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第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第1章 サブプライム住宅ローン問題の背景と影響

第3節 主要国の住宅ブームの動向とリスク

2.主要国の住宅ローン市場の動向

 住宅価格が上昇した背景の一つとして、世界的な低金利等により家計による住宅ローンの借入れ負担が軽くなったことを挙げたが、低金利のほかにも、証券化を通して住宅ローンにかかる資金調達を資本市場に依存する「市場型」住宅ローンの台頭等、住宅ローン市場の変化も背景の一つとして挙げられる。また、規制緩和や技術革新に基づく住宅ローン商品の多様化の中で、アメリカのサブプライム住宅ローンに類似した住宅ローンが登場している場合もある。
 以下では主要国にみられた住宅ローン市場の変化を概観するとともに、アメリカ以外でいわゆるサブプライム住宅ローン市場が拡大しているといわれている(49)英国、オーストラリア、カナダの状況を概観する。

●主要国の住宅ローン市場に変化
 主要国の住宅ローン市場では、規制緩和や技術革新により借手の借入制約を大きく緩和するいくつかの共通の変化がみられた。例えば、住宅ローン金利の種類として、変動金利やハイブリッド型の金利が多く活用される国や元本支払いを遅らせ当面利子分だけを返済すればよいというIO型の住宅ローン等も活用できる国が増えている。また、住宅価値に対してより多くのローンの貸出し(Loan to Value(LTV)の高い貸出し)や融資条件の緩和等もみられた。こうした変化は、より幅広い層の家計が住宅ローンを借りることを可能とする一方で、家計が金利変動等の影響をより直接的に受けやすくなったり、返済可能な額以上の借入れによって住宅を保有する可能性も生み出した面もあると指摘されている。
 住宅ローン市場の特徴を国別にみると、LTVはおおむね70〜80%の範囲内の国が多いが、中にはオランダ、スウェーデンのように80%を超える国もあり、加えてLTVが高い国ほどローン返済期間が長くなる傾向もみられる。近年の住宅ローン市場の変化を象徴するものとして、住宅ローンの証券化とMEWの導入状況をみると、アメリカ、英国、オーストラリア、カナダというアングロサクソン系の国に加え、オランダやデンマークなどでも広範囲に行われるようになっている(第1-3-5表)

●英国、オーストラリア、カナダのサブプライム住宅ローン類似の市場
 信用力の比較的低い層に対する住宅ローンとして、アメリカ以外の国でもサブプライム住宅ローンに類似したローンが存在している。ここでは、ヨーロッパでもっとも住宅ローン市場が発達しているといわれる英国のほか、オーストラリア、カナダのサブプライム住宅ローン市場を概観する(第1-3-6表)

(i)英国
 CML(英国住宅金融貸付組合、Council of Mortgage Lenders)によると、英国のサブプライム層の定義は信用履歴に問題のある者とされており、信用履歴だけでなくクレジット・スコアやLTVを勘案するアメリカの範囲とはやや異なる。サブプライム住宅ローンの占める規模は新規貸出の5〜6%で、住宅ローンの特徴として、金利の種類は固定金利が中心であること、初期に優遇金利が適用される割合は全体の14%と少なく、優遇金利終了後の金利の上昇もアメリカと比べて緩やかであることが挙げられる。貸付機関の監督については、金融業の規制・監督を行う金融サービス機構(FSA)が全ての貸付機関に対し監督を行っている。
 英国の住宅ローン全体の延滞率及び差押率は07年1〜6月期でそれぞれ0.6%(3〜6か月の延滞)、0.1%と低い水準にとどまっているが、その比率は住宅価格の上昇の減速がみられた04年以降上昇傾向にあり、今後の動向には留意が必要である(第1-3-7図)

(ii)オーストラリア
 RBA(オーストラリア連邦準備銀行、Reserve Bank of Australia)によると、オーストラリアではサブプライム住宅ローンに類似するものとして、銀行等認可された預金取扱金融機関の融資基準を満たさない者に対する住宅ローンであるノンコンフォーミング住宅ローン(non-conforming housing loan)が存在し、住宅ローン貸出残高の1%を占めると推測されている(50)。市場に占めるシェアは近年急速に拡大しており、新規貸出の4%を占めている。また、オーストラリアのノンコンフォーミング住宅ローンでは、初期に低金利が設定されるものやネガティブ・アモチゼーションといった高リスクな支払方法を選択できる商品は多くないと指摘されている。ただし、ノンコンフォーミング住宅ローンの貸付機関は認可された預金取扱金融機関ではないため、オーストラリアの金融規制当局であるAPRA(Australian Prudential Regulation Authority)の監督は受けないとされている。

(iii)カナダ
 CMHC(カナダ住宅金融公庫、Canada Mortgage and Housing Corporation)によると、カナダのサブプライム及びニアプライム住宅ローン(51)を合わせたノンコンフォーミング住宅ローン(non-conforming loan)は新規貸出の5〜8%と推測されている。ノンコンフォーミング住宅ローンは預金取扱金融機関により提供され、リスクの高い商品は多くないとしている。BIS(2006)によると、ノンコンフォーミング住宅ローンの証券化は、主にニアプライム層で構成されていることや、指定金融機関が発行するRMBSについてはCMHCが保証を行っているため、RMBSの損失リスクは低いと指摘されている。


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