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3.韓国、台湾、ASEAN地域の動向

 本節では、韓国、台湾、シンガポール、タイ、マレーシアにおける経済動向をみた後、これら地域の中では独自の経済成長を続けるインドネシア経済について概観していく。

(1)回復テンポが緩やかになっている韓国、台湾、シンガポール、タイ、マレーシア

(i)総じて低下がみられる実質経済成長率

 まず実質経済成長率について09年以降の動きをみてみると、これらの国・地域では、中国の景気刺激策の効果を背景とした中国向け輸出の増加や、世界金融危機発生後の景気後退への対応として実施した公共事業や景気刺激策等により、同年4~6月期には前期比年率でプラスに転じた。その後、中国の内需の伸びが一服したことを背景とする中国向け輸出の鈍化や在庫調整等から、10年4~6月期頃から成長率は鈍化した。

 11年に入ると成長率は再び高まったものの、同4~6月期には、同年3月の東日本大震災による自動車部品等の供給制約や、欧米向け輸出が伸び悩んだことを受け、前年同期比、前期比年率ともに伸びが低下した。こうした動向を受け、マレーシアを除く4か国・地域の政府、中央銀行は夏以降、11年の経済成長率見通しを下方改定している(第2-3-56図、第2-3-57表)。

第2-3-56図 実質経済成長率
第2-3-56図 実質経済成長率
第2-3-57表 経済成長率見通し
第2-3-57表 経済成長率見通し
(ii)東日本大震災と欧米経済の動向の影響
(ア)弱い動きのみられる輸出

 次に、経済成長への寄与が大きい輸出の動向についてみると、これらの国・地域では、08年後半の世界金融危機発生後、09年初から比較的速いテンポで回復してきた。しかし、11年4月以降、欧米向け需要鈍化を背景として回復テンポが鈍化し、特に台湾、シンガポールでは減少傾向に転じている(第2-3-58図)。

第2-3-58図 輸出動向:総じて減少傾向
第2-3-58図 輸出動向:総じて減少傾向

 また、これらの国・地域における主要な輸出相手国・地域について、10年以降の動向を寄与度でみると、欧米向け輸出はマレーシアでは10年10~12月期以降マイナスの伸びとなっているほか、台湾、シンガポールでは、低下傾向であることが確認できる(第2-3-59図)。

第2-3-59図 輸出動向(主要国・地域別寄与度): 各国ともに11年以降の欧米向け輸出寄与度は低下ないし横ばい
第2-3-59図 輸出動向(主要国・地域別寄与度): 各国ともに11年以降の欧米向け輸出寄与度は低下ないし横ばい

(イ)輸出に左右される生産動向

 また、輸出と関係の深い生産の動向についてみると、これらの国・地域では、中国の景気刺激策による需要回復と、自国内での在庫調整の進展等により、09年初以降比較的速いテンポで回復してきた。しかし、11年4月以降は、同年3月の東日本大震災による自動車部品等の供給制約や、パソコン需要低迷による欧米向けの電子、電気製品・部品の需要が鈍化したことを主な要因として減少傾向となっている(第2-3-60図)。

第2-3-60図 生産動向:東日本大震災以降、一部で減少傾向
第2-3-60図 生産動向:東日本大震災以降、一部で減少傾向
コラム2‐7:タイの洪水被害の世界経済への影響

 タイでは、2011年7月下旬以降、断続的に続く豪雨によって、北部、中部地方を中心に、広い地域で、冠水等の洪水被害が発生した。さらに、洪水は、同年10月に入ってからはバンコク北部の工業団地へ、同月半ば以降は首都バンコクへも広がるなど、過去50年で最大ともいわれる被害を及ぼしている。

 タイでは、世界各国の企業が、自動車関係、電子機器等の生産拠点として多数活動しているが、洪水による工業団地の閉鎖をはじめとして、多くの被害が発生している(注1)。このため、輸出依存度(注2)の高いタイの国内経済のみならず(注3)、同年3月の東日本大震災で発生したようなサプライチェーンの寸断を通じた、世界経済全体への影響が懸念されている。

 サプライチェーンの寸断の影響としては、タイからの輸出が減少することによって、世界への部品等の供給停滞が考えられる。タイの輸出を品目別にみると(10年)、一般機械、電気機器、飲食料品・タバコ、自動車・同部品で全体の54%を占めており(図1)、特に、自動車生産や、電子機器のうちハードディスク・ドライブ(HDD)については、世界の生産に占める割合が比較的高いといわれている。

