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第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第1章 サブプライム住宅ローン問題の背景と影響

第3節 主要国の住宅ブームの動向とリスク

 これまでみてきたアメリカ同様、主要国においても住宅を取り巻く環境は変化している。ここでは、主要国で生じた住宅価格の上昇と住宅ローン市場の変化について考察した上で、今後生じ得るリスクを整理する。

1.主要国の住宅価格の動向

●2000年代に加速した住宅価格の上昇
 アメリカ同様、日本とドイツを除く主要国において、2000年代に住宅価格の上昇が加速した国が多くみられる。2000〜06年の実質住宅価格の上昇率をみると、スペインや英国では年平均で約10%程度上昇したほか、その他のヨーロッパやオセアニアの国の中でも上昇率がアメリカを上回る国が多くみられる(第1-3-1図)
 これらの国の実質住宅価格は、おおむね90年代後半から上昇率が高まり、一部の国では2000〜01年にかけていったん鈍化がみられたものの、その後は総じて住宅価格の上昇が加速している。07年では英国、ニュージーランド、スウェーデン、オーストラリア、ノルウェー、カナダ等で価格の上昇が続いている一方で、アメリカのほか、スペイン、フランスでは上昇が緩やかになっており、アイルランド、デンマークでは下落に転じている。

●住宅価格上昇の背景
 住宅価格の動向は、国によって環境や政策が異なるため一概に論じることは難しいが、2000年以降にみられた住宅価格の上昇の背景として、(1)人口や移民の増加による実需の拡大のほか、(2)世界的な金融緩和局面における長期金利の低下、 (3)安定した経済成長の下での所得の増加等が挙げられる。
 まず、人口や移民の状況をみると、2000年以降実質住宅価格の上昇が大きかったスペインやアイルランド等では、年平均の人口増加率が1%台半ばとその他の国と比べて高く、また純移民率(純移民/人口)も高くなっていることから、住宅に対する実需の増加が住宅価格上昇の一因として考えられる(第1-3-2図)。一方、スペインと同様に住宅価格の上昇の大きかった英国では人口増加率や純移民率は比較的低い水準にとどまっているが、住宅の供給不足が住宅価格の上昇の背景としてあるとの指摘もある(48)
 次に長期金利や経済成長率の動向をみると、国ごとに違いはあるものの、95〜06年の間、おおむね長期金利は低下傾向で推移し、経済成長率も安定して推移している。こうした状況を一部反映して住宅価格が上昇した面もうかがわれるが、これらの低金利や経済成長の動向だけでは説明が難しい住宅価格の上昇がみられる国も多数存在している(第1-3-3図)

●住宅価格の長期トレンドからの乖離
 住宅価格の上昇が金利や経済成長等の動向に基づくファンダメンタルズの変化で説明できるか、すなわち、価格が過大評価されていないかどうかという点は、今後住宅市場の調整局面で大幅な価格下落が生じるかを見極める上で重要である。ここでは、2000〜06年にみられた住宅価格の上昇について、ファンダメンタルズ指標として通常よく用いられる二つの指標に基づき、過去のトレンドから乖離している可能性があるのか考察する。
 一つ目の指標は住宅価格/賃貸料比率で、これは住宅保有にかかる機会費用(賃貸料との相対的な比率)を計算し、過去の長期的なトレンドの値と比較することで、住宅価格が適正であるかを評価するものである。住宅価格/賃貸料比率によると、住宅価格の伸びが高い国ほど長期トレンドからの乖離があり、スペイン、アイルランド、英国、オランダといった国では大きな乖離がみられている。住宅価格/賃貸料比率は長期金利の水準に応じて均衡値が変わり得ることから、両者の関係をみると、多くの国で2000年代の長期金利の水準は92年以降の長期平均の水準から1割から3割程度低い水準となっているが、住宅価格/賃貸料比率とは有意な関係はみられない。低金利が住宅価格/賃貸料比率の均衡値を引き上げた面はあるものの、期待キャピタルゲインの上昇等、金利以外の要因が住宅価格/賃貸料比率の長期トレンドからの乖離をもたらした可能性も否定できない。
 二つ目の指標は住宅価格/可処分所得比率で、これは住宅価格を住宅取得能力から評価するものであるが、この指標でも同様に住宅価格の伸びと正の相関がみられており、特にオランダ、アイルランド、オーストラリア、スペインでは長期トレンドからの乖離が大きく、住宅価格が住宅取得能力からみて割高であることがうかがわれる(第1-3-4図)
 アメリカと主要国の住宅価格の動向を比較すると、主要国の中にはアメリカ以上に住宅価格/賃貸料、可処分所得比率が高く、過去のトレンドからの乖離が大きいとみられる国があり、今後、住宅部門の調整局面で住宅価格の急速な下落等、調整リスクに留意する必要がある。


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