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第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第2章 地球温暖化に取り組む各国の対応

第1節 各国の温室効果ガス排出状況と温暖化問題への取組

2.各国の温暖化問題への取組

 このように、各国の状況は大きく異なっている。この背景をみるため、削減努力の進んでいるヨーロッパと、世界の排出量の上位を占めるが排出量が引き続き増加傾向にあるアメリカ、中国の対応をみていきたい。

(1)欧州連合(EU)

●長期目標を掲げ温暖化対策に取り組む欧州連合(EU)
 欧州連合(EU)は、地上温度上昇は産業革命前水準比で2℃以下が許容限度との認識(11)の下、長期展望、長期削減目標を設定してきた。すなわち、EUを含む先進国全体のGHG排出量を90年比で、2020年までに30%削減し、2050年までに60〜80%削減するとの目標を提案するとともに、そうした合意を前提にEUとして2020年までに同30%削減するとしている(第2-1-9表)。さらに、経済的繁栄と環境保護の両立を目指すことを基本に据えつつも、先進国間の合意がなくともEU独自にGHG排出量を2020年までに同20%削減とすることとしている。
 具体的な取組(第2-1-10表)としては、EUは、2000年3月、欧州委員会の下に組織横断的な「第一次欧州気候変動プログラム(ECCP1)」を開始し、地球温暖化問題により積極的に取り組むこととした。ECCP1は、域内の排出権取引制度の導入や京都メカニズムの活用等を集中的に議論し、その方向性を定めた。また、再生可能エネルギーの活用、建物・電化製品・自動車等の省エネ・効率化等、直接・間接的にGHG排出量削減に効果を持つ広範な施策を検討した。これらの検討結果を踏まえて、EU排出権取引制度指令等の関連指令が決定されている。
 さらに、05年10月には、京都議定書の約束期間の後の期間における追加策等を検討する目的で「第二次欧州気候変動プログラム(ECCP2)」を開始した。ECCP2では、従来の施策に加え、炭素回収・貯留策(CCS)、排出権取引制度への航空産業の取り込み、軽車両からの排出の削減、気候変動の影響への順応策等が検討されている。このように、EUは、京都議定書や長期的な目標達成のため、排出権取引制度等の経済的メカニズムを重視しつつ、技術革新の導入、規制改革、温暖化問題の国民への啓発等、広範な分野で温暖化問題に取り組み、これらを背景に国際的な温暖化問題の議論をリードする姿勢をみせている。

●EU主要国の取組
 ドイツ等のEU主要国は、EUと平行し、また場合によっては先行して、排出削減の中長期目標(前掲第2-1-9表)を掲げ、それぞれの国家的なプログラムの下で地球温暖化問題に積極的に取り組んでいる(第2-1-11表)
 例えば、ドイツは早くから環境問題に取り組んでおり、地球温暖化問題でも90年代初にCO削減策の検討を開始した。京都議定書(欧州委員会による再配分後)の目標は90年比21%の排出削減であるが、長期目標として2020年までの40%削減を掲げ、環境税(12)導入や再生可能エネルギー法、熱併給発電法施行、建物基準の強化、新技術への財政・金融支援等を実施している。
 英国も、2000年の「気候変動プログラム」に基づき、気候変動税(13)、国内排出権取引制度の導入、熱併給発電能力増強、電力供給者の再生可能エネルギー購入の義務化、建物規制等の施策を実施した。さらに、EU排出権取引制度の拡充や再生可能輸送燃料義務(14)も含め、各種の対策を講じ、2050年までにCOを90年比60%削減するとしている。

(2)アメリカ

●経済への影響を懸念し京都議定書は未批准
 一方、アメリカは、GHG濃度を安定させるという気候変動枠組条約の目標にはコミットするとしつつも、京都議定書は「中国やインド等の人口の多い国を除外している不公平なもので、アメリカ経済に打撃を与える」 (15)として批准しておらず、温暖化対策としては科学技術等を重視する姿勢をみせている。
 こうした姿勢は、ブッシュ大統領が02年2月に京都議定書の代案として示した「気候変動政策(Global Climate Change Initiative、第2-1-12表(16)」にも表れている。すなわち、この中では、目標はGHGの排出量ではなくGDP当たりの排出量として示されており(2012年までの10年間で18%削減)、また、企業の自主的取組や、研究開発、再生可能エネルギーの利用促進等に重点が置かれている。また、07年1月の一般教書演説で示された10年でガソリン消費量を20%削減する対策(Twenty in Ten、第2-1-13表(17)においても、対策の中心は代替燃料利用拡大におかれている。このほか、国際的な議論においても、技術開発を重視する姿勢を示しており、05年7月には「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP) (18)」への参加を発表し、参加国間の官民のパートナーと協力してクリーンエネルギー技術の開発に努めるとしている。

●各州における気候変動対策の取組
 一方、アメリカの各州では排出総量の削減に向けた取組が活発化している。現在、アメリカの17州がGHG削減目標を設定しており、そのうちの大半が中長期では大幅な削減を目標としている(第2-1-14表)。また、各州では、発電所等への義務付けや電力料金への上乗せ等により再生可能エネルギーの利用促進やエネルギー効率を高める様々な気候変動対策が導入されている(第2-1-15表)

(3)中国

 中国は、UNFCCC及び京都議定書における「共通だが差異のある責任」の原則に従い、幅広く国際協力を進め積極的に対処すると表明している。しかし、GHGの削減はこれまで経済発展及び排出を続けてきた先進国が主たる義務を負い、先進国は途上国に気候変動に対応するための資金と技術を提供する義務もあると強調しており、経済発展の段階を考慮せず、先進国と同様の削減義務を持つことに対して抵抗を示している。

●エネルギー消費効率の向上と消費構造の改善
 中国の「第11次5か年計画(06〜10年)」の中では、省エネルギー・環境保全が重要政策の一つとされ、計画期間のエネルギー単位消費量(GDP当たりのエネルギー消費量)を20%(年4%)削減するなどの具体的な削減目標(19)が定められている。計画策定以降、国家発展改革委員会を中心に省エネルギー政策が、国家環境保護総局を中心に環境政策が、それぞれ具体的に示され始め、地域や産業ごとの目標値を明記しているものもある。しかし、実績をみると、計画の初年度である06年のエネルギー単位消費量は前年比1.3%減と減少したものの、目標(4%減)には達しなかった(第2-1-16図) (20)。今後も、経済が高成長を続けていく中で、エネルギー消費量は増加し続けると見込まれる。

●CO削減に向けて
 また、GHG排出削減を直接目的に掲げた政策としては、07年6月の「気候変動に関する国家計画」があり、水力発電(21)の拡充による5億トンの削減等により、2010年までに総量9億5,000万トンの削減を目指すとしている(第2-1-17表)。しかし、経済成長率が07年までで5年連続10%超で推移すると見込まれ(第II部参照)、今後も高成長が続くと考えられるので、排出量がどの程度抑制されるのかは不透明である。
 このように、温暖化に対する各国の取組には大きな温度差がある。そうした中で、ヨーロッパを中心に各国に急速に広がりつつある排出権取引等の経済的メカニズムについて、次節でみていきたい。


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