第1章 変化するグローバルな資金の流れ |
第1節 グローバルな資金の流れとその特徴
1.金融資本市場における資金フローの拡大
●世界における金融資本市場の拡大
まず、金融資本市場の資金フローについて、現金及び預金(2) の動向と債券及び株式の取引規模についてみることとする。
主要国における現金及び預金の残高(以下、M2という。)は、2000年代に急速に増加し、06年末で38兆ドルと01年に比べて1.7倍に増加した(第1-1-1図)。M2の名目GDP比、いわゆるマーシャルのKをみると、日本を含むアジア諸国で上昇がみられるほか、ヨーロッパの主要国でも水準は低いものの上昇している(第1-1-2図)。他方、アメリカでは、マーシャルのKはそれほど上昇しておらず、以下でみるように債券や株式に比べてM2の伸びは低調である。
世界全体で民間及び政府により発行された債券の残高は、2000年以降増加ペースが加速しており、07年末で77兆ドルと2000年末の残高から2.1倍に増加した(3) (第1-1-3図)。債券発行国・地域のシェアでは、07年末で、アメリカが最も多く4割弱、次いでユーロ圏・英国が3割強、日本が1割強となっているが、近年ではアメリカ、日本のシェアが低下し、ユーロ圏・英国のシェアが増加している。その他の地域における債券発行も増加しているが、全体の2割弱にとどまっている。
また、株式市場における時価総額をみると、2000年代初めはITバブル崩壊の影響等を受けて縮小したが、03年以降は再び急速に増加し、07年末で63兆ドルと2000年末の残高から2.0倍となった(第1-1-4図)。国・地域別のシェアでは、債券と同様に、アメリカのシェアはユーロ圏・英国よりも大きいが、2000年代を通じて低下して いる。日本のシェアは90年代に大きく低下し、2000年代は1割弱で推移している。一方、その他地域のシェアは急速に上昇し、07年には4割弱を占めるに至っている。近年、中国を始めとする新興国の株式市場が、経済の高成長への期待や潤沢な流動性供給等によって急拡大したことがこの背景として挙げられる。
アメリカ、日本、ユーロ圏、英国以外の地域の名目GDPシェアは4割弱であることを踏まえると、これらの地域の株式市場の規模はおおむね経済規模に見合ったものとなっているが、債券市場については経済規模ほどにはまだ発達していない。
●国境を越えた資金フローの拡大と新興国のプレゼンス
上述のように世界の金融資本市場の拡大には、金融面でのグローバル化が進む中で、国境を越えた資金フローが拡大したことも寄与したと考えられる。国境を越えた資金フローを示すものとして、国際収支統計における投資収支(4)のうち、直接投資、証券投資及びその他投資での資金流出額と外貨準備増減額との合計をみると、これまで増加傾向で推移しており、2000年をピークにいったんは縮小したものの、03年以降は再び拡大に転じている(第1-1-5図)。03年以降、増加ペースがやや速まっているが、これは先進国からの資金フローだけでなく、新興国からの資金フローが顕著に増加していることも影響している。
こうした国境を越えた資金フローでは、1990年代後半を境として、資金の供給構造に大きな変化が生じている。投資収支の裏側にある経常収支については、近年、アメリカの経常赤字が大きく膨らむ一方、アジア、中東等の多くの新興国で経常赤字から黒字へと転換し、その後も黒字幅が拡大している。こうしたグローバル・インバランスと呼ばれる経常収支不均衡を背景に、主要国・地域の対内純投資(5) については、アメリカへの資金の純流入が大幅に拡大する一方、中国やNIEs等のアジアや中東、ロシアといった新興国で資金の純流出が拡大している(第1-1-6図)。また、近年では、ユーロ圏、英国でも資金の純流入が増えている。このため、国際間の資金フローを大きくとらえると、新興国から先進国への資金フローが増えていることが分かる。
アメリカと日本を中心とする主要国・地域間のグロスでみた資金フローの2000〜02年の3か年平均から05〜07年の3か年平均への変化をみると(第1-1-7図)、アメリカ、EU、日本の3極間の資金フローが、いずれも流出及び流入ともに増加しており、特にアメリカ・EU間の資金フローの拡大が顕著である。データによる明確な把握は困難であるが、後でみるように、ヨーロッパの金融セクターは世界中の資金フローへの関与を強めており、こうした欧米間の資金フローの拡大には、新興国の余剰資金がヨーロッパを経由してアメリカに流入していることも影響していると考えられる。また、中国、中東からアメリカへの直接の資金フローも拡大している。一方、逆方向の資金フローはそれほど増加していないため、資金の流出入を差し引いたネットでみても、これらの新興国からアメリカへの資金流入が拡大していることになる。