平成19年度

年次経済財政報告

(経済財政政策担当大臣報告)

−生産性上昇に向けた挑戦−

平成19年8月

内閣府


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第2節 ゼロ金利解除後、安定的に推移してきた金融市場

 日本銀行は2006年3月に量的緩和政策を解除し、これに続いて7月にはゼロ金利を解除した。2007年に入ってからの金融市場をみると、2月末から3月初にかけて世界的に株式市場の調整がみられたが、国内経済の緩やかな回復を反映し、総じて落ち着いた動きとなっている。2007年2月の金融政策決定会合では、2006年3月の量的緩和解除以降、二度目の利上げが実施された。これを受けて、短期金利には上昇がみられたが、長期金利(新発10年国債流通利回り)は、利上げ前後で安定している。企業金融は総じて緩和的な状態が継続しており、銀行貸出は、中小企業向けの資金需要を中心に、緩やかな増加傾向を示している。以下では、実体経済との関係に注目しながら、今年に入ってからの金融市場の特徴的な動きを説明する。


1 安定的に推移してきた長短金利

●短期金利は政策金利引上げ後も安定的に推移
 2006年7月にゼロ金利が解除され、日本銀行は政策金利である無担保コールレート(オーバーナイト物、以下O/N)を0.25%前後で推移するよう促すことを決定した。2007年2月には二度目の利上げが実施され、無担保コールレート(O/N)は0.5%近辺で推移しており、代表的な円金利ターム物レートであるユーロ円金利(3カ月物)は0.7%台まで上昇している。
 オーバーナイト・インデックス・スワップ(以下、OIS)レートの1カ月物フォワードレートの推移から先行きの無担保コールレート(O/N)に対する市場の見方をみると、同フォワードレートは2006年8月下旬に公表された基準改定後のCPIが市場予想比下振れした後、大きく低下した(第1−2−1図(1))。ユーロ円金利(3カ月物)を取引対象とした先物商品であるユーロ円金利先物の動きからみても、2006年8月のCPIの基準改定以降、市場参加者は2007年2月の利上げを織り込みつつもその後の政策金利に対して緩やかな上昇を見込んでいたことがうかがわれる23第1−2−1図(2))。

●一定の範囲内での動きを継続してきた長期金利
 長期金利(新発10年国債流通利回り)の推移をみると、2006年5月上旬には景気回復と物価上昇の基調の下で1999年8月以来の2%まで上昇したが、基準改定に伴うCPIの市場予想比下振れ以降、おおむね1.6〜1.8%台のレンジ内で推移した。こうした動きの背景としては、1市場参加者が先行きの政策金利の緩やかな上昇を想定していること、2連動性を高めているアメリカの長期金利が同国の景況感や先行きの金融政策に対する見方が交錯する下で方向感が出づらい状況であったことが挙げられる。2007年2月の利上げ実施後もレンジ内での動きに変化はみられなかったが、アメリカで比較的堅調な経済指標が確認される下で、5月以降、同国の長期金利が大幅上昇したことなどを受けて、6月前半には1.9%台まで上昇した(第1−2−2図)。このように、長期金利の動向は国内要因だけではなく、海外金利との連動性を強めている。今後、景気の実態から離れて大幅かつ急速な金利変動が生じた場合、国内経済に与える影響には留意を要する。

●イールドカーブのフラット化が示す先行きの景況感の弱さ
 景気や物価の改善見通しが2006年夏頃との比較で緩やかなものとなっている点は、将来の金利水準の予測からもうかがわれる。
 市場参加者の有する金利見通しに基づき形成されるイールドカーブ(スポットレート)から将来の金利水準(インプライド・フォワードレート(IFR))を予測することができる。これによって1年物フォワードレート(将来の期待1年物金利)の変化をみると、2006年7月の利上げ直後の状況と比較して、当面の政策金利の影響を受けやすい短中期ゾーンが上昇する一方で、先行きの景況感を反映しやすい長期ゾーンはおおむね横ばいとなっている(第1−2−3図(1))。
 なお、過去一定期間(20日間)における国債金利変動率の標準偏差(ボラティリティ)をみると、政策金利の影響を受けやすい2年債の金利の変動率(ボラティリティ)は、1量的緩和政策解除前、2ゼロ金利解除前という重要な政策変更の転換時、さらには3基準改定後のCPIの市場予想比下振れ時には拡大する動きがみられ、市場に期待のばらつきが拡大したことがうかがわれる。しかしながら、こうした市場期待のばらつきも、2007年に入ってから縮小傾向にある(第1−2−3図(2))。