図1 輸出入(10年、品目別、国別)
輸出入(10年、品目別、国別)

 タイの輸出主要品目について、世界全体の輸出額に占める割合をみると、自動車等(注4)やその内訳である自動車部品では、日本の割合の10分の1程度であり、自動車関連では、東日本大震災で発生したサプライチェーンの寸断に比べて世界全体への影響は大きくはないとみられる(図2)。しかし、PC関連(HDD含む)ではむしろ、日本の割合を上回っており、この分野での世界的な影響が懸念される。

図2 世界からの輸出額に占める割合(10年)
世界からの輸出額に占める割合(10年)

 ASEAN地域については、タイからの輸出の2割以上を占めていることもあり(前掲図2)、サプライチェーンの寸断の影響は特に大きく現れるとみられる。実際、シンガポール、マレーシア、インドネシア等では、欧米より早いタイミングで、自動車産業や電子産業等の操業停止・生産調整等が行われた。また、世界全体の輸出額のうち、主要アジア諸国(注5)向けだけに占めるタイの割合は、PC関連では10%、道路車両(自動車部品含む)では5%と、世界全体向けよりも割合が高くなっていることからも、アジア地域での影響の大きさがうかがえる。

 このようなサプライチェーン寸断によるマイナスの影響がある一方、タイ以外の国・地域では、需要や生産の増加も考えられる。たとえば、タイでの生産減を補うための代替生産、タイ向けの日用品・医薬品等の輸出増加等である(注6)。また、中期的にみれば、タイでのインフラ再建等の復興需要も見込まれる。

 タイでは、洪水被害地域の拡大等の危機的状況は収束し、タイ政府は、12年度(注7)予算の増額等で復興関連支援策を打ち出しているものの、排水作業、インフラ設備の復旧、工場の再稼働等の時期については、依然として不透明な状況となっている。このため、今後の復興活動の進ちょくによっては、世界経済への更なる影響も考えられ、注意が必要である。

(注1)洪水被害が発生した7工業団地には、世界の企業700社以上の工場があり、操業停止等を余儀なくされている。
(注2)輸出額/名目GDP。11年は、61.3%。
(注3)タイ中央銀行は11年10月25日に、11年の実質経済成長率見通しについて、それまでの4.1%から2.6%へと下方修正した。なお、被害規模について、タイ国家経済社会開発庁(NESDB)は、2,484億バーツ(実質GDP比2.3%)と試算している(11月21日時点)。
(注4)乗用車、貨物自動車、二輪車、自転車、自動車部品等が含まれる。
(注5)中国、インド、韓国、台湾、ASEAN地域。
(注6)タイ政府は、国内の供給量不足を受け、食品、飲料水、消費財の輸入関税や規制を緩和するなどの措置を行っている。
(注7)11年10月~12年9月。
(ウ)急速な減価を示した為替

 さらに、為替レートについて08年9月の世界金融危機時以降の動きをみると、各国・地域ともに自国通貨高傾向で推移してきた。

 しかし11年9月以降、ヨーロッパにおける債務問題等によって、欧州をはじめとした海外の銀行や機関投資家等がリスク回避のため短期的資金を引き揚げたことにより、大幅な自国通貨安傾向となった。10月に入ってからは、各国ともに自国通貨高への持ち直しの動きがみられるものの、いまだ戻りは鈍くなっている(第2-3-61図)。

第2-3-61図 為替動向:9月以降、総じて自国通貨安傾向
第2-3-61図 為替動向:9月以降、総じて自国通貨安傾向

 自国通貨安は、輸出競争力が強化されるなどの対外貿易におけるプラス面もあるが、このところの急激な為替の変動は、輸入品の物価上昇やドル建て債務の返済負担の増加や、それによって資本流出がもたらす信用収縮によって資金調達に追加の金利負担を求められるなど、実体経済や金融面への悪影響を及ぼすおそれもあり、今後の動向に注意が必要である。

