世界経済の潮流　2007年秋

第 II 部　世界経済の見通し

第１章　2008年の経済見通し

３．ユーロ圏、英国

　ヨーロッパの景気は2006年に力強く回復した後、07年に入り、ユーロ圏では経済成長率がやや鈍化する一方で、英国では引き続き高い伸びを続けるなどやや違いがみられるが、総じて景気回復が続いている。08年には、ヨーロッパの成長は緩やかになるが、内需を中心に底堅い景気回復が続くとみられる。

（１）ユーロ圏

●景気回復が続くユーロ圏
　ユーロ圏の主要国における07年の経済成長率は、ドイツが付加価値税引上げ(11)の影響もあって2.6％程度へと減速するほか、フランスでは1.9％程度へ、イタリアでも1.8％程度へ、ともに減速すると見込まれる。このため、ユーロ圏全体の経済成長率も06年の2.9％の高い伸びから2.6％程度へと減速が見込まれる。機械設備を中心とした固定投資の好調、ドイツを除く国々での個人消費の堅調な増加等、内需にけん引された景気回復が続いている（第1-14図）。ユーロ圏の住宅市場では90年代から多くの国で価格上昇が続き、住宅価格が賃貸料や可処分所得との関係でみて長期的なトレンドから乖離する（前掲第1-3-4図）など過熱感がみられる国もあるが、金融引締め（05年12月2.0％→07年６月4.0％）等を背景に一部に調整の動きもみられる（第1-15図及び第Ｉ部第１章第３節参照）。景気回復を反映して雇用情勢も改善を続け、ユーロ圏の失業率は07年９月に7.3％と99年のユーロ誕生以降で最低水準にまで低下している。
　消費者物価上昇率は、06年９月以降、石油価格の低下等を反映して欧州中央銀行（ＥＣＢ）の参照値（２％を下回りかつ２％近傍）を下回る水準で安定的に推移した（第1-16図）。しかし、07年９月以降、石油価格や食品価格等の上昇によって、消費者物価上昇率は前年同月比で２％を上回って推移しており、年間では2.0％程度になると見込まれる。

●新興国及び産油国向け輸出がユーロ圏の景気回復を下支え
　ユーロ圏の域外輸出は、アメリカ向けがアメリカ景気の減速もあって07年に入り前年同期比で若干減少しているが、新興国や産油国向けを中心に全体として順調に増加している (第1-17図)。
　ユーロ相場はドルや円に対しては05年央頃から増価傾向にあり、最近ではユーロ導入以来の最高水準となっており、これがアメリカ向け等の輸出を抑制する一因となっていると考えられる。しかし、ＥＵ新規加盟国やロシアの通貨に対してユーロは横ばいないし減価しており、これら地域に対する輸出増の一因となっていると考えられる（第1-18図）。ユーロの名目実効為替レートでみると、05年以降増価傾向にあるものの、ドルレート等と比べると緩やかな上昇となっている。さらに、石油価格の高騰で潤うロシア等の旧ソ連圏諸国や中東産油国は経済開発を促進させるためユーロ圏からの輸入を増やし、結果的に石油代金が還流しており、こうした動きがユーロ圏の景気回復を下支えしているとみられる。

●08年は堅調な回復が続く見通しだが、下方リスクに注意が必要
　08年のユーロ圏の経済成長率は07年からやや減速するものの、2.1％程度と潜在成長率（ＯＥＣＤ推計08年1.9％）を若干上回り、堅調な回復が続く見通しである。雇用・所得環境、企業収益等、ユーロ圏経済のファンダメンタルズは良好であり、個人消費と設備投資の内需にけん引された景気回復が続くと予測される。しかし、07年央以降の金融資本市場の変動により、一部金融機関の経営破綻、銀行融資基準の厳格化(12)、コンフィデンスの低下等の影響が徐々に明らかになってきており、実体経済に広範な影響が及ぶリスクがある。また、住宅市場の調整が深まるおそれもあり、こうした下方リスクに注視していく必要がある。なお、消費者物価上昇率は、08年前半は２％台半ばで推移するとみられるが、年間平均では2.1％程度となる見通しである。

（２）英国
　英国では、07年の経済成長率は3.0％程度と06年よりやや高い成長が見込まれる。個人消費や設備投資等、内需の好調により景気は堅調な回復が続いている（第1-19図）。生産面では、製造業はおおむね横ばいとなっているものの、金融やビジネス・サービス等のサービス産業が好調に拡大しており、英国の長期にわたる安定成長を主導している。07年央以降の金融資本市場の変動の影響は容易には見極め難いが、一部の住宅金融機関の経営破綻に止まらず金融活動全般にわたり影響するようになれば、景気が下振れするリスクも考えられる。住宅市場は、累次の政策金利の引上げ（06年８月4.50％→07年７月5.75％）もあって、緩やかに調整している。今後、住宅市場で急激な調整が進むようなことがあれば、個人消費を抑制するリスクがある（第Ⅰ部第１章第３節参照）。雇用面では、ＥＵ拡大による新規加盟国からの労働者流入が目立つ一方、女性・高齢者を中心に高まりをみせていた労働参加率がこのところ頭打ちになっており、失業率も横ばい状態になっている。
　消費者物価の前年同月比上昇率は、エネルギー価格の上昇を背景に05年半ば頃よりイングランド銀行のインフレ目標の２％を上回って推移する傾向がみられ、07年３月には３％を超えた(13)。その後、電力・ガス料金の値下げ等から消費者物価上昇率は鈍化して２％を下回っていたが、10月には再び２％を上回り、07年通年では前年比2.3％程度になる見込みである。
　08年の英国経済は、金融資本市場の変動の影響や金融政策の動向等により不透明さを増しており、個人消費や設備投資等、内需の拡大によって景気回復は続くものの、経済成長率は2.3％程度へと減速し、消費者物価上昇率は2.0％程度と見込まれる。

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