●クレジット市場は企業部門の良好な財務状況を映じて落ち着いた動き
 社債スプレッド(社債金利の対国債金利のスプレッド)の動きをみると、企業の良好な財務状況の下で、企業収益の堅調さ継続、銀行の貸出姿勢の積極化などを要因に、2006年来スプレッドは横ばいないし若干縮小している。2月末には世界的な株式市場の調整やサブプライム・ローン問題などで米国クレジット市場でスプレッドの拡大がみられたものの、国内市場では全般に低水準で推移している(第1−2−4図(1))。
 一方、社債スプレッドに比べて信用リスクに対して迅速かつ柔軟に反応しやすいとされるクレジット・デフォルト・スワップのプレミアム(CDSプレミアム24)を主要企業についてみても、2006年6月下旬には幅広い業種で上昇がみられたが、その後は低下傾向をたどり、現在は量的緩和政策解除前のレベルよりも低下しているなど、極めて安定している(第1−2−4図(2))。

●預金金利や住宅ローン金利、企業向けの貸出金利の上昇はいずれも抑制的
 緩やかな上昇にとどまっている市場金利の動きに対応して、家計が直面する預金金利や住宅ローン金利の上昇も抑制的である25。住宅ローン金利については、短期プライムレート引上げ26から変動金利型の住宅ローン金利が上昇している。固定金利型の住宅ローン金利については、短期金利の上昇を受けて2年物の住宅ローン金利などで上昇がみられる一方、安定的な長期金利の動きを映じて10年物金利はおおむね横ばい圏での動きとなっている27
 企業部門を含めた国内銀行の貸出約定平均金利(新規)をみると、2006年来、都市銀行などでやや上昇がみられているが、全体としては低水準である(第1−2−5図(1))。企業サイドの受止め方を資金繰り判断DIや金融機関の貸出態度判断DI(第1−2−5図(2))の水準でみると、これまでの緩和的な金融環境の認識に大きな変化はみられていない。


2 調整局面を経て引き続き上昇基調を示す株式市場

●上昇基調の中で生じた二度の株価調整
 株価(日経平均株価)は、2005年5月の11,000円割れの水準を底に、景気回復の下で上昇を続け、2006年4月には2000年7月以来となる17,000円半ばまで回復した。しかし、2006年5月からの世界的な株価調整により一時14,000円前半まで下落し、その後は年末にかけて為替が114円台まで円高方向で推移したことなどから伸び悩む展開となった。
 2007年に入ってからの株価は、米国株式相場の上昇や国内経済の緩やかな回復継続を背景に、2000年5月以来の水準である18,000円台を回復し、2006年初来2,000円強の上昇をみせた。しかしながら、2月末にかけて中国株の急落をきっかけとした世界的な株式市場の調整と急速な円高から、3月初にかけて16,000円台まで反落した。
 2006年5月にも、世界的に金融政策が引締め方向に推移する下で、それまでの緩和的な金融環境を前提とした海外投資家のリスク許容度が低下し、世界的に株式市場が調整するなど、マネーフローに変化がみられた。当時、企業業績面(予想PER)からみて割高感が強かった日本株は相対的に大きく下落している。今回の株価調整と2006年5月の株価下落を比較すると、世界的な株安を背景に海外投資家が日本株を売り越した点に共通点がみられるが、一株当たり株式利益率(EPS)などから推計した株価の理論値との乖離幅でみると、2006年5月の株価下落時の方が株価の過熱感は強かったことがうかがえる(第1−2−6図(1))。株価(日経平均株価)は3月中旬以降、持ち直してきており、2006年5月の下落時にはおよそ2カ月間にわたって3,000円近く下落したことと比べると、今回の下落幅と下落期間は小幅なものにとどまった。
 年度明けの4月以降の株価の動きに関しては、企業部門の業績や景気全体の底堅さが継続するもとで海外投資家などのスタンスも改善しており、大きな流れでとらえた場合、2003年4月の安値(日経平均株価7,607円)を底とした景気回復局面でみた日本株の上昇トレンドが継続していると考えられる。
 この間、2006年初来の業種別株価の上昇率をみると、業績好調の下で高配当銘柄である鉄鋼株や地価の持ち直しや金利の低位安定化などを背景に不動産株が上昇している。このように2007年に入ってからの株価は底堅い動きを示している。しかしながら、株価動向が消費や景気全体に与えるマインド面での影響(第1−2−6図(2))を考えると、円高による企業収益の減少に伴う株価調整リスクについては、引き続き留意していく必要がある。

