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1.世界経済の動向:再び減速する兆し

(1)金融危機後の世界経済の動き

 世界経済は、2008年に発生した世界金融危機を受けて大きく停滞し、09年の実質経済成長率は前年比▲6.6%と01年以来となる大幅なマイナス成長を記録した(第1-1-1図)。その後、各国で大規模な景気刺激策や金融システム安定化・金融緩和等の危機対応策が実施されたこともあり、10年は同5.0%増と1年でマイナス成長から脱却した。ただし、地域によって回復のペースにばらつきがみられ、世界金融危機からの回復途上にある先進国は緩やかな成長に留まる一方、危機の影響が比較的軽微であった新興国は内需を中心に堅調な成長を維持し、世界経済をけん引する役割を果たした(第1-1-2図)。

第1-1-1図 世界のGDP:09年に大幅なマイナス成長
第1-1-1図 世界のGDP:09年に大幅なマイナス成長
第1-1-2図 主要各国の実質経済成長率の推移:新興国が世界経済の回復をけん引
第1-1-2図 主要各国の実質経済成長率の推移:新興国が世界経済の回復をけん引

 11年に入ると、先進国は、後述するように金融危機の後遺症の影響や景気刺激策の効果の減衰、さらにはギリシャ債務問題の再燃とその後の金融資本市場の動揺等が相まって、回復が鈍化している。一方、回復のけん引役であった新興国においても、物価上昇や金融引締策の継続による内需の鈍化、先進国の景気減速に伴う輸出の減少等により、成長が鈍化しつつある。

 世界経済は、世界金融危機に伴う停滞から順調な回復を遂げていたが、再び減速の兆候をみせつつある。

 世界経済の長期的な推移をみると、80年代以降をみても、新興国の成長トレンドが先進国のトレンドを上回る状況にあるが、近年はその成長力の差が拡大している(第1-1-3図)。10年には世界の経済成長の約5割が新興国の寄与となるなど、新興国の存在感が高まっている。

第1-1-3図 先進国・新興国の成長トレンド(名目GDP):新興国が先進国を上回る
第1-1-3図 先進国・新興国の成長トレンド(名目GDP):新興国が先進国を上回る

 こうした中、世界金融危機を受けて先進国経済が大きく停滞する一方、新興国経済の堅調さが明らかになると、世界経済の「デカップリング化」を支持する見方が強まった。これは、新興国は先進国から独立して成長するという考え方であるが、実際、新興国では内需を中心とする力強い成長がみられたことも、デカップリング論を支える根拠となった。しかし、11年に入って先進国の回復が鈍化し始めると、先進国からの新興国への資金流入(海外直接投資等)の減少、新興国の先進国向け輸出の減少が一部でみられるなど、新興国経済も次第に鈍化の兆しを示している。こうした動きは、むしろ世界経済の連動性の強さを示すものであり、デカップリングは当てはまらないとみるのが妥当である。

(2)景気回復鈍化の背景

(i)先進国経済:世界金融危機の後遺症と政策効果の減衰等により、弱い回復

 先進国では、世界金融危機の後遺症として、家計の過剰債務の保有、住宅市場の低迷、失業の長期化等の構造的な問題が残存し、景気刺激策の効果減衰等とともに回復鈍化の要因となっている。

 家計部門は依然として過剰債務を抱えた状況にあり、ピークから改善は進んでいるものの、バランスシート調整(消費支出を抑制して返済を優先する動き)が続いている(第1-1-4図)。所得環境の改善の遅れや住宅等の資産価格の低迷も続いており、過剰債務の解消にはしばらく時間がかかる可能性がある。消費は各国GDPの約6~7割を占めており、その回復が重要であるが、こうした危機の後遺症が回復の足取りを重くしている(第1-1-4図)。

