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第2章 2008年の経済見通し


第3節 世界経済の減速の影響を受けつつも景気拡大が続くアジ ア

1.高成長の中で経済の過熱防止とインフレ抑制に取り組む中国

  中国経済は、5年連続して10%を上回る成長を続け、07年には経済成長率は11.9%となるなど、内外需ともに堅調に推移し、景気は拡大を続けている(第2-3-1図)。この5年間で名目GDPは約2倍に成長し、世界第4位の規模 (1)となるなど、世界経済における存在感は高まっている。07年の経済成長を四半期別にみると(2)、前年比11%台の高成長が持続しているものの、年後半にかけて成長率はやや鈍化する動きもみられ、08年1〜3月期は同10.6%となった。これは、世界経済の減速や輸出抑制策の影響による輸出の伸びの鈍化に加え、経済の過熱防止とインフレ抑制に取り組む政府が、後述するように07年後半以降金融政策等の引締めスタンスを強めていることから、その効果の一部が現れているためとみられる。また、需要項目別でみても、07年通年では、純輸出の寄与度は高まる中、政府の抑制策もあって投資の寄与度はやや低下する一方、好調に推移した消費の寄与がやや高まったことから、05年以来2年ぶりに消費の寄与が投資の寄与を上回った。

製造業、不動産業を中心に投資は高い伸びが続いている

  06年後半にかけてやや減速をみせた固定資産投資は、07年に入ると再び伸びを高めた(3)。07年後半には当局の金融引締め政策等により鈍化がみられたものの依然として高い伸びが続いている。また部門別にみると、製造業と不動産業が投資の伸びをけん引する構図が続いているが、このところ不動産業の寄与がやや高まっている(第2-3-2図)
  中国政府は、固定資産投資の過熱を抑制するため、これまで預金準備率等の引上げ(後述)、銀行貸出抑制のための窓口指導、人民銀行債の発行、公開市場操作 (4)等の金融引締め政策を行ってきている。07年7月には、07年における国内金融機関の新規貸出額(人民元建て)の伸びを前年比15%以内(金額で3.66兆元)に抑制すると報じられ、各金融機関の貸出しに対する窓口指導も強化された(第2-3-3図)。また、不動産投資の高まりや不動産価格の高騰を背景に、2件目以降の住宅購入にかかる住宅ローンの頭金の引上げ(07年9月)や、開発目的で取得した土地を1年以上放置した場合の課徴金の徴収(08年1月)といった不動産への投機抑制策も打ち出された。
  これらの政策を背景に、07年11月以降、M2や貸出残高の伸びがやや鈍化する動きがみられた(第2-3-4図)。また、固定資産投資も07年後半にやや減速した(5) 。08年に入ると、1〜2月には50年ぶりの雪害等の影響もみられたものの、名目ベースでみた投資は高い伸びを続けている。ただし、こうした高い伸びには固定資産価格の上昇が寄与していると考えられ、試みに固定資産投資価格指数の伸びで実質化してみると、07年7〜9月期以降伸びの鈍化が続いている(第2-3-5図)
  建物販売価格(6) については、主要都市全体でみると、06年は安定した伸びを保っていたが、07年に入ると価格上昇が加速した(第2-3-6図)。足元をみると、これまで建物価格の高騰が進んだ都市で減速又は下落の動きがみられるが、全体としてみれば、依然として高い伸びが続いている。
  このように投資にはこのところやや減速感がみられるが、過去数年非常に高い伸びを続けてきたことから、過剰資本の問題が懸念される。試みに中国の資本ストック循環をGDPベースの固定資本形成で推計してみると(一定の前提を置いた試算であり、幅をもってみる必要がある)、03〜07年にかけて推計上は実際の成長率をやや上回る期待成長率に対応した水準の投資が続いており、過熱が示唆される(第2-3-7図)。また実際に、既に一部業種では過剰投資による生産能力過剰が指摘されている (7)。このため、中国当局は今後も様々な産業政策や金融引締め等を通じて投資抑制策を講じていくものとみられる。

