目次][][][年次リスト

第1章 多くの人が活躍できる労働市場の構築に向けて

第1節 先進諸国の雇用情勢と近年の雇用戦略

2.雇用戦略にみられる方向性

●OECD雇用戦略:労働参加への障害を取り除くことがかぎ
   高止まる失業に各国が悩まされる中、90年代には、OECDやEUによって「雇用戦略」という形での政策提言がなされた。
   OECDは、94年に「雇用戦略」を打ち出し、職業訓練や職業紹介等の積極的労働市場政策(3) の強化、労働コストや労働時間の柔軟化、失業関連給付の見直し等の労働市場に関する政策のほか、持続的な成長促進のためのマクロ経済政策や市場の競争促進等も含めた幅広い提言を行った。その後の情勢変化等を踏まえ、06年には雇用戦略を改訂したが、その背景としてOECDは、従前の雇用戦略は比較的失業の減少に焦点を当てていたとした上で、人口の高齢化に備えて、労働参加への障害を取り除くことが重要なかぎになってきたとしている(4) 。また、さらなる課題として、技術進歩やグローバル化といった変化の中で、企業や労働者がそれを機会として利用することや変化に迅速に対応できるようにすることを挙げている。
   具体的には、(1)適切なマクロ経済政策を行うこと、(2)労働市場への参加や求職活動への障害を取り除くこと(適切に設計された失業給付制度と積極的労働市場政策の実施、育児支援等の家族政策の促進等)、(3)労働需要に対する労働・生産物市場関連の障害の解消に取り組むこと、(4)労働者の技能、能力の開発を促進することの四つが柱となっている(第1-1-3表)。

●EU雇用戦略:「フル就業」を目指す
   ヨーロッパでは、97年のルクセンブルク理事会で第1期雇用戦略が決定され、2000年のリスボン理事会では「フル就業」の目標が追加された (5)。これは、失業者のみならず、様々な理由から労働参加していない者にも労働参加の機会を提供し、さらには仕事を通じて社会参加を促していくことを目指したものであり、05年に示された「雇用政策ガイドライン」(05〜08年までの計画)においても、フル就業を達成することが目標の一つとして掲げられている(6) 。また、具体的には、(1)より多くの人々を雇用に引き付け労働供給を拡大すること(若年者、女性、高齢者の労働参加の促進、税や給付によるインセンティブ阻害要因の見直し、求職者への就業支援等)、(2)経済のグローバル化や技術進歩といった変化に対する企業や労働者の適応力を高めること、(3)人的資本への投資の拡大といったことが柱となっている(第1-1-4表)
   OECDの雇用戦略と共通しているのは、働き手の労働参加や就業を阻害している要因の解消等を通じて、失業の解消にとどまらず、労働参加を高めながら就業を増やしていくことを目指す点である。背景には、働き手の人口の減少が予想されることがある。また、特にヨーロッパにおいては、長期の失業者が社会から疎外される(7) という社会的問題も強く意識されている。
このほか、世界的な競争激化や早い技術進歩といった変化にいかに対応するか、労働者の技術向上支援といったところにも重点が置かれ、こうした点についてもOECDと同様の問題意識が表れている。
  「フル就業(full employment)」の目標に合わせて、失業率ではなく就業率(2010年までにEU平均で70%)が数値目標として示されている。
この「ガイドライン」は八つの個別のガイドライン(No.17〜24)から構成され、まず最初のNo.17においてフル就業、仕事の質と生産性の改善、社会・地域の結束の三つが列挙されている。 「social exclusion」といわれ、経済的事由、能力や学習機会の不足、差別等によって個人の社会参加が妨げられることへの対応が課題となっている。ヨーロッパでは、社会統合(social inclusion)を目指し、労働参加率向上に向けた取組のほか、教育や保健医療等の機会の確保、差別の解消といった取組が行われている。
  「social exclusion」といわれ、経済的事由、能力や学習機会の不足、差別等によって個人の社会参加が妨げられることへの対応が課題となっている。ヨーロッパでは、社会統合(social inclusion)を目指し、労働参加率向上に向けた取組のほか、教育や保健医療等の機会の確保、差別の解消といった取組が行われている。

 


目次][][][年次リスト