第1節 経常収支の赤字が問うもの
経常収支の赤字は日本経済の構造変化について何を問いかけているのだろうか。本節では、経常収支の赤字から浮かび上がる日本経済の構造変化や既に存在していた構造的課題を整理するとともに、今後の取組の方向性について考察する。
1 貯蓄投資バランスの変化と供給制約の顕在化
経常収支の赤字の背景にある貯蓄投資バランスの変化と一部業種での供給制約の顕在化について確認する。
●デフレ脱却へ向けて着実に進む中で変化が生じつつある貯蓄投資バランス
経常収支は2011年以降、黒字幅が急速に縮小している。2013年秋以降、おおむね均衡して推移し、2014年1月から4月には年率で約4兆円の赤字となった(第3-1-1図(1))。経常収支は家計・企業・政府等の各部門の貯蓄投資バランスの合計に等しい。貯蓄投資バランスからみると、日本では高齢化の進展に伴い、貯蓄を取り崩す家計の割合が高まることから、長期的には経常収支の黒字幅が縮小していくとの見方がかねてより一般的であった1。しかし、長引くデフレの下で家計の貯蓄はそれほど減らず、一方で設備投資を抑制する企業の貯蓄超過も経常収支の黒字に寄与することでそうした見方はこれまで実現しなかった(第3-1-1図(2))。
しかし、安倍内閣が推進する「三本の矢」の取組の下で、デフレ脱却へ向けて着実に進む中で、こうした貯蓄投資バランスに変化が生じつつある。高齢化を背景とした長期的な貯蓄率の低下傾向が認められる中、消費税率引上げに伴う駆け込み需要もあって、2013年においても60歳以上世帯を中心に家計部門の貯蓄率は低下した(第3-1-1図(3))。企業部門では利益留保が2005年のピークからほぼ半減するとともに、減価償却費等が減少傾向で推移し、貯蓄に当たるその他内部資金は2013年度に減少した(第3-1-1図(4))。こうした中で、設備投資の増加等を背景に企業部門の貯蓄超過も縮小しつつある2。
また、これを需給バランスの観点からみると、労働力人口の減少やリーマンショック後の設備投資の伸び悩みもあって日本経済の潜在成長率は低下してきた。こうした中で、消費、住宅投資、公共投資等の内需を中心に景気が回復してきたことから、供給制約を受けやすくなっており、実際に一部の業種では供給制約3が意識されるようになっている。労働と資本の供給制約というデフレ下で隠されてきた課題が経常収支の赤字により改めて明らかになったといえる。
2 比較優位と外で「稼ぐ力」の変化
リーマンショック後の我が国貿易の比較優位と外で「稼ぐ力」の変化を確認するとともに、対外資産収益も含めて外で「稼ぐ力」を高めるための課題について考察する。
●リーマンショック後に急速に進んだ日本の比較優位の変化
リーマンショック後に進んだもう一つの経済構造の変化として、我が国貿易における比較優位の変化が挙げられる。比較優位が変化しているのは日本だけではない。多くの先進国では新興国等の追い上げによって、より知識集約的な財・サービスに強みを持つようになっている。
財についてみると、リーマンショック後に円高方向への動きが進むとともに、再びデフレになる中で、日本の製造業は国内の設備投資を抑制し、主に海外生産の拡大により海外需要を取り込んできた4。
輸送用機器5の海外現地法人売上高は2010年度以降も増加基調にあるのに対し、2010年度以降の輸出金額は緩やかな増加にとどまっている(第3-1-2図(1))。2013年の自動車の海外生産・輸出台数を2008年と比べると、北米、中南米では海外生産台数が増加する一方、輸出台数は減少しており、海外現地生産が輸出の一部を代替していることが示唆される(付図3-1)。また、アジアでは海外生産台数が大幅に増加する一方、輸出台数は横ばいとなっている。海外現地生産による輸出の直接的な代替はみられないものの、現地市場の拡大に主として現地生産の増加で対応してきたことがうかがえる。