 なお、9月以降アジア域内でも大幅な減価で推移した韓国ウォンを例に、外貨準備高の動きを前月差でみると、11年9月で約88億ドル減と10年5月以来の大幅な減少となっている。この背景には、急激なウォン安を回避するためのドル売りウォン買いの為替介入が行われていたことが示唆される。また、韓国における対外債務のうち短期債務の占める割合の推移をみると、アジア通貨危機前の96年、世界金融危機発生時の08年では50%程度となっていたのに対し、今回の自国通貨減価前の11年4~6月期では同割合は40%を割っている。アジア通貨危機以降、外貨準備が着実に積み増されていることと合わせて考えれば、急激な為替変動による短期資本流出等に対応できる基盤はできてきているとみられる(第2-3-62図)。

第2-3-62図 韓国の外貨準備高(前月差)、対外債務の推移:11年9月に約88億ドル減少、対外債務に占める短期債務の割合は06年以降低下
第2-3-62図 韓国の外貨準備高(前月差)、対外債務の推移:11年9月に約88億ドル減少、対外債務に占める短期債務の割合は06年以降低下
(iii)落ち着きをみせる物価上昇、政策金利はここ数か月据え置き

 最後に物価の動向についてみると、消費者物価上昇率は09年後半以降、エネルギー価格や食料品価格の上昇等、国際商品価格の上昇を背景に総じて高まっており、各国・地域ではインフレ抑制のため、政策金利を引き上げる動きが続いてきた(第2-3-63図、第2-3-64図)。

第2-3-63図 消費者物価上昇率:11年9月以降総じて横ばい
第2-3-63図 消費者物価上昇率:11年9月以降総じて横ばい
第2-3-64図 政策金利動向:11年8月以降据え置き
第2-3-64図 政策金利動向:11年8月以降据え置き

 しかし、11年9月以降の動きをみると、原油などの国際商品価格の下落等を背景に、シンガポールを除き、消費者物価上昇率は総じて横ばいとなっている。また、政策金利は、各国・地域において経済成長の回復ペースが緩やかになっていることを受け、11年8月にタイが0.25%の利上げをして以降、各国・地域ともに据え置かれている。

(2)独自の経済成長を続けるインドネシア

 ここでは、インドネシア経済を概観する。同国は世界金融危機発生後の09年には前年に比べ回復テンポが緩やかになったものの、他のASEAN諸国がマイナス成長となったのに対してプラス成長を維持した。この背景の1つとして、対外的な要因による国内経済への影響が相対的に小さいことが考えられる。インドネシアの輸出依存度64をみると、2000年の41%から09年は24%と、低下傾向にある。これは、近隣のASEAN諸国で最も低いタイにおいても同依存度が70%を超えていることと比べれば、インドネシアの特徴的な経済構造といえよう(第2-3-65図)。以下では、消費、輸出、国際収支等を中心に同国の経済の概況についてみていくこととする。

第2-3-65図 輸出依存度の推移(2000~09年):インドネシアはインドに次いで低い
第2-3-65図 輸出依存度の推移(2000~09年):インドネシアはインドに次いで低い
(i)インドネシア経済の潜在力
(ア)ASEAN域内最大の人口規模と人口ボーナスの存在

 インドネシアの人口をみると、10年時点でASEAN域内人口の約4割を占め、ASEAN域内最大の人口を持つ国となっている(第2-3-66図)。また、世界でみても中国、インド、アメリカに次ぐ第4位の人口規模となっており、巨大な消費市場が存在するといえる。

第2-3-66図 ASEANにおける人口シェア(10年):インドネシアは域内人口の4割を占める
第2-3-66図 ASEANにおける人口シェア(10年):インドネシアは域内人口の4割を占める

 合計特殊出生率を国連人口推計における中位推計65でみると、10年は2.19と出生率は2.0を超えているものの、他の主要ASEAN諸国と比較すると、タイに次いで低くなっており、その後も緩やかに低下するものと予測されている(第2-3-67図)。

第2-3-67図 ASEAN主要国の合計特殊出生率(中位推計):インドネシアはタイに次いで合計特殊出生率が低い
第2-3-67図 ASEAN主要国の合計特殊出生率(中位推計):インドネシアはタイに次いで合計特殊出生率が低い

 一方で、年齢別人口構成比を前述の国連の中位推計でみると、合計特殊出生率の緩やかな低下に伴い、15歳未満人口の減少と65歳以上人口の増加が進む中、35年までは生産年齢人口(15~64歳)は増加が続くことが見込まれている(第2-3-68図)。この動きについて、従属人口指数66をもとに同指数が低下する時期を「人口ボーナス期」、同指数が上昇する時期を「人口負担期」と定義し、2000年以降の動きをみると、30年を転換点に「人口ボーナス期」が終わり、同年以降は「人口負担期」となることが見込まれている67(第2-3-69図)。

