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第1章 変化するグローバルな資金の流れ

  世界経済の成長において、経済活動を支える十分な資金が円滑に流れることは必要不可欠な要素である。ITバブル崩壊後の調整が一巡した2003年以降、資金供給の担い手としての新興国の台頭と、新たな金融技術による信用リスクの効率的な分散等を通じた活発な信用創造によって、グローバルな資金フローは顕著に拡大し、世界経済の安定した成長に寄与したと考えられる。
  こうしたグローバルな資金の流れにおいて、最近注目すべき変化が起きている。まず、新興国からの資金フローにおいて、政府所有の投資ファンドであるソブリン・ウェルス・ファンドの活用が進んでいる。これは、新興国からの資金フローの多様化をもたらすとともに、金融資本市場における安定した資金供給につながるものとして期待される。一方、07年夏にサブプライム住宅ローン問題が発生すると、新たな金融技術の下で普及した金融資本取引においてリスク評価の緩み等が指摘されるようになった。こうしたなかで、投資家や金融機関における新たな金融技術に対するリスク評価の見直しが進み、高リスクな金融資本取引を手控える動きが広がるとともに、資産価格の調整と金融機関等の損失拡大を受けて信用収縮懸念が高まっている。こうしたグローバルな資金をめぐる新たな動きは、今後の世界経済の動向を見極める上で重要である。
  本章では、2000年代のグローバルな資金の流れとその背景を概観した上で、上述した新たな変化がグローバルな資金の流れにどのような影響をもたらしているのか考察し、世界経済の動向と今後の政策運営への示唆を導き出したい。

第1節 グローバルな資金の流れとその特徴

   世界経済は、2007年夏にサブプライム住宅ローン問題が発生するまでは比較的安定した成長を続けてきた。その背景の一つとして、金融面でのグローバル化や技術革新が進展する中で、金融資本市場を介し潤沢な資金(1) が供給されたことが挙げられる。実際、その間の主要国の長期金利は歴史的な低水準で安定しており、様々な主体の経済活動を支えたと考えられる。ここでは、2000年代を中心に、世界の金融資本市場における資金フローの情勢について考察する。


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