●輸出は増加しているものの、伸びはやや鈍化

  07年の輸出額(ドルベース)は前年比20%台の高い伸びを維持しつつも、後述するとおり、アメリカ経済の減速や中国政府による輸出抑制策の影響等から、07年秋以降伸びがやや鈍化した(第2-3-8図)
  輸出の動向を品目別にみると、引き続き一般機械や電気電子機器を中心に増加しているが、鉄鋼製品等を含む鉄・非鉄金属の寄与は縮小している(第2-3-9図)。政府は貿易摩擦緩和と産業構造の高度化の両面から、エネルギー大量消費・環境汚染につながる製品(鉄鋼製品等)や低付加価値製品の輸出抑制策 (8)を実施しており、年後半の輸出の鈍化には一部でこのような政策の効果が現れたとみられる。
  国・地域別の輸出動向をみると、アメリカ経済の減速を受けてアメリカ向けの伸びが鈍化した一方で、ヨーロッパやアジア等その他の地域向けは堅調に推移している(第2-3-10図)
  一方、10%台後半であった輸入額の伸びは年後半に原油価格の高騰等を受け徐々に高まり、07年10〜12月期には輸出の伸びを上回った。08年1〜3月期では、輸出額は前年同期比21.4%増、輸入額は同28.6%増となっている。こうした中、貿易収支は、07年通年では2,618億ドルの黒字と3年連続で過去最高額を更新したものの、秋以降は貿易黒字は縮小している(前掲第2-3-8図)

消費の増加ペースの高まりと賃金上昇

  中国において個人消費は高い伸びが続いている(第2-3-11図)。個人消費の名目ベースの伸びは、ここ数年前年比二桁で堅調に推移し、07年に入ってからは伸びを高め、07年は同16.8%、08年1〜3月期には同20.6%と高い伸びとなった。名目でみた伸びが加速した背景としては物価上昇の影響が大きいと考えられるが、物価上昇分を除いた実質伸び率(小売物価指数を用いて実質化した推計値)でみても、同13.2%と引き続き高い伸びが続いている。
  消費が好調な背景には、賃金上昇による所得の増加が挙げられる(9)。平均賃金の上昇率をみると、ここ数年各地で最低賃金が引き上げられ続けていることや、一部地域における労働需給の引締り等から、前年比で10%台半ばで推移し、さらに07年に入ると物価上昇を反映して同20%程度にまで伸びが高まっている(第2-3-12図、第 2-3-13図)。ただし、実質ベースでみた上昇率(消費者物価指数を用いて実質化した推計値)は、前年比でおおむね横ばいで推移した後、07年後半以降はやや低下しているとみられる。

●食品価格の高騰等により高まる物価上昇圧力

  中国の消費者物価上昇率は、06年11月までは前年比でみて2%を下回る水準で安定していた。しかし、その後上昇し、07年8月以降は同6%以上の高い伸びを続け、07年通年でも同4.8%と政府目標の同3%を大きく上回った(第2-3-14図)。08年に入ってからも1〜3月期では同8.0%と高止まりしている。
  消費者物価上昇の主因は、疫病や飼料価格の上昇に伴う豚肉価格の高騰、国際商品価格の高騰による食用油等の上昇といった食品価格の上昇であるが、足元では食品以外の価格にも上昇の動きがみられる。とりわけエネルギー価格をみると、中国では政府による価格統制が行われているため比較的抑制されてきたものの、07年11月には1年半ぶりに石油製品の基準価格が引き上げられたことなどから、上昇傾向で推移している。