一般機械については、リーマンショック後、世界的に設備投資の伸びが弱い中で、2012年度の海外現地法人売上高が2007年度のピークを上回るとともに、輸出金額も2009年度の底から約3割増加している。2010年度以降、一般機械の海外現地生産比率は上昇傾向にある一方、比較優位も維持しているとみられる(第3-1-2図(2))。
電気機器では、リーマンショック後の円高方向への動きや非価格競争力の低下もあって、家電から産業インフラ用の重電へと比較優位がシフトした6。電気機器の海外現地法人の売上高と日本からの輸出金額をみると、2006年度から大幅に減少した後、低水準で推移している。現地販売額や第三国向け輸出がいずれの地域でも減少傾向にあることを踏まえると(付図3-2)、電気機器全体としては、輸出競争力が2010年度以降低下している可能性がある。
●輸入では通信機や事務用機器等の比較優位が低下
輸入数量の推移をみると、2000年以降、一般機械と電気機器が大きく増加している。(第3-1-3図(1))。一般機械ではパソコン、タブレット端末等の事務用機器(一般機械の輸入金額(2013年)の41%)や原動機(同14%)、電気機器ではスマートフォン等の通信機(電気機器の輸入金額(2013年)の26%)が2009年以降、大幅に増加しているほか、半導体等電子部品(同24%)も増加基調にある(第3-1-3図(2))。
これらの通関統計の品目と対応する主要業種の輸入浸透度をみると、通信機、パソコン、薄型テレビが含まれる情報通信機械工業の輸入浸透度は2009年以降、急速に上昇し、50%程度に達している(第3-1-3図(3))7。情報通信機械工業の輸入浸透度の2000年以降のすう勢的な上昇は東アジアにおける国際分業構造8を反映したものと考えられるが、2009年以降の急速な上昇はスマートフォンやタブレット端末等の比較優位の低下が急速に進んだことを示している。
●財輸出は数量よりも価格で稼ぐ傾向
海外生産の拡大や比較優位の変化により、輸出数量が伸びにくくなっている可能性は否定できない(コラム3-1)。ただし、こうした構造変化に対応して、財輸出では数量よりも価格で稼ぐ傾向がみられることにも留意が必要である。2005から2007年(以下「前回」という。)と2012年秋以降(以下「今回」という。)の為替が円安方向に推移した局面の輸出物価(契約通貨ベース)の動向を比較すると、前回を上回って円安方向に推移したにもかかわらず、輸出物価(契約ベース)の下落は前回と同程度となっている(第3-1-4図(1))9。円安方向への動きと比べると現地価格の引下げは総じて控えめとなっている。
前回と今回で下落テンポの差が大きい電気・電子機器の輸出物価(契約通貨ベース)をみると、今回は映像音響機器(ビデオカメラ・デジタルカメラ)の価格がほとんど低下していない(第3-1-4図(2))。また、2010年基準から輸出物価の対象品目に追加された電動機、電力変換装置の価格が上昇している10。こうした背景には、日本企業が現地価格を引き下げて輸出数量の拡大を目指すよりも輸出財一単位当たりの利益を重視するようになっていることや、海外生産の拡大や比較優位の変化に伴い、財輸出において中間財や資本財といった企業間取引が増加し、価格を引き下げる必要性のある取引の割合が低下したことがあると考えられる11、12。
また、財輸出における品目の高級化13も電気機器や一般機械を中心に進んできた(第3-1-4図(3))。2012年半ば以降、集計データでみると電気機器をはじめ輸出品目の高級化に足踏みがみられるものの、その間も一部の品目では高級化が着実に進んでいる(第3-1-4図(4))。供給制約が顕在化する中で、今後とも財輸出で「稼ぐ力」を高めていくためには、こうした強みを生かしていくことが重要である。
●海外需要の取り込みが限定的となっているサービス貿易
