平成19年度

年次経済財政報告

(経済財政政策担当大臣報告)

−生産性上昇に向けた挑戦−

平成19年8月

内閣府


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第2節 雇用構造の変化に対応した雇用制度改革

 非正規雇用の増加にみられるような雇用形態の多様化は、過剰雇用の解消やコスト削減を目指す企業のリストラ努力などによりもたらされた面があるが、同時に、経済・産業構造の変化や価値観の多様化などにより企業や労働者の多様な働き方に対するニーズによって広がってきた。また、雇用増が見込まれる分野への労働力の円滑な移動の促進等のために、雇用・労働に関する累次の制度改正も行われてきた。企業側は、従来、こうした新たな制度を活用し、多様な労働者を活用しながら生産性の向上に努めてきた。
 その一方で、労働を供給する個人にとっては、そうした変化に企業ほどはスムーズに対応することが難しい場合もある。一般に、新しい時代に対応した新しいスキル(技能)の獲得には、時間、費用といった調整のためのコストがかかり、新しく生まれる労働需要に見合った新しい労働供給を速やかに提供していくことは、個人にとっては必ずしも容易なことではない。また、雇用・労働環境の変化は、そのまま個人のライフスタイルの変化を伴うため、雇用に関する予測可能性の低下に対する不安には、十分な配慮が必要と考えられる。
 このため、今後の雇用・労働政策には、労働環境に関して、引き続き十分な議論がなされることが期待される。ただし、社会全体の雇用の安定性は、マクロ経済的な効率性を重視する雇用の流動化の推進とバランスをとりながら確保する必要があり、経済全体としての制度設計を確立することが求められる。こうした観点から、本節では、従来までの雇用・労働に関する制度変更について、具体的にどのような議論がなされ、実際にどのような制度が構築され、どういった意味合いを持っていたのか、また今後どのような制度設計が望まれるのかについて、諸外国での取組も参考にしながら分析を行う。


1 労働者派遣を促進した雇用制度の変更

●職業安定法において規制されてきた労働者派遣
 雇用形態の多様化、柔軟化に寄与してきたとされる労働者派遣法は、労働力需給調整に関する基本法である「職業安定法」において定められた「労働者供給事業の禁止」13に関する特別法として位置付けられている14
 職業安定法は、戦後直後の1947年に施行された。当時の立法趣旨は、「労働者供給事業が中間搾取を行い、労働者に不当な圧力を加える例が少なくないことにかんがみ、労働の民主化の精神から全面的にこれを禁止しようとする」15とされている。すなわち、第三者が人と職業とのマッチングの過程に介入することによって生じる強制労働や中間搾取などの可能性を排除し、労働の民主化を図ることが立法の趣旨であったとされる。

●経済環境の変化により需要が高まった労働者派遣
 しかしながら、1980年代に入ると我が国経済社会の活動の変化に伴い、労働市場においても、需給両面に変化が生じ、従来の制度の下では、労働に関する多様なニーズに応えた適切な労働力の供給の確保が難しくなるという問題が発生した。
 具体的には、技術革新の進展や経済のサービス化、ソフト化の流れが挙げられる。その中で、労働需要側である企業にとっては、一般の従業員では対応が難しい業務が増加し、自ら教育・管理するよりも外部に委ねた方が効率的に処理できる業務分野が増加したこと、また、労働供給側である労働者も、希望する日時などに合わせ、専門的な知識、技術、経験を活かした就業を行うといった意識・行動の変化もみられた。実際、自己の雇用する労働者を他の企業に派遣して就業させるといういわゆる人材派遣業が現れ、そこで就業する労働者数も相当な数になった。その際、労働者供給事業との関係で問題が生じる場合もみられ、当時の労働関連法令の下では適切に対処できない状況にあった。