第2-3-68図 年齢別人口構成比(中位推計):生産年齢人口は、35 年まで増加
第2-3-68図 年齢別人口構成比(中位推計):生産年齢人口は、35 年まで増加
第2-3-69図 従属人口指数:30 年が転換点
第2-3-69図 従属人口指数:30 年が転換点
(イ)堅調な経済成長を背景とした中間所得層の増加

 続いて1人当たりGDPをみると、フィリピンを除くその他主要ASEAN諸国より低いものの、内需を中心とする堅調な経済成長に支えられ、10年には3,000ドルを超えている(第2-3-70図)。

第2-3-70図 ASEAN諸国の一人当たりGDP:インドネシアは10年に3,000ドル越え
第2-3-70図 ASEAN諸国の一人当たりGDP:インドネシアは10年に3,000ドル越え

 次に、実質可処分所得の分布をみると、08年から10年までの2年間に5,001~15,000ドルの中間所得層の割合が全体の33.6%から43.7%に10%ポイントも増加しており、マレーシア、タイ、フィリピンと比較しても、この2年間での中間所得層の増加率が特に高いことがわかる(第2-3-71図)。

第2-3-71図 実質可処分所得の分布(08、10年):インドネシアでは中間所得層が大きく増加
第2-3-71図 実質可処分所得の分布(08、10年):インドネシアでは中間所得層が大きく増加
(ウ) 天然資源の賦存

 インドネシアは石油のほか、天然ガスや石炭等に代表される豊富なエネルギー資源を保有している(第2-3-72図)。特に天然ガスは、中国に次いでアジア第2位の生産量(0.7億トン(石油換算))を有し、天然ガスの一種である液化天然ガス68(LNG)の輸出額ではカタールに次いで世界第2位となっており、これら資源の豊富さはインドネシアの特徴といえる。

第2-3-72図 天然資源(石油、天然ガス、石炭)の生産(10年):アジア地域では中国に次ぐ生産量
第2-3-72図 天然資源(石油、天然ガス、石炭)の生産(10年):アジア地域では中国に次ぐ生産量
(ii)内需中心の経済成長
(ア)民間消費及び総固定資本形成が経済成長の要因

 実質経済成長率をみると、01年から10年までの平均でおおむね5%の成長となっている。需要項目別寄与度でみると、民間消費及び総固定資本形成の寄与が高く、内需中心の経済成長となっていることが分かる(第2-3-73図)。

第2-3-73図 実質経済成長率(需要項目別寄与度):民間消費、総固定資本形成の寄与が大きい
第2-3-73図 実質経済成長率(需要項目別寄与度):民間消費、総固定資本形成の寄与が大きい

 なかでも民間消費は、01年から10年における寄与度は平均でおおむね2.6%程度で、総固定資本形成(01~10年の同平均寄与度1.6%)とは1%程度差があり、インドネシアにおいては、内需の中でも消費が経済成長をけん引していることがみてとれる。

 失業率については、10年8月では7.1%と高水準ながら、05年下半期の11.2%をピークに低下している。失業率の低下傾向の背景を労働者数の推移(産業別)でみると、第3次産業の従事者が04年以降着実に増加しており、堅調な経済成長のもとで、サービス産業を中心とした第3次産業の発展が雇用創出の中心となっていることがうかがえる(第2-3-74図、第2-3-75図)。

第2-3-74図 失業率の推移:2005 年11 月をピークに低下
第2-3-74図 失業率の推移:2005 年11 月をピークに低下
第2-3-75図 労働者数の推移(産業別):第3次産業を中心に堅調に増加
第2-3-75図 労働者数の推移(産業別):第3次産業を中心に堅調に増加
(イ)非食品の消費割合増加と自動車市場の拡大

 1人当たり平均消費支出について、食品と非食品、耐久財とに分けてみてみると、1人当たりGDPの増加とともに、非食品及び耐久消費財の消費支出は増加し、10年までに支出全体の約半分程度を占めるまで拡大している(第2-3-76図)。

第2-3-76図 一人当たり平均消費支出(食品、耐久財除く非食品、耐久財):所得の増加とともに、非食品、耐久財の消費割合は増加
第2-3-76図 一人当たり平均消費支出(食品、耐久財除く非食品、耐久財):所得の増加とともに、非食品、耐久財の消費割合は増加

