部門に、生産性の高い労働者が集中することで、経済成長にマイナスの影響を与えている等の指摘がある40。
他方、国際的な金融センターを有するアメリカ、イギリス、スイス41に着目して、両指標の関係をみると、正の相関がみられる(コラム3-3図(2))。これらの国の共通点として、対内直接投資が活発であること等が挙げられる42。国内外の企業にとって利用しやすい金融サービスの発展が、国内外からの投資を呼び込み、経済の成長にもつながっていると考えられる。
金融サービス業の発展と経済成長の関係について、一つの結論を得ることは難しいが、例えば、ICTを活用して、企業のニーズに即応した金融商品・サービスを安く、速く提供できる環境を整備することや、国際的なルール策定に主体的に関わることで、国際的に開かれた金融システムを構築すること等を通じて、国内外からの投資を呼び込み、我が国の成長につなげていくことが期待される。
3 製造業とサービス業の連携を踏まえた製造業の国内拠点の在り方
アウトソーシングの結果として生まれる事業所向けサービスの発展等を通じて、企業の生産工程において、サービス業の役割は高まっている。また、製造業企業は、自社の事業所内部でもサービス化を進めており、製造業とサービス業の連携が深化していることをみた。製造業とサービス業の連携を深める観点から、我が国製造業は、今後、国内にどういった拠点を築くべきだろうか。
●研究開発と製造プロセスの一体化が必要な製品は国内生産が有効
日本企業は、国内拠点にどのような役割を期待しているのだろうか。
まず、日本企業に対して、国内拠点において重視する役割を聞いたアンケート調査によると、以前は「生産(汎用品)」が重視されていたが、今後は「生産(先端品)」を重視するといった回答が増えており、高付加価値品の生産へのシフトがみられる43。さらに、「開発」、「設計」、「研究」といった生産の前工程を重視する傾向も強まっており、企業は国内拠点に、R&D(研究開発)や高付加価値品の生産といったより高度な機能を持たせようと考えていることが分かる。
また、Pisano and Shih(2012)では、国内の製造拠点とR&D拠点を切り離して立地したときに、企業の技術革新力にどのような影響が出るかを判断する基準として、「自立度」と「成熟度」に着目している(第3-2-11図)。自立度とは、R&Dと製造プロセスが互いに自立しており、切り離しても支障がないかどうかを表している。他方、成熟度とは、製造プロセスが進化することで、言語化された設計情報等が蓄積し、共有・流用できる状態になっているかどうかを表している。こうした観点から、製造業の生産品を4つに分類すると、標準仕様が存在する汎用品や現場での開発・設計による貢献が高い製造プロセス重視の製品では、研究開発と製造プロセスを分離しても大きな損失はない。しかし、製造設備での試行錯誤が必要となる研究と製造の一体型製品や画期的な機能・品質等を創造するイノベーティブな製品では、国内に立地して研究開発と製造プロセスを一体的に行うことがその競争力を高める上で有効であると考えられる44。我が国企業は、国内拠点に研究開発や高付加価値品の生産といった高度な機能を持たせようと考えているが、特に研究開発と製造プロセスの一体化が必要な製品については、両方の拠点を国内に立地することが有効といえよう。
●アメリカでは自国内の製造拠点を再評価する動きもあって生産拠点が国内回帰
アメリカでは、最近になって、汎用品を扱う生産拠点についての国内回帰の動きも報じられている45。こうした動きの背景には、価格競争力の改善が主に影響しているとの見方もあるが、製品開発プロセスと製造プロセスを国内で一体的に行う等、自国内の製造拠点を再評価する動きも影響しているといわれている。
まず、価格競争力について確認しよう。2000 年にはアメリカの31%程度であった中国の単位労働費用は2011 年には48%まで上昇している(第3-2-12図(1))。また、ドルの諸通貨に対する相対的な価格を表す実質実効為替レートは、2002年をピークに趨勢的に低下しており、2012年には2002 年時点と比べ8割近くまで低下している(第3-2-12図(2))。このように、アメリカでは、海外生産に伴うコスト増により、国内の製造コストが相対的に低下したことから、海外に移管されていた工場が国内に回帰する動きが後押しされていると考えられる。日本でも、2012年から2013年にかけて、実質実効為替レートは大幅に低下しており、こうした動きが定着すれば製造拠点の国内回帰の動きが強まっていく可能性があると考えられる。
また、価格競争力の改善だけでなく、製品開発プロセスにおける国内の製造プロセスの重要性が見直されたことも、製造拠点の国内回帰の背景に挙げられている46。例えば、あるアメリカの大手電気機器メーカーは、顧客との近接性を高め、顧客ニーズや事業環境変化に即応できるよう、電気給湯器の生産拠点を中国からアメリカに国内移管した。このように、企業がグローバルな生産拠点の最適配置を進める中で、国内で製品開発プロセスと製造プロセスを共に行う生産体制を整えることが重要になってきていると考えられる。
以上みた通り、アメリカでは、価格競争力の上昇に加え、自国内の製造拠点を再評価する動き等を背景として、汎用品についても、製造業の国内回帰が生じていると考えられる47。
●高付加価値拠点の国内立地支援を通じて良質な雇用創出の実現を期待
アメリカにおける製造業の国内回帰の動きは、国内雇用の増加につながっているだろうか48。製造業雇用者数の推移と政府の対応についてみてみよう。
まず、アメリカにおける製造業雇用者数の推移をみると、1990年代後半から減少傾向がみられ、1998年の1,756万人をピークに、2010年には1,153万人まで趨勢的に減少してきた。その後、前述の国内回帰の動きがみられたこと等から、回復の兆しがみられているが、2000年以前の水準を回復するには至っていない(第3-2-13図)。これは、国内回帰の動きが、資本集約的な性質の強い化学産業やエネルギー産業等で多くみられることや生産性の改善を目的としたロボット化や自動化等により、雇用創出が限定されること等によるとの指摘がある49。
こうした状況の下、アメリカ政府では、活力ある製造業は雇用創出と経済成長に不可欠であるとの考えに基づき、先端製造50業を国内に根付かせるための施策を進めている。例えば、2012年6月には、国際競争力を高める先端技術への投資や製造部門の雇用創出を、産業界・大学・連邦政府をあげて行う「先端製造パートナーシップ51(Advanced Manufacturing Partnership、以下「AMP」という)。」を立ち上げている。AMPの報告書では、イノベーションの促進にはR&Dと製造プロセスを近接させることによる双方向コミュニケーションの促進、国内の製造プロセスの維持等が必要との提言が行われている。こうした提言を受け、2013年度予算においても、革新的な製造工程、高度な工業材料、ロボット工学に焦点を当てた先端製造研究開発等に22億ドルが充てられている。
このように、国内の製造プロセスを維持し、R&Dと製造プロセスの近接性を高めること等を通じて、イノベーションを促進し、将来的に良質な雇用の創出につながっていくことが期待される。
今後、我が国においても、研究開発との一体化の必要性が高い製品の製造等、より高い付加価値を生み出す拠点の国内立地が進むような環境の整備に努めることが重要である。