第1-1-4図 金融危機の後遺症の継続:回復の足かせとなっている
第1-1-4図 金融危機の後遺症の継続:回復の足かせとなっている

 加えて、危機対応として導入された一連の景気刺激策が終了し、景気の押上げ効果が減衰していることも影響している。また、大規模な財政出動の結果、各国の財政は大きく悪化していることから財政再建に向けた取組が進められており(詳細は第1章第2節)、政府支出が抑制されていることも更なる景気の下押し要因となっている(第1-1-5図)。

第1-1-5図 政府支出の推移:財政再建のため抑制
第1-1-5図 政府支出の推移:財政再建のため抑制

 さらに、ギリシャ債務問題の再燃等を契機に金融資本市場が大きく動揺すると、景気の先行きに対する不透明感が急速に高まり、足元の需要は弱含んだ。特に、企業部門は事業拡大に慎重な姿勢を示しており、投資や雇用の回復の動きも一服している(第1-1-6図)。

第1-1-6図 投資・雇用の推移:一服している
第1-1-6図 投資・雇用の推移:一服している

 このほか、外需の鈍化も景気を下押ししている。先進国向け輸出をみると、アメリカは11年半ば以降、EUでは11年初以降、横ばいまたは減少している。一方、新興国向け輸出は、堅調な成長を背景に順調に回復していたが、11年半ばに入ると新興国経済の鈍化とともに需要が一服し、輸出は鈍化している(第1-1-7図)。

第1-1-7図 先進国の対日本、EU、アメリカ、新興国向け輸出:先進国向けはおおむね11年以降横ばい、新興国向けは11年夏頃から鈍化
第1-1-7図 先進国の対日本、EU、アメリカ、新興国向け輸出:先進国向けはおおむね11年以降横ばい、新興国向けは11年夏頃から鈍化

(ii)新興国経済:成長のスピードに鈍化の兆し

 新興国は、08年の世界金融危機後、中国、インドなどを中心に、総じて景気回復を継続してきた。11年4~6月期までの状況をみると、内需の動きは消費・投資ともにおおむね好調に推移してきている(第1-1-8図)。

第1-1-8図 内需の動き:好調に推移
第1-1-8図 内需の動き:好調に推移

 しかし一方で、11年6月ころから、欧米の景気減速に伴い、欧米向け輸出が総じて減少しはじめている(第1-1-9図)。

第1-1-9図 新興国の対欧米向け輸出の動向:11年6月頃から総じて鈍化傾向
第1-1-9図 新興国の対欧米向け輸出の動向:11年6月頃から総じて鈍化傾向

 また、ロシア等の資源輸出国では、10年以降、輸出の伸長を背景に景気回復が続き、世界経済の押上げに寄与してきた(第1-1-10図)。資源輸出の拡大の背景には、世界経済の緩やかな回復に伴う需要拡大とともに、資源価格が上昇したことが挙げられる(第1-1-11図)。資源価格は、09年夏以降、上昇基調を強め、金、銅、綿花、砂糖など一部の商品については史上最高値を更新しているものもみられる。ただし、11年春以降は、先進国経済の減速や中国・インド等の消費国の需要の鈍化に加えて、資源価格の上昇が一服したことなどあり、資源輸出はやや鈍化傾向にある。

第1-1-10図 新興国の資源輸出状況:10年に増加
第1-1-10図 新興国の資源輸出状況:10年に増加
第1-1-11図 国際商品の価格動向:10年以降上昇
第1-1-11図 国際商品の価格動向:10年以降上昇

 さらに、新興国への直接投資の動向を見ると、おおむね10年10~12月期までは大きく伸びていたが、一部では11年1~3月期より減少するようになっている(第1-1-12図)。

第1-1-12図 新興国への直接投資の動向(フロー):11年1~3月期から低下傾向
第1-1-12図 新興国への直接投資の動向(フロー):11年1~3月期から低下傾向

 このように、世界金融危機の発生以降、堅調に成長を続けて世界経済をけん引していた新興国経済も、成長スピードに鈍化の兆しを見せ始めている。

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