主要国では知識集約的なサービスに強みを持つようになっているが、日本のサービスは海外需要の取り込みが限定的となっている。サービス収支の内訳をみると、輸送収支、旅行収支、その他サービス収支のいずれも赤字が続いている(第3-1-5図(1))14。旅行収支の受取と支払を分けてみると、日本人の海外旅行者数が伸び悩む15中で支払が縮小してきた。こうした中で、2012年秋以降の円安方向への動きやアジア地域へのビザ発給緩和・免除措置等を背景に、訪日外国人旅行者数はこのところ増加テンポが高まっていることから、旅行収支の赤字幅は縮小傾向にある(第3-1-5図(2)、(3))。ただし、旅行の受取は、訪日外国人旅行者数の増加の大半が平均消費額の低いアジア地域の旅行者16となっていることもあって、2005年の過去最高水準を小幅上回る水準となっている。
知的財産権等使用料が含まれるその他サービス収支の内訳をみると、知的財産権等使用料の黒字が2010年以降、増加傾向にある一方、研究開発サービス等のその他業務サービスの赤字が2012年から2013年にかけて拡大しており、全体の収支も赤字が拡大している(第3-1-5図(4))。知的財産権等使用料のうち、特許等の産業財産権等使用料は黒字が増加傾向にある一方で、規模は小さいものの著作権等使用料は赤字が続いている18。また、産業財産権等使用料の受取は、海外現地生産比率の上昇に伴って増加してきており、その多くは日本の現地法人からの受取とみられる(第3-1-5図(5))19。
主要国とサービス収支を比較すると、他の主要国と日本の大きな違いはその他サービス収支の黒字幅にある。アメリカでは特許等使用料、金融、その他営利業務等の三つの黒字が保険や情報の赤字を上回り、全体として大幅な黒字となっている(第3-1-5図(6))。これに対し、英国は金融とその他営利業務等(4分の3はその他営利業務)、保険を中心に全ての収支が黒字となっている。ドイツはアメリカや英国と比べると黒字幅は小さいが、その他営利業務等を中心にそれ以外のサービスも全て黒字となっている。これに対し、日本は現地法人からの知的財産権等使用料がその他サービスの受取の柱となっており、これまでのところその他サービスを通じた海外需要の取り込みが限定的であることを示している20。
3-1 輸出構造の変化が輸出数量に与えた影響
2012年秋以降、円安方向への動きが進んだものの、これまでのところ財の輸出数量には目立った増加がみられない。こうした輸出数量の動向には、新興国等の需要減速17のほか、本節で確認した海外生産の拡大や比較優位の変化を含む輸出構造の変化も影響してきたと考えられる。
輸出数量は2011年初に直近のピークをつけて以降、弱い動きとなっている(コラム3-1図)。ここでは、2010年までの輸出構造がその後も続いたと仮定した場合と比較することにより、海外生産の拡大等が輸出数量に与えた影響を定量的に把握してみよう。2010年までを推計期間とする輸出数量関数を推計し(付注3-1)、その推計値と実績値のかいりをこれらの影響とみなすと、2013年10-12月期の輸出数量は2010年までの輸出構造が続いた場合と比べて10%程度少なくなっていると試算される。
このように輸出構造の変化に伴い輸出数量は押し下げられてきた可能性がある一方、財輸出では数量よりも価格で稼ぐ傾向がみられ、海外生産の拡大を背景に対外資産に占める直接投資の割合は高まっている。日本経済の外で「稼ぐ力」はこれらの動向も含めて評価していく必要がある。
●顕著な改善がみられない対外資産を通じて「稼ぐ力」
海外生産の拡大は輸出を下押しした面もあったが、一方で対外資産が直接投資を中心に増加してきたことも意味する。そうした成果は第一次所得収支に現れているだろうか。日本の第一次所得収支の推移をみると、過去の経常収支黒字の累積に伴い、対外資産残高が増加してきたことから、黒字は増加基調にある(前掲第3-1-1図(1))。ただし、対外資産残高(対名目GDP比)の規模は主要国と比べると小さい(第3-1-6図(1))。また、日本の対外資産収益率は、欧州政府債務危機の影響もあって対外資産収益率の低下が著しい英国、ドイツ、フランスと比べると底堅く推移しているものの、総じて伸び悩んでいる(第3-1-6図(2))。対外資産収益率の水準もアメリカやドイツと比べると依然として低く、対外資産を通じて稼ぐ力に顕著な改善はみられない。