コラム4 外国人投資家は順張りか逆張りか?
 2003年4月の安値(日経平均株価7,607円)を底とした日本株の上昇局面における外国人投資家のプレゼンスの高まりは周知のとおりである。
 現在、東京証券取引所における外国人投資家の取引シェアは33.2%28を占めるほか(2006年時点)、株式の保有比率も28.0%29まで上昇している(2006年度時点)。日本の株式市場における外国人投資家の投資行動については、売買回転率が高く、短期的に売買を繰り返すことや、保有株式に業種の偏りがみられることが知られている(代田(2002)、菊池(2007))。実際に外国人投資家の売買回転率をみると(コラム4図(1))、上昇傾向にあることが確認できるが、個人投資家についても、急速に売買回転率が上昇している。
 また、外国人投資家については、売買パターンや株価変動に与える影響に注目した分析がみられる。楠美(1999)は、1983年から1997年までの週次データから、外国人投資家は収益の高まりに敏感に反応して株式を購入する順張り行動を取っていたとしている。これに対して、Hamao and Mei(2001)では、1974年から1992年までの月次のデータを用いて、外国人投資家は日本株へのポートフォリオを一定に保つため、株価が上昇した後では売り、相場が下落した後では買うといった投資行動を取っている(Long-term contrarian players)と分析している。
 今回の株価上昇局面では、外国人投資家が大きく買い越している。また、外国人投資家が買い越しているときには個人投資家が売り越しに転じる場面が多いことが分かる(コラム4図(2))。2003年4月以降の株価上昇局面における外国人投資家と個人投資家の投資行動をみたところ、週次データから、外国人と個人の株式購入・売却額の大きさが共に株価の変動率(ボラティリティ)を高めていること、月次データでみると、当期の株価リターンがプラスのときに外国人は大きく買い越す一方、個人は売り越していることが分かった(分析結果の詳細は付表1−2を参照)。外国人投資家は株価上昇局面で更に上値を追い株価の上昇を大きくしてきた一方、個人投資家は株価が下がったときに株を押し目買いする傾向が強かったことが示唆される。

コラム4図 外国人投資家と個人投資家の株式売買動向




3 基調的な円安傾向が続く為替市場

●金利差を背景とした基調的な円安傾向が続く
 世界経済の順調な回復に伴い日本の輸出市場が拡大し、安定的な円安基調が続いてきたことが日本の輸出関連企業の収益面にプラスに働いてきた。貿易ウエイトや内外の物価上昇率を考慮した実質実効為替レートは、1985年以来の円安水準となっている(第1−2−7図(1))。2006年後半の為替動向をみると、2006年10月〜12月に一時対ドルで114円/ドル台まで円高方向に推移する局面もみられたが、内外金利差を背景に総じて円安傾向をたどった。2007年に入ってからも、2月末にかけて円が急伸する局面がみられたが、内外金利差の下での円安基調が継続している(第1−2−7図(2)30
 内外金利差と円相場の関係を改めてみると、低金利通貨である円は、主要通貨やアジア通貨などに対しても下落傾向をたどった。主要国で政策金利の引上げが始まる直前の2003年12月以降と比較すると、円は欧州通貨や豪ドル・カナダドルなどの資源国通貨といった対米ドル以外の主要通貨に対して20%以上大きく下落している31。このように金利差に着目したとみられる為替動向の背景には、為替相場変動率(ボラティリティ)が低下し、為替のポジション保有に伴うリスクが低下してきたことが挙げられる(第1−2−7図(3))。
 2007年に入ってからはアメリカの金利先高感の後退がみられたほか、中国株の大幅な調整をきっかけとした世界的な株安から、円相場は115円/ドル近辺まで急伸した。この間、シカゴ・マーカンタイル取引所における投機筋の通貨先物取引のポジション(第1−2−7図(4))をみると、3月にかけてネット円売り持ち高は半減するとともに、高金利通貨の買い持ち高も急速に減少している様子がうかがえる。
 為替動向に影響を与える市場取引の定量的な捕捉は容易ではないが、実物面での貿易取引などを中心とする経済活動とは異なる経路で為替市場における価格形成が急激に変化し、それが経済活動に悪影響を及ぼすリスクには注意する必要がある。


