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第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第2章 地球温暖化に取り組む各国の対応

第1節 各国の温室効果ガス排出状況と温暖化問題への取組

1.各国の温室効果ガス排出状況

●途上国を中心に増加する世界の二酸化炭素排出量
 世界の二酸化炭素(以下「CO」という。)排出量について、2004年時点での構成比をみると、京都議定書で排出削減目標を設定された附属書I国(先進国24か国・地域及び市場経済移行国等17か国、合計41か国(1))で、欧州連合(EU)15か国(京都議定書締結当時の加盟国)(2) 、日本、ロシア等議定書を批准している国の構成比は合計で世界全体の29.3%にすぎない(第2-1-1図(1))。一方、附属書I国のうち、議定書を批准せず排出削減を約束していない国は、アメリカ、オーストラリア、トルコの3か国だが、アメリカの構成比が21.8%と大きいためこれらの構成比は合計24.0%に達する。さらに、削減目標を持たない非附属書I国の構成比は、中国の17.9%、インドの4.1%等で合計46.7%となっている。
 また、中長期的には、高成長の見込まれる中国、インド等を中心に排出量の増加が続くとする見方が大勢である。例えば国際エネルギー機関(IEA)の見通し(3) (第2-1-1(2)図)では、世界全体の2030年のCO排出量は05年を57.4%(90年を102.6%)上回り、中でもアメリカ、中国、インド及びロシアの排出増が、世界全体のこの間の増分の3分の2を占めるとしている(なお、同見通しでは、07年に、中国がアメリカを抜いて世界第1位の排出国になるとしている。)。
 こうしたことから、国際的な地球温暖化対策の実効性を高めるためには、京都議定書で削減目標を設定されていない又は議定書を批准していない大量排出国をどのように取り込んでいくかが極めて重要であることが分かる。

●先進国等による温室効果ガスの排出動向
 次に、CO以外を含めた温室効果ガス(4)(以下「GHG」という。)全体としてデータの取れる先進国等(5)について、京都議定書の基準年である90年から04年の増減(6)をみると、国・地域により大きく異なっている(第2-1-2図)。スペイン、ポルトガル、カナダ等20%以上増加している国が7か国あり、アメリカも15%以上増加している。日本は、増加率は一桁台であるものの増加している。EU15か国は国によって増減の違いがあり、全体としては微減しているが、EUとしての削減目標(▲8%)は達成されていない。なお、EUとしての削減目標は02年に各国ごとの目標として再配分されており、各国別にみると、04年時点では、フランス、英国等若干の国では排出量が再配分後の国別目標以下となっているものの、多くの国では目標を上回っている。また、ロシアは30%以上の大幅減となっているが、これは旧体制の崩壊に伴う混乱により90年代に経済規模が縮小したことが大きく影響している(7)
 部門別の動向をみても、各国の動向は大きく異なる(第2-1-3図)。日本は、エネルギー産業(化石燃料による発電等を含む。)、運輸、その他エネルギー消費の増加が大きく寄与している。アメリカでも、エネルギー産業や運輸の増加寄与が大きい。一方、ドイツ及び英国は、エネルギー産業、製造・建設業を始め多くの部門で減少している。ドイツ及び英国の減少の一因としては、エネルギー当たりの炭素量の多い石炭から少ない天然ガスへと発電所におけるエネルギー転換が進められ、エネルギー産業での排出量が減少したことが挙げられる(第2-1-4図)。また、ドイツについては、90年の東西統一後、旧東ドイツにおいて古い非効率的な設備が刷新され排出量が減少したことなども指摘されている。