引締めの強化と金融政策の転換

  こうした状況の下、07年には引締め政策が強化されるとともに、金融政策のスタンスに転換がみられた。
  中国経済は、投資と輸出が経済成長の原動力となる一方で、過剰投資や過剰流動性、高水準な貿易黒字といった問題もはらんでいる。政府は、07年の経済政策の方針を「経済が速い発展から過熱に転じることへの防止」とし、金融引締めや輸出抑制策等を通じてこれらの問題に取り組んできた。さらに、07年半ばからの消費者物価上昇の加速を受け、08年の経済政策の方針を、「経済の過熱や構造的物価上昇のギャロッピングへの転化の防止」とし、インフレの防止を加えた(第2-3-15表)
  また、金融政策のスタンスを示す表現を、これまでの「穏健な」金融政策から段階的に変更し、12月には「引締め」へと転換し、07年初以降、金利を6回、預金準備率を16回引き上げている(第2-3-16図)
  為替政策についても、07年秋以降、中国当局はインフレ期待を安定化させるために為替政策を用いることを表明し(前掲第2-3-15表)、金融政策と協調する形で人民元レートの柔軟性を拡大させている。実際、ドル安もあって、07年秋以降、ドルに対する人民元レートは増価ペースを速めており、08年5月30日時点では6.9420元/ドル(05年7月の切上げ後16.8%、08年初比5.2%の増価)となっている(第2-3-17図)。ただし、ドルに対する人民元の増価幅は、各国通貨のドルに対する増価に比べて必ずしも大きいとはいえないため、円やユーロに対してはむしろ減価傾向にある。名目実効レートをみても、ドルレートに比べると増価ペースはそれほど高まっていない。

中国経済の今後の見通しとリスク要因

  08年3月に開催された全国人民代表大会において、08年の経済成長率の目標値を、07年と同様の8%前後にすることが決定された。03年以降5年連続で2桁台の成長を続けている中で、実績に比べて低めの成長目標が設定されたのは、国内外の様々な要因を総合的に考慮し、経済成長率のみを追求することを回避するとともに、「経済の良質かつ急速な発展を実現するため」とされている。「経済の過熱の防止」と「全般的なインフレへの転換の防止」という、「2つの防止」を達成すべく実施されている一連の政策の効果と、世界経済の減速の影響を受けて、07年と比較すると08年の成長はやや鈍化すると見込まれる。特に、アメリカ経済を中心とした世界経済の減速が予想以上に大きいものとなる場合、中国経済もさらに減速する可能性もある。
  また、食品の供給要因や国際的な資源価格上昇等に影響されて物価上昇がさらに加速する場合(10) には、国内需要が想定されている以上に抑制され、中国経済全体の減速がより大幅なものとなる可能性がある。中国の政策当局も、食品中心のコストプッシュ型の物価上昇が、食品以外の価格や賃金に波及することによってインフレ期待を高め、スパイラル的な物価上昇につながっていくことを警戒している。前述のとおり賃金が高い伸びで推移する中、今後についても最低賃金の引上げが続く見込みがあることや、労働契約法(11)の施行(08年1月1日)等が労働コストを上昇させる可能性があると考えられ、賃金面からの物価上昇圧力をも注視していく必要があろう。また、賃金や物価の上昇に関しては、国際競争力の低下を通じて、中国への直接投資や輸出に与える影響にも留意が必要である(12)
  適度な減速は、経済の過熱を抑制するとともに、全般的なインフレへの転換を防止することで、均衡のとれた成長に資するとみられるが、減速の程度によっては、過剰資本の問題が顕在化し、企業収益の悪化や不良債権の増加等によって経済が不安定化し、一段の減速を招くリスクもある。このため、今後の経済運営には、景気の過熱を抑えつつも、行き過ぎた減速による経済の不安定化を避けるという難しい舵取りが求められよう。

コラム 中国:四川大地震

  2008年5月12日14時28分(日本時間同日15時28分)、四川省の省都成都の西159キロの?川(ブンセン)県でマグニチュード(M)8.0の地震が発生した。中国国務院によれば、多くの人が被災し、建物・道路等が損壊するなど、深刻な被害が生じた。被災地となった四川省等では、生産活動や流通機能が停止するなどの影響が出ている。

四川省の経済規模は全国の4%を占める

  四川省は、名目GDPでは全国の4%程度のシェアであるが、価格上昇の続いている豚肉、鶏卵等の食品や、天然ガス、鉄鉱石等の資源の生産においてはより高いシェアを占めている。物価上昇が続いている中で、四川大地震が中国の物価や生産活動にどのような影響を及ぼすかについて引き続き注視したい。

四川省は一部の鉱物・燃料や農畜産物の主要生産地


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