4 増加に転じた銀行貸出

●緩やかに増加する銀行貸出
 2006年度中の民間銀行貸出は、前年比1.5%増となった。2007年6月の貸出をみると、前年同月比0.7%増と17カ月連続プラス圏で推移している。貸出別の内訳をみると、住宅ローンが引き続き増加しているほか、これまで企業向け貸出が中小企業向けを中心に増加してきた(第1−2−8図(1))。また、業種別の動向をみると、2006年中製造業が比較的堅調に推移し、非製造業で情報通信業が高い伸びを示してきた一方で、2007年に入ると金融・保険業(特に貸金業)の貸出が伸び悩んでいる。

●依然キャッシュフローの範囲内にとどまる資金需要
 企業向け貸出の内訳を資金使途別にみると、運転資金の増加が全体を押し上げてきた(第1−2−8図(2))。一方で、設備資金の新規借入額・期中返済額の内訳をみると、期中返済額は減少しつつあるものの、依然として借入超過に至っておらず、設備投資がキャッシュフローの範囲内で行われていることが示唆される。
 この点を資金需要側の統計である「法人企業統計季報」で確認すると、大企業の資金需要はキャッシュフローの範囲内に収まっている一方、中小企業の資金需要がキャッシュフローにかなり近い水準まで上昇していることが分かる(第1−2−9図(1))。さらに中小企業の資金需要の内訳をみると、設備資金需要の高まりに加えて、企業間信用の与信超などに伴う運転資金需要が目立っている。中小企業の運転資金需要の高まりは、売上高DIの改善傾向とも整合的な動きを示しており(第1−2−9図(2))、このことは、中小企業の経済活動が低下した場合、中小企業向けを中心とした貸出が反対に伸び悩む可能性が考えられるため、今後の景気回復の持続性をみていく上でその動向が注目される。

●全体の貸出増にもかかわらず借入増加企業数の増加は緩やか
 貸出動向をみていく上では、業種間、企業間でも資金需要の強さにはばらつきが存在し、一部業種・企業での資金需要の目立つ結果となっている点が注目される。
 上場企業では、輸送用機械、不動産業などにおいて資金需要の回復を背景に借入増加に転じる企業がみられるほか、負債返済を続ける企業の借入減少幅も徐々に縮小するなど、貸出統計にみられる民間企業向けの貸出増加を裏付ける動きがみられている(第1−2−10図)。一方、借入増加先の業種に偏りがみられているほか、個社ベースでみると借入増加企業数が大幅に増加しているわけではなく、一社当たりの借入増加額が拡大する結果となっている。

●緩やかな伸びが続くマネーサプライ
 企業や個人の保有する現預金の総量であるマネーサプライの動きをみると、金融システムが安定化する中で、2005年後半以降、預金以外の金融資産の収益率が高まり、家計や企業が資産選択の幅を広げ、投資信託や国債など銀行預金以外の金融資産へのシフトが続いてきたため、伸び率が鈍化してきた。
 しかしながら、2006年夏頃よりマネーサプライの伸びに若干持ち直しの動きもみられている。マネーサプライの通貨別寄与度をみると、ゼロ金利解除以降、金利が極めて緩やかに上昇する下で、預金通貨が減少する一方で、定期預金などの準通貨が上昇に転じている。
 また、やや長期的にマネーサプライの変化要因をみると、従来より企業における有利子負債の返済や金融機関の貸出姿勢の慎重化を背景に金融負債の減少がマネーサプライの継続的な押下げに寄与してきたが、その寄与は徐々に減衰している。こうした動きは貸出回復の動きと整合的であるが、企業の借入需要が活発な信用創造プロセスを通じてマネーサプライの伸びを明確に高めていくまでには至っていない。


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