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第1章 多くの人が活躍できる労働市場の構築に向けて

 先進諸国における雇用問題として、かつては、失業を減らすことが大きな関心事項であったが、近年の欧米各国の取組においては、失業を減らすだけではなく、より多くの働き手を労働市場に引き付け就業者を増やしていくことが重要視されてきている。つまり、「失業を減らす」ということには、失業者が求職をやめて労働参加しなくなってしまう場合も含まれ、必ずしも就業者の増加につながるとは限らない。一方、「就業者を増やす」ことは、意欲を持った働き手の労働参加や就業を阻害している制度その他の要因を解消することなどによって、失業から就業への転換に加えて、現に労働参加していない人も含めたより多くの働き手が働くことができるようにすることを目指すものである(1)
   こうした変化の背景の一つには高齢化社会の進展がある。働き手となる人口の伸びが鈍化、あるいは減少することさえも予測される中で、貴重な人材を浪費してしまうことは経済成長にとって大きな損失である。そして、働き手にとっても、就労し所得を得ることが生活の基礎となるだけではなく、社会の中で生涯にわたって自らの能力を発揮する機会があるということは重要なことであろう。
   本章では、先進諸国の雇用情勢や雇用戦略を概観するとともに、各国・地域での特徴的な取組事例を交えながら、市場原理を活かしつつ、より多くの働き手が、労働市場において活躍できるための政策について検討する。

第1節 先進諸国の雇用情勢と近年の雇用戦略

1.緩やかに改善する先進諸国の雇用情勢

●北ヨーロッパ諸国や英語圏諸国で比較的高い就業率
   2000年代前半(01〜05年平均)におけるOECD主要国の就業率をみると(第1-1-1(1)図)、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン等の北ヨーロッパ諸国とアメリカ、英国、カナダ、オーストラリア等の英語圏諸国、日本等でOECD平均を上回る水準となっている。一方、ドイツ、フランス、ベルギー、イタリアといった大陸ヨーロッパ諸国や南ヨーロッパ諸国で低いものとなっている。
   1990年代前半(91〜95年平均)と2000年代前半とで比較すると、おおむね緩やかな上昇がみられている。比較的高水準なスウェーデン、アメリカ、日本といった国では頭打ちとなっているものの、デンマーク、英国、カナダ、オーストラリア等で上昇し、また、ワークシェアリングが進んだオランダや経済が急成長したアイルランドは90年代前半にはそれほど高くなかったものの2000年代前半にかけて大きな上昇がみられた。

●大陸ヨーロッパ諸国等では高失業が続く
  また、2000年代前半の失業率の動向をみると(第1-1-1(2)図)、就業率が高い英語圏諸国や北ヨーロッパ諸国では低くなっている。一方、大陸ヨーロッパ諸国や南ヨーロッパ諸国においては改善もみられるものの、スペイン、フランス、ドイツ、イタリア等で依然として高い失業率となっている。また、これらの国では失業者に占める1年以上の長期失業者の割合がおおむね4割を超え、特にイタリア、ドイツ等では50%を超えており(付図1-1参照)、高い失業率と長期にわたる失業の解消が依然として課題となっている。
  90年代前半と比較すると、OECD平均では改善がみられる中、従来低水準であった日本やスウェーデンのほか、高水準にあるドイツ、ギリシャでは悪化した。一方、従来は比較的失業率の高かったニュージーランド、デンマーク、アイルランド、英国、オーストラリア等で大きな改善がみられている。

●若年者、女性、高齢者の雇用情勢には依然課題が残る
   全体として雇用情勢は改善傾向にあるものの、グループ別にみると、若年者、女性、高齢者の就業率はそれぞれ全体(2) を下回り、依然として課題が残っている(第1-1-2図)。就業率が低いことの要因としては、そもそも労働参加していない者の割合が高いこと(低い労働参加率)、労働参加はしているものの求職活動がなかなか就業に結びつかないこと(高い失業率)の二つの要因が考えられる。
   若年者については、労働参加率の低下は主に就学期間が長くなっていることを反映したものと考えられるが、失業率は低下傾向にあるものの、全体との比率は2倍程度と高いままであり、職業訓練や求職サポート等の失業から就業への移行支援が特に重要と考えられる。
   女性については、失業率は全体をやや上回る程度であるが、労働参加率は、改善傾向にあるものの依然全体を10%程度下回っており、女性が生涯を通じて職業面で活躍するという点において難しい選択を迫られがちな出産・育児期における対策や支援等、労働参加を阻害する要因の解消を通じて、意欲のある女性が労働市場に参加し、また就業を継続しやすい環境を整備することが特に重要と考えられる。
   高齢者については、失業率は低い水準であるものの、特にヨーロッパにおける早期退職の促進等により80年代には労働参加率が低下した。90年代後半以降、50歳台後半だけでなく60歳台前半でも労働参加率の上昇がみられているが、多くの先進諸国において高齢化社会の進展が予想される中で、引き続き意欲のある高齢者の労働参加を支援していくことが、各国にとって重要な課題となっている。
   こうした視点を踏まえ、第2節では、(1)若年者について、就業意欲を阻害する要因の解消と就業能力の向上支援を重視する英国の例、(2)女性について、育児期の多様な働き方を提供するフランスの例、(3)高齢者については、EUの年齢差別禁止への取組、フィンランドの総合的な取組事例をそれぞれ紹介する。

 


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