●先進国の中でGDP当たりの排出効率が相対的に高い日本
 次に、先進国間で一人当たり及びGDP当たりの排出量をみると、国によってばらつきが大きいが、日本は、一人当たりでみても、GDP当たりでみても、排出量が少ない方の上位に属している。特に市場為替レート(8)で換算したGDP当たりの排出量をみると、日本は、先進国の中ではスイス、スウェーデンに次いで排出量が少ない。また、主要先進7か国の中ではGDP当たりの排出量が最も少なく、少ない排出量で経済活動が維持できるという意味で「排出効率」が高いことが分かる(第2-1-5図)。ただし、生産性や経済発展の度合いをより的確に把握するため購買力平価(PPP)を用いてドル換算したGDP当たりでみると、日本の相対的な優位はやや後退し、先進国の中では、スイス、スウェーデン、ノルウェー等が排出効率の上位を占め、主要先進国の中ではフランスが最も効率が高く、英国、日本が続くという姿になる。
 もとより、各国の排出効率は産業構造や国土条件等多様な要因に大きく影響され、国際間の比較には一定の留保が必要である。よりきめ細かくみる一つの方法としては、業種別に、あるいは具体的な生産プロセスごとにみることである。情報は限定されているが、そうした比較を行っても、我が国では、国際的にみて高水準の排出効率を実現している分野が少なくないことが分かる(第2-1-6図付図2-3参照)
 また、こうした排出効率の違いは、エネルギーの供給構造にかなり左右されている面が大きい。PPPで換算したGDP当たりでみて排出効率が上位の国では、例えばフランスは、原子力の比率が高いことが排出効率を高めている(前掲第2-1-4図) (9)。同様に、スイス、スウェーデン及びノルウェーにおいても、GHG排出のないエネルギー源(原子力、水力、バイオマス等の再生可能エネルギー)の比率が高いことが影響している。すなわち、スイスは、エネルギー戦略として原子力や水力を推進し、発電量の95%をGHGを排出しないエネルギー源によっている。またスウェーデンでは、70年代の石油危機以降は原子力の割合が急速に増えている。さらに、税金や助成制度によりバイオマス等の再生可能エネルギーへの転換が図られ、化石燃料以外の水力、原子力及び再生エネルギーの比率は約65%となっている。ノルウェーでは、一次エネルギー供給で大きな位置を占める電力のほとんどが水力によっている(05年で98.9%)(10)
 次に、途上国を含めてCOの排出による排出効率をみてみよう。一人当たり排出量でみると、インド、中国を始め排出量の少ない国が多いが、市場レート比較のGDP当たりでみると、中国、インドの排出量は非常に多くなっている(付図2-4参照)。ただし、途上国のGDPは市場レートでは小さく評価されているため、PPPを用いて換算したGDP当たりの排出量で比較する方が適切と考えられる。そうした比較をすると、一方で先進国とそん色ない高い排出効率を持つ国もみられるものの、中国、マレーシア、シンガポール等、排出効率の低い国も少なくない(第2-1-7図)

●日本の排出効率の改善は相対的に緩やか
 さらに、排出効率と経済発展との関係の長期的な推移をみるため、一人当たりGDP(PPPベース)と、GDP(PPPベース)当たりのCO排出量(排出効率)の推移をみると(第2-1-8図(1))、先進国では一人当たりGDPが大きくなると(経済発展すると)、排出効率が緩やかに改善する(図の右下へ移動する)傾向のある国が多い。ただし、各国の線はほとんど交差しておらず、例えば90年頃のアメリカは、一人当たりGDPが日本の直近年とほぼ同程度であるが、排出効率はかなり低かったことが分かる。また、図の中で、排出効率でみて日本と比較的近い位置にいるドイツや英国は経済発展につれ右下に移動し、フランスも発電の原子力依存度が高まった80年代を中心に右下に移動しているのに対し、日本は、90年代以降はおおむね右方向へ移動しており、排出効率の改善が相対的に緩やかなものにとどまっている。
 途上国では、韓国、タイ等排出効率の改善傾向がほとんどうかがえない国もみられる(第2-1-8図(2))。中国も、2000年頃までの20年間は排出効率が顕著に改善してきたものの、2000年代以降はむしろ悪化している。
 以上、各国の排出効率を比較してみると、我が国の排出効率は主要先進国の中では高いものの、その改善は相対的に緩やかなものにとどまっているといえる。部門別では、90年以降は、エネルギー産業、運輸、その他エネルギー消費で特に増加している。
 一方、先進国の中でも、化石燃料への依存度の低い北ヨーロッパの一部等では非常に高い排出効率を実現しており、主要先進国の中でも、英国やドイツにおいてはエネルギー転換等により排出効率が改善している。国土や産業構造等の相違を越えて、一国の経験をほかの国に簡単に適用できるとは限らないが、我が国においても、先進国の中で相対的に高い排出効率を維持するためには一層の努力が必要であると考えられる。
 また、京都議定書で排出削減を約束していない途上国で排出効率の改善が進んでいない国が少なからずあることも注視される。


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