 耐久財の消費増加を、代表的な品目である自動車及び二輪車販売台数でみると、08年の金融危機による景気減速の影響を受け、09年はともに前年比でマイナスとなったものの、10年の販売台数は、自動車で前年比57.3%増の76.5万台69、二輪車で26.0%増の737.3万台と急回復している。10年の自動車及び二輪車販売の大幅な増加は、前年の反動の影響に加え、中間所得層の拡大によってもたらされたことが大きいと考えられる。

 なお、インドネシアの自動車及び二輪車市場における10年の日本メーカーの販売台数シェアは、自動車で約9割、二輪車ではほぼ10割のシェアをもち、インドネシアは日本メーカーにとって、タイとともにASEANにおける重要な販売市場となっている70(第2-3-77図、第2-3-78図)。

第2-3-77図 自動車市場(販売台数、メーカー別シェア):10年は76.5万台、うち日本メーカーが約9割の販売シェアをもつ
第2-3-77図 自動車市場(販売台数、メーカー別シェア):10年は76.5万台、うち日本メーカーが約9割の販売シェアをもつ
第2-3-78図 二輪車市場(販売台数、メーカー別シェア):10年は737.3万台、うち日本メーカーシェアは99%を超える
第2-3-78図 二輪車市場(販売台数、メーカー別シェア):10年は737.3万台、うち日本メーカーシェアは99%を超える

 ただし、アジア主要国における自動車普及率をみると、09年にはインドネシアが約30人当たり1台、普及率では3.3%程度となっている。これは、1人当たりGDPでインドネシアより上位であるタイ、マレーシアより低く、今後も普及率が上昇する余地があることがうかがえる(第2-3-79図)。

第2-3-79図 各国の自動車普及率(09年):30人に1台程度の普及率
第2-3-79図 各国の自動車普及率(09年):30人に1台程度の普及率

 また、11年3月の東日本大震災による自動車販売への影響をみると、自動車部品の供給制約等により、インドネシアでも同年4月の乗用車販売台数は6.1万台に減少し、前年同月比で▲6.9%の伸びとなった。その後7月には月間販売台数は8.9万台と、販売減の反動も含むものの、過去最高となっている(前年同月比23.5%増)。また、9月の販売台数(7.9万台)は7月と比較して1万台程度落ち込んでいるものの、震災直後の3月とほぼ同水準(前年同月比62.4%増)となっている。このように、販売面からみれば震災による生産活動等への影響はほぼ払拭されたといえる。なお、日本車メーカーから他国メーカーへの代替需要が発生しているかどうかをメーカー別販売台数の「その他(日系メーカー以外)」でみると、11年3月の販売台数と比較して7月、9月ともに0.2万台程度の増加にとどまっている(第2-3-80図)。

第2-3-80図 メーカー別乗用車販売台数:日本車メーカー全体の販売台数はほぼ横ばい
第2-3-80図 メーカー別乗用車販売台数:日本車メーカー全体の販売台数はほぼ横ばい

 続いて、10月以降のタイにおける洪水の影響も、インドネシアの自動車生産に及んでいる。例えばインドネシア国内において最大の販売シェアを持つ日本車メーカーでは、生産に必要な部品の一部をタイから調達していることから、今回の洪水の影響によるタイ国内の部品生産の滞りを受け、10月29日より生産稼働レベルの調整を行うことを決定している。今後の被害の拡大次第では、自動車のみならず他産業を含め、インドネシアにおける生産や販売活動に影響を及ぼす可能性も考えられるため、その動向を注視する必要がある。

(iii)ともに黒字で推移する経常収支と資本収支

(ア)一次産品に依存する輸出構造(品目別、国・地域別)

 輸出の動向をみると、08年の世界金融危機発生時も貿易黒字を維持し、内需拡大に伴い輸入額が増加する中、輸出額も好調に増加した。また、2000年以降の輸出の詳細をみると、石油、天然ガス輸出の輸出全体に占める割合は2000年の23%をピークに減少傾向となっている(第2-3-81図、第2-3-82図)。

第2-3-81図 輸出入動向:09 年初を底に輸出入ともに堅調に増加
第2-3-81図 輸出入動向:09 年初を底に輸出入ともに堅調に増加
第2-3-82図 輸出(内訳):石油・天然ガスの輸出シェアは2割程度
第2-3-82図 輸出(内訳):石油・天然ガスの輸出シェアは2割程度

