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第 I 部 第2章のポイント

1.各国の温室効果ガス排出状況と温暖化問題への取組

●世界の2004年時点でのCO排出量をみると、京都議定書に基づき排出削減を約束している国・地域の構成比は29.3%に過ぎない。さらに、中長期的に、排出削減を約束していないアメリカ、中国、インド等の排出増が続く見通しである。温暖化対策の実効性を高めるには、こうした大量排出国を取り込んでいくことが極めて重要である。
●温室効果ガス(GHG)排出量の基準年(原則1990年)から04年の増減は国・地域により大きく異なる。アメリカは15%以上増加しており、日本は一桁台だが増加している。EUは国によって違いがあり、全体としては微減しているが目標は達成していない。
●部門別にみると、日本は、エネルギー産業、運輸、その他エネルギー消費の増加が大きく寄与している一方、ドイツ及び英国は、エネルギー産業、製造・建設業等多くの部門で減少している。
●日本は、先進国の中でもGDP当たりのGHGの排出量が少ない方から上位に属し、「排出効率」が高いが、排出効率の改善は相対的に緩やかであり、先進国の中で相対的に高い排出効率を維持するためには一層の努力が必要である。
●各国の取組には温度差がある。EUは、排出削減の長期目標を掲げ広範な分野で温暖化問題に取り組んでいる。アメリカは、京都議定書を批准していないが、各州では排出総量の削減目標を掲げた取組が活発化している。

2.各国に広がる排出権取引等の経済的メカニズム

●京都メカニズムによる取引の本格化とEU域内排出権取引制度(EU−ETS)の創設により排出権取引の市場は拡大し、取引量で16億トン、取引額で300億ドルを超える。
●EU−ETSは、EU25か国のCO総排出量の49%を排出する10,000超の施設を対象としている。排出権取引導入の動きは、ノルウェー等の各国やアメリカ・カナダの州等にも広がりつつあり、これらの連携により、州単位で参加する国も含め主要先進6か国を含む先進33か国にまたがる市場が形成されていく見込みである。
●炭素税等温暖化対策を念頭においた環境税が北ヨーロッパ諸国を中心にヨーロッパ各国で導入されてきた。エネルギー需要の価格弾性値は、長期的にはかなり大きく、こうした環境税は、一般的に、長期では相当の排出削減効果を有すると考えられる。

3.排出権取引による効率的な排出削減

●排出権取引制度は、経済全体で排出量削減に要する費用を最小化・効率化することをねらいとする。過去の類例をみると、相当程度の費用削減効果があったとする見解が多い。

4.排出権の配分方法を巡る課題と、競争力、所得分配等への影響

●排出権の初期配分に際し、過去の排出実績等に応じて無償配分すると既存事業者を優遇するなどの問題が生じ得るが、有償配分(オークション)すると競争力への影響が大きくなる。各国では、無償配分を中心とし、段階的に有償の比率を高めていくものが多い。
●電力や暖房燃料等のエネルギー等は、生活必需品の性格が強いことが多いため、排出削減に伴う負担は家計に逆進的な影響を及ぼす可能性がある。排出権取引等の経済的メカニズムは、こうした負担を小さくし、逆進的な影響を緩和する可能性がある。
●排出権の有償配分や環境税の場合はそれによる収入を政府が何に用いるかという論点があり、減税に充てることにより経済への影響を緩和する効果も期待できる。
●排出権取引は適切に運用されれば配分した枠内に排出量を確実に抑制する有効な手段である。排出権取引を含め経済的メカニズムの効果や導入の適否を検討するに当たっては、産業の負担や所得分配等への影響も十分に考慮し、ほかの手段による排出削減と得失を十分に比較考量して、議論することが必要である。


第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第2章 地球温暖化に取り組む各国の対応

 2008年は京都議定書において合意された温室効果ガス削減目標の約束期間(08〜12年)の開始年となる。この約束期間を目前に、各国で地球温暖化への対応が進められているが、国によって対応に大きな差があり、議定書を批准している国においても目標達成に向けて一層の努力が必要と考えられる国が多い。そこで、本章では、各国における温室効果ガスの排出状況と温暖化対策の取組を概観し、特に、京都議定書の目標達成のための重要な手段の一つとして近年ヨーロッパ等で取組が急速に進展している排出権取引等の経済的メカニズムについて、各国の状況を概観し、その効果や留意すべき事項等について考察する。


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