●労働者派遣法の制定及び改正と多様な就業形態
 そこで、特定業務分野については、労働者の保護と雇用の安定に配慮した上で、労働者派遣事業を制度化するための法的整備が求められた。それを受け、政府部内、その後の国会での議論を経て、1985年に「労働者派遣法」が成立、1986年に施行されることとなった。法の施行に当たっては、常用雇用の代替とならないよう、業務の専門性・雇用管理の特殊性を考慮し、適用対象業務を限定した。制定当時は、港湾運送業務、建設業務その他政令で定める業務以外とし、対象業務をポジティヴリスト方式(限定的に個別列挙)とした。
 その後、同法に基づく労働者派遣事業の制度は、新しい労働需給システムとして定着する一方で、同法の趣旨がより活かされるような制度運用の改善が求められた。また、ILO(国際労働機関)が示した新たな国際基準への対応、規制緩和要求への対応なども求められた。こうした状況の変化の中で、1996年にこれまでの対象16業務から26業務への対象業務の拡大、1999年には、対象業務をポジティヴリスト方式からネガティヴリスト方式(特例以外は原則自由)への変更を主な内容とする法改正が行われた。さらに、2003年には、期間制限を従来の1年から最大3年へ延長、製造業務についての労働者派遣事業の解禁(当初1年、2007年3月から最大3年)を主な内容とする変更も行われた。他方で、一定の条件の下で派遣先が派遣労働者に雇用の申込みをする義務も課されている。
 このように、職業安定法の特別法として位置付けられる労働者派遣法は、その時々の我が国経済社会環境の変化に応じて改正されていった。第1節でみたとおり、労働市場において雇用形態の多様化が進んでいるが、その流れの中で、対象となる派遣労働業種の増加などに伴って、派遣労働者が増加してきた(第3−2−1図)。2006年では、労働力人口に占める割合は約1.9%となっている。現状、対象業種の拡大が相当程度進んだ中で、今後は、対象業種の追加ではなく、産業構造の変化、人口動態の変化などの経済社会の変化に応じて、各業種また労働者個人それぞれが、どのように労働者派遣事業を活用していくかが、今後の我が国における雇用形態の多様化の在り方を決定することになると考えられる。

●拡大する労働者派遣事業
 これまでも、労働者派遣法の施行や改正に合わせて、派遣事業の事業所数や売上げが加速している。とりわけ、労働者派遣法成立、99年の改正及び2003年の改正の影響は大きなものとなった。(第3−2−2図
 86年の施行により把握された事業所数は、翌87年の約8,300事業所から、約10年後の96年には、約13,600事業所へと約1.6倍に増加した。その間の平均増加率は、5.7%増に達している。同時に、その間の総売上高は、約2,000億円から約1.2兆円へと約6倍へと増加し、年平均にした伸びは、19.6%と相当高いものとなった。それを一事業所当たり売上高でみると、年平均で9.4%の増加であった。
 その後の96年改正(対象業種の拡大)の影響をみると、労働者派遣事業所数は、99年までの間、ほぼ横ばいで推移したものの、総売上高では年平均7.3%増となった。集計事業所数の増加以上に総売上げが伸びたことから、一事業所当たりの伸びでは、引き続き6.7%増と高いものとなった16
 さらに99年の改正(ポジティヴリスト方式からネガティヴリスト方式への変更など)により、2003年までの間、事業所数で年平均15.0%増、総売上高で12.8%増と再び大きな影響がみられた。ただし留意すべき点として、この間、事業所数の伸びが総売上高の伸びを上回ったため、事業所当たりでみた総売上高が低下し、年平均ではマイナス(1.8%減)となった。
 2003年の改正(期間制限の延長、製造業務への拡大など)においては、直近の2005年までで、事業所数で年平均32.4%増、総売上高で年平均30.7%増の影響がみられ、これまでの改正の中では、年平均でみた経済に与える影響が最も大きいものとなった。その一方で、一事業所当たりの伸びについては、より一層低下し、年平均でマイナス4.3%となった。

●諸外国で進展する労働者派遣制度
 我が国のみならず、一部の諸外国においても、雇用、労働条件に関する規制緩和・強化の一環として、労働者派遣の制度化に関する取組がみられる。労働者派遣制度の規制の度合いを国際比較のために厳密に指標化することは困難であり、雇用慣行や労働力需給における派遣労働者の位置付けも異なることには留意が必要ではあるが、OECDが公表している人材派遣業に係る規制の指標であるTWA指標17をみると、各国ともおおむね指標は低下傾向にある。(第3−2−3図(1))。また、全体として、派遣労働者は、全雇用者に占める割合で1%弱から2%強程度(常用労働換算ベース)となっている(第3−2−3図(2))。ただし、例外的には、英国の派遣労働者数が他国と比べても相当程度多くなっていることのほか、フランスのようにむしろ規制を強めている国もある。