 輸出先を国・地域別でみると、ASEAN域内向け、日本向け輸出が主となっており、中国、欧米向け輸出の比率は、10年ではそれぞれ10%程度となっている。また、石油、天然ガスの輸出先は、8割以上が日本や韓国など東アジアやASEAN域内向けとなっている(第2-3-83図)。

第2-3-83図 輸出(国別)
第2-3-83図 輸出(国別)

 日本向けの石油、天然ガス輸出を、08年以降についてみると、世界金融危機以降の09年初から輸出額は着実に増加を続けている。さらに、11年4~6月期には、同年3月の東日本大震災を受け、輸出額が前年同期比約130%増と大幅な増加となった(第2-3-84図)。

第2-3-84図 石油・ガス輸出(日本向け):東日本大震災を受け、輸出額が前年比約130%増
第2-3-84図 石油・ガス輸出(日本向け):東日本大震災を受け、輸出額が前年比約130%増

 輸出について主な品目別の寄与度をみると、資源関連製品以外の寄与も確実に増えているものの、やはり鉱物燃料、木材、パルプ、ゴム等資源関連製品輸出が主力であるという貿易構造に、この10年間では大きな変化はみられないことが分かる(第2-3-85図)。資源関連製品は国際商品価格の動向に左右されるため、今後安定的な貿易収支の黒字を維持していくためには、資源関連製品以外の品目の輸出増加により、輸出品目の多様化を図ることが課題である。

第2-3-85図 輸出(品目別、品目別寄与度):鉱物燃料、木材、パルプ等資源関連の輸出額及び寄与が大きい
第2-3-85図 輸出(品目別、品目別寄与度):鉱物燃料、木材、パルプ等資源関連の輸出額及び寄与が大きい
(イ)不安定な国際収支構造

 インドネシアの経常収支は、98年以降通年では黒字を維持している。08年以降の動きをみると、世界経済の減速及び国際商品価格の下落等を要因とする輸出鈍化で貿易黒字が縮小し、経常収支は同年4~6月期から3期連続で赤字となった。しかし、09年4~6月期以降の経常収支は、国際商品価格の上昇等から、財(貿易)収支の黒字額が拡大したことなどを背景に各期で10億ドル以上の黒字で推移している(第2-3-86図)。

第2-3-86図 経常収支:財・サービス収支は黒字で推移
第2-3-86図 経常収支:財・サービス収支は黒字で推移

 一方、資本収支は、97年の通貨危機以降、05年までは赤字で推移したが、06年、07年は直接投資及び証券投資の流入超により黒字となった後、08年の世界金融危機直後の同年10~12月期に海外投資家のリスク回避等により短期的資金を流出させたことや、預金、銀行借入れ等を内容とするその他投資で返済が増加したこと等により、同年の資本収支は再び赤字となった。また、同時期は資本の流出により、為替、株価ともに下落している。特に為替については、インドネシアにおいても自国通貨の減価防止のために為替介入を実施している。その規模を外貨準備高の前月差でみると、08年10~12月期は約55億ドルの減少となっており、同程度の介入を行っていたとみられる(第2-3-87図)71

第2-3-87図 外貨準備高(前月差):08年10~12月期に為替介入により取り崩し
第2-3-87図 外貨準備高(前月差):08年10~12月期に為替介入により取り崩し

 09年以降は、再び証券投資が流入超に転じたこと、対内直接投資が堅調に増加したことなどにより、資本収支は黒字で推移している。72(第2-3-88図)。

第2-3-88図 資本収支:09年7~9月期以降、黒字で推移
第2-3-88図 資本収支:09年7~9月期以降、黒字で推移

 なお、インドネシアへの対内直接投資に関しては、政府が11年5月に発表した25年までの「経済開発加速・拡大マスタープラン」の中で、社会資本整備に当たっては民間資金を積極的に活用することとしている。そのため、同年8月に発表した12年予算においても、社会資本整備を中心とした投資的支出に過去最高の168兆ルピア(約1.5兆円、前年比約24%増)を計上しており、今後も外国企業によるインドネシアへの直接投資は堅調に増加することが見込まれる。

 以上のように、インドネシアの国際収支は09年7~9月期以降、経常収支、資本収支ともに黒字となっており、外貨準備高は着実に積み上がっている(第2-3-89図)。ただしその構造は主に、国際商品価格上昇の恩恵を受けた財(貿易)収支の黒字とともに堅調な経済発展を背景に欧米との金利差(内外金利差)が拡大したことによる証券投資など短期的資金の流入によってもたらされている傾向が強い。