対外資産残高(対名目GDP比)の規模が近いアメリカと資産の構成比を比較すると、直接投資の割合が低いほか、証券投資に占める株式の割合が特に低い水準にとどまっている(第3-1-6図(3)、(4))。日本の直接投資残高の地域別構成比をみると、2000年は先進国向けが6割を超えていたが、2012年にはアジアを中心に新興国向けの割合が高まっている(第3-1-6図(5))。こうしたこともあって、日本の直接投資収益率は2000年の3%から2012年には6.5%へと上昇しているものの、アメリカや英国と比べるとやや低い水準にある(第3-1-6図(6))。直接投資の割合を引き続き高めるとともに、債券中心となっている証券投資の構成を変えていくことにより、第一次所得収支を通じて外で「稼ぐ力」を高める余地があると考えられる。
3 既に存在していた構造的課題-エネルギー問題と安定的な資金流入への懸念
経常収支の赤字は既に存在していたエネルギー問題と安定的な資金流入への懸念といった構造的課題への取組の重要性を一層明らかにした。これらの現状について整理する。
●エネルギー価格上昇による所得流出リスクは拡大
経常収支が恒常的に黒字となっていたときも、エネルギー価格の上昇は海外への所得流出の最大の要因となっていた21。大震災後の原子力発電所の停止に伴い、エネルギー価格の動向が日本経済の所得に与える影響は一層大きくなっている。
2000年と比べて2013年の輸入金額は40.3兆円増加している。その要因を輸入価格の上昇と輸入数量の増加に分けると、輸入価格上昇の影響が大きい(第3-1-7図(1))。輸入価格を品目別にみると、2000年からの輸入価格上昇分の大半を鉱物性燃料の輸入価格(18.7兆円)が占めている(第3-1-7図(2))。鉱物性燃料の輸入価格は2010年までは外貨建ての原油価格等の国際市況に沿って動いてきた。2011年以降は新興国の成長鈍化等を背景に外貨建ての原油価格等が横ばい圏内で推移する中で、大震災後のスポット価格での調達割合の上昇による液化天然ガス(LNG)の円建て輸入価格の上昇や2012年秋以降の円安方向への動きが鉱物性燃料の輸入価格を押し上げた(コラム3-2)。
前回の為替が円安方向に推移した局面と交易利得の推移を比較すると、前回と比べて今回の交易利得の悪化が小さい要因として、輸入物価(契約通貨ベース)上昇による押下げ効果がほとんどないことが挙げられる(第3-1-7図(3))。これは、資源価格が安定しているためであるが、その背景には、新興国の成長鈍化やシェール革命を背景とした世界のエネルギー供給構造の変化がエネルギー価格の上昇を緩和していることがある。しかし、資源価格の動向次第では交易利得が更に下押しされるリスクがある。これまでも省エネルギーの推進等による資源の輸入節減や調達先の多角化等による安価な資源確保に向けた取組が進められてきたが、経常収支の赤字に伴い、そうした取組の重要性は一層高まっている。
他方、為替要因による交易利得の押下げ幅は拡大している。円安方向への動きにより交易条件は悪化し、それに伴って交易利得も悪化する傾向がある22が、その影響が大きくなっている。この背景には、鉱物性燃料等の輸入増加を背景として輸入金額が輸出金額を大幅に上回っていることがある。
3-2 東日本大震災後の鉱物性燃料の輸入金額と輸入燃料費の増加の関係
2013年度の鉱物性燃料の輸入金額は、2008~2010年度平均と比べて9.1兆円増加した(コラム3-2図)。これは、我が国における鉱物性燃料の全体の需要や国際的な資源価格の変動等の影響を含んだものである。そのうち、鉱物性燃料の輸入数量の増加に伴う輸入金額の増加は、その間の輸入価格上昇分を含めると1.6兆円となる。ただし、この間の鉱物性燃料の輸入数量の変化には、原子力発電所の稼働停止に伴う電源構成の変化や節電等による電力需要の減少といった電力用途の影響に加えて、石油精製用の原油需要の減少等のその他の産業や民生需要の変化も影響している。