●英国
 1973年に職業紹介事業法の成立により、派遣労働に関する規制が制度化されたが、1994年の労働者派遣業の許可制の廃止、適用除外制度などにより、現在、規制は緩やかなものとなっており、TWA指数によれば、1980年後半以降、対象となっているOECD加盟国中最も規制が緩い国とされている。派遣労働者の数(常用雇用ベース)については、2005年で約120万人、全雇用者の約5%と主要先進国中最も高い水準となっている。

●ドイツ
 2002年には、「労働市場の近代化のための法律」が成立し、派遣期間24カ月の規定の削除、有期労働契約の反復の禁止規定の廃止といった規制緩和が行われており、TWA指標は、1980年代後半の4.0から、1990年代後半の2.8、そして2003年には1.8と低下している。その一方で、均等待遇原則の明定と擬制労働関係においても派遣先と均等待遇を保障するなどの保護強化も図られている。派遣労働者数(常用雇用ベース)は、2005年で約34.3万人、全雇用者に占める割合は、約1%となっている。

●フランス
 1972年以来、労働者派遣に関する法整備がなされているが、その内容は、派遣業の事前届出制、原則最長18カ月間の定めなど、規制の度合いが比較的高いものとなっており、TWA指標によると、1980年代後半以降は労働者派遣業に関する規制が強化される方向にある。フランスの派遣労働者数(常用雇用ベース)は、2005年で約58.6万人に上り、全雇用者数のうちの約2.1%を占めるとされており、人数ベースでは英国に次いで、ヨーロッパで2番目に多い数とされる。

●その他諸国
 2005年の労働者派遣数(常用雇用ベース)について、イタリアでは、約15.7万人(全雇用者当たり0.64%)となっている。また、イタリアにおいてもTWA指標が大幅に低下してきた。さらに、北欧諸国においては、TWA指標でみた人材派遣の規制度合いは1990年代に入り比較的大きく低下しており、全雇用者当たりでみて1%前後が派遣労働者となっている。
 また、アメリカでは、労働者派遣事業についての連邦レベルでの法的な規制は存在せず、一部の州で規制があるのみで、TWA規制指標でみても、最も指標が小さい国となっている。アメリカの派遣労働者(常用雇用ベース)は、2005年で約290万人(同ベースで2.2%)となっている。
 なお、隣国の韓国においては、97年の経済危機以降、非正規労働者が急増しており、正規・非正規労働者間の賃金格差や社会保険適用率の格差が大きいことなどが問題となっていたことを背景に、2006年11月に非正規職員の保護を目的とした3法が成立し規制強化を図っている。


2 雇用形態の多様化の視点からみた雇用保護制度の在り方

●必ずしも失業増加につながるとは限らない一般的な雇用保護規制
 これまで特に着目してきた職業安定法や労働者派遣法のみならず、我が国には、労働基準法など、労働者の保護と雇用の安定の両面を考慮した各種規定が存在する。その一方で、現在、労働者保護に関する制度と雇用指標の関係について、諸外国比較の観点から、様々な実証研究が進められている。ここでは、以上論じてきた労働者派遣法に伴う制度にとどまらず、より一般的に、労働者保護に関する制度と雇用の関係について考察する。
 我が国は、各国と比較して正規雇用者の保護規制が強く、非正規雇用者の保護規制が弱いといわれている18。実際、雇用保護制度指数(EPL)でみた正規雇用者と非正規雇用者の保護の強さについて、その差を比較すると、2003年時点で掲載28カ国中6番目であった。
 しかしながら、同指標のレベルによる正規・非正規雇用者のEPLの位置を諸外国で比較してみると、一般的に正規雇用に比べ非正規雇用のEPLは低い水準にあり、我が国のみが特別な位置にあるわけではないことが分かる(第3−2−4図)。国際的には、日本の正規雇用者の規制のみが非正規雇用者の規制に対して特に強いわけでもなく、同指標の国際比較には留意が必要である。
 EPLは、雇用保護規制の度合いを示す指数であるため、一般に雇用保護規制が強い国では、既存の雇用を維持することにより、失業率が高く、雇用の増加を妨げ、逆にEPLが低い国では、失業率が低く、雇用の増加を促すことが予想される。そのため、失業率と雇用保護規制の強さとの関係について、OECDの主要先進国の2時点変化で確認すると、雇用保護規制が強くなるほど失業率が高いという大まかな関係はみられるが、統計的にはそれほど強い関係とはいえなかった(第3−2−5図(1)19。なお、クロス・セクションではなく、90年代後半と2003年にかけての各国の時系列変化をみると、主に雇用保護規制が最も強かった一部の国(イタリアやドイツなど)で雇用保護規制の低下と失業率の低下が同時にみられた。
 その一方で、雇用保護規制と積極的雇用政策の政府支出の割合の大きさの関係については相関がやや強まっており、統計的にも有意となっている(第3−2−5図(2)20。ここからは、各国の労働市場改革において、雇用保護規制と積極的雇用政策との組合せの程度が高くなっていることがうかがえ、制度面の変更に合わせた支出面の変化がみられている。