第2-3-89図 外貨準備高:世界金融危機以降、積み増し
第2-3-89図 外貨準備高:世界金融危機以降、積み増し
(ウ)減価するルピア

 為替相場については、08年の世界金融危機以降、自国通貨安傾向で推移したが、09年4月頃から自国通貨高傾向に転じ、10年1月に08年9月の水準を超えた。しかし、11年9月以降、欧州の債務問題の再燃により、インドネシアにおいても、その他アジア主要国同様に為替が大幅に減価している。10月に入ってから自国通貨高への持ち直しの動きがあるものの、いまだ戻りは鈍くなっており、インド同様、自国通貨安による輸入インフレ懸念や対外債務の負担増にもつながる可能性に留意が必要である(第2-3-90図)。

第2-3-90図 為替動向:自国通貨安傾向
第2-3-90図 為替動向:自国通貨安傾向
(iv)やや低下をみせる消費者物価上昇率、金融政策は転換の兆し

 インドネシア中央銀行は、韓国、タイ同様、インフレ目標を採用しており、10年~11年においては、5.0±1.0%(4.0~6.0%)が目標圏とされている。

 消費者物価総合指数の上昇率は08年の金融危機時をピークに低下し、09年後半には3.0%程度まで低下したものの、10年1月以降、原油や国際商品価格の高騰による食料品の物価上昇を受け、同年7月には目標圏の上限となる6.0%を超えた。

 11年に入ってからは、上昇率は1月の7.0%をピークに低下しており、10月の物価上昇率は総合指数、コア指数ともに4.4%と、10年5月以来の低水準となっている(第2-3-91図)。

第2-3-91図 消費者物価上昇率:11年1月以降、総合指数の上昇率は低下
第2-3-91図 消費者物価上昇率:11年1月以降、総合指数の上昇率は低下

 10年後半以降の消費者物価上昇率の高まりを受け、インドネシア中央銀行はインフレ抑制のため政策金利を11年2月に0.25%引上げ、6.75%とした。

 その後、世界経済の先行き不透明感が高まったことや物価上昇圧力の後退を受け、インドネシア中央銀行は政策金利を11年10月に0.25%、次いで同年11月に0.50%引き下げ、6.00%とした(第2-3-92図)。中央銀行によるここ2か月の政策金利の引下げは、それまでの政策金利引上げによるインフレ対策重視姿勢からの転換の兆しとみられる。

第2-3-92図 政策金利動向:11年10月、11月に利下げを実施
第2-3-92図 政策金利動向:11年10月、11月に利下げを実施

 以上のように、インドネシア経済は、2000年以降、内需中心の成長を継続しており、10年の1人当たりGDPは2000年比で2倍以上の増加となり、10年10~12月期以降、4期連続で6%を超える経済成長率が続いている。

 前述の「経済開発加速・拡大マスタープラン」では、25年までにGDPを4兆~4.5兆ドル、一人当たり収入を1万4,250~1万5,500ドルとすることを目指している。インドネシアは、豊富な天然資源に恵まれ、労働力人口の増加等、人口ボーナスも当面の間期待される中、本目標を達成するために、安定的な対内直接投資を確保するための基盤整備等も進めながら持てる潜在力を一層発揮しうる余地は大きいと考えられ、今後の経済発展が注目される。


64 輸出額(GDP需要項目)/名目GDP。
65 国連において、前提となる出生率が長期的に1.85に収束するとの仮定から推計した中位推計を用いている。
66 従属人口指数:「(15歳未満人口)+(65歳以上人口)」/(15~64歳人口)。
67 詳細は、内閣府(2010a)参照。
68 BP統計では、天然ガスの輸出について、液化天然ガス(LNG)輸出及びパイプラインによる輸出の2つに分類している。液化天然ガスは、天然ガスを冷却化し、液化したもの。
69 インドネシアにおける国内自動車販売台数は、ASEAN域内においてタイに次いで第2位。なお、タイにおける10年の国内自動車販売台数は80万台。
70 10年のタイにおける日本車販売シェアは、約86%(トヨタモータータイランド)。
71 詳細について、内閣府(2009)を併せて参照。
72 額の小さい「その他資本収支」は、ここでは除外している。
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