一方、大震災後の原子力発電所の稼働停止に伴う燃料輸入費への影響について、エネルギー基本計画23では、2013年度に海外に流出する輸入燃料費は約3.6兆円増加すると試算している。これは、原子力がベースロード電源24であることを踏まえ、大震災前の原子力発電の発電電力量(2008~2010年度平均)がすべて火力発電の焚き増しで代替されているとした場合の試算であり、鉱物性燃料の輸入金額の増加分とは異なる。
●経常収支の赤字が生じる中で重要性を増す安定的な資金流入の確保に向けた取組
経常収支の赤字は直ちに問題というわけではない。例えば、経常収支が赤字のアメリカや英国の経済成長率は先進国の中ではむしろ高めとなっている。経常収支が赤字であっても国内に有益な投資機会があり、それをファイナンスする海外からの安定的な資金流入があればよい。新興国等で経常収支の赤字拡大が危機を招くのは、そうした資金が効率的に利用されず、財政赤字の拡大や不動産投資等に使われている事例である25。
日本への資金流入の現状をみると、金融収支が黒字となっていた2012年までの期間でも対外負債は一定のペースで増加しているが、大半は証券投資負債(短期・中長期の債券負債や株式・ファンド負債)となっている(第3-1-8図(1))。直接投資負債(対内直接投資)は2002年から2005年と2007年から2009年にかけて多少増加したものの、証券投資負債やその他投資負債(借入等)と比べると少額にとどまっており、安定的に増加する傾向もみられない。この結果、日本の対外負債は主要国と比べても極めて低い水準にとどまっている(第3-1-8図(2))。また、国債残高に占める外国人保有比率をみると、他の主要先進国が上昇基調にあるのに対し、日本は1997年以降、横ばい圏内で推移し、水準も極めて低い(第3-1-8図(3))。金融収支が赤字に転じた2013年も大きな変化はみられない。
海外からの流入資金が財政赤字の拡大や銀行借入を通じた不動産投資の拡大等につながっていないことから、これまでのところ日本の現状は経常収支の赤字に伴う危機を招いた新興国等の事例には当たらない。ただし、厳しい財政状況や対内直接投資の水準の低さに鑑みると、将来にわたって安定的な資金流入を確保するための取組が一層問われるようになっている。
●構造的課題を改めて浮き彫りにした経常収支の赤字
経常収支の赤字は、現在進行中のあるいは既に存在していた構造的な課題を改めて、しかも一挙に浮き彫りにしたといえる。経常収支の赤字は一種の警鐘として構造的課題への取組を促しているとみることもできよう。それではどのような取組が必要だろうか。
第一の課題は、供給制約の克服である。国内の供給制約を克服するためには、生産性を高めるとともに、国内外の労働や資本といった生産資源を最大限活用することが必要である。女性や高齢者等の活躍を一層進めるための環境を整備するとともに、世界で最もビジネスがしやすい環境を整えることにより、海外及び国内の企業による日本への投資を促進していくことが求められる。
第二の課題は、外で「稼ぐ力」を高めていくことである。供給制約を受けやすくなっていることから、財の輸出は付加価値生産性を高め、数量よりも価格で稼ぐことが求められる。また、外で「稼ぐ力」は財の輸出だけに限らない。海外現地法人からの配当(第一次所得収支)や、観光や知的財産権等使用料を通じた収入(サービス輸出)、安価な原材料の調達先の開拓(交易利得の改善)などにより幅広く稼ぐことが求められる。これらの外で「稼ぐ力」の強化に当たっても生産性の向上が基本となるが、観光立国や知的財産立国に向けた取組、既に存在していたエネルギー問題への対応強化も不可欠である。製造業や事業所向けサービスの外で「稼ぐ力」を高めていくための課題については第2節で検討する。また、外だけでなく内で「稼ぐ力」を高めていくことも重要だ。内需型産業である個人向けサービス産業が高齢化・人口減少に対応したニーズに応え、生産性を高めていくための課題については第3節で検討する。
第三の課題は、これまでも存在していた財政健全化への取組である。経常収支の赤字を警鐘としてこれまでの取組を一層強化する必要がある。