●雇用保護の強化の制度は、若年雇用にとってマイナスの影響の可能性
 雇用保護規制の雇用指標に与える影響については、雇用者全体ではなく、異なる立場におかれている年齢層、特に高齢者と若者に分けた雇用との関係によって、その効果が変わり得る。現実には、高齢者と若者の置かれている雇用条件、また労働に対するそれぞれの考え方や評価も異なることから、雇用保護規制の程度と年齢別の雇用への影響も異なる可能性がある。また、特にこれから新たに労働市場に参入しようとする若者にとっては、雇用保護指標の規制の度合いによる影響が比較的大きく受けやすいものと考えられる。
 OECDは、多国間・多時点パネルデータにより、高齢雇用者(55〜64歳)と若年雇用者(20〜24歳)それぞれの雇用率と雇用保護規制の関係をみる実証分析を行っている21。それによれば、雇用保護規制の強化は、高齢者の雇用率を高める一方で、若年の雇用率を低下させることについて有意な結果が示された(第3−2−6図)。その背景として、高齢者については、熟練度が高く市場からの一定の評価も確立されていること、雇用保護規制が高い場合には、高齢者の解雇が難しくなることなどから、雇用率が上がる可能性が考えられる。対照的に、若年については、相対的に熟練度が低く、市場からの評価が確立されていないこと、またそもそも雇用されている割合が小さく、新たに労働市場に参入する場合が多いことから、既存の雇用者を保護し新規に参入することを妨げるような雇用保護規制の程度が大きい場合には、雇用率が下がるという不利益を被ることになる可能性が考えられる。
 以上のような諸外国での動向の分析は、今後の我が国における労働市場に関する制度設計を考える上で、規制の変更がどのような対象にどのような影響を与えるかについて考慮する際の参考になるものと考えられる。


3 労働市場の制度変化に対応した労働紛争処理の必要性

●労働市場の変化の中でみられる個別紛争の増加への対応
 今後、労働市場も変わり、就業形態の多様化も引き続き進行することが予想される中で、これまで以上に労働者自らが個別に企業との交渉を行うことにより、解雇などを含む雇用・労働条件について取り決めを行っていく場面が増えることも考えられる。こうした状況変化に対応した労働紛争のための制度設計は、今後の労働者の保護を考える上で不可欠になっていると考えられる。
 実際、97年以降労働争議は大幅な減少傾向となったものの、近年、労働審判制度などの紛争処理制度が整備される中で、労働関係訴訟や個別の労働紛争相談は増加している(第3−2−7図)。こうした状況もあり、労使双方が安心・納得した上で多様な働き方を実現できる労働環境の法的整備の必要性が指摘されている22
 現状、個別労働関係を律する法律が十分に手当されていなかったことが指摘されている23。そのため、体系的で分かりやすい解決や未然防止に資するルールが求められており、労働契約の内容が労使の合意に基づいて自主的に決定され、労働契約が円滑に継続するための基本的なルールを法制化するため、2007年3月に、労働契約法案を含む労働法制関係法律案が第166回国会に提出された。

