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2.世界的な財政再建への流れ:更なる財政出動には期待できず

(1)財政の信認維持が不可欠

 ヨーロッパにおいては、2011年5月以降ソブリンリスク問題が再燃し、ギリシャのみならず、同様に多額の債務を抱えている南欧諸国等の財政に対するマーケットの信認が低下した。財政の持続可能性を確保し、マーケットの懸念を払拭するため、各国は財政赤字削減策を相次いで発表し、また震源地となっているギリシャに対する支援策を決定したが、国債利回りやソブリンCDSプレミアムは高止まりするなど、未だ完全に懸念を払拭したとは言い切れず、フランスなどのトリプルAの格付けを持つ国にまで影響が拡大している状況にある(第1-2-4図、第1-2-5図)。

第1-2-4図 各国のソブリンCDSプレミアム:11年5月以降ソブリンCDSは急激に上昇
第1-2-4図 各国のソブリンCDSプレミアム:11年5月以降ソブリンCDSは急激に上昇
第1-2-5図 各国の国債利回り:11年5月以降国債利回りは急激に上昇
第1-2-5図 各国の国債利回り:11年5月以降国債利回りは急激に上昇

 アメリカでは、連邦債務残高の上限額を法律で定めているが、金融危機以降の財政赤字の拡大により、11年8月までに連邦政府債務の法定上限を引き上げる必要が生じた。しかし、財政赤字削減をめぐって、債務上限到達期限の当日まで政府・議会の調整が難航したことから、一時は米国債がデフォルトに陥るとの懸念が広がり、米国債の短期金利や1年物CDSプレミアムが上昇するなどの動きがみられた。最終的には、10年間での財政赤字削減の実施と併せて法定上限の引上げが認められたものの、財政削減策の実現性等、先行きに対する懸念はその後も残ることとなった。

 これらの状況を受け、格付会社大手三社(S&P、ムーディーズ、フィッチ)において、欧米先進国の国債の格付けを見直す動きが見られる(第1-2-6図)。ヨーロッパ諸国の中では、ギリシャについては3社ともに「非常に投機的」との判断を下しているほか、イタリアやスペインといった大国についても11年9月~10月にかけてそれぞれ引下げを行った。アメリカについては、法定上限引上げ後も、財政再建策が不十分であることや政策決定の有効性、安定性、予見可能性が弱まっていることなどを理由に、S&Pが、アメリカ国債の格付けをAAAからAA+に引下げた3

第1-2-6図 各国の国債格付けの推移
第1-2-6図 各国の国債格付けの推移

 このように、現在、マーケットにおいては各国の財政に対する懸念が拡大している。財政赤字の拡大や財政再建の停滞は、金融資本市場を大きく動揺させ、実体経済に対する大きなリスク要因となっていることから、財政の信認を早急に回復することが喫緊の課題となっている。

(2)主要国の取組の概観

 主要国は、安定的な経済発展のための財政の持続性確保や、マーケットの信認を得るため、財政赤字削減措置や実効性を高めるための強力な枠組みの構築を行っている(第1-2-7表)。

第1-2-7表 主な欧米諸国の財政再建に向けた取組
第1-2-7表 主な欧米諸国の財政再建に向けた取組

 ヨーロッパでは、財政赤字削減措置として、財政規律である安定成長協定に基づく財政再建計画の順守に向けた取組が行われている。例えば、イタリアが2011年8月5日に財政再建計画の前倒しを表明したほか、フランスは、景気が減速する中においても財政再建計画を順守するため、8月25日に追加措置の実施を公表した。

 また、実効性を高めるための枠組みとしては、8月16日の会談でフランス・サルコジ大統領とドイツ・メルケル首相がユーロ加盟国に対し、財政赤字拡大を防止し、財政均衡を義務化する規定を憲法等に盛り込むよう要請したことを契機として、スペインが9月7日に財政均衡に関する規定を憲法に盛り込む修正案を可決するなど、財政赤字の削減を推進するための法的枠組みの構築が進行中である。

 アメリカにおいては、11年8月に成立した2011年予算管理法により債務上限が引き上げられるとともに、財政赤字削減措置として10年間で2.1~2.4兆ドルの歳出を削減することが決められた。具体的には、今後10年間で9千億ドルの歳出削減を行うとともに、新たに設置される超党派委員会が年内に決定する1.5兆ドル程度の財政赤字削減策を実行するとしていた。

 さらに、2011年予算管理法では、その財政赤字削減策が合意に至らない場合に備え、その場合には強制的に歳出削減が実施されることも定めていた。このことにより、11月21日には、超党派委員会による協議が決裂したが、1.2兆ドルの強制的削減が実施されることで、今後10年間で合計2.1兆ドルの歳出削減が進められることになっている。

 このように、先進諸国は、深刻な財政赤字状態を一刻も早く解消するため、財政再建の取組を進めている。これは、景気が減速する中で景気刺激策として財政出動に期待することが非常に困難になっていることを意味するものであり、財政再建を進める中で、どのように景気を下支えするのかが課題となっている。


3 なお、ムーディーズ、フィッチの両社は格付けを最上位に維持しているが、ムーディーズは格付け見通しを「ネガティブ」に変更し、今後格付けを引き下げる可能性を示唆している。
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