●ルールの実効性を確保するための選択肢としての裁判外紛争処理機関
 雇用の多様化などの労働市場の構造変化に対応し、個別労働関係紛争の事後的解決方法の整備が進んでいるが、今後はこうした仕組みを十分に活用できるようになることが望ましい。さらに、このような制度設計は経済全体の効率性を高めるという観点からも重要な課題と考えられる。
 そのため、裁判及び民事調停、昨年4月より新たに実施された労働紛争解決制度(労働審判制度)といった司法型の紛争解決のための制度の普及に加え、各地域におかれた労使紛争の解決を図るための行政による労働委員会や、昨年発足し、法的紛争の解決に役立つ法制度情報や相談窓口情報等を提供する「日本司法支援センター(法テラス)」、さらには弁護士の自主的な取組による「弁護士仲裁センター」などの裁判外紛争処理機関(ADR:Alternative Dispute Resolution)の役割の普及も注目される。こうした司法、準司法及び行政、民間型の裁判外紛争処理機関による仲裁、調停、あっせんの手続が機能面からも中立性の面からもうまく機能することが期待される。こうした実効性確保の取組が、ひいては、個別の労働者と雇用者との交渉によって生じる我が国社会全体の労使紛争の解決に係る調整コストを低減させることに寄与すると考えられる(付図3−2)。
 その際、民間型のADR機関が、2007年4月に開始された「裁判外紛争解決手続の認証制度」を積極的に活用し、より多くの労働者の利用に供することができるような仕組みを確立するような取組も重要と考えられる。また、労働者自らも、こうしたADR機関があることを認知し、積極的に活用するような意識を持つことも大切であると考えられる。

●諸外国で充実している労働契約ルールの実効性確保策24
 諸外国では、労働契約ルールに関する立法に合わせて、裁判外紛争処理システムを充実させることによって、同ルールの実効性を確保し、労働者保護の仕組みを支えている。我が国においても、引き続き労働条件などの個別交渉の増加に伴う労働関係紛争の増加が予想されるが、その際、以下の海外諸国での事例は、今後の制度整備を進める上で有益な参考事例となると考えられる。
 例えば、ドイツでは、普通裁判所から独立した「地区労働裁判所」、「州労働裁判所」、「連邦労働裁判所」の三審制が別途用意され、労働事件を専属的に管轄することにより、より迅速な解決を促すことなどに資するとされている。労働裁判所の新受件数は、年間60万件あるとされ、うち40%強が和解により終了しており、その他40%弱もその他何らかの方法により終了するとされている。
 フランスにおいても、別途、特別に労働裁判所が各地に用意されており(全国で271機関)、その構成員も職業裁判官ではなく、労使それぞれの集団内で5年ごとに選出される労使双方の同数の裁判官から構成されるという特徴を有している。提訴の方法も比較的簡単な手続きとなっている。裁判の迅速性、低コスト、使い勝手の良さに配慮がなされ、フランス国内の評価も高いとされている。年間16万件程度(2000年)が処理され,6割弱程度が終結している25
 英国では、規制が緩やかであることもあり、雇用関係法に基づく監督、強制権利を有する包括的な監督行政機関が存在しないとされる。そのため、雇用者個人の主体的な役割が特段求められ、雇用裁判所と呼ばれる特別裁判所が用意され、アクセスの容易さ・迅速さ、低廉さへの配慮がみられる。また、訴訟の負担を軽減するための法律センターやCAB26が無料の相談を行うなどの無料の代理人提供の仕組みも設けられている。さらには、ACAS27と呼ばれる行政の裁判外紛争処理機関が設けられ、雇用裁判所に持ち込まれる前段階で既にACASの斡旋により解決がなされる例が少なくないとされる(4割弱程度)。そうしたACASと連携した雇用裁判所は、年間20万件弱の事件を処理しているとされている。
 一方、アメリカについては、これらヨーロッパ諸国のような労働関係紛争に係る特別裁判所や特別の審理体制、手続は設けられていない。その一方で、アメリカでは様々な類型の民間主体の裁判外紛争処理機関が発達しており、簡便さ、迅速さ、低廉さの観点から様々なものが用意され、公式の統計は存在しないものの、国民の間で広く活用されている。


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